0111:風に溶ける願い





走る、走る――


背中に『魔』の一文字を携え、クリリンは朝日をその頭部に煌めかせながら走り続ける――


(さっきのフリーザたちはピッコロの名前を言わなかった!
悟空たちも無事みたいだな、順調だ!
ドラゴンボールの件はもしかしたら…いや、多分悟空たちも気付いてるだろうから、あいつらにも頼めればピッコロ優勝に絶対協力してくれるはずだ!)

報われず、悲しく、そして恐ろしい、その勘違い解釈を自分の中で信じ込んだまま…クリリンは走り続ける。
ピッコロ以外の参加者を全てゲームから退場させるため――



クリリンの進む方角の遠い先…
岩肌にもたれて座りつつ辺りに警戒を続けている一人の男性と、草むらに横たわって眠っている女性の姿があった。
その女性、北大路さつきは男性の方へ寝返りを打つように体を向け、そっと目を開けて男性を見る。

「…眠れたか?」
「……全然…」
「そうか、まあ仕方ない…こんな状況だからな…」
「……防人さんの知り合いの人たち…カズキさんたちは、呼ばれなかったみたいね」
「ああ、彼らは無事だ。オレの自慢のブラボーな部下だから、簡単に死んだりしない。
…君の友人たちも全員無事みたいだな」
「…はい」

穏やかな朝日の中、静かな声の会話が空気に溶ける。

つい今しがたバーンたちの放送が二人の頭に響き死者達の名がたくさん綴られたが、その中に二人の知る名は一つも無かった。
数時間前…恐ろしい襲撃者であった戸愚呂兄に脅えて何も出来ずに殺される寸前だったさつき。
その自分の為に駆けつけて、傷を負いながらも助けてくれたブラボーに深い感謝と安心の念を持ち礼を言い、
いろいろな情報交換をした後にブラボーに、
「オレが見張っているから、少し寝た方がいい」
と言われ、信頼していた為に見張りを任せて横になっていた。
しかし、大切な友達たちや真中の身を案じて…一睡も出来なかったが。

「防人さんは大丈夫?寝てないですし…」
「全然平気だ、十分体は休ませられたからな。
…ちなみに防人ではなくキャプテン・ブラb「防人さん、お腹空いてない?もうそろそろみんなを探すために…東京に向けて移動するんでしょ?朝にしましょうよ」
「……そうしようか…」

先程の放送で告げられた死者の数のあまりの多さに深く心を痛めてはいたものの、さつきは極めて明るく振る舞っていた。
(…これ以上防人さんの負担になる訳にはいかないもの。必ず真中を助けに行く!助ける!私がしっかりしなきゃ!)

さつきは昨夜の自分を守ってくれたブラボーの戦いぶりを見て、そして朝を迎えるまで様々な事を一人考え続け…少し心を強くした。
(…きっと、真中たちも私と同じようにこの不可解な状況の中、震えているに違いない。逃げ回っているに違いない。
…真中が死ぬくらいなら私も死ぬわ。だから…どうせ死ぬのなら、真中たちを探そう。
そして、真中を守ろう!)

か弱い弱者でしかない自分であるが、昨夜の震えていた自分の姿を真中淳平に重ね…
そして真中を守る自分の姿をブラボーに重ねた。
真中を守って死ぬ。そんな人生なら、悪くない。
数時間横になったままグルグルと考えを巡らせた結論が、これだった。

「朝日が眩しい…この世界も、ちゃんと朝が来るのね…」
「…そうだな」

二人共同じあんパンとコーヒー牛乳を食しながら、さつきは目を細めて空を見上げてぽつりと呟いた。

するとフサ…と頭の上から何かが眩しい朝日を遮るように乗り、顔に影が出来る。
「…これ…」
「日除けにはなるだろう?女性の肌に紫外線は禁物だからな。気休めにしかならないが」
「…ありがとう」
それは、ブラボーが重ねて羽織っていた上着。
突然の事に目をパチクリとさせてブラボーを見やるが…さつきは笑みを返して素直に礼を言い、その上着で頭を軽くそっと覆った。


そんな穏やかな朝食の時間は、突然に終わりを告げる。
「…!?避けろッッ!!」
「え?キャ…!」
突然立ち上がりブラボーがさつきを突き飛ばす。
するとさつきがいた場所に突然何かが現れ、さつきの寄りかかっていた小さな木が真っ二つに折れて轟音を立てて地面に倒れる。
「…ちぇ、油断してたから先手必勝だと思ったのにな」
「貴様ァッ!」
「…悪いけど、一度だけ死んでもらうよ。みんなが助かるためだからさ…」
その襲撃者、クリリンは…折れた木の裂け目から右足を地面に下げつつ、二人に申し訳なさそうに笑みを向けた。
「あ……あ…」
「女の子を殺すのはやっぱり気が引けるけど…」
「!?…クッ!!」
「…ごめんよ!!」

ブラボーがとっさにさつきの前に立ち塞がり、さつきに向けられたクリリンの拳を両手で受け止める。
「キャアッ!?」
「ぐあッ!!!」
かろうじてブラボーがそれを受け止めたものの、昨夜の戦いの傷が開いて強い痛みが襲い顔を歪める。
先程は「十分体は休めた」と言ったものの、実際にはまだ完全に回復した訳では無かった。

「ここはオレに任せて、行け!さつき!」
「……え?」
「そうはいかないよ!二人とも逃がす訳には…いかないッ!!」
拳をブラボーから引いてから再びさつきめがけ、一般人には見えない程の風のように速い回し蹴りを放つ。
しかしブラボーが再びそれに立ちはだかり、自分もその蹴りに同じような蹴りを合わせて大きな激突音を響かせる。
「キャアアッッ!!!」
「オレの部下を探せ!!練金の戦士なら、必ず正しき力になるッ!!」
「でも……でも…!」
「オレは死なん!必ず追いかけるから、早く行けっ!!」
クリリンを強く見据えたままディオスクロイを懐から取り出し、さつきに向けて大きく叫ぶ。
「………クッ!!」
少し躊躇して泣きそうなつらい顔でブラボーを見上げるが、決心したかのようにデイパックを拾い上げて駆け出すさつき。


「…あ~あ、早く追いかけないとな。さっさとケリを付けさせてもらうよ!」
クリリンが遠ざかるさつきの背を困ったような笑顔で見送りながら、少しブラボーから間合いを離して構える。
「…ブラボーだッ!!行くぞッッ!!」
さつきの姿がどんどん遠ざかる中、拳とトンファーが激しく幾度と無く交錯する。

「ブラボー技(アーツ)13の内の一つッ!!」
「?…させないよっ!!」
攻撃を相殺しあって一瞬間合いが離れた瞬間、両手を左右に広げたブラボーが何かの技らしき物のかけ声を放ったのを見たクリリンが、
先手必勝とばかりに地を蹴り間合いを詰める。
「粉砕!」
迫り来る相手に狙いを定め――
「ブラボラッシュ!!!」
「何ッ!?クッ!オオオォッッ!!!」
まるで幾多にも拳のみが分裂したように錯覚が起こるほどの圧倒的な拳の嵐。
クリリンが予想だにしなかった程のその超人的なラッシュが目前に迫り、焦りながらもとっさに自らもそのラッシュに拳の弾幕を合わせる。
(何だよ!?体からまるで気も感じない一般人のはずなのに!!何でこんな速い動きが出来るんだ!!?)

大きく響きわたる連続激突音。
ギリギリでほとんどのブラボーの拳を何とか相殺するが、防ぎもらした一発を右肩にモロに受けて体を少し傾けながら空中に舞うクリリンの体。
脳裏によぎる焦りと驚き。
「ハアッ!!両断!!ブラボチョップ!!!」
そのクリリンめがけて空に飛び上がり、トドメとばかりに追撃の手刀を振り降ろす。
「っ!?何ッ!!?」
しかしクリリンの体が空中で突然素早く上昇し、腕が弧を描き空を切る。
「…空も飛べるのか…!!」
「……やっぱりさすがのあんたでも、舞空術は使えないみたいだな…!」
家の屋根ほどの高さから、ブラボーを見下ろし笑みを浮かべる。
「気円斬…!」
「…!」
ブラボーの技による意外に重いダメージで痺れて動かない右腕をダランとぶら下げたまま、左手を天に掲げて光る光輪を作り出す。
「行けっ!!」
「…ク!」
振り降ろす腕により放たれた気円斬が恐ろしい速さで迫る中、一瞬避けようかとも躊躇したものの、ディオスクロイを構え直して身構える。

「…ごめんよ…!」
大きな山をも両断する程斬れ味の鋭い技なのだ。
その気円斬を避けようとしなかった相手の姿を見て勝ちを確信し、瞳を伏せてそう呟いた。
――耳に入る、削るような金属音と、大きな切断音。

「………あんた、なかなか強かった。苦戦したよ…」


「――両断!!ブラボチョップ!!!」
「なっ!!?」
突然真横に現れたのは、切断されたはずのブラボー。
「うわっ!!」
何とか紙一重で回避すると、急降下していくブラボーは軽やかに着地する。
「何で!?…くそっ!もう一度ッ!!」
再び襲いかかる光輪。
しかし…
「効かんっっ!!」
「へ!?嘘だろっ!!?」
前に構えたトンファーで受け止められた気円斬が、火花を散らしながら停滞した後に斜めの角度に弾き返されて飛び去り、
たった一本の電柱をギリギリ切り倒しただけで消滅する。
「え!?俺、手を抜いてなんて…!?」
「ハアッ!!」
近くの大きな木の幹めがけジャンプし、強く木を足蹴にしてクリリンの高度まで再度飛び上がる。

「クソオォッ!!」
信じ難い現実と悔しさを叫び声に変え頭に血が昇り、宙を舞うブラボーに向けて今度こそ!と、三度気円斬。
それを三度弾き返し、ついにクリリンに届こうとするブラボーの一撃。
――しかし…
「ク……!!」
度重なる体の酷使によって昨夜の戦いの傷口から大きく血が吹き出し体勢が崩れ、ディオスクロイが手から離れて落ちていく。
「…!気円斬ッッ!!」
もはや意地。
自慢の技の真価を今度こそ見せてやる!との思いから、四度放たれる…死を与える光輪――





「……まさか、こんなしょぼい武器さえ斬れないなんて、信じられないなぁ…ふう、疲れたぁ…」
「………」

クリリンは倒れるブラボーに声を掛けながら、ディオスクロイを拾い上げる。
「………」
クリリンは周りを見回す。
真っ二つになった木々、真っ二つになった建物の屋根の角、真っ二つになった電柱、そして…
「…あの女の子は追いかけるのは難しいかな。だいぶ時間使っちゃったからなぁ…」

そして…真っ二つになった、ブラボー。


「いくら強いとはいえ、こんな気もまともに扱えないような人にここまで苦戦するなんてなぁ…
 気円斬も電柱を斬るのが精一杯、か…これもフリーザのやつの仕業かな、クソッ!!」

空に輝く太陽を見上げながら悔しげに舌打ちをする。
「…へとへとだ。少し休むか…」

痺れがまだ少し残る右腕をかばいながらブラボーの荷物を集め、その場から立ち去るクリリン



「防人さん……東京で、待ってるからね…!」

遙か遠くまで一心不乱に走り続けてきたさつきは、息を切らせながら立ち止まり……初めて後ろを振り返って呟く。

そのか細い願いの言葉は――
自分の肩に掛かるブラボーの上着をわずかに揺らした暖かいそよ風に乗って、ただ穏やかな朝の空気に溶けて消えるだけだった…





【福井県/朝】
【クリリン@DRAGON BALL】
[状態]体力・気、共に大きく消耗
   精神不安定
[装備]悟飯の道着@DRAGON BALL
[道具]荷物一式(食料五日分)
   ディオスクロイ@BLACK CAT
[思考]知り合いとの合流
   出来る限り参加者を脱落させてピッコロを優勝させる
   休める場所を探す

【岐阜県/朝】
【北大路さつき@いちご100%】
[状態]体力消耗
[装備]ブラボーの上着
[道具]荷物一式(支給品未確認、食料少し減少)
[思考]東京へ向かい、カズキ・斗貴子・いちごキャラを探す&ブラボーを待つ
   真中淳平を守る


【防人衛@武装練金 死亡確認】
【残り110人】


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032:林の中での遁走曲 クリリン 132:混沌の作戦
062:不死身と不運と慢心と 北大路さつき 141:揺れる草葉と上着、そして動かざる思い
062:不死身と不運と慢心と 防人衛 死亡

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最終更新:2024年01月31日 14:31