0204:揺れる空 ~後編~
さわさわと、そよ風に揺られる大樹。
風に揺られて、ひらりと舞い落ちる小さな葉、一枚。
対峙する二人の間を縫って落ち、滑るように地面にたどり着く――
その瞬間を皮切りに、それが示し合わせた合図であるかのように再び始まった二人の闘い。
海坊主の手にはマシンガンが再び構えられ、容赦なく相手の居る場所に寸分の狂い無くその弾の数々を撃ち込む。
「くっ!!」
クリリンは一足でそこから飛び退き、元居た場所の中空を銃弾が貫く様を見て、冷や汗を浮かべつつも口元に小さく笑みを作る。
「スゴいなぁ。薄々気付いてはいたけど…なんて正確さだよ」
その鍛えられた動体視力が捉えた弾の軌跡。
それは正確無比に己の両脚部のみを撃ち貫くように描かれて飛来。
回避した次の瞬間にも次々に襲い来る攻撃もなんとかかわし続けるも、
それらの攻撃も全て急所は外され『行動不能』を狙うためだけの位置を狙った物ばかりであった。
(肉弾戦の直接攻撃は効かない、かといって遠距離なら向こうの思うつぼだ。
気ももうほとんど空っぽなんだから、近距離戦を挑むしかないよなぁ…)
先ほど必殺を狙った抜き手の一撃は、謎の無効化を受けて胸の前で音も無く止められた。
(とにかく、まずはあの変なバリアを何とかしなきゃな…
『あれをかわせなきゃ俺の負けだった』って本人が言ってんだ、気の攻撃は防げないはず。なら…!)
先ほど放った渾身のかめはめ波ですでにクリリンの体にはまともに攻撃に使える気は残っていない。
しかしダメージはあまり期待できない見かけ倒し程度の気弾なら数発は放てるだろうとの見込みをつけ、
海坊主のマシンガンによる絶え間無い攻撃によって回避に専念せざるを得ない現状を打破するべく、
コンクリートの塀の向こうから反撃の機会を窺い続ける。
「どうした!逃げてばかりじゃ俺は殺れんぞ!」
ズガガガガガッ!!!
姿を隠したクリリンを塀の向こうからおびき出そうと挑発を交えながらマシンガンを撃ち込む。
(奴はもう満身創痍の防戦一方。どう考えても、俺の前にすでに誰かとやり合ってたようだな…)
海坊主は向こうから姿を隠すように木の裏に身を隠し、マシンガンの予備の弾を手早く補充しながら考えを巡らせる。
(…さっきの寸止め、奴の腕の振り方から察しても…奴が止めたって感じじゃなかった。
俺の胸の前で何かに『止められた』んだ。何に止められた?奴自身の意志にか?いや…)
いくら考えても理解が及ばない不可解な事実。
考えても考えても納得のいく説明の付かない先ほどの一件に頭を悩ませ、クリリンに貫かれようとした心臓の上に手を当てて考え続ける…が、
(……待てよ、まさか…?)
思い出す。その手に固く当たる一つの存在、謎の貝殻。
この糞ゲームに放り込まれて最初に確認した自分の荷物の中にあった、不可解なそのアイテム。
―――なんだぁこりゃあ!?ちっ…!こんなガラクタ、あのジジイどもの嫌がらせか!?ふざけんじゃねえッ!!―――
突然ドン!!と自分の胸ポケットを拳で殴りつける。
しかし何故か…いや、『やはり』…その衝撃は自分に与えられる事も無く、無音・無痛で握った拳は胸の前で止まった。
(……なるほどな、こいつが俺への支給武器…てぇ事だったんだな…)
胸ポケットから、その支給武器を取り出す。
海坊主には知り得ない事であるが、まさにそれこそは『当たり』と言っても過言ではない強力な武器…『排撃貝』――リジェクトダイアル。
『衝撃』を中にエネルギーとして蓄積し、殻頂のボタンのような部分を押す事によって一気にそれを放出する事ができる、
偉大なる航路(グランドライン)に存在する空島の産物、絶滅種――排撃貝。
(捨てなくて正解だったな…マシンガンの弾にも限りがある。こいつで奴の攻撃を防ぎながら、一気にケリを付けてやる!)
神話の世界において、どんな攻撃をも防ぐ事の出来る『イージスの盾』。
これはそれに近い不思議なアイテムであるのだろうと結論付け、それを片手に握りしめ…
木陰から姿を現してクリリンの居るであろう方へとマシンガンで牽制をしながら走り寄る。
「ウオオオッッ!!!」
「クッ!!(来たっ!!これ以上迷ったり逃げたりして隙を見せてたら負ける!覚悟、決めるっきゃないよな!)」
残り僅かな力を振り絞り、手に気を溜めつつ迎撃の姿勢をとって塀の手前を伝って走るクリリン。
近すぎず遠すぎず…適度な距離まで離れた後、身を踊らせ塀を乗り越えながら海坊主に向けて小さな気の弾を放つ。
「ハアッ!!」
「ふん!無駄だッ!!」
排撃貝を握りしめた左手で気弾の行く手を遮りながら進路を変える事無くクリリンに向けて走り、間合いを詰め続ける。
ドォンッッ!!!
掲げた左手に着弾して炸裂する気弾。
そのショックを受けて海坊主は思わずよろけるも、その炸裂し破裂した『衝撃』自体は貝に吸収され、ダメージは無い。
「な…!?嘘だろ!」
「年貢の納め時ってやつだ!!食らえッ!!」
気弾を回避されたとしても、少なくとも目くらまし程度にはなって攻め込むチャンスにはなるだろうと踏んで身を乗り出していたクリリンは、
予想外の結果に驚愕して無防備になってしまった体に反撃のマシンガンの弾を数発受けてしまう。
「く、あッ…!」
右足に銃弾が直撃し、崩れるようにひざを突く。
「……これまで、だな。まだやるのか?」
倒れ込んだクリリンの頭上からマシンガンを構えて見下ろす海坊主。
「………」
「…さて、じゃあ…話してもらおうか、さっきの話の詳しい内容をな」
闘志は決して折れていない。しかし、自分を見下ろす男の顔を見た時…悟った。
(…この人には…俺なんかじゃ勝てない…な。肉体の強さじゃない、『覚悟』の違いだ)
海坊主の表情に見た物、重ねた物。それは…覚悟。
過去に…悟空の、悟飯の、
ピッコロの、見せてきた『力強い決意の顔』を、海坊主の中に垣間見た。
「……分かったよ…俺の、負けだ…最後に一つ教えてくれよ」
「なんだ?」
「あんたの使う不思議なバリア…あれは何なんだよ?あれのおかげでお手上げだったよ…」
ニッ、と笑みを浮かべて『やれやれ』と言った感じに顔を崩し、海坊主の目を見つめて返事を待つ。
「…あれか?ふん、『こいつ』が有ったからだ」
手に収めていたダイアルをクリリンに軽く見せ、ピン!と指で弾いて真上に回転させて飛ばし、落ちてきた貝を軽やかにキャッチする。
それは、小さな誤算。
本人も、相手も、誰も想像さえしていなかった誤算。
ズドオオォーーーーンッッッ!!!!!!
空が――揺れた。
「ウワアッッ!!?」
クリリンは、突如眼前で起きた爆発による爆風に飛ばされて後ろの塀に背中から激突する。
「ぐ…あ……っ!何…が…!?」
何が起こったのか理解が全くできないまま、苦しげによろけながらも上半身を起こして前を向き…見た。
「………ファル…コン?なんで…?」
「ぐ、お…おっ…!」
そこに立っていた、苦しげに唸る海坊主。
彼には、本来有るべき……左腕が、ぽっかりと消失していた。
「…イージスの盾、なんかじゃ…なかったって訳か…!グウゥッ!!」
左腕が肩やわき腹ごと消え失せ、どくどくと流れ出る血と共に地面へと吸い込まれるように倒れ込む。
あの瞬間、排撃貝をキャッチした瞬間…不運にも『殻頂』を指が押し込んでしまった。
知らなかった故の悲劇。
「俺とした事が…ドジっちまったみてえだ…な…」
「…ファルコン…!」
「……お前さんの、逆転勝利になったみたいだな」
体を引きずるようにして、ゆっくりと海坊主の元へと近付いてゆく満身創痍のクリリン。
その顔には…喜びの様は見て取れない。むしろ…
「……なんて顔、してやがる。さっきまで…俺を殺そうとしてやがった奴がよ…」
海坊主の目には見えずとも、その表情はクリリンの声の変化から…手に取るように分かる。
「……必ず、あんたも助けてみせる…!必ず!」
今にも泣き出しそうな、自分自身を責めるような、そんな情けなく崩れた表情で海坊主の右手に片手を重ねて握りしめ、反対の手を鋭く構えて天に掲げる。
「ふん…期待せずに待っててやるよ。クク………『早く、楽にしてくれ』」
つい先ほどクリリンが言った言葉と全く同じ言葉を笑みながら発し、最後に心の中で祈る。
(香、冴子、リョウ…すまんな。俺はここで脱落だ。後は…頼んだぞ…)
それが、彼の最後の思考。
心臓を貫かれ、海坊主やファルコンと呼ばれた男…
伊集院隼人は死んだ。
「………ちくしょう…!」
血に染まる腕を引き抜き、満足げに息絶えた眼前の戦士の顔を見つめたままクリリンはそれだけ絞り出すかのように呟き…
重なるように倒れ込み、意識を手放した。
二人の戦士を労うかのように、柔らかい一陣の風が二人の体を通り抜けていった…
【福井県/日中】
【クリリン@DRAGON BALL】
[状態]:疲労困憊、気は空、気絶、わき腹・右手中央・右足全体に重傷、精神不安定
[装備]:悟飯の道着@DRAGON BALL
[道具]:荷物一式(食料・水、四日分)、ディオスクロイ@BLACK CAT
[思考]1:気絶中
2:できるだけ人数を減らす(一般人を優先)
3:ピッコロを優勝させる
※排撃貝(リジェクトダイアル)@ONE PIECE、ヒル魔のマシンガン@アイシールド21(残弾数は不明)
その他の海坊主の荷物[荷物一式(食料・水、九日分)、超神水@DRAGON BALL]は近くに放置。
昼過ぎ頃に排撃貝から出た大きな音が隣県まで響き渡りました。
【伊集院隼人@CITY HUNTER 死亡確認】
【残り97人】
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最終更新:2024年04月05日 00:47