0132:混沌の作戦 ◆ZnBI2EKkq.





背の低い1人の男が木陰を探して歩いている。

男は休憩に相応しい小さな繁みを見つけると糸の切れた人形のように力なく座り込んだ。
「ふうう。疲れたなぁ」
略奪した分を含む五日分の食料の入ったデイパックを枕に男は寝そべった。
中天に差し掛かった太陽が木々を照らしている。
予想以上の体力の消耗にクリリンは疲れ果てていた。
(これくらいでへバるなんて・・・どうしちゃったんだろ、俺)
(しっかりしろ・・・ベジータ達と戦ったときのほうがずっと辛かったじゃないか)

鉛が全身を包むような倦怠感。このまま眠りに入りたい欲望にかられる。
しかし、いつ誰が現れると知れない状況で無防備に睡眠をとるのは危険である。
どうせ休むのなら見つかりにくい木の上にするべきだったと、クリリンは少し後悔した。
(飯・・・)
(飯、食わなきゃ。だるいのはきっと空腹のせいだ・・・)
のそのそと冬眠から起きる熊のような大仰な動作で枕にしたデイパックの口を開く。
ホイポイカプセルを解除すると無数の簡易食料が現れた。
「うわわ!」
両手では抱えきれず溢れたパンや缶詰が地面に転がった。
「けっこうたまってたんだ」
「悟空の奴、腹減ってんだろうなー。食わせてやりたいなぁ」
クリリンはビスケットの袋を開ける。焼き菓子の香ばしい香りが吹き出した。
瞬間、自分が殺した少女の顔が脳裏に浮かぶ。クリリンはビスケットをまとめて口に放り込んだ。
(どこにいるんだよ、悟空)
一袋目が見る間にカラになりクリリンは2袋目に手を伸ばした。
ガリ、ガリ、ガリ、ガリ、
(うまい。やっぱり、腹減ってたんだ、俺)
未開封のペットボトルを開け一気に飲み干す。口から溢れた水が喉を伝い服を汚していく。
(だるいのも、これで終わりだ。飯食って、眠れば、回復するさ)
3袋目。ビスケットはこれで終わり。次にクリリンは目についた缶入りのシチューを手にした。
「ご丁寧にスプーンつきか。うまそーな匂い」
実際は鼻のない彼は匂いなんて感じなかったが、煮込まれた大振りの肉や野菜は食欲をそそるものだった。
(悟空、悟空に食わせてやりたいなぁ・・・
あいつ、絶対空腹で倒れてるぞ・・・きっと自分の食料なんかとっくに食い尽くして
誰かに恵んでもらってるんだろうな。あいつは人のものを奪うなんて絶対にしない奴だからな)
ガツガツ、ゴクン。規則正しい速度でシチューが口に飲み込まれていく。
(こっちは大変な思いしてるってのに)
(早くピッコロと合流しないと)
(俺1人じゃ大変な作業だよ)
空腹を満たしながらも様々な思考と感情が頭の中を駆け巡っている。
空き缶を放り投げ2つ目のシチュー缶を開く。
(あんまり美味しくないな、コレ)
肉を噛む。少女の断末魔が蘇る。(思い出すな!思い出すな!)
租借したシチューが急に吐き出したくなり思わず口を押さえた。
指の間から吐瀉物が滴り胃が痙攣を起こす。(思い出すな!)



   俺だって好き好んでやってるわけじゃないんだ!他に方法がないんだから仕方ないじゃないか! 

   俺は正しい!俺のしていることは間違っていない!間違ってない!!   

クリリンは必死で首を振る。罪悪感をかき消すかのように首を振る。                    


クリリンは缶に残ったスープを無理矢理飲み下す。
そして重苦しい胃の腑を満たすべく三つ目の缶詰をこじ開けた。                          

(非道でも残虐でもピッコロ以外の参加者を全滅させてピッコロを優勝させる。
そしてドラゴンボールでこのゲーム自体を無かったことにさせてもらう・・・!
コレが最良の方法なんだ。問題なのはどうしたらこの方法を悟空に納得させるかという事だ)
(どうしたもんか・・・先にヤムチャさんに)
クリリンは首を振る。
(駄目だ。この方法はブルマさんを一度は殺さなきゃ成立しない。
あくまでピッコロが優勝してくれなきゃ成功しない作戦なんだ。
いくら後で生き返るからって、ブルマさんを傷つける方法にヤムチャさんが賛成してくれるとは思えない・・・
それに・・・ それは悟空も同じだ。一般人を殺すなんてそんな鬼畜なことをアイツができるなんて思えない)
(どうする・・・!どうする・・・!?)
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
(教えないでおくか・・・?悟空に。この計画の事を)
しかし、参加者を減らすには悟空の力が必要不可欠なのだ。
クリリンは考える。悟空が殺せないのは戦闘力のない一般市民や女の人、子供だ。
それ以外の危険人物ならば躊躇なく戦うだろう。例え自分自身の戦闘力を上回る化物が相手でも。
なら―――
(俺が・・・)
「俺がかよ・・・」

悟空には意図を伝えず強敵を減らすことに専念してもらおう。
作戦を打ち明けるのはピッコロだけにし、彼にはゲームの最終日まで逃げ延びてもらう。
ヤムチャとブルマは悟空と合流されるのはまずい。
事態が事態だから固まって行動するだろうし、3人揃って反対されたら厄介この上ない。
「別の解決方法」を考えよう!とでも言い出すかもしれない。
自分がどんな想いで決行したか考えもしないで。
(合流するまでに弱い参加者を減らすだけ減らす。合流したら悟空と協力して化物を倒す。
参加者が俺と悟空とピッコロと・・・ヤムチャさんとブルマさんだけになったら打ち明ける。
いくら悟空でもそこまでいけば俺の考えを理解してくれるだろ)


クリリンは考え続ける。
長い付き合いのヤムチャとブルマを自分の手にかけたくない。
それならいっそ合流を邪魔して孤立させ、別の強い参加者が彼らを・・・ればいい・・・

目の前が揺れる。
冷酷に計算を続ける自分の思考に感情がどうにかなってしまいそうだ。
気がつけば手は缶詰を握り潰していた。

自分の役目は――
悟空の殺せない人間を――

「ちくしょう・・・なんで俺だけこんな目に遭うんだよ・・・」

罪もない少女を手にかけた感触がリアルに蘇る。
クリリンは強く両腕を抱いて赤ん坊のように丸くなった。
そして、押し寄せる罪悪感に潰されないよう次の相手へ奇襲の方法を練り始めた。





【福井県/午前】
【クリリン@DRAGON BALL】
[状態]:体力・気、共に大きく消耗、精神不安定
[装備]:悟飯の道着@DRAGON BALL
[道具]:荷物一式(食料4日分) 、ディオスクロイ@BLACK CAT
[思考]:できるだけ一般人を減らす。
    まずピッコロと合流し、出来る限りの参加者を脱落させてピッコロを優勝させる


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最終更新:2023年12月15日 11:17