0173:乱【みだれ】 ◆ZGVhibhzPQ





「おい、そこのおまえ。
 さっき『DIO』と言ったな?」

何の動作もなく纏われた鎧を無感動に見ていた承太郎だが、
翼を庇うように一歩前に出、静かにカカロットを見た。
目の前の男が悪い人間には見えない。
暴虐の限りを尽くし、人を殺すのに毛ほどの躊躇も感じないDIOや、
大金目当てで承太郎達に襲い掛かってきたスタンド使いたちに比べれば、だが。

「石崎君のおおおおおおお仇ぃいいいいいいいいい!」
いつの間にか体勢を立て直していた翼は、拳を握り締めて悟空へと向かう。
それを見て承太郎は……高速の足払いをかけた。
怒りに我を忘れていた翼は、避けることも出来ずに頭からダイブする。

「ブヘァ、な、何をするんだJOJ「まずは落ち着け」
『スタープラチナ』の指弾で翼の口にらっきょを放り込み、自分も一つ口にする。
そして帽子を被り直し、静かに悟空の観察を始めた。
「いいか、まず石崎を殺したのがヤツとは限らねえ。
リストには100人以上の名前が載っているからな。
それに」
それに放送自体が『嘘』の可能性もあるとも言おうとしたが、それを言い出したらキリがない。
「それに、野郎はただ川を飛び越えてこっちに来ただけだ。
先に手を出したのは俺の方……
さっき出した妙な玉も、こんな状況じゃあしょうがねえ……」
翼を落ち着かせるようにゆっくりと話し、効果があったのか翼も握り締めた拳をスッと崩した。
しかし、これが甘っちょろい願望であることを承太郎は分かっていた。
男の目には『欲望』も、『恐怖』も映してはいなかった。
そこにあったのは純粋な『闘争本能』、それと『迷い』だ。
今は足を止めてはいるが、果たしていつプッツンくるか分からない。



何故自分は戦うのか?
―――サイヤ人だから
何故地球人を心の底から憎いと感じるのか?
―――サイヤ人だから
何故彼らを殺さなければならないのか?
―――サイヤ人だから



来た。

合わせた両手から放たれる波動が、スタープラチナ目掛けて走る。
すかさず翼の腕をひっ掴み、スタープラチナの脚力を使い弾かれたような横っ飛びで避ける。

ドッゴオオ オ オ  オ  オ ンッ!

間一髪だった。
斜め後ろの茂みが焼け焦げ、シュウシュウと煙が立ち昇っている。
生身の承太郎や翼に当たれば、酷い火傷を負うことだろう。
「刺激しちまったか……?
いや、元からやる気だったか……」
旅館から持ち出したボールペンを取り出し、スタープラチナの腕でダガーのように放つ。
だが、それらは紙風船のように難なく弾かれ、先ほどのエネルギー波を繰り出そうと両手が構えられる。
着地した瞬間、時を止めなければ間に合わないタイミングだった。
(やめろ!)
しかし、男の両腕の光線はまるで見当違いな上空へと放たれる。
一瞬きらめいた光は、まるで天を掛ける稲妻のようだった。
自分の意思に反した両腕の動きに、思わずたたらを踏むカカロット。


「JOJO君!」  「ああ!」
そして、息もピッタリに一目散に逃げ出す二人。

逃げることは恥じることではない。
このような開けた場所では、そのわけの分からないビームを乱発されたらおしまいだ。
先ほどのような暴発が、また起こるラッキーがあるわけはない。
戦うために逃げるのだ、諦めたわけではない。
二人ともらっきょを噛み締め、(承太郎はスタープラチナで背後を確認しながら)木立へとジグザグ走行で逃げていく。
承太郎のスピードもかなりのものだが、サッカー選手の翼はその上を行く速さだ。
だが、どちらも地球人。戦闘民族には敵わなかった。





                      ビュンッ!

                       ! ?

「速い!」  「……やれやれだぜ」
しかし回り込まれた!
そのスピードに舌を巻く翼と、不機嫌そうに呟く承太郎。
そして、悟空の手刀が承太郎に迷い無く振るい降ろされる!
「……スタープラチナ」



          ド――――z____ン

悟空の手刀が帽子のヘリで止まった。
翼が悟空の足元目掛けてスライディングをしようとしている。
わずかに吹いていた風も止まり、川のせせらぎも聞こえなくなった。
――――時が止まった。

「ザ・ワールド、時は止まった……」
焦ることなく『スタープラチナ』でカカロットの手のひらを殴る。
変化は見えないが、能力が解除されれば手刀の軌道は逸れるはずだ。
「……そして時は動き出す」



カカロットの手刀は逸れ、承太郎の帽子を弾き落とすに留まった。
手の痺れと少しの驚愕の中、畳み掛けるように翼のスライディングが滑り込む。
不意を突かれてカカロットがよろめくが、ほんの一瞬だけだった。
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」
すぐに地を蹴り、雄たけびと共に承太郎へと突っ込んできた!
悟空の右の拳をそのスピードと精密さで逸らし、スタープラチナの拳を胸部へ叩き込む。
しかし、カカロットの勢いは止まらない。
スタープラチナの腕を取り、そこに拳を荒々しく叩き落とす。
腕を振り回して直撃は避けるが、承太郎の腕にミシリと嫌な音が走る。
(ぐぅ……ヒビぐらいは入ったな……)
音と同時に腕を伝う痛みに顔をしかめ、スタープラチナの脚でカカロットへローキックを放つ。
しかし少し下がるだけで簡単に避けられ、スタープラチナ以上のパワーを持ったハイキックが承太郎を襲う。
普通ならば直撃コースだが、承太郎が時を止めて屈み回避できた。
しかし、振り上げた脚は袈裟懸け斬りのように承太郎へと追撃を放つ!
「オラァ!」
膝の関節を狙った精密な突きは、黄金聖闘衣を纏ったカカロットに多少だがダメージを与えた。
カカロットのパワーが制限されているとはいえ、黄金聖闘衣を纏ったカカロットならば大いに勝算はあるはずだった。
しかし、DIO戦の負傷に加えて分厚い重ね着。何よりも、もう一人の己がカカロットの戦闘力を制御していた。
DIOと同じ力を持った一撃一撃が、徐々にカカロットの脳を揺らし、悟空の解放を早めていたのだ。


(やめろ、もうやめろ!
  おめーはでてくるな!これいじょうひとをころすってのか!
  おらはかかろっとじゃねえ!おらはごくうだ!そんごくうだ!)
「う、う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「いっけえ!りゃありゃあ!」
翼が拾った石をカカロットに投げるが、鎧の上からでは大した効果は無い。
承太郎は視線一つ送らず、戦闘に集中している。
本当なら翼を逃がした方がいいのだろうが、あのサッカークレイジーを一人にしたら、何をしだすか分からない。
近くに居て、なおかつ敵から離れていれば危険がない……そう思ったのだ。
……それよりも、気になるのはあの男の方だ。
拳一つとっても、その威力はスタープラチナに勝るだろう。
しかし、荒い。我流の闘法というわけではないようだが、こちらが一撃入れる度に動きが荒くなっている気がする。
「やれやれ、中々の強さじゃねーか……
 弾丸も止めるスタープラチナの左腕をやったのは、おめーくらいのもんだぜ。
 だが、ちぃっと荒っぽすぎた……みてーだな。
 たっぷり頭冷やしな……」
スタープラチナの強化された視覚による動体視力!
ゆっくりと時が流れる世界で、カカロットが承太郎へ踵落としをする姿が見える。
普通ならば避けられない一撃、しかし承太郎はそれをギリギリまで引き付け、臆することなく時を止める。

(こいつとの戦闘でちっとは勘を取り戻したが、今のところは0.3秒ってところか……
  やれやれ、半年のブランクは中々デカイもんだな……)
正確にはそれに加えて、バーン達の能力制御によるものだが、承太郎はまだそれを知らない。
平和な生活に戻ってからは、ほとんどスタンドを使わなかったのもあるだろうが。
「このままッ一気にッどたまをぶち抜かせてもらうぜ!」
大岩をも砕く豪腕が、カカロットのアゴへアッパーカットを放った!

スタープラチナのアッパーカットはカカロットを数mもぶっ飛ばした。
そして、上空で方向転換が聞かないカカロットに両拳の連打を撃ち込む。
「オララオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラオラオオラオラオラオラオラ―――ッ!」
機関銃のように繰り出される拳がカカロットに向かう!


だが、それらは全て空を打ち抜いた。
「なにぃ!」   「うそっ!」
あろうことかカカロットは、身動きの取れないであろう『空中』で方向転換した。
気を利用した舞空術で空中に留まり、オラオララッシュを回避したのだ。
そのまま重力の力を上乗せした蹴りの連打を承太郎目掛けて放つ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「ぐううっ オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」
カカロットは舞空術で気を大量に消費していたが、黄金聖闘衣を纏い、なおかつ地の利があった。
結果、左腕を負傷していた承太郎は上半身にラッシュを喰らい、後方へと飛ばされる。
「JOJO君!JOJO君!」
「ぐうッ、驚いたぜ。
 まさか空まで飛べるとはな……」
オラオララッシュでかろうじて頭部は守ったが、腹部に何発も貰ってしまった。
腕が熱い、先ほどはヒビで済んだが、どうやらイってしまったようだ。
呼吸が苦しい。立ち上がれはするが、呼吸が弱まった以上はスタンドパワーも落ちているだろう。
吹っ飛ばされる前に、せめてもの一撃をボディーに撃ち込んでやったが、この分では通じては……


「ハァ……ハァ……オラ……どうしちまったんだ……?
 ハァ……まさか……お、おめーら無事か?」
「え、ぼ、ぼくはだいじょうぶだけどJOJO君が!」
先ほどまで戦闘していた男が、息を切らしながらも心配そうに話しかけてくる。
この異常事態に、翼は困惑しながらも承太郎を指差す。
自分の着ていたユニフォームを脱ぐと、ディバッグから水入りペットボトルを取り出して振り掛ける。
承太郎の学ランをはだけさせると、その上にそっと乗せる。
おかしい、あの男は確かに今まで承太郎と戦っていた。
それなのに、まるで何も無かったかのような挙動で、倒れた承太郎の心配までしている。

もっとおかしいのはそんな彼を素直に受け入れている翼なのだが、翼はそれに気がつかない。
彼からは全く邪気を感じず、更にはどこか爽やかな印象さえ持っていた。
それは倒れている承太郎も同じだった。
そして、一言「やれやれだぜ」と呟いた。





【群馬県 湯檜曽川/正午(放送)直前】

【孫悟空@DRAGON BALL】
[状態]:疲労、顎骨を負傷(ヒビは入っていない)
    出血多量、各部位裂傷(以上応急処置済)
[装備]フリーザ軍の戦闘スーツ@DRAGON BALL
[道具]荷物一式(食料二食分消費)
   双子座の黄金聖衣@聖闘士星矢(その辺に転がっている)
[思考]今までの行いに呆然
[備考]???

[思考]時が来るまで…


【大空翼@キャプテン翼】
[状態]:転んで顔が痛い、精神的にやや壊れ気味?(やや改善か?)
[装備]:拾った石ころ一つ
[道具]:荷物一式(水・食料一食分消費)、ボールペン数本、禁鞭@封神演義
[思考]:1.承太郎を介抱する。
    2.東京へ向かう。
    3.仲間を11人集める。
    4.主催者を倒す。
[備考]:悟空の挙動に疑問(不審には思っていない)

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労、肩・胸部に打撲(応急処置中)、左腕骨折
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(水・食料一食分消費)、ボールペン数本、らっきょ(二つ消費)@とっても!ラッキーマン
[思考]:1.体力の回復、傷の治療に専念する。
    2.可能なら悟空からDIOの情報を聞き出す。
    3.バーンの情報を得るべくダイを捜す
    4.東京へ向かう
    5.主催者を倒す
[備考]:悟空の挙動に疑問(不審には思っていない)


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156:最強の厚着 孫悟空 267:乱→狂【みだれのちくるい】
156:最強の厚着 大空翼 267:乱→狂【みだれのちくるい】
156:最強の厚着 空条承太郎 267:乱→狂【みだれのちくるい】

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最終更新:2024年01月25日 07:35