0202:小さな成果と次なる努力
太公望と別れて数時間。
公主とダイは予定通りダムに到着し、ダムを管理する場所と思われる施設の中で食事を摂った。
その後、公主は施設の中で呪文習得を試み、ダイは山の頂上で四国を見張ることにした。
(もっとも、ダイは公主の身を案じて30分ごとに様子を見に来ていたが)
事務所と思われる部屋の中で、公主はアバンの書を前に精神を集中する。
「ゲホッゲホッ………ハァ、ハァ」
吐血。
しかし、すぐに血を拭うと精神集中に戻る。
「……キアリー」
公主のその言葉と共に手元が光り、わずかだが体が楽になった気がした。
体内の酸素が、公主にとっての毒である下界の空気が浄化されたためだ。
「ふぅ……ようやく一つ、習得できたな」
最初にこの呪文を選んだのには理由がある。
下界の空気という『毒』にある程度慣れているため、そして自らの宝貝で空気をある程度浄化できるため、
『解毒』というイメージが作りやすかったからというのが理由の一つ。
もう一つは、太公望の期待に応えるため、少しでも長く生き延びなければならないからだ。
あるかどうか分からない香を黙って待つよりは、自分の力で少しでも延命する努力をした方がよい。
(これで少しは生き永らえることもできよう…さて、次はもっと実用的な呪文を覚えねばな)
公主は再びアバンの書に向かう。
…昼の放送でも、14人の命が失われた。
自分の直接の知り合いは一人も死んでいないが、痛ましいことに間接的な知り合いの名前はいくつか読み上げられた。
確実に、主催者の思惑通りにゲームは進行してしまっている。
こんなゲームは早く止めなければならない。
先の短い命だということは公主自身理解している。
だからこそ皆の役に立たなければならない、公主はそう思っていた。
様子を見に来たダイに、公主が呪文を一つ習得したことを知らせると、ダイは喜びながらも公主の身を案じた。
「すごいや公主さん、さすが仙人だね!…でも、無理しないでね。もうすぐ
ターちゃんたちがお香を持ってくると思うし…」
「うむ…大丈夫じゃ。自分の身は自分がいちばん知っておる…さぁ、見張りに戻るがよい」
「うん…」
ダイを見送ると、公主は再びアバンの書に目を落とす。
公主は思う。自分の系統は防御系の呪文だと。
水を使う攻撃呪文があれば使えるかもしれないが(ヒャド系は近いかもしれない)、それよりも仲間を守る呪文を優先したい。
(それに、霧露乾坤網で常に張っていた水のバリア…あのイメージで連想する呪文は…)
『フバーハ』…炎や吹雪から身を守るバリアを張る呪文。
『マホカンタ』…相手の呪文を反射する呪文。
この二つが呪文のイメージを作りやすい。
だがこの二つはどちらも高等な呪文なので、純潔の仙女と呼ばれる程の高等仙人である公主でも習得は難しいかもしれない。
また、制限さえなければ宙に浮くこともできる公主としては、一度行った場所へ移動する呪文『ルーラ』や、
空を自在に飛ぶ呪文『トベルーラ』の二つもまた、ある程度は覚えやすいと言えるだろう。
(だが、私が飛べぬということは、空を飛ぶ呪文も制限されておるやもしれぬ…やはりフバーハかマホカンタを優先するべきじゃな)
襲撃者が何かしらの術を使ってきた場合、それから身を守る術があったほうがよい。
それに…仮に主催者と戦うことになった場合にも、この二つの呪文ならばきっと役に立つはず。
公主は考えをまとめると、ペットボトルから水を一口飲んだ。
そして、再び呪文の習得に向けて精神を集中し始めた。
一方、山頂で見張りを続けるダイは、山を登ってくる人影に気がついた。
「あれは…ターちゃんだ!」
見間違えるはずもない、腰ミノ一丁の姿。
ほんのわずかの間だが一緒に過ごした仲間の無事な姿に、ダイはほっと胸をなでおろした。
「おーい!お香を持ってきたのだー!」
「じゃあ、太公望は富樫さんと合流できたんだね!?」
「あぁ、香川県ではお香が見つからなかったから隣の徳島県まで行ったのだが、そこで太公望が追いついてきたよ。
お香もその近くの村でほんの少しだが見つけることができたのだ」
「本当にありがとう…私のために、わざわざすまぬ」
「お礼を言われるほどのことじゃないのだ」
公主はさっそく、3畳ほどの小さな部屋で香を焚き始めた。
これでしばらくは咳き込むこともなく、体力の消耗を防げるだろう。
「それで、太公望と富樫さんは?」
「うん、対岸に…和歌山県に渡ると言っていたよ。できれば小舟か何かを探すそうだ」
「四国に来たときみたいに泳ぐのは大変だもんね。でも…無事でいてくれればいいね」
「きっと大丈夫。彼らなら、信頼できる仲間を見つけて戻ってきてくれるのだ」
そう言って空を見上げるターちゃんだったが、そのお腹が大きく鳴った。
「あはは、そう言えばずっと何も食べていなかったのだ」
「はは、少しここで休んでてよ。あとで話すことがあるんだ」
ダイはそう言うと、四国を見張るためにまた山頂へと戻って行った。
ターちゃんはそれを見送ると、再び空を見上げる。
その瞳はどこか悲しげで、昔を懐かしむようで…
「…
ヂェーン、ペドロ、
アナベベ………どうか、彼らを見守ってあげてくれ…」
【香川県のダム/1日目・日中】
【ダイ@ダイの大冒険】
[状態]:健康、MP微消費
[装備]:出刃包丁
[道具]:荷物一式(一食消費)、トランシーバー、ペガサスの聖衣@聖闘士星矢
[思考]:1.四国を死守
2.ターちゃんに脱出の可能性があることを伝える
3.公主を守る
4.ポップ・マァムを探す
【竜吉公主@封神演義】
[状態]:疲労進行中、お香焚きこめ中
[装備]:青雲剣@封神演義
[道具]:荷物一式(一食消費)、アバンの書@ダイの大冒険、お香(残り9回)
[思考]:1.四国を死守
2.呪文の習得(『フバーハ』か『マホカンタ』が候補)
[備考]:キアリーを習得
【ターちゃん@ジャングルの王者ターちゃん】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:荷物一式、恥ずかしい染みのついた本@ジャングルの王者ターちゃん
[思考]:1.ひとまず食事しながら休憩
2.太公望からの頼みごとの実行のため、四国に留まる
[備考]:全国の動物達に伝わるのは少々時間がかかります。
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最終更新:2024年05月28日 23:08