0134:溺れる者は藁をもつかむ ◆XksB4AwhxU





少年が2人、虫の声を背に線路沿いの道を歩いていく。
帽子をかぶった少年は自転車を引き、少し手前を歩く眼鏡の少年は俯きながら何かを考えている。
まもなく姫路を通過、けして速くはないペースで歩き続ける。
山陽道で日本刀の男に襲われ、また別の怪しい男に支給品を奪われたことから、
あまり目立つ道を歩くのは自殺行為だということに気付き、相談の末、線路を選んだ。

山陽道路を北上し途中から一般道へと。支給された粗末な地図と標識を手がかりに、
志村新八と越前リョ―マは時間をかけて慎重に進んでいった。
砂利で舗装され鉄棒が並ぶ線路は歩きやすい道とは言い難い。だが敵に襲われる状況を想定すれば、
見通しが悪く常に繁みや民家に並行していて隠れ場所には事欠かないリスクの低い道筋である。

新八は山道で拾った棒切れを腰に差して気休め程度の武装をしていた。
右指を数本骨折しているので、できれば戦闘は避けたいところである。
一方の越前は怪我をしている新八に代わって自転車を引き、バッグからはテニスラケットの柄を覗かせていた。
そのうち新八がラケットに気付き、それは越前君の持ち物にするの?と、問うたが越前は特に何も答えなかった。

ほどなくして姫路の駅に到着する。時刻は09:00を指している。
「時刻表があるよ!蒸気機関車が走ってるんだって。コレに乗れば」
「危険な奴と乗り合わせたら逃げようがないじゃないっすか」
新八の驚きに越前がつぶやく。そりゃ、ま、そうだけど・・・新八は近くの長椅子に腰掛けた。
「蒸気機関車」の沿線図には鹿児島から青森までを横断する一本の線路が描かれていた。
越前はあまり興味なさそうにデイパックからペットボトルを出し2口だけ水を飲んだ。
「繁盛してそうっすね」
新八はげっそりと舌を出す。
慎重に進んだせいか、姫路までの道中であれきり妙な人間に会う事はなかったが油断はできない。
越前の言う通り列車のような狭い空間で捕まれば、飛び降りる他に逃げる手段がなくなってしまう。
軽はずみな行動は簡単に自分の寿命を縮めていく。
新八は姿勢を正して立ち上がった。
「ここも早く移動した方が良さそうだね。危険なのが大挙してこられちゃ迷惑だ。行こう」
時刻表によれば姫路駅に列車が到着するのはまだまだ先らしいが、危険は減らしておくに限る。
新八は疲労した身体を引きずって改めて休憩場所を探すべく駅を出た。
越前も頷いて後を追う。せわしない移動だ。けれど今は身体を動かしている方がよかった。
思い出したくもない出来事と――
殺人鬼(火口)の言葉を聞いてから越前は竜崎桜乃のことを考えている。
思い出さざるを得ない出来事を抱えて――
藍染惣右介と名乗る男と出会ってから新八は絶え間なく彼の言葉の意味を考えている。
2人の少年は再び線路沿いを重く歩き始めた。



越前は思考する。
今、この小さな孤島で信じられる人間が何人いるのだろう。手がかりはなく仲間の無事も定かではない。
嘘っぱちだと撥ねつけていた放送の真偽は、あの殺人鬼(越前は火口の名など知らない)との一件で大きく揺らぎ、
彼女――竜崎の死を信じないと誓った越前の強固な思いは動転し否応なく剥がれかかっていく。
あの男の証言は越前に大きなショックを与えていた。

(・・・本当に死んだのか?竜崎)
しかし「Lの本名」とはなんだ。やっぱりあの男は錯乱していたのではないのか。
ラケットも、たまたまあの男に支給されていただけかもしれない。
越前は必死に否定を重ねる。
    ――そういえば、昨夜俺が殺した女の子も二つにしばってたっけな。   
男が殺人を躊躇しない性質である上に誰かを殺してきたのは間違いなかった。

越前は少し前を行く新八の背中を見た。
新八はあの殺人鬼(火口)と自分の会話をどの辺りから聞いていたんだろうか。
正当防衛とはいえ、人を殺めてしまった新八にあの時の状況を話題に持ち出すのは躊躇いがあり、
未だに会話の確認はしていなかった。
あの男の言うとおり仮に竜崎が亡くなっていたのなら、午前6時のあの放送は正しかったことになり、
そして新八はまだ仲間2人の生存を信じている。
男の証言を伝え仲間の生存の希望が揺らいだら彼はまたショックを受けるだろう。

そして、新八の手を汚すことになったのは自分の責任だ。
越前は男と主催者に対して底知れない怒りと苛立ちを抱え、
新八に対してはすまないと思う気持ちがあった。

――僕はこのゲームからの脱出手段を持っている。
  僕は琵琶湖で待っているから、出来るだけ多くの人を連れて来るんだ、良いね?

「越前君・・・」
ぐるぐると高速回転する頭を抱えながら新八はやや遅れて歩く越前に問いかけた。
「何すか?」
「どう思う・・・さっきの人の、その」
「ああ、あの泥棒の言ったこと、すね。胡散臭いすよ。信用しない方が良さそうだね」
「でも・・・僕達に嘘ついて何の得があるんだろう。あの身のこなしはかなりの剣の達人だよ。
僕らを斬ろうと思えば簡単に斬れたはずなんだ。なのにそうしなかったのは何故なんだろうって」
自分から一瞬にして剣を奪った光景を思い出す。
たしかに。ゲームに乗っているなら言葉より先に襲い掛かってくるだろう。
「あの人の言う脱出の方法ってのは、人が大勢いないと完成しないものなのかもしれない」
「なんすかソレ・・・人がいてどうにかなるとは思えないっすよ」
琵琶湖に人文字でも書いて助けでも呼ぼうというのか。
越前は思わず脳裏に浮かんだ自分の想像にげんなりした。
「例えば・・・・う~宇宙船とか・・・」
「ハア!?」
自己嫌悪に陥った自分の妄想を越える新八の意見に越前は耳を疑った。
「これだけ人がいるんだ。1人や2人くらい宇宙船の技術者がいてもおかしくないよ。
僕のいた江戸は宇宙中から沢山の天人や物が集まっていたけど、君の乗っていた乗り物。
ウェイバーだったっけ?アレと同じ物を僕は見たことない。
想像も出来ない文明世界から来た人だっていると思うんだ」
うん、考えられるとしたらそれだ!閃いた、とばかりに新八は1人熱っぽい表情で納得する。
――江戸?宇宙!?アマンド??
聞き捨てならない単語が並び越前は顔をしかめたが所詮は文化が違う。
いちいち突っ込んではいられないので不可解なところは聞き流し、
自分の常識に当て嵌まる範囲のみの言葉を反芻し検討した。
越前はとりあえず頭に浮かんだ質問を投げる。
「それって作るのに何日かかると思ってんの?」
新八は渋い顔をする。もっともな切り返しに眼鏡が曇った。
「百何人の人間が乗れる船を作る材料なんてこの世界にあるって本気で思ってんすか?」
「百歩譲って不思議な道具で作れたとしますよ。どうやって動かすの?人力?」
新八は悶絶したあげく「きっと、そのための人手集め・・・なんじゃないのかな・・・」と力なく答えた。
「胡散臭いよ。泥棒の言う事でしょ。見に行く価値なんかないっすよ」
「たしかにそうだけどさ、万が一本当の話だったら僕らは他の人に伝えなきゃいけない」
越前は呆れたように首を振った。
「他の人、ね。罠だったら一網打尽すよ」
新八は再び頭を抱え込む。藍染の張ったものが真実ならば大勢の人間をこの馬鹿なゲームから救える。
罠ならば、大勢の人間を危険にさらす。大量に参加者を傷つけるチャンスを与えてしまう。
 罠か 真実か 伝えるべきか 黙殺するべきか 
新八の思考がまたもや賛成派と否定派に分かれ論争を再開した。

少なくとも脱出の手段が存在するという希望があれば誰も殺しあう必要はなくなり、

詳細な方法はわからないけれど、噂を伝えれば被害者の数も激減するのではないか。

人は考え事をしながら歩くと加速する。
ついに一つの結論に至り、新八は後ろを歩く越前に向けて再び言葉を発せようと振り向き、石ころにつまずいて飛んだ。
デイパックと眼鏡が空中を舞い越前が呆れながら声を上げる。

線路に転がった新八は思う。
このまま線路を進めば大阪に入る。
その次は京都。
その次は琵琶湖のある滋賀。
それまでに何人の人間に「脱出の可能性」を伝えることが出来るだろうか。





【兵庫県/姫路駅付近/午前】

【志村新八@銀魂】
【状態】中度の疲労、全身所々に擦過傷、特に右腕が酷く、人差し指、中指、薬指が骨折
【装備】拾った棒切れ
【道具】荷物一式、 火口の荷物(半分の食料と水を消費)
【思考】1:藍染の「脱出手段」に疑問を抱きながらもそれを他の参加者に伝え戦闘を止めさせる。
    2:坂田銀時、神楽、沖田総悟を探す。(放送は信じていない)

【越前リョーマ@テニスの王子様】
【状態】健康
【装備】テニスラケット、両さんの自転車@こち亀
【道具】荷物一式(半日分の水を消費)、サービスエリアで失敬した小物(手ぬぐい、マキ○ン、古いロープ
    爪きり、ペンケース、ペンライト、変なTシャツ
【思考】1:藍染の「脱出手段」に胡散臭さを感じている。
    2:情報を集めながらとりあえず地元である東京へ向かう。
    3:仲間との合流。 竜崎桜乃の死は信じない(認めていない)

    *越前は竜崎が火口(彼の名は知りません)の手によって殺害された可能性があると思っています。
    *姫路駅付近に埋葬された稲葉響子には気付きませんでした。
    *神戸方面へ北上中。


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120:暴走列島~藍染~ 志村新八 177:ミーティング
120:暴走列島~藍染~ 越前リョーマ 177:ミーティング

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最終更新:2023年12月15日 11:35