0105:大蛇と餓狼 ◆Wv7hRKzBHM
竜のような雰囲気を持つ少年(ダイ)たちから逃れるために瀬戸大橋を渡った
大蛇丸は、一人の男に声をかけられた。
「君の支給品と能力を教えてくれないか?」
相手を見ると、ところどころ怪我をしている。
状態が万全なら倒すのにそう苦労はしないはずだが…あいにく大蛇丸も怪我をしていた。
「…残念だけど、ちょっと相手をしている暇がないのよ」
「痛い目に遭いたくなければ、と言いたいところだが…君と同じように私も少々疲れていてね」
「ふふ、そうでしょうね。じゃあ一つ教えてあげましょうか。かなりの力を持った連中がこの大きな橋の向こうにいるわ…
正義ぶった連中でね、ちょっとそいつらから距離を取りたくて」
「ほぅ、君のその怪我はそいつらにやられたモノか」
両者は会話をしながら互いを値踏みする。
互いが、相手から自分に近いものを感じていた。
全てを手に入れる、そのためには周囲を犠牲にしても気に止めないという非道な心。
「…今、ここで君と戦うのはあまり得策ではないようだな」
「わかってもらえたかしら? 互いに怪我をしていて、近くには敵もいる」
「私としても、ここでさらに体力を消耗するのは避けたい…いま君と戦うのは疲れそうだしな」
争いを避けようという会話の裏では、隙の探り合いが続いている。
大きな隙を見せれば、即座に致命傷をもらいかねない状態だ。
そんな一触即発の状況がしばらく続き…
「ふふふ…やめましょう。さっきも言ったけど、今殺し合ってもあまりメリットはないわ」
藍染は「そうだな」と頷くと、気は抜かぬまま少し距離を置いた。
「そうそう、名前を聞いておきましょう。私は大蛇丸よ」
「
藍染惣右介だ」
「ふ、次は万全の状態で出会いたいものね…」
大蛇丸はそう言い残すと、木の葉を舞わせながら風のように姿を消した。
「手ごわい相手が多いものだな…」
藍染もまた、そう呟いて東へと歩いていった。
藍染と別れた後、大蛇丸は岡山の山中で傷の手当てをした。
上体の裂傷は大した問題もなく処置できたが、雷を浴びた時の火傷が厄介だった。
(これは少し休んだ程度では回復しそうもないわね…)
そう判断した大蛇丸は、静かに移動を開始した。
専門の医療忍者がいない以上、迅速な回復は望めない。
それならば、弱い獲物を狩りながらアイテムを集めるべきだと判断した。
もしかしたら体力を回復させるものが支給されているかもしれないからだ。
大蛇丸に支給された武器は岩鉄斬剣という、鎧ごと相手を切ることが可能な巨大な剣。
特別な力があるわけでもなさそうなので、使えないことはないが特に使う必要もない。
剛刀とは言えただの剣を使うくらいまで追い詰められたなら、素直に逃げた方がマシだ。
ちなみに休んでいる間に放送があった。
そこそこの人間が死んだが、知った名前は無かった。禁止エリアもここからは遠い。
チームの分裂を煽る主催者の言葉から、固まって行動しているものが多いということが分かる。
ダイのような強者が他にもいることだろう。用心しなければならない。
東へと移動を始めた大蛇丸だったが、ダイのような強敵に会うのを恐れて山中を、
そして体力を温存するためにゆっくりと移動しているため、今のところ誰にも会わずにいる。
体力面から見れば好都合だが、これではアイテムは手に入らない。
(これで二つ境を越えた……少し休もうかしらね)
岡山から兵庫を抜け、京都府へと足を踏み入れていた大蛇丸は、市街地から少し離れた森に入って身を休めることにした。
(それにしても、素晴らしい器だわ…サスケくん以上ね……)」
体を休めながらダイのことを思う大蛇丸。
あの身体を手に入れられれば…そう考えただけで身体が疼くのが分かる。
そしてまた、大蛇丸は藍染という男にも興味を示していた。
ただし転生の対象としてではないが…
30分ほどしたところで、大蛇丸は誰かが近づいてくるのに気づいた。
気配を消す様子はない。明らかにワザと気づかせるように近づいている。
(こちらに気づいているのかしら…?まっすぐ向かってきているようだけど……)
その気配の持ち主は森の前で足を止めると、じっと視線を向けてきた。
鋭いその視線は、大蛇丸の位置が判っているかのようだ。
(……餓狼…)
その男の纏う雰囲気を見て、大蛇丸はそう感じた。
「俺の名は
ヤムチャだ!お前と勝負がしたい!」
ヤムチャと名乗った男は、自信たっぷりに声を張り上げた。
(どうやら、ここにいるのはバレているみたいね…なら、これ以上騒がれる前に姿を見せるのが得策かしら)
木の陰から姿を現す大蛇丸。手には何も持っていない。
「……なぜ私の居場所が分かったのか…は、今はいいとして、勝負しなければならない理由は?」
ヤムチャはどうやらあちこち怪我をしているようだ。
治療された痕はあるが、あの状態で自信満々というのがどうにも解せない。
「お前の気は邪悪だ。この馬鹿げたゲームに乗っているクチだろう。だから、俺の挑戦も断らないはずだと判断したまでだ」
(邪悪な気…あの女もそんなことを言ってたわね……ふふふ)
ダイと一緒にいた女の事を思い出していると、ヤムチャはさらに語りかける。
「どうした?俺は別に『お前がゲームに乗ってるから許せない!』なんて言うつもりはないぜ。
俺だってついさっきまではコソコソ隠れていた卑怯者だからな」
「……ふふふ、まぁいいわ。どうしてそこまで自身があるのは知らないけど、少し遊んであげましょうか」
ニヤリと笑う大蛇丸に答えてヤムチャも満足げに笑うと、拳を握り締めて気を練り始めた。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
ヤムチャの体の周りに、光るオーラのようなものが発生する。
(……なにかしら…この距離でも威圧感を感じる力…ふふ、おもしろいわね!)
「いくぞっ!」
――5分後――
「どうしたどうした!ははは、生まれ変わった俺の前に手も足も出ないか!?」
「…………くっ!」
戦いはヤムチャが優勢だった。
大蛇丸はヤムチャの素早い動きについていくのがやっとだ。
なんとか距離を取って火遁・鳳仙火の術を使うが、その多数の炎を全て避けられてしまう。
「このままじゃ埒があかんな…いくぞ!狼牙風風拳、はぁぁぁっ!」
素早い突きの連打。
一人で小国を落とすとまで言われた大蛇丸が、たった一人の冴えない男に追い詰められていく。
急所だけは避けているものの、大蛇丸は反撃に転ずる機会がなかった。
このままでは徐々に体力を削られて倒されてしまう。
一旦退くことも考えたが、ここで退くようではどのみち勝ち残ることはできないだろう。
(くっ……!ふざけたような男なのに、何故これほどまでに…)
「ちっ、チョコマカと素早い奴だ!ならこれで…!」
ヤムチャは距離を取って妙な構えを取る。
やがてその手が淡く光り始めて…
(…そうか! あの光るチャクラのようなもの!
あれが力の源だとすれば、そしてそれをチャクラのように体内で練り上げているとすれば…!)
『かめはめ波っ!』
ヤムチャの合わされた両手からエネルギーの塊が一直線に伸び、大蛇丸を直撃する。
「よし、やったぜ!」
…しかし、煙を上げて大蛇丸の姿が消え、後に残ったのはバラバラになった木片のみ。
「……後ろよ」
「なにっ!?」
変わり身の術でかめはめ波を避けた大蛇丸は、油断して隙だらけのヤムチャの背後に現れた。
ヤムチャは慌てて飛び退こうとするが、大蛇丸が一瞬早くその身体を押さえる。
そして、大蛇丸の5本の指にチャクラが集中して――
『五行封印!』
「がはぁっ!」
ヤムチャの腹部に大蛇丸の指が突き立てられる。
腹部を押さえて倒れるヤムチャ。しかし、
「…? 別にどこも怪我してないのか?」
ヤムチャはゆっくりと体を起こす。
かめはめ波で思ったよりも気を消費したが、それ以外は特に変わった点はないように思える。
「…なんだそれは、俺を嘗めてるのか?痛くも痒くも……おや?」
「さぁて……どうなのかしらねぇ。もう一度手合わせしましょうか」
「……むむ、や、やってやる!」
――さらに5分後――
「く、くそっ!どういうことだ!?…ぐっ」
「ふふふ…ほら、足元がお留守よ」
強烈な足払いを喰らい、倒れてしまうヤムチャ。
その場に倒れ伏したまま、ヤムチャの頭は「?」で一杯だった。
(なぜだ!?俺は超神水の試練に耐えた!毒も抜いてもらった!それなのに何故…調子がおかしい。上手く気を練れない!)
「どうやら上手くいったようね…」
五行封印とは、相手のチャクラを封印する類の術である封印術の一つ。
かつてナルトは大蛇丸にこの術をかけられ、ナルトの中の九尾を封じていた術(四象封印)との相互作用で、
膨大な力を持つ九尾のチャクラのコントロールができなくなった。
その時は九尾のチャクラを乱すのが目的だったため、あえて四象封印に重ねて術をかけたが、単体で用いることも可能である。
そして、チャクラと同じ体内エネルギーである『気』もまた、この術の影響を受けるのではないか。
そう考えた大蛇丸の読みは的中した。
…気のコントロールによって爆発的な力を得るZ戦士とこの術との相性は最悪だった。
「な、何をした…?」
なんとか体を起こしたヤムチャの顔は、悔しさで一杯だった。
(ようやく、ようやく今までの情けない俺から脱却できると思っていたのに…まだあいつらに恩も返してないのに…)
大蛇丸はそれを見ると、とても満足気な表情を浮かべ、そしてヤムチャに背を向けた。
あっけに取られるヤムチャをその場に残し、大蛇丸は森の中へと消えて行く。
「…どうもありがとう。ヤムチャくん、だったかしら?」
その言葉だけを残して。
「どうでした!?」
意気消沈して帰ってきたヤムチャを迎えたのは、サクラと乾だった。
――あの時、乾の長い自己紹介を聞いたサクラは、やっぱりキモいと思った。
思ったが、同時に細部まで語られる話に、知性的なものも感じた。
乾がゲームに乗ってるわけではないと判断したサクラは、行動を共にすることにした。
それぞれの知っていることを話しながら京都へと向かう途中で、最初の放送が入った。
その放送で乾の知り合いである
竜崎桜乃が死んだことが分かった。
サクラは乾のために悲しみ、乾は悲しむと共にこれ以上の犠牲者を出さないと誓った。
そして京都についた二人は、ある民家から声がするのを聞いて調べに入り…
そこに転がっていたヤムチャを発見したのだ。
倒れて動かない彼を助けようとヤムチャの様子を見たサクラは、すぐに毒に侵されていると気づいた。
医療忍術を使えるサクラは、即座に高等技術である毒抜きを行った。
……ヤムチャは、超神水の試練に打ち勝っていた。
そう、界王星での修行にも耐えたヤムチャは、十分に資格があったのである。
しかし、ベンズナイフによる麻痺毒からは逃れられなかった。
サクラが抜いた毒は、その麻痺毒のみである。
(ちなみにそのサクラの解毒術は、しっかりと乾のデータに加えられた)
そして、ヤムチャが沸きあがる力を試したくてウズウズしていると、ちょうど邪悪な気を感じ取った。
サクラたちを危険だからとその場に残し、一人で偵察にやってきて……
「それは…大蛇丸……?」
「? どうした」
「そ、その男はどっちに行ったの!?答えて!」
「落ち着いて…大蛇丸っていうと君が自分で言ってた危険人物だ。
ヤムチャさんだってこうして無事で帰ってくるの精一杯だったんだ。一人で行ったってどうにもならない…」
乾がなんとかサクラを押さえるが、サクラはなかなか静まらない。
それでもなんとかなだめる事に成功し、二人はさらにヤムチャの話を聞いた。
「俺は、超神水に試練に打ち勝ったはずだ。その試練を越えた人間は潜在能力を限界まで引き出せるようになるんだ。
それなのに……くそっ、なんで力が出ないんだ!」
テーブルを叩いて悔しがるヤムチャ。
『サクラと乾に恩を返し、その後でこの糞ゲームをぶっ潰してやる!』そう決心した矢先の出来事だけに、ショックは大きかった。
「それは、チャクラのコントロールを乱す術だと思います。
その「気」ですか?それもチャクラのような潜在エネルギーの一種なら、同じような効果があるのかも…」
火影の下で修行を積んでいる間に身につけた知識でなんとか説明をするサクラだが、術の正体が分かったところで解決にはならなかった。
「なんとか、なんとか術を解く方法はないのか!」
必死の形相でサクラに迫るヤムチャだったが、
「…すみません、私には無理です……」
サクラはそう答えるのが精一杯だった。
再び山中で身を休める大蛇丸。
実験的に五行封印を使ってみたが、予想よりチャクラの消耗が大きかった。
気を封じたとは言え、体力的にはさほど消耗してないヤムチャを倒すのは少々骨が折れる。
それ故、トドメを刺さずにその場を去ったわけだが、それに見合う成果はあった。
(別世界の人間にも五行封印が効いた…いかに強者と言えども、力さえ乱してしまえばいくらでも対処できるというもの……
とは言っても、チャクラの消費が思ったより激しい。使いどころが難しいわね)
大蛇丸の脳裏に浮かぶのはダイの姿。そして、これから出会うであろう顔も知らぬ強敵たち。
しかしダイたちとの戦いで感じたのは、どうやら正義ぶった奴らが多いらしいということ。
そいつらが大勢合流してしまうと非常に厄介だ。
さらに思った以上に力が制限されているのも問題だ。
(これは、誰かと共闘することも考えなければいけないようね…)
大蛇丸の脳裏には、ある種自分に近いと感じた男、藍染惣右介の姿が浮かんでいた。
【岡山県瀬戸大橋周辺/朝】
【藍染惣右介@BLEACH】
[状態]:わき腹負傷、骨一本にひび、多少の疲労、打撲数ヶ所
[装備]:刀「雪走」@ONE PIECE
[道具]:荷物一式(食料二人分)スーパー宝貝「盤古幡」@封神演義
[思考]:1.琵琶湖へ向かう
2.出会った者の支給品を手に入れる。断れば殺害。特にキメラの翼を求めている。
【京都府(山中)/朝】
【大蛇丸@NARUTO】
[状態]:全身に火傷(ある程度は治療済み)、チャクラを中程度消耗
[装備]:なし
[道具]:荷物一式、岩鉄斬剣@幽遊白書
[思考]:1.昼まで身を隠してチャクラの回復に努める。
2.多くの人間のデータを集め、場合によっては誰かと共闘する。(もちろん利用する形で)
3.生き残り、自分以外の最後まで残ったものを新しい依り代とする。候補としてダイを考えている。
【京都府(民家)/朝】
【春野サクラ@NARUTO】
[状態]:やや疲労(ヤムチャの治療、毒抜きをしたため)
[装備]:コルトローマンMKⅢ@CITY HUNTER(ただし照準は滅茶苦茶)
[道具]:荷物一式(水を少量消費)
[思考]:1.ヤムチャの居た家で少し休憩し、ヤムチャと情報交換する
2.(乾と共に東京へ向かいながら)ナルト、シカマルと合流して脱出を目指す
3.大蛇丸を見つける
【乾貞治@テニスの王子様】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(水を少量消費)、手帳、弾丸各種
[思考]:1.ヤムチャの居た家で少し休憩し、ヤムチャと情報交換する
2.東京に向かい、越前、跡部と合流して脱出を目指す
【ヤムチャ@DRAGON BALL】
[状態]:右小指喪失、左耳喪失、左脇腹に創傷(全て治療済み)
超神水克服(力が限界まで引き出される)、五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考]:茫然自失
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最終更新:2024年06月20日 18:18