0168:血も泪もない戦場 ◆SD0DoPVSTQ





「あなた、血のにおいがするわ」
その一言で全ての予定が崩れ始めていた。
このまま曖昧なフリをして相手から少しでも情報を引き出そうと考えていたのに、これでは全てがパーだ。
血の臭いがすると言ったのは恐らく本当の事なのだろう。
だがそれを指摘してしまってはわざわざ要らぬ災いを招き入れるという事。
自分の戦闘力が皆無であると自覚している以上、何とか口で相手をはぐらかしたかった。
「下がってゆきめさん。あいつはそんな奴じゃないわ。闘う為――いいえ殺す為に捜しているだけ」
「殺す為か……奴がその程度でしかないとしたらそうなるかもな」
目の前の相手は眉一つ動かさずに平然と殺すと言ってのけた。
この状態は非常に危険だ。
恐らくゆきめとイヴの二人でも敵わないだろうし、ましてゆきめが戦う気が無いのなら万が一の可能性すら無い。
かといって、イヴを見捨てる訳にもいくまい。
イヴが戦闘に入ればついでとして自分達が殺される可能性も多分に出てくる。
例え巻き込まれなかったとしても、恐らくゆきめから見放され、この猛獣が蠢く地で一人で生き残らなくてはいけなくなる。
とすれば、この場で取る行動は自ずと限られてくる。
「――貴方は僕達をどうするつもりですか?」
月はイヴの口を押さえて相手に其れだけを尋ねる。
恐らく返ってくる答えは3通りの内どれかであろう。

一つ目、殺す気はない。
これなら素直に知らないと白状して立ち去って貰う。
一番有り難いパターンだ。

二つ目、知らないなら殺す。
これは嘘を付いて相手を遠ざければいいだけ。
自分達が進む方向と逆を示せば、この狭い世界といえども再び出くわす可能性は低くなる。
これも死ぬ可能性が非常に少なくて済むパターンだ。

三つ目、知っていても知らなくても殺す。
最悪のパターン。
この答えが返ってきたらイヴとゆきめを嗾けるしかない。
自分は加勢するなり、その間に逃げるなり出来るが生き残れる可能性は非常に低くなる。
こう答えられれば即ゲームオーバーだが、相手の行動方針を知らないよりはマシだ。
本当ならば相手との会話でそれとなくこの質問の答えを引き出すつもりであったのだが、こうなってしまった以上直接尋ねるしかない。
イヴにもゆきめにも任せられない以上は自分の口だけで解決しなくてはならないのだから。

「貴様等は強いのか?」
だが全く予想していない答えが返ってきた。
疑問に疑問で返された以上は、此方から答えを返さないことには向こうの真意は掴めない。
だがこの質問から相手の行動を読みとるのはさして難しい事ではなかった。
この質問をする者の解答は二タイプ存在する。
強者を求めて彷徨う者か、弱者を選び嬲り殺しにする者か。
しかし後者の場合殺すならとっとと済ましているだろうし、ましてやこの状態でこんな質問をしたりはしない。
つまりは前者――強者を求めて彷徨う者に違いなかった。
「僕は斧こそ持ってはいましたが、見ての通り普通の人間です」
斧を下に降ろし、空いた手を上げる。
戦う気も更々無いというアピール。
ゆきめは此方の考えを察したのか、あれから後ろに下がって何も言ってこない。
大方目の前の男の狂気を沈めたいのだろうが、それをすると無力な夜神月まで危険に晒してしまうと気が付いたのだろう。
後は、このまま男が去る迄じっとしてればよかった――のだが。

「私は貴方なんかに負ける気はないわ」
力づくで押さえていた手を振り払い、イヴが相手を睨み付ける。
慌てて再び口を押さえようとするのだがその手すら宙で叩かれる。
「ゲームに乗って闘うことしかできない貴方には負けない。殺しはしないけど――終わるまで眠ってて貰うわ」
言うが早いか白銀の世界の中照り返す太陽を背にイヴは奔りだした。
奔りながら出したカプセルから出した無限刃を空中で掴み、それの峰で斬りかかる。
余裕のままにそれを受け止める飛影。
「トランス!」
それを予測していたかの如く、刀を受けがら空きになった飛影にもう片方の手を変形させたハンマーを死角へと振り下ろした。
しかし飛影はそれを返す刀で再び受け止めた。
一瞬の間に多数の方向から打撃を与えられるイヴ。
同じく一瞬の間に多数受け止められる飛影。
両者は端から見て五分の戦いにも見えた。

「――貴様はこの程度なのか?」
そう呟くと飛影は更にスピードを上げる。
左右左右と同時攻撃を仕掛けるイヴに、瞬時に多方向の打撃の軌道を逸らしつつ同時に斬撃を繰り出す。
其れを避けようとするイヴだが、攻撃を仕掛けている所謂死に体の上、飛影の斬撃の速度に付いていけず切っ先が脇腹を掠める。
咄嗟に距離を置こうと離れるイヴだが、飛影がそれを許す筈も無く追撃する。
ハンマーだった左手を咄嗟にシールドに変形させ直撃だけは防ぐが、持ち前の素早さを活かせなくなったイヴは防戦に入るしか選択は無くなっていた。

目の前で超人的な戦いを繰り広げられている中、夜神月は頭を抱えて悩んでいた。
何処でどう選択ミスをしてしまったのであろうか?
否、自分は最善の選択を常にとってきた筈。
それをあの娘一人が全てを台無しにしてくれた。
あの男と同士討ちしてくれれば最高だなと、自分の頭の何処かで声が囁く。
いざという時手駒として使える仲間は多いに超したことが、自分で操れない爆弾を抱え込むのは真っ平御免だ。
何か手を打たなければと考えた次の瞬間、背中から凄まじい冷気を感じた。
ゆきめさん……」
振り向こうとしたが上手く身体が廻らない。
見ると太陽によって泥濘かけていた雪が固まり、膝の当たりまで氷が覆っていた。
動くにも動けない月の脇を何かが通り過ぎていく。
通り過ぎた瞬間背筋まで凍る様に感じる。
その出来事に月は彼女の自己紹介時の単語を思い出す――雪女なのだと。
彼女は下半身を動かせないままで同じく動けない二人の間に割り込むとイヴの頬を叩いた。

高らかに鳴り響く音が時の止まった世界に木霊する。
「馬鹿……命を粗末にしないで。もう……誰も死んで欲しくないのよ」
そう言ってイヴに抱きつきながら崩れ落ちる。
此処に来て既に稲葉郷子という知り合いを亡くしている。
もうその悲しみを繰り返したくはなかった。
闘いの連鎖を終わらせなければこの悲劇は繰り返す。
闘いを止めるが為に闘う事も間違っている。
「お願い……解ってイヴちゃん」
闘うこと自体が悲劇に繋がるのだから。

「貴様……氷女か?」
足元を凍らせたまま飛影が呟いた。
多少は違うが色、イメージ的に似た衣装。
氷を操るその力、そしてゆきめと呼ばれた名前が、妹――雪菜と被る。
だが彼女は自分の妹ではない。
自分を忌み子として氷河の国から捨てた奴等の仲間。
沸々と沸き上がる嘗ての黒い気持ちが飛影の中を駆け巡る。
無意識の内に左手が首の当たりを探っていることに気が付いた。
だが嘗て其処に着けていた氷泪石はもう無かった。
妹――雪菜から手渡されたもう一つの氷泪石。
気持ちが塞がった時に眺めていた氷泪石はもう無い。
その現実が彼の苛立ちを一層に膨らませた。
氷泪石のお陰で、故郷に対し幻滅することで恨みを忘れる事は出来た。
だがそれが無くなった今となっては――
「誰も死んで欲しくないだと?俺を落としておいてよく言うぜ」
地獄の炎を纏い、氷を溶かした飛影は手にしたマルスをそのまま突き出す。
「――邪王炎殺剣」
そのナイフはイヴが咄嗟に髪で作り出したシールドを易々と貫通する。
マルス――引き金を引くことで超振動し切れ味を増すナイフ。
その切れ味に炎と霊気をブレンドさせたナイフは、相乗効果によってナノマシンのシールドすら貫く刀になっていた。
飛影が串の様に刺さったナイフを抜くと、支える物を失ったかの様に二人の身体は雪の上に音も無く崩れ落ちる。
「探す物が増えたか……」
新たなる目標は主催者が没収したであろう氷泪石。
それだけ呟くとイヴの刀を拾い、他の物に目もくれず元凶の主は姿を消した。

「ふふ……ふふふふふ……ついてる!ついてるぞ!」
飛影の目に入らなかった弱者――夜神月は吠える。
ゆきめとイヴと出会ってから一度も見せたことのない笑みを浮かべながら。
結局は何も出来なかった自分ではあるが、其れが故に生き残ることが出来た。
あれだけの事が目の前で起きていた事が信じられない位だった。
あの戦力を失ったのは痛いが、自分の操れない手駒がいたとしても不安要素が増えるだけで結局は不必要な仲間だったのだ。
「――そういえば、此処に海砂も来ていたっけな」
自分の信念を持つ者ほど扱いにくい物は無い。
弥海砂はそういった意味ではパーフェクトな仲間だった。
自分のして欲しい通りに動いてくれる上、いざとなったら命を投げ出してもくれるだろう。
その上一般人の女性と行動して周りに隙を与えるという条件も満たすことが出来る。
動かぬ屍となった二人にもう用はない。
ゆきめが死に、足元の氷が溶けた月は食料だけ貰ってその場を後にした。
海砂の事だ、恐らく自分を捜して都会に出てきている筈だ。
恐らく東京、大阪、京都、名古屋のどれかだろう。
「愛してるよ弥海砂
海砂に囁きかけるように甘い声で呟いた月は東京を目指し去っていった。


日光が照らし、飛影に貫かれたゆきめは次第に姿を薄めていく。
雪女の彼女は再び雪へと還るのだ。
そしてその下で呻き声を洩らす少女。
自分で変形させたシールドとゆきめのお陰で、死だけは免れた少女が其処に倒れていた。
元々丈夫であるし、マルスの刀身が短く、邪王炎殺剣で伸びた部分しか届いてなかった事も助かった要因であろう。
雪女とナノマシン。
その惨劇の後には血の跡すら残ってはいない。
足跡も降り注ぐ日光で消え、何事も無かったかの如く倒れた少女だけがその場に存在していた。





【山形県/午前~昼】

【夜神月@DEATH NOTE】
[状態]健康
[装備]真空の斧@ダイの大冒険
[道具]荷物一式×3 (三食分を消費)
[思考]1、弥海砂の探索
   2、使えそうな人物との接触
   3、竜崎(L)を始末し、ゲームから生き残る

【イヴ@BLACK CAT】
[状態]重傷(胸に刺し傷、脇腹に掠り傷)
[装備]いちご柄のパンツ@いちご100%
[道具]無し
[思考]1、トレイン・スヴェンとの合流
   2、ゲームの破壊

【飛影@幽遊白書】
[状態]少し疲労
[装備]マルス@BLACK CAT、無限刃@るろうに剣心
[道具]荷物一式、燐火円礫刀@幽遊白書
[思考]1、幽助と決着を付ける
   2、氷泪石を見つけだす
   3、強いやつと戦う


【ゆきめ@地獄先生ぬ~べ~ 死亡確認】
【残り99人】


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136:さまよう影 夜神 月(ライト) 181:月は隠れて、消えはせず
136:さまよう影 ゆきめ 死亡
136:さまよう影 イヴ 213:涙は包み、溶かされて
136:さまよう影 飛影 216:彷徨える黒龍、眼前の魔王

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最終更新:2024年01月14日 19:20