0113:北へ南へ ◆HKNE1iTG9I
―――諸君、ご苦労。
…爽やかな朝だ。よく眠れたかね?
道を進むは頬に十字傷を持つ青年、緋村剣心。
彼の頭に、主催者と名乗る化け物たちの声が響いてきたのは、丁度、彼が福岡県の中ほどまで歩みを進めていた頃合であった。
歩みを止めず、しかし、放送に対する注意は逸らさず。
剣心は九州自動車道を北上していく。
「もう18人も犠牲者がでたのでござるか……」
放送に薫の名前は無かった。
そのことに、微かな安堵を覚え、そして、数多の死者がでているのにも拘らず、安堵を覚えた自分を嫌悪する。
下らない、こんな下らない遊戯とやらは、どれだけの命を奪い、どれほどの涙を流し、幾つの消えない傷跡を遺せば、その忌々しい欲望を満足させるのか。
(宮崎ということは……地図によれば、高鍋県、延岡県、佐土原県、飫肥県の辺りでござるか……
今、居る場所は、恐らく、久留米県の辺り……のやや北か。あのままノンビリとしていたら不味かったでござるな)
自分独りが巻き込まれるのなら、納得こそできないが、理解することは出来る。
そう、自分は人斬り。いままでに、数え切れないほどの命を奪ってきた。
やがてくる新時代のため、力無き人々のため、という大義のもとで刀を振るってはきたものの、そのようなことは言い訳にもならない。
自分でも分かっている。例え、どのような理由があろうとも、自分が、大勢の人々の命と幸せを奪ってきたことには変わりが無いということは。
どのような理由を挙げても、自分によって幸せを奪われた人を納得させることなどできないということ。
それは、自分独りですら騙せないような陳腐な理屈。そう、自分は咎人。自分が罰を受けるというのであれば理解は出来る。
だが……
「薫殿…ッ!!」
彼女は違う。彼女は。
神谷薫は違う……ッ!彼女は、自分のような、志々雄のような、斎藤のような人斬りとは違う!!
心優しく、真っ直ぐで、少し子供じみたところもある彼女は違う。
神谷活心流、人を殺すことに主眼を置いているのではない、刀を凶器としてのみ扱うのではない、あの流派は違う。
自分達とは違う。違う。違う。違う。違う。自分のような人斬りとは違う。
……?
…自分のような『人斬り』……?
…今の自分は人斬りなのか……?
「違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う」
緋村剣心は歩みを速める。違う。今の自分は人斬りとは違う。今の自分は流浪人。人を斬らずに、人を救おうとする者。
現に、自分の刀も―――自分の――刀―
「違うッッッ!!」
―――弾かれたように、剣心は駆け出す。自分の帯びている刀。これは逆刃刀ではなく、正真正銘の日本刀。
幾度となく慣れ親しんだ、人を斬るための凶器。
脳裏に、刃衛に薫を殺されかけた光景、心臓に刀が突き立った薫の死体人形、そして……自らの手で……
妻であった女性、巴、雪代巴を殺したときの感触が駆け抜け、駆け巡り、駆け回る。
「薫殿……薫殿…ッ!!」
早く、早く薫を捜さなくては。護らなくては。東京へ。神谷道場へ。飛ぶが如く。飛ぶが如く。
剣心は駆け出す。彼女に会えさえすれば、きっと、この不安定な心の方向が定まるはずだ。
剣心は駆ける。北へ、北へ。飛ぶが如く、九州自動車道を北上していく。
福岡県、浜辺から大分離れた九州自動車道沿い。
小早川瀬那と蛭魔妖一は、早めの朝食をとりつつ、歩いていた。
少年、小早川瀬那に支給されたのは、テント、飯盒、ランタン、そして、小さな十徳ナイフと僅かな乾燥食糧。いわゆるサバイバルセットである。
とはいえ、ナイフはほとんど玩具みたいなものだし、食糧も、どう節約しても一日しか持たない少量のものではあったが。
現に、蛭魔と瀬那でとった朝食だけで、すでに支給品に付属していた食糧の三分の二は消費してしまっている。
「よかった……まもり姉ちゃんも進さんも無事か……」
瀬那も、人知れず安堵の溜息をつく。不謹慎なのは分かる。何人も、このゲームで命を落としていることも分かる。
それでも、自分の知っている名前が流れるのと、見ず知らずの他人の名前が流れるのでは、自分に与える衝撃は明確に異なっている。
「な~に言ってやがる糞チビ。18人もぶっ殺されたってことは、それだけ沢山の殺人者がいるってことだぞ」
「……!!」
進は強い。日本最高峰のラインバッカ―とも呼ばれ、超人的な身体能力を誇る、彼は。だが。
(まもり姉ちゃんは……)
自分の姉のような存在、守るべき存在、姉崎まもりはそうではない。いくら精神が強くても、彼女はか弱い少女に過ぎない。
いや、心優しい彼女のことだ。きっと、襲われている人に出会ったら、助けに入ってしまうんじゃないか。
いままで、自分のことをずっと守ってきてくれたように。
心無い参加者に騙されて、酷い目に遭っているんじゃないか。一人で震えているんじゃないか。
(まもり姉ちゃんは僕が護らないと……)
「…オイ、聞いてやがるのか、糞チビ!」
「…………はいっ?!」
「ったく、オレたちは今、移動している。糞マネや進と合流するんなら、東京の泥門高校に行くのが一番可能性は高い」
「じ、じゃあ、早速……」
「しかし、だ。まだオレはコレの訓練で疲れているし、おまけに完璧には扱えねぇ」
蛭魔の手に、何時でも出せるようにと握られているカプセル。
その中に入っているのは、さる機工造形士の技術美の結晶、参號夷腕坊。
操作するのには、指の一本一本にとてつもない負荷をもたらすが(何らかの力で、負荷はある程度軽減されているとはいえど)、
その分、恐るべき戦闘力を誇る支給品。
「なら、どうするんですか?」
瀬那は問う。本当は、一刻も早くまもりを捜しに行きたい。だが、蛭魔は、こんな状況で意味もないコトをするような人ではない。
故に、問う。それは一体何故か、と。その問いに対し、蛭魔は僅かに唇を歪めると、言葉を発した。
「熊本に向かう」
「どうしてですか?」
「今は、少し休む必要がある。ミイラ取りがミイラになっちまったらしょうがねぇしな。
で、だ。この状況下でゲームに乗った奴ってのはどこで待ち伏せるよ?」
「それは……人が集まる場所……都市?」
「それと、交通の要所だ。福岡はどっちの条件も満たしてやがる。
最初は様子を見るために見に回ったが、これだけ死人が出たならしょうがねぇ。
身体を休めるにしろ、もう少し訓練するにしろ、これ以上福岡に留まるのは利巧じゃねぇだろうよ。」
「なら、なんで熊本に?」
「宮崎が禁止エリアになっただろ?なら、この後、好き好んで南九州にくる奴なんざ、余程のバカか自殺志願者しかいねぇ。
特訓や、身体を休めるにはうってつけって奴だ。まぁ、南九州から逃げてくる途中の奴に会うかどうかは運次第だがな」
二人の青年は歩く。南へ、南へ。大地を踏みしめながら、九州自動車道を南下していく。
【福岡県/朝】
【緋村剣心@るろうに剣心】
[状態]やや疲労、精神不安定
[装備]日本刀@るろうに剣心
[道具]荷物一式
[思考]1.薫、斎藤を探す
2.人を斬らない
【小早川瀬那@アイシールド21】
[状態]:健康
[装備]:特になし
[道具]:支給品一式、野営用具一式(支給品に含まれる食糧、2/3消費)
[思考]:1.姉崎まもりと合流し、守る。
2.蛭魔と行動を共にする。
【蛭魔妖一@アイシールド21】
[状態]:夷腕坊操作の訓練のため疲労
[装備]:参號夷腕坊@るろうに剣心(習熟中)
[道具]:支給品一式
[思考]:1.姉崎、進との合流。
2.ゲームを脱出する。
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最終更新:2024年08月18日 19:08