0200:正義と狂気
主催者たちによる放送の少し前……二人の男が京都と大阪に臨む兵庫の地に立っていた。
「どうしますかィ。俺ァどうも鼻が利かねえもんで。旦那にお任せしやすぜ」
大蛇丸を追う二人は、日本の地理に詳しくない者なら地図の中心地域に行くと踏んで近畿まで進み、
更にここで京都か大阪かどちらへ進むかで停まっていた。
沖田に決断を委ねられた斎藤は即座に一言でそれに答えた。
「大阪だ」
「そりゃ何か理由でも?」
その問いにも一言だけ「勘だ」と答えると、沖田は嬉しそうな顔をした。
「勘ですかィ。そりゃいいや。旦那の勘はなんだかあたる気がしまさァ」
わずか半日ではあったが、二人の間には信頼関係が生まれていた。特に共通の目的に対する強い意志。
このことだけは互いに理解し合い、信頼し合っていた。
そして放送……斎藤の知る人物が亡くなったことに沖田は気付いたが、斎藤が何も言わない以上、それに触れる必要はないと判断した。
相棒に気を遣われたその当人は、
神谷薫の死よりも寧ろそれを知った抜刀斎――緋村剣心のことが気になった。
気になるといっても心配するわけではなく、抜刀斎がどうなるか、
例えば怒りで人斬り時代に戻るか、それとも絶望で廃人となるか、そういった興味であった。
禁止エリアを確認し、二人は大阪市街地へ入っていった。
更に放送から少し後……ヤバイ雰囲気の男をやり過ごした少年、キルア=ゾルディックは大阪の探索を続けていた。
誰も知る由のないその心の内は親友ゴンに対する心配だけではなかった。
(『選別』……主催者との決戦の際、足手まといとなる人間……)
彼も一度は考え直そうとしたが、やはり来たるべきの時のことは考えておかねばならない。
既に死者が出ている以上、全員でそろって脱出はどう考えても無理である。貴重な戦力が削られるのも、ぜひ避けたいところだ。
そうなると足切りは必要不可欠。とは言え、かなり無茶な発想だ。すぐ実行に移ることもできまい。
(……『選別』を想定した上での交渉ぐらいならやる価値はあるか…)
そんなことを考えている内に、向こう側から二人組の男が大通りの真ん中を通ってやってくるのが見えた。
前を歩く痩身の男も、後に続く栗毛の青年も武装こそしているが、自分よりも実力は劣るように感じられる。
キルアは考える。この二人なら後ろをとっての尋問も可能だろう。それなら――
考えをまとめ、段取りを決める。
そしてキルアは収縮した脚の筋肉を弾くようにして一気に飛び出した!
「動いたら殺す。喋っても殺す。俺の質問にだけ答えろ」
一瞬で二人の背後に近づき、肉体操作で爪を伸ばしたキルアはそれを相手の首筋に突きつけ、また殺気の篭った声でそう言った。
男達の表情こそ見えないが、栗毛が明らかに動揺しているのに対して、痩身の方は冷静を保ったままである。
「質問に答えるのは…栗毛のアンタだ」
キルアは突きつけた爪に一層力をこめ、質問を始めた。
「まず一つ目、アンタ達はゲームに乗ってるのか?」
「俺ァ、女子プロレス見るのは好きですがねェ、こんな血生臭いゲームにゃあ興味ありやせんぜ。旦那も同じでさァ」
この男、この状況下で冗談まで吐いている。動揺の様子はあったが、意外と肝が据わっているらしい。
もう一方も依然落ち着いたままである。もしかしたら何か……
「次の質問だ、アンタ達のことと、今までに出会った奴等のことを言ってもらおうか」
「そいつァ、できねェや。俺のことだけならまだしも、何処の誰ともわからない野郎に仲間のことは言えやせんぜ」
キルアはこの男が保身のために簡単に情報を売り渡すような男なら『選別』も考えていた。
また仲間という表現からかなりの確率で――おそらくは打倒主催者の――チームを組んでいると判断し、
信用してもいいかもしれない、と考えた。
「最後に一つ、嘘は言ってないな?」
キルアは殺気を最大限に放って確認の問いを投げかけた。
「嘘なんざ言うわけないでしょうが。疑り深いお方だな」
男は疑われたことについてか、不満そうな声で答えた。その声に気負いは一切感じられない。
命に関わる嘘を吐くとき、どんな詐欺師でも必ず決意じみたものを感じさせる。
その点から考えても、この男の言葉に嘘はない、そして今までの答えにも。
とりあえずは情報が必要だ。そのためにはこちらの正体は明かさねばならない。
一度殺気を静めてから、少年は男達の後ろをとった時のように、一瞬で前に回りこんだ。
子供!? 沖田は自分達を尋問していたのが、自分よりも幼い子供であることに驚愕した。
それに対して斎藤はやはりな、というような表情を浮かべた。
「おれはキルア。兄さんたち悪かったね、こんな真似して…この会場に来てすぐ襲われたからさ…」
キルアが自分の名と言い訳を言い終わる前に一人がその名に反応した。
「キルア、てぇと、もしかして
太公望の旦那が言ってた…」
もう一人に確認するように言うと、そのもう一人は無言で頷き返事をした。
「太公望!?アンタ達太公望と会ったのか!?」
太公望という信用に足る人物のおかげで互いの間にあった不信感は一気に取り除かれた。
その後の情報交換は淀みなく速やかに行われた。
自分達のこと、四国での戦闘、ダイの武器、公主の容態、星矢と麗子の動向、それらが互いの知るものとなった。
専らそれはキルアと沖田で行われ、斎藤は黙って聞いているだけであった。
太公望と富樫は無事か… キルアは主催者と戦うとするならば、確実に必要になるであろう人物の無事に安堵した。
またそのことを思うと同時にあの計画のことを意識してしまった。
この二人は自分ほどではないにしろ、ある程度は腕が立つ。それに度胸もあるようだ。
『選別』の対象にはならないか、そう考えるうちにこの計画の必要性を薄く感じるようになっていった。
この世界に呼ばれた人間にはそれほど邪魔になるようなやつはいないのかもしれない…
そう考えていたところに、初めて斎藤が口を開いた。
「さっきの話にもあったが、俺たちは大蛇丸という男を追っている。色白で髪の長い奴だ。女みたいな喋り方をする。
雰囲気でいうと…蛇、だな。そういう男に心当たりはないか」
斎藤の質問の中の『蛇』という言葉にキルアは先程のヤバイ雰囲気の男を思い出した。
あの男をか!?キルアには信じられなかった。自分よりも実力の劣る者たちがあの男を追っている。
話の様子だと何かを盗られたのではなさそうだし、襲ってきた男と実は仲間だったとも思えない。
ゴンのような純粋な人間ならば、他の人間を想って打倒に乗り出すかもしれない。
だがこの男達――話によると元の世界では警察業をしていたようだ――がそんな野生児のそれをもってはいないだろう。
キルアにとって、この男達の行動は自分の常識を外れていた。
「蛇みたいな奴だったらさっきこのあたりで見かけたよ。ヤバそうだったから関わらないようにしたけど」
その言葉に沖田は満足そうな顔を見せ、斎藤に話し掛けた。
「旦那の勘、当たってましたね。流石ですぜィ」
「阿呆が…この程度で喜ぶな。さっさと行くぞ」
斎藤はすぐにでも出発しようと沖田を促す。
沖田はキルアに礼の言葉を言ってその場を去ろうとした。
しかしキルアは二人に声をかけ引き止めた。
「ちょっと待ってくれ。アイツと闘り合うつもりか?やめたほうがいいぜ。アンタたちじゃ返り討ちがオチだ。
変な正義感なんかでそんな無謀なことしたら…」
「…生憎だが、貴様の考えている程度のものじゃあないんだよ、俺の正義はな」
キルアの言葉を遮ったのは今度は斎藤であった。
「あれだけ邪悪な匂いを漂わせている男、放って置くのは新撰組三番隊隊長の名が許さん」
馬鹿げている。勝ち目の無い戦いなど馬鹿のすることだ。
「アンタはどうなんだ。まさかアンタも同じ考えって訳じゃないだろ」
この世界で出会っただけの沖田と斎藤が同じような思想の持ち主とは考えにくい。
そう思い、キルアは沖田に問い掛けた。
「俺ァ、旦那ほど立派な正義は持っちゃいねェんでね。でも旦那のためなら命懸けてもいいかなって思うんでさァ。
ここだけの話、自分がこの世界で生き残れるたァ思えねェんだよ。かといってゲームに乗る気もしねェ。
だったら、気に入った人のために命張ってみるのも面白ェんじゃないかってね。
旦那は態度は冷たいが、懐にでっけェもんを抱えてる。俺ァ、そういうでっけェもん持ってる人が好きなんでさァ」
馬鹿げているのを通り越して狂っている。これでは死にに行くようなものだ。
ならば、死にに行く人間にならあの計画を話してもいいかもしれない。
否定されて振り切れるならそれでも構わない。悩んでいてもどうにもなるわけでもない。
そんな風にキルアの思考は移りかわっていった。
「ちょっと、話があるんだけどさ――― 」
『選別』計画を話し終えたとき、キルアは今までのモヤモヤした気分を振り払うことができた。
話してしまってよかった。一人で考え込んだために必要以上に悩んでいたのだ。
沖田の表情を見れば、これがどれだけ馬鹿げていて突拍子の無いことだったのかよくわかった。
しかし斎藤がここで信じられないことを口にした。
「確かに足手まといはいらんな。邪魔なだけだ」
キルアは否定を求めてこの話を打ち明けたのだ。それなのに肯定されるとは。沖田もさすがに眉をひそめている。
だが斎藤の言葉にはまだ続きがあった。
「…特に貴様みたいな殺し屋並に腕が立つ臆病者はな」
臆病者という言葉はキルアの自尊心を傷つけ、殺し屋という言葉はキルアの驚愕を誘った。
自分よりも劣る人間に臆病者呼ばわりされ、太公望達にも話していない自分の前職に気付いている。
いったいなぜ?
「ほう、自分でも気付いていないのか。さっきの忠告の礼に教えてやろう――貴様は臆病者だ。
なぜそう思ったのかも聞かせてやる。まず最初に尋問の応答者を指名したことだ。
きっと俺達の態度の差で決めたんだろう?沖田には動揺が見えたからな。
簡単に背後を取れた上に自分の方が強いと思っているのなら、その程度で警戒しなくてもいい。
その時点で貴様が慎重に事を運ぶ奴だと分かる。
まあ俺達が街の中央を通ってきたことから、何らかの奥の手があると判断したのかもな。しかし慎重ということは間違いない。
次に貴様の大蛇丸への対応の内容からだ。放送の直後だったのかもしれないが、それは俺達も同じ条件だ。
ゴンとやらが心配なのにもかかわらず、大蛇丸には手を出さなかった。それは勿論自分の身に危険が及ぶ可能性が高いから。
しかも俺達に何らかの奥の手があるとも考えていたのに、尋問をそれよりも優先させた。
そこから貴様が実力の違いだけで大蛇丸を回避したのではなく、奴の威圧感に圧されたことが予想される。
要するに奴から尻尾を巻いて逃げたわけだ、貴様は。
最後に大蛇丸を追う俺達への対応だ。何度も俺達の考えを確認したところを見ると、
俺達とは相容れない――危険を冒してまで悪を討つつもりはない――考えの持ち主らしいな。
自分の仲間が襲われていると考えたら居ても立ってもいられない、そんなお人好しばかりと出会ったが、貴様はそうじゃない。
見えないところのお友達より、この場の自分の安全のほうが大切な人間だ。このことから貴様の臆病さがよく分かる。
どうだ、自分はそんな人間じゃないと言えるか?」
斎藤の言葉は、淡々とキルアの心に圧し掛かっていった。
「ああ、殺し屋と判断したのはその身のこなしと殺気の出し方、
あとは危険と利益を天秤にかけるその思考回路からだ。これで説明はすべてかな…」
沖田には斎藤がなぜこのようなことを言うのか分からなかった。
しかし斎藤が無闇に他人を傷つけるような人間ではないのは分かっていた。
そして行き着いた答えは、キルアの計画を止めさせること。
それ以外には沖田には考えられなかった。
「それじゃァ、いきましょうかィ旦那。キルア君もゴン君と会えるといいっすね」
そうして壬生の狼は大蛇を討つべく大阪市中へ進んでいった。
キルア=ゾルディックの頭のなかには、今までとは異なるはっきりした考えが生まれていた。
それは『選別』は必要不可欠であること、そして今の自分にその資格は無いこと。
自身の念の師であるビスケット=クルーガーに指摘された自分の欠点。
自分は強者と戦うとき、少しでも自分より優れている点が相手にあると、一気に
勝利への執念を失うのである。
それを克服しない限り、自分には資格は存在しない。
『選別』も、ゴンとの再会も許されないのだ。
そうしてキルアは壬生狼がやって来た道を戻り、大阪の市外へ歩き始めた。
凶悪な思いつきを、最悪の誤解で固めて。
【大阪/市街地/日中】
【チーム名=壬生狼】
【斎藤一@るろうに剣心】
[状態]健康(腹部はほぼ完治)
[装備]魔槍の剣@ダイの大冒険
[道具]荷物一式(食料一食分消費)
[思考]1:大蛇丸を追う
2:ダイが使える武器を探す
3:主催者の打倒
【沖田総悟@銀魂】
[状態]健康(鼻はほぼ完治)
[装備]鎧の魔槍(右鉄甲無し)@ダイの大冒険
[道具]荷物一式(食料一食分消費)
[思考]1:斎藤に付いていく
2:主催者の打倒
【大阪/郊外/日中】
【キルア=ゾルディック@HUNTER×HUNTER】
[状態]:少々のダメージ(戦闘に支障無し)
[装備]:なし
[道具]:爆砕符×3@NARUTO、荷物一式 (食料1/8消費)
[思考]:1.自分の弱点克服
2.1達成後、ゴンを探す
3.1達成後、『選別』開始
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最終更新:2024年02月14日 00:36