0192:強きカリスマ





「グムー…急いだほうがいいかもしれんのう」
 気絶したたけしを背負いながら、キン肉マンは額を流れる汗も拭かずに街道をひたすら歩いていた。

 幸い、と言って良いのか分からないが、死亡者リストに自分の知る人物はいなかった。
 自分の聞いたかぎりではたけしの知り合いもいない――…
 束の間の安堵から昼食をとろうとした時であった。
“二時からの禁止エリアは『静岡県』と『大分県』だ。二時間後の午後二時に禁止エリアとなる”
「ゲェッ!わしらのいる所ではないか!」
 口を楕円形に歪ませ、思わずたけしを落としそうになる。
「…しかしまてよ?今が12時過ぎだから、禁止エリアになるのはまだ二時間も後のことだのう。」
 一旦は慌てたものの、こんな状況下で人一人の命を預かっているのだ。
 キン肉マンは人差し指を顎にあて、普段使わない脳みそを回転させ始めた。
「とすると別に驚くほどのことではないか。たけすぃが目を覚ますのを待ってからでも遅くはないかのう」
 別に禁止エリアにいたとしてもあと二時間は大丈夫だ。
 たけしの体調を整えた後で、ゆっくり遅めの昼食でもとりながら大分を出ればいい。

 …いや、そうではない。
 こんな時ロビンならどうする?ラーメンマンなら?テリーなら…?
 いわずもがな、

 友 の 心 を 優 先 す る ! 

 たけしは探していたのだ。友の仇を。
 自分が止めたのだ。たけしの気持ちを踏み躙った。
 償いをしなければ。一刻も早く、そいつの元へ向かわねば!
「確か本州だったな、たけすぃ?」
 背中で眠るたけしに向けて話し掛ける。その顔はどこまでも優しく、どこまでも美しかった。
 この少年の想い、無駄には散らさない――
 キン肉マンはしっかりとした足取りで北へと進んだ。

 しかし何だろうこの胸騒ぎは?拭いきれぬ不安は?
 自分は以前のダメ超人ではない、だからこそ確信する。

 “ここは早めに離れた方がいい――…”

 足腰の疲労と空腹を気にしている場合ではないと感じたキン肉マンは歩幅をさらに広げた。

 …30分も歩いただろうか?キン肉マンは福岡に入っていた。
「しかし、わしのせいとはいえ、なかなか起きんのう」
 ややため息混じりにたけしを見る。打ち所が悪かったわけではないようだ。やはりぐっすりと眠っている。
 そう思うとだんだん腹が立ってきた。自分は昼食も摂らずにせっせと禁止エリアから抜け出して、
 さらにはたけしを背負い足の痛みも気にせずに歩き続けているというのに。
「いつまで寝とるんじゃこいつ」
 さっきは美しいとか思ってしまった顔も、やっぱり不細工である。
「…ったく、ミートとは偉い違いじゃ。あいつは小さいながらも、よくわしに遣えてくれて…………
おわーーっ!!よだれをこぼすんでない!!」
 キン肉マン特有のオーバーアクション。両手を頭上でばたばたさせたため、たけしを放り投げてしまった。
「おわっ!?」
 思わず両手で目を覆う。

 ぼふっ

「……………………?」
 想像していたより柔らかい音。
「…………なんじゃあ?ありゃあ」
 覗いた指の隙間から見えるのは、大きなクッションのようなもの。その上でたけしは微睡んでいる。
「大丈夫か?たけすぃ…」
「ん?…ここはどこさぁ…」
 寝呆け眼で手探りをするたけし。地面の違和感に気づき、ゆっくりとたけしは覚醒していく。
「お、ふかふかしてるなコレ、大きな小次郎みたいだ」
「兄ちゃん、そりゃ夷腕坊てえんだ」
「そうかぁ、よろしくな、トリニータ。ところで俺はあんたの兄のポジションではないさ」
「…………お前ェの名前は?」
「俺の名はたけし!リーダー的存在だ!!」
 夷腕坊の上で親指を胸に当て、ポーズを取るたけし。尋ねた男も是に答えた。
「俺は更木剣八…まあ、お前ェと似たようなもんだ」
「そうか!サスペンションの兄かぁ。ごめんさぁマグワイア」
「…………そっちのガタイのいい兄ちゃんは?」
 たけしの雰囲気をどう思ったかは知らない。ともかく剣八はキン肉マンに意識を…
 否、殺気を向けた。
「わ、私はキン肉スグル。
第58代キン肉星大王だ」
「そうかい。まあ、肩書きなんざどうだっていい」
 くくく、と口角を吊り上げると剣八はキン肉マンに近づいていった。
 キン肉マンはすぐに目の前の男がマーダーであると確信した。
(この男…強い!威圧感だけならあの、悪魔将軍にすら匹敵する!!)
 近づいてくる剣八。その傍らでキン肉マンは木陰に座っている男を発見する。
「あれは、君の仲間か?」
「ああ、今回は俺の番だからな。観戦だとよ。
…っとぉ、んなこたどうでもいいじゃねえか。男同士が出会ったんだ。やろうぜ?殺し合いをよ」
「……断る」「ああ?」
 剣八は闘気をみなぎらせ、近づいていく。“俺自らがわざわざ近づいてやって”いるのだ…いや、違う
「私は正義超人だ。何人もの悪党をマットに沈めてきた。しかし誰一人として殺したことはない」
「だからなんだってんだ」
 剣八は圧していたはずだ。メインディッシュの前に摘み食いする程度のつもりで近づいたはずだ。
 ところがどうだ?この目の前にいるブタッ鼻の男は。
 自分は圧していたのではない、引き寄せられたのだ。
 このカリスマに――
「もし私とやる、つまり戦うというなら、
制限時間は30分。エリアは四方4×4m。ギブアップするか3秒間フォールで決着、
そして、試合が終わればノーサイドだ。それが守れないなら、私は君とは戦わない」
 剣八が気づくと、キン肉マンは剣八の目の前にいた。
 額に汗。敵を前にして歓喜したことはあれ、一瞬たりとも恐怖したことはなかった。
 この男、強い――
 更木剣八が感じるからこそ、重いのだ。たった三文字の最大の賛辞。
 剣八は、震えた――
「つまり、殺しはご法度、どっちが負けても死にはしないと。甘え甘え」
「やるのか?やらないのか?」
「構わねえよ、それで。ただし、手前ェが生き残れるとは限らないぜ」
「もちろんだ」
 焦りがばれぬように、虚勢を張り合う二人。
「ちょうどいいや、あの夷腕坊の上なんてどうだ?」
「いいだろう」
 たけしを下ろしたキン肉マンは、剣八と共に夷腕坊の上に乗った。
 ムラサメブレードを一瞥すると、剣八はキン肉マンに尋ねた。
「お前ェ、エモノは?」
 一瞬気を剣八にやるも、キン肉マンは何事もなく言った。
「エモノ…?ああ、武器のことかの?君の武器はその刀のようじゃが…
私の武器は鍛え上げたこの体だ。何、卑怯とはいわんさ、かかってきなさい」
「…今日一番の当たりかもな」
「なんじゃあ?」
「いや…さぁやろうぜ、
 試 合 を よ 」





【福岡県(街道)/1日目・日中】

【キン肉スグル@キン肉マン】
 [状態]:健康(足に若干の疲労)
 [道具]:荷物一式(一食分消費)
 [思考]:1.更木剣八を倒す。可能なら試合後に仲間にする
     2.たけしの友の仇を倒すために本州へ向かう(桃白白とは直接知らない)
     3.ゲームからの脱出、主催者を倒す

【更木剣八@BLEACH】
 [状態]:全身に火傷(軽傷)、かすり傷数ヶ所、首筋に切り傷
 [装備]:ムラサメブレード@BASTARD!! -暗黒の破壊神-
 [道具]:サッカーボール@キャプテン翼、荷物一式
 [思考]:1.キン肉マンを倒す
     2.志々雄、ヒソカと決着をつける
     3.強い奴を探して本州へ向かう

【たけし@世紀末リーダー伝たけし!】
 [状態]:健康
 [装備]:パチンコ(鉛星、卵星)@ONE PIECE、キメラの翼@ダイの大冒険
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1.ゴン蔵の仇を取る
     2.微睡んでいる
     3.ゲームからの脱出、主催者を倒す

【志々雄真実@るろうに剣心】
 [状態]:若干の疲労、全身に軽度の裂傷
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1.時間制限によりしばらく戦う気はない
     2.四国か本州に向かう
     3.全員殺し生き残る

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112:友の魂 キン肉マン 219:別離
112:友の魂 たけし 219:別離
169:螺旋は回る。狂々と 志々雄真実 219:別離
169:螺旋は回る。狂々と 更木剣八 219:別離

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最終更新:2024年03月10日 01:25