0156:最強の厚着◆lEaRyM8GWs



悟空は水を掬って飲んだ。冷たくて気持ちいい、身体の芯に染み渡ったような気がした。
野生児の本能ゆえか、水の匂いに引かれた悟空は川を見つけ、今は小岩の上にしゃがみ込んでいる。
わずかに落ち着きを取り戻した悟空は、ふと、自分は何なのだろうと考えた。

――オラは地球育ちのサイヤ人だ。
――そう、サイヤ人。だから俺は地球人を殺すんだ。

頭はもやがかかったようにぼんやりとし、いまいち思考がまとまらない。
今度は水でバシャバシャと顔を洗ったが、まだ気持ちは晴れないままだった。
流れる水をぼんやりと見ていると、悟空の腹の虫が大声で鳴いた。
群馬県を流れる湯檜曽川まで休み休み歩いてきた悟空だが、休みながら歩いたとて腹が減らぬ訳ではない。
何か食べ物はないかと悟空はデイバッグを開け、パンや干し肉があったためそれを食らった。
二食分ほど食べてもまだ飢えは残っていた悟空だが、ふと、手を止める。
バッグの中に見覚えのある物があった。
「ホイポイカプセル……」
自分は特に必要としていなかったが、ブルマ達がよく使用していたので馴染み深い物でもあった。
いったい何のカプセルなのかと悟空はスイッチを押して放る。
カプセルはボンッと煙を立てて、大きな金色の箱になった。

東京へ向かうため新潟から群馬へ入った承太郎は、岩陰からスタープラチナの目で黒髪の青年の姿を発見した。
川の対岸で、金色の箱の隣に座り、ザアザアと流れる川をじっと見つめている。疲れているようだ。
東京に入れば水の補給は出来なくなるだろうと思い川へやってきたら、まさか人に遭遇するとは。
承太郎達はすでに水と食料を一食分消費しているが、
その一食分の水を補給するために危険を冒すつもりは無かった。
しかし相手は弱っているようだし、仮にゲームに乗っている奴だとしても御する事は恐らく可能だろう。
警戒すべきは未知の能力、未知の支給品。
あの箱の正体は気がかりだったが、現状では何とも言えない。
無論、あの男がゲームに乗っていない可能性もある。
負傷しているためすでに何者かと交戦したのだろうが、自衛の可能性もある。
姿を隠しながら声をかけ、様子を探ってみようと承太郎が考えたその時。
「おーいっ、そこの君ー!」
承太郎の相方、翼が元気いっぱいに声をかけた。
黒髪の男が立ち上がり、こちらを見る。驚いている様子だ。
「いい筋肉をしているね! 僕と一緒にサッカーをしようよ!」

急にかけられた声が、悟空の思考を刺激した。
ハッと立ち上がって声の方を見てみれば、青年がにこやかに手を振っている。
友好的な笑顔。敵意など微塵も感じられない。
だというのに、なぜ自分は岩を蹴ってあの青年に飛び掛ろうとしているのだろう。
悟空は、まだ水で濡れたままの手を振り上げた。

川を跳び越す悟空の跳躍力に驚愕しながら、承太郎は翼の服を引っ張って自分の後ろに隠し、
スタープラチナで拳の弾幕を張った。
「オラオラオラー!!」
空中で方向転換不能の悟空はスタープラチナの拳を全身に浴びるはずだった。
だが、悟空は振り上げた手を、まるで野球ボールを投げるように振り下ろす。
虚空を握っていたはずの手からは光の球が放たれた。
即座に危険を察知した承太郎は、避ければ後ろの翼が危ないと判断し、
強烈なフックをエネルギー弾に叩き込んだ。
エネルギー弾は承太郎の顔の横を通り抜け、後方の川原に着弾する。
スタープラチナの拳が痺れているのを感じながら、迫り来る悟空が身体をひねって放った回し蹴りをしゃがんで避ける。
「てめぇっ! ゲームに乗ってやがるのか!!」
目の前に着地した悟空に向かってスタープラチナの拳の連打を放ちながら、承太郎は叫んだ。
悟空はすべての拳を身体を振って避けていたが、少しずつ後ずさっていた。
「……DIO?」
承太郎が操るスタープラチナを見て、悟空は自身に傷を負わせた男を思い出した。
あの男、DIOもこんなようなもの――スタンドを出して戦っていた。
承太郎のスタープラチナは、DIOのザ・ワールドと同等のスタンド。負傷した悟空には荷が重かった。
悟空は大きくバックステップし、手のひらを承太郎に向けて牽制した。
エネルギー弾を警戒した承太郎は深追いをやめ、爪先立ちになって回避体勢を取りながら考える。
(野郎……DIOの名を! あの傷は奴が?)
承太郎は宿敵DIOの情報を引き出そうと考えたが、
この好戦的な男から果たしてDIOの情報を得られるのだろうか。
同士討ちを企んでDIOの居場所を話すかもしれないと頭の片隅で考えたが、
今はこの場を切り抜ける事が先だ。ここで殺されてしまってはDIOを倒すなど不可能。

睨み合う悟空と承太郎。
一瞬の硬直、緊張――先に動いた方が、その隙を狙われる。

「お前かああああああああああああああああああっっ!!??」
硬直も緊張もしていない翼がいきなり叫び、横から悟空の脇腹に強烈なシュートを叩き込んだ。
「ぐあっ!?」
予想外の攻撃を受けた悟空だったが、無意識に手を振るって翼の顔面を叩いていた。
だが無理な体勢から放った拳は翼を地面に這いつくばらせるだけに終わり、致命打にはならない。
さらに承太郎が迫ってきたため、悟空は金色の箱があった位置までジャンプして戻った。
スタープラチナの脚力ならそれほど広くないこの川を飛び越えられるだろうと承太郎は考えたが、
翼の奇行が気になって側を離れられずにいた。
「いきなり飛び掛ってくるなんて、スポーツマンシップという言葉を知らないのかぁー!
 さてはお前だな!? 石崎君を殺したのは!!」
「何……?」

そういえば、と承太郎は思い出した。
午前6時に主催者が行った放送で死者の名が発表され、石崎という名に翼が反応した事を。
寡黙な承太郎は特に慰めの言葉をかけはしなかったが、
――この微妙にズレた発言をする翼にどう声をかければいいか分からなかった部分もあるが――
黙って震えている翼は悲しみに耐えているようにも見え、
その後も東京を目指す足を止めたりしなかったので、自力で立ち直ったのだろうと考えていた。

が、それが今この場でこんな形で爆発するとはさすがの承太郎も思っていなかった。
だいたい、このゲームに乗ってる奴はそれなりにいるだろうに、
なぜあれだけの行動で石崎を殺したのがあの男だと判断できるのか。
どうやら本格的に翼の頭はプッツンしているらしい。

「いしざき……?」
それが誰の事なのか分からなかった悟空は、翼の容姿から同年代の青年の姿を思い出した。
それは日向小次郎というまったくの別人ではあったが、彼もまた翼の仲間であり、
サッカー選手として翼と共通する空気を持っていた。

――もしかしたらあの男の名前はいしざきだったのかもしれない。
――オラが殺したのか? 声をかけてきた時はとびっきりの笑顔だったのに、今はあんなに怖ぇ顔して。
――オラの……せいなのか? あいつが俺を蹴飛ばしてきたのは。

  ――オラは……いったい――
      ――俺、は――

二つの相反する思考が、悟空のかたわらにある黄金を輝かせた。
つなぎ目の見当たらない箱は突如として開き、黄金に輝く全身鎧が姿を現す。
それは意思を持っているかのように悟空の身体に向かって飛び、自動的に装着された。

双子座(ジェミニ)の黄金聖衣(ゴールドセイント)……
かつて二つの心を持った黄金聖闘士、今は亡きサガが装着していた鎧……
二つの精神の間で揺れる孫悟空の手にそれが渡ったのは、何の因果だろうか。



ちなみに、悟空は元々ルフィから貰ったフリーザ軍の戦闘スーツを着ており、
これはゴムのように伸ばしたり形を変えたり出来るため、黄金聖衣を上から着ても中で肩当がグニャリと潰れ、
装着自体に支障は無かったのだが……やはりゴワゴワして着心地が悪かった。
フリーザ軍の戦闘スーツ+黄金聖衣の防御力たるや生半可なものではないが、
群馬を降りれば春の地域に入るため、こんな厚着ではきっと暑いだろう。
エジプトの砂漠でも学ラン姿だった承太郎級の精神力が必要だ。



【群馬県 湯檜曽川/正午(放送)直前】

【孫悟空@DRAGON BALL】
[状態]:カカロット化(不安定、思考力低下)、疲労
    出血多量、各部位裂傷(以上応急処置済)
[装備]フリーザ軍の戦闘スーツ@DRAGON BALL、双子座の黄金聖衣@聖闘士星矢
[道具]荷物一式(食料二食分消費)
[思考]目の前の地球人を殺す。迷い有り。
[備考]厚着のせいで防御力上昇、機敏さ減少、春地域に行くときっと暑い。

【大空翼@キャプテン翼】
[状態]:顔を殴られて痛い、精神的にやや壊れ気味?
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(水・食料一食分消費)、ボールペン数本、禁鞭@封神演義
[思考]:1.悟空を石崎の仇と勘違い。
    2.東京へ向かう。
    3.仲間を11人集める。
    4.主催者を倒す。

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(水・食料一食分消費)、ボールペン数本、らっきょ@とっても!ラッキーマン
[思考]:1.可能なら悟空からDIOの情報を聞き出す。
    2.ゲームに乗っていると判断し悟空を再起不能にする。不可能なら逃亡。
    3.バーンの情報を得るべくダイを捜す
    4.東京へ向かう
    5.主催者を倒す


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149:其を呪縛するものは 孫悟空 173:乱【みだれ】
098:空条承太郎の見解 大空翼 173:乱【みだれ】
098:空条承太郎の見解 空条承太郎 173:乱【みだれ】

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最終更新:2024年01月15日 04:13