0209:掃除屋達の慕情【前編】





「大丈夫…?」
「どうって事ねえよ、こんなもん舐めときゃ治るさ」
 ラオウの猛攻から命からがら逃れた二人は、茨城県に入った。
 しかし片腕の負傷により突然へたりこんだトレイン。
 杏子も付き添い、道端の小森で休憩をとっていた。
「舐めときゃって…どう見ても大丈夫じゃないわよ、その…」「トレイン」
「トレイン君。」
 心配そうにトレインの右腕を見る。初めて見る、人間の取れた腕。
 一般女性なら嘔吐してもなんら不思議はない。しかし彼女は気丈だった。
「トレイン君。ちょっと腕見せて」
「いいって、どうせくっつかないし」
「いいから!応急処置だってしないよりましよ」

――トレイン君、しないよりましッスよ!

「………じゃあ、お願いするぜ」
 強引な杏子にしぶしぶながらもトレインは右腕を預けた。
 トレインはかつてのプロの殺し屋である。怪我の応急処置くらいは心得ている。
 だからラオウから逃走する間に、右腕にはしっかりと自分の衣服で止血していた。
 しかしそれを知らない彼女は、覚束ない手つきで右腕に包帯を巻いていく。
 トレインはそれをあえて止めはしなかった。似ていたから、彼女は。トレインの親友、ミナツキサヤに――
「アンタ、名前は?」
真崎杏子。杏子でいいよ。
 …ホラ、じっとしてないと」
「へいへい…」
 束の間の平穏。許されるならば、永遠に――

「ところで、杏子…」
「何?…ちょっと、腕動かしちゃダメだってば」
 なんでお前達は襲われていたんだ、と聞こうとして気づく。
 この状況で襲われた事に理由など必要だろうか?
 杏子と青年は、拳王と名乗ったあの男に襲われていた。
 それを自分と幽助が助けた。それだけの話だ。嫌なことを蒸し返す必要などない。
「何?」
「胸あたってる」

ゴツンッ☆


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 現在茨城県に居るのは、奈良シカマル桃白白、ゴン、トレイン、杏子、
 そしてロビンとスヴェン。
「おーい!何がどうなってるのかだけ説明してくれー!!
 あれか?デートに誘ったのを怒ってるのか?俺は生憎独身だ!問題ない!
 …それとも貴女が既婚なのですか!?確かに貴女のような美貌の持ち主なら引く手数多かもしれないが、
 しかしレディを放っておくなんて事紳士たる者としてはできないというか…とにかく一度止まってくれ!
 話し合おう!あと俺のケースを返せー!」
「くっ…走りながらよく回る舌ね」
 スヴェンは走っていた。ロビンも走っていた。もうすぐ放送が始まるというのに。
「待て!待ってくれ~!
 このノリはどっかの漂白野郎みたいであまり好きじゃないんだ!」
「漂白野郎?」
 北へ。北へ。
 追うスヴェン。逃げるロビン。そして軍配はスヴェンにあがった。

 勝因は、“放送”。
 放送を聞くために止むなく立ち止まったロビン。
 放送を一切聞かずに走ってきたスヴェン。
 ロビンもスヴェンも頭の回転は速い。ロビンは放送は皆が行動を止めるある種の“絶対時間”と考えた。
 スヴェンは相手の止まる“支配時間”と考えた。
 ――差は、無くなった。
「はぁ、はぁ」
「!…アナタ放送は?」
 背後への急な接近に振り向くロビン。
「貴女が止まったから、これ幸いと追っていたら放送を聞くのを忘れてしまった
 (なんてな…放送を聞き逃すのとアンタを逃がすリスクを天秤に掛けただけさ)」
 両手を膝に当て息を切らしながらも、スヴェンは白い歯をロビンに見せた。
「…馬鹿な人。降参よ」
「恋は盲目、ってな。いや、この場合は聾唖か」

 ロビンはやれやれと言った感じで、仕方なく放送の内容を話した。
「そうか…二人とも仲間は無事か。素直に喜べはしないが…」
「ええ…」
 目的は違えど、想いは同じ。しばらく二人は焦燥感に苛まれていた。


 と感じていたのはスヴェンだけだった。
 格好をつけて背中を見せるスヴェン。
「俺は、貴女の事をよく知らない。しかしそんなことは関係ない。
 男が女を守る。これを守れないっていうのは、俺の紳士道に反するんでな。
 どうだい?改めてデートの誘いを受けては…くれないみたいだな」
 振り返ったスヴェンが見たものは、豆粒大の大きさで背を向け走るロビンの姿。
「…いい加減俺のケースを返してくれないか?」
 気まずそうに帽子の唾を下げると、スヴェンは再び走りだした。胸いっぱいのデジャブを感じながら…

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 放送が終わった後、杏子の顔つきが変わった。しかしトレインはそれに気づかなかった。
 杏子があくまで気丈に振る舞っていたから。
「幽助はどうやら無事みたいだな。スヴェンもイヴも、あとリンスも」
「よかったね、トレイン君」
 心配を掛けぬように、傷が痛まぬように。
 自分を助けてくれた人に、余計な負担を掛けてはいけない。
「…杏子は?いるんだろ、友達」
「包帯巻けたよ!なかなかうまくできたでしょ」
「杏子…?」
「保健体育の授業きちんと聞いといてよかった!いざって時に役に立ったもん。
 やっぱり学校の授業は聞かないといけないよ。城之内にも一度言っとこう」
 やっと杏子の異変に気づいたトレイン。しかし彼女の悲しみは彼の範疇を越えていた。
「杏子、城之内って確か前の放送で」
「でもあいつカードばかりやってるからな~。いつも遊戯と遊んでばっかり。
 それなのに海馬君は勉強もできてカードも強い。どこが違うのかな~…」
「海…馬…?杏子、今の放送…
 お前、まさか」
「…もう、私の友達、遊戯だけになっちゃった。皆死んじゃった」
 にっこりと口角を引き上げる杏子。彼女の肩は震えていた。
「杏子!」
 トレインは左腕で杏子の肩を掴んだ。杏子は笑顔のまま、ゆっくりと、トレインと目を合わせた。

「死んじゃったよぉ…」

 あれほど気丈だった杏子が、目に涙を溜め崩れ落ちた。

(海馬君……!!そんな、どうして!?二人とも簡単に死ぬはずないじゃない!!
 城之内も海馬君も死んじゃうなら、遊戯が生き残れるはずないじゃない!!)
「遊戯も!私も!!いつか殺されてしまうんだわ!!
 あの男のような殺人鬼に、みんな殺されてしまうんだわっ!!」「杏子っ!!」
「わあああああああああああああああっ!!!!!」

 親友(とも)を失う悲しみは、トレインには痛いほどわかっていた。
 自分には彼女を止められない。止める権利もない。
 止められるならば、止めるべきなのはこの糞ゲーム。
(杏子…お前を死なせはしない。俺は戦う。たとえこの身がどうなろうとも。
 そしてこの糞ゲームの主催者に届けてやるぜ、不吉をな!)
 トレインは、ただただ杏子を抱きすくめていた。
 頼りない左腕一本で。
 猫のような鋭い眼光を帯びて。





【茨城県/日中】

【トレイン・ハートネット@BLACK CAT】
 [状態]左腕に軽い擦り傷、右腕肘から先を切断(行動に支障はなし)
 [装備]ディオスクロイ@BLACK CAT(バズーカ砲。残弾1)
 [道具]荷物一式
 [思考]1:主催者を倒す
    2:杏子を守る
    3:仲間に会う

【真崎杏子@遊戯王】
 [状態]健康
 [道具]なし
 [思考]1:悲しい
    2:遊戯と合流
    3:ロビンに会う

【ニコ・ロビン@ONE PIECE】
 [状態]健康
 [装備]千年ロッド@遊戯王、アタッシュ・ウエポン・ケース@BLACK CAT
 [道具]荷物一式(二人分)
 [思考]1:逃げる
    2:アイテム・食料の収集
    3:死にたくない

【スヴェン・ボルフィード@BLACK CAT】
 [状態]疲労(微回復)
 [道具]荷物一式(支給品不明)
 [思考]1:ロビンを追う
    2:トレイン・イヴ・リンスと合流

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166:拳の王 トレイン・ハートネット 272:掃除屋達の慕情【中篇】
193:夢、幻の如く スヴェン・ボルフィード 272:掃除屋達の慕情【中篇】
166:拳の王 真崎杏子 272:掃除屋達の慕情【中篇】
193:夢、幻の如く ニコ・ロビン 272:掃除屋達の慕情【中篇】

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最終更新:2024年03月07日 23:17