0213:涙は包み、溶かされて ◆Oz/IrSKs9w
「…クッ…クゥッ…!」
少女が一人、道を行く。
「…クッ…ハッ…ハァッ…!」
息も絶え絶えに、それでも歩みを止める事無く。
「…わた…し…のッ…せい…で…ッ!」
まるで自ら望んで己を痛めつけるかのように。
その目から、溢れんばかりの涙をこぼし続けながら。
「……私の……せいでッッ……!!」
よろめいて足をくじき、道にドサリと倒れてしまう。
そのまま意識を手放す。
その体には無数の擦り傷、その服には無数の裂け目…
もう何度目になるか分からない意識の喪失。
その心も体もぼろぼろになっている少女…イヴが、仲間二人を失ったあの戦いでしばらく意識を失っていた後、
目を覚ました時には周囲に誰も何も残ってはいなかった。
飛影にゆきめごと貫かれて薄れゆく意識の中、聞こえてきたのはたった一つだけ。
飛影にも月にも決して聞こえてはいない、自分だけに聞こえたたった一つの…
ゆきめの小さな最期の言葉。
『…生きて…ね…』
誰に宛てたのか…イヴたちの知らない
ゆきめの大切な者へ宛てた祈りなのか、イヴたちに宛てた言葉なのか。
それとも…それら全ての者たちに宛てた心からの願いだったのか。
目を覚まし、何も無い周囲に気付いた時、イヴは
ゆきめがこの世から命を失い旅立ったのだという事を無意識の内に感じ取り、一人…涙した。
イヴの体内に存在するナノマシンの影響で小さな傷は短時間で癒えていったが、
腹部に受けた大きな傷はさすがのイヴといえども簡単には治らず…時間と共に腹部から大量の血液を失っていった。
血が足りず意識が朦朧とする中、それでもイヴは立ち上がり、あても無く足を動かし続けた。
貧血で幾度と無く意識を失い、意識を取り戻してはまた体を起こして足を動かす。
ひたすらに、何かに取り憑かれたように進み続ける。
そのあての無い旅路の中で、昼の放送を断片的だが耳にする。
嫌が応にも思い知らされる、
ゆきめの死という現実。
それと共に知らされる一つの希望。
夜神月・トレイン・スヴェン・リンスレットたちの生存。
月が自分たちを見捨てて立ち去った…そんな事実に気付く事も無く、イヴは月という仲間の無事を知り、暖かい物が胸に広がるのを感じた。
しかしそれでも…己を責め続ける事を辞めない。
『…生きて…ね…』
生きねばならない。
生かさねばならない。
月を。トレインを。スヴェンを。リンスを。
…まだ見ぬ、全ての優しい人たちを。
再び意識を取り戻す。
再び体を前へと進め始める。
それはまるで、懺悔であるように。贖罪であるかのように。
「ウキ、ウキキウキッ!(なあルフィ、疲れたから休憩しようぜ!)」
「ん?何だよ猿?なんか食いモンみっけたのか?」
「ウキ!ウキッキキ!?ウキウキ!ウキキキウキャーッ!!
(違うっ!また食いモンの話かよ!?俺の木の実やら何やらも全部勝手に平らげちまったのに!お前より俺の方が腹ぺこなんだよ!!)」
「ナ~ニ怒ってんだよ?まだ木の実食っちまった事怒ってんのか?悪かったって言っただろ~!?……あぁ~…ハラ減ったぁ~…」
悟空を探してひたすら道を行く、腹ぺこの一人と一匹。
いまだに手掛かりもなく…ただ勘を頼りに進むしかなかった。
唯一残っていた食料である、
エテ吉の所持していた木の実やキノコ類も、
エテ吉の背中のデイパックからルフィが音も無く勝手に抜き取り、腹の足しに変えてしまった今となっては、
このままでは餓死を待つのみであるという有り様であった。
「あぁ~…サンジのメシが食いてぇなぁ~…どっかに恐竜でも歩いてねえのかなぁ…肉~…」
「ウキキウキ!ウキ!?(恐竜なんているわきゃねえだろ!原始人か!?)」
エテ吉のツッコミもルフィに通じることもなく、その一人と一匹は地べたに座り込んでため息を吐くだけであった。
「はぁ~っ…悟空は見つからねぇし…肉も見つからねぇし…」
「ウキウキ…ウキッキ…(あれから誰にも会えねえままだからなぁ…
ターちゃんは一体どこにいるんだ…)」
「……そろそろ行くかぁ。メシ探しに…」
「ウキウキッ?ウキ…(悟空探すんじゃなかったのかよ?全く…)」
まるで通夜のような低いテンションで腰を上げ、とぼとぼと出発するルフィたち。
足取りも重く、あてのない探索は続く。
「………ウキ?(ん?)」
「ん~?今度は何だよ猿ぅ…」
「ウキキ……ウッキ?…ウキ?(この匂い……何だ?…血?)」
「…ん?どこ行くんだよ?まさか…肉か!?肉見っけたのか!!?うおおおおぉッッ!!!に゛ぃ~~ッ!く゛ぅ~~ッッ!!!!」
神妙な顔つきで前方遠くを眺めながら足を速める
エテ吉をもの凄いスピードで追い抜き、鼻息も荒く目を輝かせ走り去るルフィ。
「ウキッ!!ウキッキ!!ウキ!!(ちょっ!!待てルフィッ!!違う!!)
ルフィの暴走に慌てて大声で制止するも…時すでに遅く、遙か彼方へ光の粒となる未来の海賊王…
「…おいお前ッ!!大丈夫かッッ!!?」
「………」
「しっかりしろ!!死ぬんじゃねえッ!!!」
点々と続く血痕の先、ルフィは見るに堪えないひどい有り様で道に倒れていた一人の少女を見るやいなや、
顔色を変えて必死に小さな体を揺さぶり声を掛ける。
「どうしたんだお前ッ!何があった!!?」
「……ン……ッ…!だ…れ……?」
必死の呼びかけにようやく意識を取り戻し目をうっすらと開けて、絞り出すような小さく消え入りそうな声で、目の前の人物に途切れ途切れに返事をする。
「俺はルフィ!海賊だ!!しっかりしろ!!」
「かい……ぞく…?」
「んなことどうでもいいっ!しゃべるな!今助けてやる!!
チョッパー!!!…は、いねぇんだった……く!ど~すりゃいいんだよッ!!?」
必死にあれこれ考えるが、半ばパニック状態の頭は良い妙案も思い付かず…
自らの不甲斐なさに、拳を力の限り強く握りしめ地面に叩きつける。
「…ゥキ~!ウキッキキ~!?(ルフィ~!どーしたんだ~!?)」
「あっ!お~い猿ぅッ!!大変だ!!こいつ死にそうなんだよっ!!!」
「ウキッ!?ウキキッ!!?(死にそう!?何だって!!?)」
ようやく追いついてきた
エテ吉にも尋常でないルフィの様子はすぐに見て取れ、走り寄る足をさらに速くし二人に駆け寄る…
「ウキッウキキ…ウキキ、ウキキッキ。ウキッキ~…(医者の心得なんかほとんど無いけどよ…
見たところ、この様子じゃあ命に別状は無いがしばらく絶対安静だろうな。よっぽど無理したんだろうな…)」
「どうなんだ?死なねえんだよな!?」
「ウキ(ああ)」
「そっか…良かった…!」
エテ吉の判断でルフィの上着を破って包帯代わりにし、腹部に応急手当を施し、
木陰に横たえたイヴの体の傍らで盛大に安堵のため息をついて胸をなで下ろすルフィ。
エテ吉は心配そうにイヴを見つめながら、ひどく汚れてしまっているイヴの顔を余った布で綺麗に拭いている。
「…本当にありがとう。あなた達…優しい人たちね…
「へへ…!気にスンナって!いいィよ、礼なんか」
「ウキキキ。ウキッキ(俺は人じゃねえけどな。まあ大事なくて良かったぜ)」
青くやつれた顔で二人に穏やかな微笑みを向けて語り掛けるイヴの様子に、二人は少し照れながらもほっとした様子で朗らかに笑みを返す。
「それにしても…いってぇナニがあったんだよ?誰かに襲われちまったのか?」
「………」
ルフィのその問いかけを受け、瞳に悲壮の影を落としてしばし沈黙してしまうイヴ。
二人が心配そうに見つめる中…重い口を開き、今までにあった出来事を語り始める。
自分の事、行動を共にしていた仲間の事、襲撃者の事。
…大切な仲間を失った事…
「……ウキ…ウッキキ…!(そんな事が…あったのか…!)」
「………」
「だから私……一刻も早く、探さなきゃいけないから…!」
一通り話し終え、地に手を突いて体を起こそうとするイヴ。
「ウ!ウキ!?(お!おい!?)」
「助けてくれて、ありがとう。私…クッ!…一刻も早く探さなきゃ…いけないから、休んでるわけには…いかないの!」
「ウキッキ!!ウキキッキ!!ウキッキウキッ!ウッキッキキ!
(馬鹿言うな!!全然安静っつっただろ!!俺たちが一緒に探してやるから!今は休んでなきゃだめだ!)」
よろよろと起きあがろうとするイヴを必死に止めようと詰め寄る。
「私を心配してくれてるの?ありがとう…でも、わた…えっ?キャッ!!?」
「ウキッ!?(ルフィ!?)」
イヴの言葉を遮り、ルフィが突然無言でイヴの体を軽々と持ち上げ背中に背負う。
「え!?え!!?」
「…俺が、お前の足になってやるよ」
「…えっ…!?そんな事…!?」
「探しモンが少し増えるだけだ!!悟空!肉!俺たちの仲間!イヴの仲間!」
「……!」
「ついでなんだ。気にすんな!」
「キキ…!(お前…!)」
右手で背のイヴをしっかりと支え、左手は麦わら帽を軽く押さえて…後ろのイヴに向けてニカ!と屈託のない笑みを見せる。
「……ありが……とう………ルフィさん…!」
「ナニ泣いてんだよイヴ!しっかり掴まってなきゃ落ちても知らねェ~からなっ!」
「……うん…!」
「キキ…ウキ!ウッキッキ!(へへ…よし!出発するかルフィ!)」
「オウッ!行くぞ猿ッ!」
いつもこの男は、悲しみの涙を嬉しさの涙に変える。
それが彼の人を惹き付ける魅力。
新たな仲間を加え、その一行が捜し当てる物は…何より価値のある宝なのか。
それとも…
【新潟県/日中】
【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】
[状態]空腹、わき腹に軽いダメージ
[装備]イヴ
[道具]荷物一式(食料ゼロ)
[思考]1:悟空・自分と猿とイヴの仲間・食料を探す
2:悟空を一発ぶん殴る
【エテ吉@ジャングルの王者ターちゃん】
[状態]空腹
[装備]パンツァーファウスト(100mm弾×4)@DRAGON BALL
[道具]荷物一式(食料ゼロ)
[思考]1:ルフィに同行
2:ターちゃんとの合流
【イヴ@BLACK CAT】
[状態]胸に刺し傷の重傷(応急処置済み、血は止まっている)、貧血
ルフィにおんぶされてる
[装備]いちご柄のパンツ@いちご100%
[道具]無し
[思考]1:トレイン・スヴェン・月との合流
2:ゲームの破壊
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最終更新:2024年03月08日 02:29