0208:恐怖





防人衛が殺された。
信じたくはなかったが、放送でも名前を呼ばれたしこの目でも見た。
午前中に会ったアビゲイルという男が殺した!首を切り落として!
「うぅ…防人さん……」
この世界で私に優しくしてくれた唯一の人間だった。
一人目の男は私を殺そうとした。防人さんの次に会った坊主の男も私たちを殺そうとした。
その次に会ったアビゲイルという男は防人さんを殺した…きっとその仲間の女性も殺人鬼に違いない。
最初に会った時は優しそうな感じだったけど、あれはきっと私みたいな一般人を油断させる罠だ。
防人さんだけが私に優しくしてくれた。
「防人さん……う、うぇっ」
首を切り落とされた防人の姿がフラッシュバックし、急激に襲ってくる吐き気。
この殺し合いに放り込まれてからほとんど食事を取っていなかったので、出てくるのは胃液ばかりだった。
それでも、ひとしきり胃液を吐いてしまうと少し落ち着いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……そうだ、真中を探さないと…それに、防人さんの言ってた錬金の戦士っていう人も…」
目標ができると少し気が楽になる。
さつきは地図を広げると、東京方面への道を探すことにした。

30分後。
岐阜県の山中を歩いていたさつきは、雲行きが怪しくなってきたのでどこか雨宿りできる場所を探していた。
どうやら道にも迷ったらしく、山は深くなるばかりだ。
「あ、降ってきちゃった…って、あんなとこに洞穴が」
ぱらぱらと小雨が降り始めたその時、タイミング良く洞穴を発見したさつきは、急いでそこに駆け込む。
「すぐに止みそう…かな?」
心配そうに空を見上げるさつきだが、山の天気は変わりやすいというから予想ができない。
ここでしばらく足止めか、と思って雨宿りがてら食事をしようとする。
「そう言えば、夜からほとんど何も食べてない…」
食欲はあまりなかったが、真中や防人の知り合いを探すためにも、体力をつけておかなければならないと思い、
水で無理やり流し込んででも食べることにした。
そして、パンをひとくち口に放り込んだ時…
「北大路さん……?」
…聞き覚えのある声がした。

「そう…北大路さんも大変だったのね…」
洞穴にいたのは東城綾だった。
ようやく会えた知り合いに喜びながら、今までのことを話すさつき。
だが、時間が経つにつれて洞穴の暗闇に目が慣れてくると、東城の酷い姿に気がついた。
「東城さんも、あの、その…その腕、大丈夫なの?」
服はボロボロで、右腕は肘から先がなくなっている(なぜか血は出ていない)。
「これ、ちょっとね…ほら、血は出てないから大丈夫よ」
さつきはなぜか、せっかく会えた知り合いになんとも言えない恐怖感を覚えている自分に気がついた。
――なぜだろう。なにかおかしい。この東城綾は、自分が知ってる東城綾ではない気がする。
どうして腕がちぎれてるのに平気な顔をしているのだろう?自分の腕が取れたらとても痛いはずなのに。
それにあの傷口はなにか変だ。よく見えないが、刃物で切った感じではないように思える。血が出てないのも変だ。
そういえば、こんな酷い怪我をしてるのに、東城さんはなぜこんなに元気そうなんだろう?
様々な疑問が頭に浮かんでは消える。
「どうしたのかしら?そんなに震えて…大丈夫?」
ひたっ、とさつきの首に東城の左手が触れる。
…その手は冷たかった。さつきは思わず身を引く。
そして東城綾の眼を見たさつきは、さらに恐怖する。
自分がライオンに狩られるシマウマになったような気にさせる、そんな捕食者の眼をしているように見える。
自分の中の本能が、逃げろと告げる。
「そ、そうだ。雨はもう上がったかな…?」
そんなことを言いながら、さつきはジリジリと洞穴の入り口に向かって後退する。
「どうして逃げるのかしら?……ねぇ、せっかく会えた知り合いなのに…」
怖い!
怖い怖いこわいこわいこわいこわい!
東城の一本しかない腕がさつきに向かって伸ばされ…
「いやぁぁぁぁぁっぁぁぁっ!!!!」
次の瞬間。
さつきは荷物を振り回して東城の腕を振り払うと、洞穴の入り口へ向かって走った。
そしてそのまま外へ。雨はまだ降っていたが、そんなことは気にしていられない。一刻も早く、東城綾から逃げたかった。
さつきは全速力で洞穴から逃げ出すと、そのまま雨の中を走り続けた。

さつきの感じた恐怖は、普段ならば思い過ごしであったかもしれない。
しかし今回に限って言えば、それは正しかった。
「……ふふふ、残念」
綾は走り去るさつきを見送ると、再び洞穴の中に姿を消した。





【岐阜県山中/1日目・日中】
【北大路さつき@いちご100%】
 [状態]:肉体的・精神的に疲労、左膝怪我
 [装備]:ブラボーの上着
 [道具]:荷物一式(支給品未確認、食料一食消費)
 [思考]:1.東城綾への恐怖。
     2.殺人鬼アビゲイル(思い込み)から逃げる。
     3.東京へ向かい、カズキ・斗貴子・いちごキャラを探す

【岐阜県(の福井に近い)山中/1日目・日中】
【東城綾@いちご100%】
 [状態]:吸血鬼化、右腕の肘から先を消失
 [装備]:特になし
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1.夜まで洞穴で身を潜める。
     2.真中の血を吸う。
     3.優勝し、真中を吸血鬼として復活させてもらう。
※綾は血を吸うこと以外の吸血鬼の能力をまだ知りません。

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184:人間の超越 東城綾 279:吸血姫AYA~日の差さない世界~
190:どうして・・・? 北大路さつき 212:少女を壊す追い討ち

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最終更新:2024年03月07日 23:00