0184:人間の超越





深い森の中、所々木漏れ日が差している。
鳥のさえずりと相まってなかなか幻想的な光景だったが、今の綾にはそんな心の余裕は無かった。
(私の身体…どうなったんだろう?)
あの時、本能的に綾は悟った。
『自分は人間を超越した』と。
『ゲーム』の説明を受けていた時、明らかに人間ではないような人たちがいたが、自分はそちら側の存在になったのだと。
(そして、バギーって名乗ったピエロみたいな人を……殺した)
自分でも信じられないような力で彼の鼻を引きちぎり、気づいた時には…

血を吸っていた。

その後どうしたかはっきりとしないが、「真中君に会う」という想いが心を占めていたのは確かだった。
そしてしばらくはがむしゃらに歩き続け…気がつくと深い森の中にいた。
場所を確認するために地図を見ようと木漏れ日の差す場所へ移動したら、いきなり右手が消失した。
「…え?」
不思議と痛みはなかった。
しかし混乱と、そして恐怖が押し寄せる。
何かの病気だろうか、それとも私の体がどうにかなっちゃったのだろうか、と様々な思いが頭を巡る。
とにかく傷口をよく見ようと思い、手首から先を失った右腕を日光に当てる。
その瞬間…
「…ひっ!」
再び、今度は肘のあたりまで、腕が一気に崩れ落ちた。
(どうして?なんで私の腕が…!?)
必死に考える。
もしかしたらこのまま全身が崩れてしまうのではないかという恐怖に怯えながら。
しばらく考え…そして、気づいた。
綾はすぐにバッグを開けて、あの石仮面についていた説明書を探した。
バギーに出会う前に少しだけ目を通し、そこに書かれていた『人を吸血鬼に変える』という内容に恐怖してすぐに戻してしまったが、確かにあるはずだ。
自分がこうなったのはどう考えてもあの仮面の所為だ。
説明書を見れば、自分の身体に何が起きたのか分かるかも…そう思った。
そして、見つけた説明書に書かれていたのは、要約すると以下の内容だった。
  • 石仮面を顔につけ、仮面に血を吸わせることで、仮面をつけた人間を吸血鬼に変えることができる。
  • 吸血鬼となった人間は、人間をはるかに凌駕するパワーと能力を手に入れられる。
  • その代償として、太陽のエネルギーを浴びると消滅してしまう。
「…さっき腕が崩れたのは、やっぱり日光を当てたから……?」
綾は不思議と、事実を冷静に受け止めていた。右手がいきなり崩れた時の方が衝撃が大きかったくらいだ。
治す方法は書いていない。つまりこの身体を受け入れるしかない。
そして吸血鬼という言葉から思い出されるのは、バギーの血を吸った時の感覚。
精気を、人のエネルギーを直接自分のモノにする感覚。
間接的にエネルギーを取り入れる食事などよりも、何百倍も素晴らしかった。
そして何よりも…
「…私は、私は人間を超越したのよ…猿から進化した人類が食物連鎖の頂点に立ったように、私はさらにその上に立った…」
自分が吸血鬼であるとハッキリしたからだろうか、『人間を超越した』ことが改めて理解できた。
「真中君にもこの素晴らしさを伝えてあげたい…」
石仮面はもうない。
だが、この『ゲーム』に優勝すれば、主催者は願い事を聞いてくれると言っていた。
「優勝して真中君を私と同じ身体で復活させてあげれば…ふふふ……そうだわ、真中君の血も吸ってあげなきゃ…」
吸血衝動を起点として、次第に思考が黒く染まっていく。
しかし、思考は途中で遮られた。
徐々に周囲が明るくなっていくのに気づいたからだ。
「とりあえず、どこか日の光から隠れる所を探さないと…」


数時間後、綾は狭い洞穴の中でうずくまっていた。
今は、とにかく日が当たらない場所にいなくてはならない。
真中を探せないのがもどかしいが、今は耐えるしかなかった。
「日が沈むまでの辛抱よ…」
そう自分に言い聞かせ、綾は日光から少しでも遠ざかるように膝を抱きかかえた。





【岐阜県(福井に近い)山中/1日目・午前】
【東城綾@いちご100%】
 [状態]吸血鬼化、右腕の肘から先を消失
 [装備]特になし
 [道具]荷物一式
 [思考]1.夜まで洞穴で身を潜める。
    2.真中の血を吸う。
    3.優勝し、真中を吸血鬼として復活させてもらう。
※綾は血を吸うこと以外の吸血鬼の能力をまだ知りません。

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SS番号:87吸血姫AYA 東城綾 SS番号:208恐怖

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最終更新:2024年03月07日 22:57