0331:ヘタレ放狼記~籠球の罠~





森の動物達が慌しく動き回っている。
森の中がガサガサバキバキ騒がしいからだ。
葉や枝が薙ぎ払われ、幹や根が踏み砕かれる音が連続して発生している。
その騒音の元である男はひたすら東へと向かっていた。
その速度は頗る速く、正に韋駄天と形容してもいいほどのスピード。
しかし走る姿はみっともなく、無様極まりない。
何かに焦り、後ろを何度を確認しながらの疾走はどうしようもなく不恰好だった。



後ろからは誰も追ってこないだろうな?
あの気味の悪い男はヤバイ。
あのレーザーは超ヤバイ。
ヤバイヤバイヤバイ。
ああくそ悟空、ピッコロ助けてくれ!もうこの際クリリンでもいいから――

しかし、男の望みは断たれた。
疾走中の耳に飛び込んできた、第四放送によって。


――ん、クリリン、リ――


――おい、ちょっと待て。
俺の耳がおかしくなったのか?
今確かクリリンの名前が呼ばれたような…
クリリンは悟空やピッコロには及ばないにしろ、地球人の中では一番強い。
そのクリリンが殺された!?
俺より強いのに殺された?
クリリンが殺される程のゲームで、俺は、俺は一体どうすれば……

走っている最中の考え事はたいへん危険である。
ヤムチャも例に漏れず、前方と足元の確認を怠っていた。
それが災いしたのか、彼の足は地面と木の根っこ以外のものを踏みつけてしまった。

グニュ

踏みつけたものは球。
桃白白が捨てたバスケットボールだ。
地面ならいい。滑ることはない。
木の根っこでもいい。摩擦がかかるから足が安定する。
しかしヤムチャが踏んでしまったものはそうはいかなかった。

球(Ball)…ある1点から等距離にある点(球面)およびその内部の点からなる集合。
      とくに、3次元空間にあるものをさす。
      地面に触れる箇所が一点に限られる為、ほぼ摩擦がかからない。

よく弾むように空気が調節されたバスケットボールは、
上にヤムチャの足が乗ると同時に横向きの力を受けて転がる。
当然球面は回転し、ヤムチャの足が乗った面は上面から側面へと変化。
全体重を支えている、前に踏み出した足はその変化にバランスを崩す。
結果、

ズルッ

コケる。

「ぐおっ!?」
ヤムチャは派手に仰向けに倒れ、後頭部を地面で強打した。

「あがががが……」
頭を押さえて転がり回るヤムチャ
もし誰かがこの光景を見ていたならこう言ったに違いない。

『足元がお留守ですよ』

しかし今は誰もいないのでツッコミはなし。


ようやく痛みが引いたのか、ヤムチャはよろよろと起き上がる。
逃走行為を止めたことで少し冷静になったヤムチャは、これからの方針を考え出した。

スカウターがなくなったから悟空探しは難しくなった。
それに加えて敵と遭遇する確率も上がる。
そしてその中にはクリリンを殺した強敵も含まれている。
怖い。
名古屋城に戻って斗貴子と合流するにしても、途中で敵に会ったらどうしよう。
その前に、もう0時だから彼女は四国に行っているだろうか?
四国まで一人で行く……
怖い怖い怖い。
もう嫌だ。何で俺がこんな目に。
いっそのことその辺りの民家に隠れてゲームが終わるのを待つか?
それがいい。そうしよう。
きっと悟空とピッコロが何とかしてくれるさ。
俺は何の役にも立たないよ。


隠れる民家を捜そうとして、周りを見渡す。
ふと、目に標識が飛び込んできた。
それ見たヤムチャは驚愕する。

(宮城県!?こんな遠くまで来てたのか!)
自分が幾つもの県を越え、長距離を走り続けてきたことに今更ながらに気付く。
自分にそこまでの体力とスピードがあっただろうか?
その疑問の答えはすぐに思いついた。
(超神水か……)


そう、俺は超神水の試練を乗り越えたんだ。
戦闘力は格段に上昇しているはず……
待て。
ちょっと待て俺。
俺って実はかなり強いんじゃないか?
そうだ、両津さんも言ってたじゃないか。俺は強いんだ!
今まで負けてたのは、大蛇丸の術のせいだ!
慌てて腹を見ると、五行封印の紋様が薄くなってきている。
封印解除が近い。

よし、よしよしよしよし!
俺は役立たずなんかじゃない。
これはチャンスなんだ。
今の俺は超神水のパワーで相当強い。
今こそ汚名返上のとき。
悟空とピッコロの役に立って、認めさせてやる。
いやむしろ俺が優勝した上でピッコロを生き返らせ、ドラゴンボールで皆を復活させてやる。
悟空が何だ!ピッコロが何だ!
もうヘタレとは呼ばせないぜ!


餓狼は勇ましく一歩を踏み出す。

その足の先には当然のようにバスケットボール。



仰向けのヤムチャは、星空を見ながら痛む頭で再度冷静に考える。
(やっぱり無茶はよそう……危なくなったら逃げればいいや)

餓狼の覚悟は三秒で崩れ去った。





【宮城県/二日目深夜】
【ヤムチャ@DRAGON BALL】
[状態]:右小指喪失、左耳喪失、左脇腹に創傷(全て治療済み)
    超神水克服(力が限界まで引き出される)、五行封印(気が上手く引き出せない、まもなく解除)
[装備]:無し
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料、バスケットボール@SLAM DUNK
[思考]:1.参加者を減らして皆の役に立つ
    2.あわよくば優勝して汚名返上
    3.悟空・ピッコロを探す
    4.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)

時系列順に読む


投下順に読む


316:ヘタレ放狼記 ~VSアビゲイル編~ ヤムチャ 340:大型殲滅兵器“ジーニアス”による被害報告

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2024年06月21日 00:51