0198:夢・欠片・残滓
(進さんが…死んだ…?)
少年、
小早川瀬那は、呟く。細く、細く、吐息のように。流れる言葉は虚ろに響き…
「嘘だ!」
自らが発した怒声により、霞の中へと消えていく。
「嘘だ…嘘だ…嘘だ!進さんは約束したんだ!!決勝戦で会おうって!!!」
認めたくない。認められない。
自分が死ぬのなら、まだ分かる。自分の弱さは、誰よりも分かっている。でも。それでも!!
信じられない。信じたくない。
何故?どうして死ななければならなかった?昨日までに。今までに。これまでに。
夜の帳の中、命を落とした18人もの人達に。眩い朝日の下、命を落とした14人もの人達に。
殺されなければならないほどの、一体どんな罪があったというのか。
これから命を落としていく人達に、一体どんな咎があるというのか。
「約束…したんだ…」
その言の葉に、力は無く。その表情に、生命無く。
ただ、呟く。彼にとって、神聖な約束を。彼の仲間、彼のチームメイト達にとって絶対の約束を。
皆で、決勝で戦う。
それは、塵へと消え行く、夢の欠片。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「薫…殿…」
去って逝くのは、在りし日の姿。幸せの残滓。木漏れ日のような、暖かい日々。胸が締め付けられるような、
神谷薫の後姿。唯一つ。
(薫…ッ!!)
浮かび来るのは、戦いの日々。修羅の幻影。地獄に等しい、京都での日々。胸が焼き付けられるような、緋村抜刀斎の後姿。唯一つ。
神谷薫が死んだ。この世から、涅槃へと。一人、ただ一人、何も言わずに旅立ってしまった。
神谷薫が殺された。現世から、幽世へと。一人、ただ一人、何も言わずに連れ去られてしまった。
「おおおオオおぉぉぉぉおぉおオオオォおおぉおぉっ!!!」
吠えた。ただ、ひたすらに。ただ、ひたむきに。剣気に弾かれ、舞う木の葉はまるで粉雪のように。
大切な、人だった。一番、護りたい人だった。剣で人を護るなどという信念が、甘っちょろい戯言と言われもする、その心が。
なによりも、なによりも美しい人だった。
…彼女に会えば、自分の心も定まる、そう思っていた。
では、彼女を失ったなら…?
(剣は凶器。剣術は殺人術。どんな綺麗事やお題目を唱えようと、それが真実)
「何故、何故、薫を殺したァッ!!(お前が殺さなかったからだ)」
(お前が殺さなかったから、神谷薫は死んだ。お前が殺せなかったから、志々雄はまた誰かを殺す。お前が殺せなかったから、更木もまた誰かを殺す。
誰かを殺され、恨みに燃える誰かが、また、誰かを殺す。お前が殺さなかったから。お前が殺さなかったから。
お前は、もう、人殺しのくせに。数え切れない幸せを、その手で汚してきたくせに。お前が、自分の手を汚すことから逃げようとするから。)
(お前の、弱さが、神谷薫を、殺した)
「おおおオオおぉぉぉぉおぉおオオオォおおぉおぉっ!!!」
吠える。ただ、ひたすらに。ただ、ひたむきに。殺気に弾かれ、舞う木の葉はまるで粉雪のように。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…ったく、状況分かってんのか、糞チビに糞ゴザル」
幾許かの時間が流れ――蛭魔妖一が言葉を発した。一見、その顔に精彩は無く。瞳だけは翳ることなく。
「まず、糞マネについてだ」
そこで、一瞬。剣心の顔を一瞥すると、続ける。
「緋村サンの捜していた人ってのは、結構腕が立つ人だったんだろ?」
「ああ…そうでござる」
「進もだ。日本最強のラインバッカーとか言われてたが、その名に恥じない身体能力をもっていやがった。だが。
あの糞マネは頭はキレるが、一般人だ。バケモンとやり合えるほど強くもねェし、バケモンに追われて逃げ切れるほど速くもねェ。
さっきの糞手巻きミイラや糞ウニ頭みたいな奴に見つかったなら、もうとっくにくたばっててもおかしくねェ。
かといって、バケモン連中に襲われている奴を見過ごして、自分が隠れていられるような奴でもねェ。なら、だ。
今まで、一人で生きてこれたってことは」
「まもり姉ちゃんには、誰か、心強い仲間がいる…」
「それか、運よく今まで誰にも会ってないのかもしれねぇがな。
まぁ、急ぐに越したことはねぇが、糞マネのことは、怪我人二人抱えて強行軍する理由にゃ、少し足りないってこった」
そこで、一息。頭上には、抜けるような青空。遠くで聞こえる、鳥の声。草いきれ。穏やかな風。
だが、薄硝子を一枚挟んだかのような、違和感のある世界。その中心に聳えるかのように立ち、蛭魔は続ける。
「俺と糞チビは、体を休めながら、やっぱ東京に行く。この糞ゲームに乗せられた奴は、日本出身者が多いみたいだしな。
もしかしたら、なんかこの糞ゲームから抜ける方法を知ってる奴もいるかもしれねェ」
「え。ヒル魔さん、日本人が多いって、どうしてそんなことを…?」
「それは…「それは、名簿を見ればわかるでござるよ」」
セナの問いかけに被せるような形で、剣心は言葉を発する。穏やかな風が、もう一陣。
セナは痛ましげな視線を送り、蛭魔は無言で剣心から目を逸らす。
「お前は少し頭を使え、糞チビ!…で、だ。緋村さん、アンタはどうすんだ?」
「拙者は…(俺は…)」
「オレとしては、アンタに抜けてもらいたくはねェ。オレ等二人で生き延びるのも、結構キツそうだしな」
「拙者は…(俺は…)」
「でもな、流石に無理強いはしねェよ。状況が状況だしな(強請るネタもねェしな)」
「蛭魔さん…緋村さん…」
「ただ、アンタが一緒について来てくれたら、心強いってのは確かだ。よかったら…」
笑み。剣心の顔に、微笑が浮かぶ。虚ろな。確かな。
「蛭魔殿、瀬那殿。拙者、ここまできて、投げ出すつもりはござらんよ
(―――薫を殺した奴を、許すつもりも無い―――)」
立ち上がると、剣心は歩き出す。その足取りに、危うさは無く。だが、まるで、自分の中の声から、必死で逃げているかのようで。
(これ以上、拙者の目の前で、誰かを傷つけたりはさせないでござるよ。この目に映る人だけは、護ってみせる。
この目に映る人達が、護りたいと思っているものも、護ってみせる。絶対に。絶対に。絶対に。)
―――どうやって、だ―――
瘧のように現れ消える、言葉に答える術は無く。
確かなことは。自分の中に人斬りがいるということ。自分の中の人斬りが、目を覚ましつつあるということ。
これ以上、命を失えば、もう、抜刀斎を、抑えきれないということ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(まもり姉ちゃんは、死なせない。蛭魔さんも。緋村さんも)
少年、小早川瀬那は、呟く。強く、強く、祈りのように。
(みんなで、みんなで、生きて帰るんだ。幸せな日常に……)
みんなとは誰なのか。幸せとは何なのか。
そして。生きて帰るということは可能なのか。
流れる言葉は 決意に 満ちて………
【山口県/昼過ぎ】
【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】身体の至る所に軽度の裂傷、胸元に傷、軽度の疲労、重度の精神不安定
【装備】刀の鞘@るろうに剣心
【道具】荷物一式
【思考】1.小早川瀬那、 蛭魔妖一を護る(襲撃者は屠る)
2.姉崎まもりを護る(神谷薫を殺害した存在を屠る)
3.力なき弱き人々を護る(殺人者は屠る)
4.人は斬らない(敵は屠る)
(括弧内は、抜刀斎としての思考ですが、今はあまり強制力はありません)
【小早川瀬那@アイシールド21】
[状態]:健康
[装備]:特になし
[道具]:支給品一式、野営用具一式(支給品に含まれる食糧、2/3消費)
[思考]:1.斎藤、まもりとの合流
2.これ以上、誰も欠けさせない
【蛭魔妖一@アイシールド21】
[状態]:右肩骨折、夷腕坊操作の訓練のため疲労
[装備]:無し
[道具]:支給品一式
[思考]:1.斎藤、まもりとの合流
2.東京へ向かう
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2024年06月16日 17:50