0112:友の魂 ◆GrUZH7gF.E
舞台、大分。
あたり一面に朝日が射し始めたころ、あの放送が頭の中に鳴り響く。
そして主催者バーンによってある「事実」を告げられた。あっけなく。ありのままに。ただ一言、「
ゴン蔵」という名を。
「……なんだって?」
その瞬間、
たけしの思考は過熱し始めていた。
ゴン蔵?
ゴン蔵が、死んだ?まだ始まったばかりの、このゲームの犠牲者となって?
たけしはキン肉マンと出会ったとき、彼が友情を誓ったという超人たちの話を聞かせてもらった。
そして自分にもたくさんの友情「超人」がいると
たけしが豪語するのを、キン肉マンはいぶかしげながらに聞いてくれていた。
その友の名に最初にあがったのは
ゴン蔵、意外にも彼の名前だった。
普段は仲間内からもずさんな扱いを受けることもしばしばな男、それが
ゴン蔵である。
リーダーという肩書きに近い、「ボス」という称号を目指すアフロでチョビヒゲの男。
たけし自身、体から滲み出てくるほどの友好的な性格が幸いして、誰とでもすぐに仲良くなる性質であった。
だが
ゴン蔵はたけしに対してライバル心剥き出しで、いつ、どんな場所でも戦いを挑んでくるようなことがよくあった。
つまり
ゴン蔵とは、
たけしが拳を最も交わすことの多い男にあたるのだ。
にもかかわらず、
たけしの中では、彼はかけがえのない者の一人となっていたのだ。
時には愛犬「小次郎」の取り合いをし、時には生死をかけて共に冒険に行き、時には一緒にタッグを組むこともあった。
そんな中で、
ゴン蔵が敵視する男は、
ゴン蔵を一人の友として、とても大きな抱擁のなかにうずめていくのであった。
彼と出会ったならばタッグを組み、共にこの悪の企みに戦いを挑みに行こう、そんなことも考えていた。
始まってすぐに、自分は誓いを立てた。リーダーとして、必ずみんなを守ると。
人を助けるのがリーダーの役目。誰も殺させはしないと、強く心に刻んだはずだ。
それがこのザマだ。親しい友人だった男は、既にこの世を去ってしまっていたのだ。
助けてやれなかった。おれはなんて無力だ。この拳で、自分の友さえ救えなかったのだ。
「宮崎、と。たけすぃ、禁止エリアというのが近くにできるみたい……たけすぃ?」
ずっと放送を聞いていたキン肉マンことキン肉・スグルは
たけしの返事が聞こえなかったことに気づいた。
スグルには
死亡者リストに知る者の名は無く、
たけしが憔悴している間も放送を聞きつづけていたのだった。
そして直接頭に響くこの放送に気をとられ、
たけしの変化に気づいていなかったのだ。
「どうしたんだ、たけすぃ……」
たけしの顔を見たスグルは、ようやく
たけしの様子がおかしいことに気づいた。
たけしは答えなかった。顔をうつむかせ、固く結んだ二つのまぶたの目尻から涙の筋を流していた。
スグルは様子を窺うばかりで、どうすればよいかわからずにうろたえていた。
スグルは
たけしの話していた人物をようやく思い出した。
彼が一番の友と話していた名だ。自分の知り合いばっかりに気がいったせいで
たけしの仲間のことは考えていなかった。
しかし、もう犠牲者となってしまっていたとは………
と、なにか、妙に深い嗚咽のようなものが聞こえてきた。
たけしが何かしゃべっているのかとキン肉マンは
たけしの口元を見た。しかしそれは
たけしの言葉ではなかった。
胸の奥から聞こえる強い鼓動、体全体の小刻みな震え、逆立つ体毛、そして砕けんばかりに食いしばったアゴ。
スグルが聞いていたのは嗚咽でなく、
たけしの奥からあふれてくるエネルギーの衝動。
次第に
たけしの目つきも鋭く、異様なオーラを纏いはじめた。
スグルはなんとなく状況がわかり始めた。
そう、自分にも火事場のクソ力というものがあるように、
たけしも秘めたパワーを持っていた。
いま、友の死によって
たけしのクソ力が発動したのだと。
数々の強敵に出会ってきたスグルにはわかる。
今の
たけしは超人である今の私の戦闘力を上回りはじめている。
この島の力で自分の力が制限されているせいでもある。だが相手は地球人の子供なのだ。
そんな力を引き出すほど何が追い詰めたのか、それは当然このゲームだ。
スグルはいまさらながらこのゲームを忌んだ。
たけしが低い声で唸るようにつぶやくと、ついにそのときが来た。
そう、今の
たけしを知る人は彼をこう呼ぶ。
なにかに憑かれたかのように、ずり、ずりと歩を動かしている。
それはただひとつ、自身を諌める方法なのかも知れないということも悟っていた。
「た、
たけし…わかっておるのか!どうみても今オマエは半端じゃなく体力を使っておるのだぞ?
そんな状態で移動していると、すぐに力尽きてしまう!いまは体力はおくんだ!」
スグルは知っている。そんなパワー全開の状態でい続けたらどうなるか。
フェニックスと戦ったとき、火事場のクソ力がなかったせいで、あの時自分の心臓は悲鳴をあげていた。
超人でない彼ならばなおさら。自分より高い戦闘力がそう持続できるはずが無い。
すぐに落ち着かせないと取り返しがつかなくなってしまう。
スグルの説得にかまわず、
たけしは歩き続けた。少しづつ歩みが速くなり始めた。
スグルも同じ速さで必死に説得を試みる。今の
たけしを力尽くでとめることは、今のスグルにはできないからだ。
慣れぬ説得の言葉選びに、度々言葉が詰まりそうになる。それでも止めなければならない。
この少年をこのまま放っておけば確実に途中で倒れる。
たけしの目から流れ続ける涙が少しにじみ始めていた。
それは眼筋に固く力を込めていたせいで、眼球付近の血管がちぎれはじめているのだ。
「い、いかん!そんなに気張ると、目の中だけでなく、頭の中の血管が破裂するぞ
たけし!落ち着くんだ!」
もはや仇どころではない。今すぐにでも休ませないと命にかかわる。
だが、自分の力でもとめられない…
「くっ、こうなったら仕方が無い…」
するとスグルは離れた場所に置き去りにされていた、
たけしのバッグを取りにいった。
その中から、小さな弾を取り出す。そして
たけしの後ろからすばやく手を回し、それを顔にぶつけた。
「?………ぐおおおおぉぉぉおおお!!!!!!!」
たけしはその場にうずくまり、あまりの目の痛さにその場にしゃがみこんだ。
スグルが
たけしにぶつけたもの。そう、凶星・必殺タバスコ星。
しばらく目の自由は利かないが、そのあまりの痛さに、体も自由に動かせなくなるはず(失明とまではいかないが)。
そういってスグルは
たけしの腕を持ち上げると、強引に一本背負いで投げ飛ばし、一時的に気絶させた。
あまりに荒っぽいやり方だが、これ以上によい方法が浮かばなかったのだ。
ありえないかもしれないが、今の
たけしはこのゲームに参加している一般人でさえ襲いかねなかった。
たけしの顔つきが戻り始めた。
スーパー
たけしから力が抜けたからだろう、スグルは一安心した。
「…そうか、
たけしの大切な友達だったんだよな。友情はかけがえのない大切なものだしな。」
友情、それがキン肉マンの力となり、彼を強くしてきた。
その失ったものの大きさはよくわかる。
たけしが倒れる寸前まで行きそうになったのも仕方が無いだろう。
スグルは支給された水で
たけしの顔を洗った。タバスコで強い刺激を受けた目を癒しているのだ。
しかし気絶して目を閉じているせいで、あまり要領よく洗うことができない。
あまりタバスコが長く染み付いていると、視力が落ちてしまうかもしれない。
自分がした行為だが、一刻を争うことを考え、スグルは水で洗うのをやめると、自分のマスクに手をかけた。
彼の故郷、キン肉星では生まれてすぐにマスクをつけるしきたりとなっている。
今でこそスグルは豚のような形相をしているが、そのマスクの中にある容姿は誰も知らないのだ。
そしてそのマスクの下には、キン肉王家のものにだけ授けられる、『奇跡』がある。
「フェイスフラッシュ…!」
スグルの顔から降り注がれる光は、
たけしをやさしく包んだ。
血涙がひき、タバスコの酸性も薄れ始めた。
原理はわからないが、とにかく
たけしの状態を回復させたのだった。
スグルは
たけしの回復を確認すると、マスクを戻した。
「…
たけし、敵は討つぞ。この先の…魂に呼ばれたのだろう?私には、わかる…」
かつて自分も、仲間たちの魂に幾度となく助けられてきた。
たけしが向かおうとした先にその仇がいる、とスグルは踏んだのだった。
仲間に出会うか敵に出会うかわからないが、
たけしの心を晴らすにはこれしかない。
スグルは気絶している
たけしを背負い、移動をはじめた。
【大分県西部/朝】
【キン肉スグル@キン肉マン】
[状態]フェイスフラッシュ使用により、軽い疲労
[装備]なし
[道具]支給品一式
[思考]1,とりあえずたけしが向かおうとした本州へ移動、たけしが起きたら仇の場所を聞き出す
2,たけしと共に行動。たけしを守る。
3,ゲームの脱出もしくは主催者の打倒
【たけし@世紀末リーダー伝たけし!】
[状態]フェイスフラッシュで体力回復、気絶
[装備]パチンコ(鉛星、卵星)@ONE PIECE、キメラの翼@ダイの大冒険
[道具]支給品一式
[思考]1,ゴン蔵の仇を討つため、ゴン蔵を感じた場所へ向かう
2,落ち着く
※たけしはゴン蔵が殺された現場に向かい始めています。
しかし桃白白の居場所はわかっていません。
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最終更新:2023年12月07日 05:04