0330:受け継がれる魂





栃木県の森の中、微かな月光が木々の隙間から差し込み、夜の林道に斑模様を作っていた。
その光と闇が交差する回廊を危なげな歩調で歩いているのは、男塾に復讐を誓う男。
江田島達に敗北し、反撃の作戦を練る拳法使いアミバである。




――くそっ、何も思いつかん!
考えれば考える程一筋縄ではいかない相手だということがわかるぜ畜生が!

敗残兵は悔しそうに歯噛みして、もう一度復讐の作戦をシミュレートする。


まず江田島平八――こいつと真正面から戦うのは無理だ。
天才の自分としては信じられないが、おそらく歯が立つまい。全く腹立たしい!
次に男塾三面拳雷電――こいつも弱くはないが、天才たる自分の敵ではない。
先程は邪魔が入ったが、あのまま戦えば自分が勝っていたはずだ。
カズマと呼ばれていた男も、戦闘のノウハウがあるとはいえ所詮雑魚だ。
雷電との戦いを邪魔した二人も大した奴ではないだろう。

それでも数が多いと厄介極まりないわ!

一般人であろうガキを除いても合計五人。しかもそのうち一人は江田島平八
夜に乗じての奇襲も通じそうにないし、手持ちの武器は弾切れの拳銃一丁とテニスボール二個。
打つ手なし……

嘘だ、俺様は天才なんだ。あんな奴らなど敵ではない!必ず皆殺しにしてやる、必ずだ!


天才の決意はしかし、ただただ虚しいだけだった。


復讐には周到な準備が必要である。
アミバは江田島達に復讐するために、新たな獲物を探し始める。
目的は武器と回復アイテムの収集。

その眼が一人の男の後ろ姿を捕らえた。
歓喜の表情を隠しながら新たな獲物に近づき、ニューナンブの銃口を向ける。
弾は入っていないが十分な脅しになる。
銃を向けられれば人間は冷静ではいられない。
その隙を自慢の北斗神拳で突けば、殺すことなど造作もない。
だから、余裕で声をかけた。


「ククク…お前も運が無い。天才たる私に殺されたくなかったら持ち物を全て置いていくんだな」

声をかけられた男は振り返らないまま、
腕を目に見えない程の速さで振り、
その手刀はニューナンブを縦に綺麗に真っ二つに、割った。

そしてその巨大な身体で振り返り、
悠然と返答した。


「それは、我を拳王と知っての物言いか?」


アミバが狙いを定めた獲物は、
こともあろうにアミバが部下として仕えていた世紀末覇者であった。


ここで確認しておこう。
世紀末覇者の性格は残虐非道。
たとえ部下と言えども、拳王に銃を向けた相手はどうなるか。
もはや言うまでもないだろう。

つまり、天才拳法家は絶体絶命ということだ。


――バ、バカなああああっっっ!!?天は天才を見捨てるのかああっ!?

内心では死を覚悟しながら即座に平伏する。
「け、拳王様とは知らずとんだ御無礼をっ!」


こんな謝罪では助かろう筈がない。
いや、どんな謝罪でも助かる筈がないのだ。
本来ならば。


――しかし、いつまでたっても拳が来ない。
不思議に思い恐る恐る顔を上げると、拳王は天を見上げていた。
その目は遠く離れた星空を見上げており、アミバなど眼中に入っていないようだった。

どうやら命は助かったらしい。
アミバは安堵すると同時にピンと閃いた。
拳王を江田島達にぶつけてみてはどうだろうか。
自分でも拳王だけは殺せない。流石に格が違う。

――しかし、あの集団と戦った後の拳王ならば、俺様にも勝機はある。
江田島達に復讐も出来るし一石二鳥、やはり天は俺様に味方している!

災い転じて福と為す。
棚からぼた餅を奪い取る。
転んでもただでは起きない。
バイタリティは間違いなく一流の天才であった。


「あ、あの、拳王様。お話があるのですが…」
アミバは覚悟を決め、夜空を見上げるラオウに話しかける。
拳王はどうでもよさそうな態度でアミバのほうを見ようともしなかったが、
その口からはアミバの望んだ言葉が飛び出た。
「…申してみよ」

――よし、乗ってきた。さあ、江田島め、地獄を見るがいい!

アミバは先程出会った集団のことを話した。
その集団と戦ったこと。その中には強い戦士が何人も含まれていること。
その集団に自分の顎骨が砕かれたこと。

そしてその集団に江田島平八が含まれていること。


拳王は暫く沈黙していたが、やがてその腰を上げた。
「…いいだろう。案内せよ」
その言葉にアミバは心の中でファンファーレを鳴らした。

――ククク…ハァッハーッ!江田島ァ、これで終わりだあっ!

江田島の死を確信して、案内の為に前に立つ。
戦いの後こっそり後をつけたので、あの集団が潜伏している民家はわかっている。
間違えてスキップでもしてしまいそうな気持ちだった。

しかしラオウには、先に立って案内するアミバなど眼中に入ってはいなかった。
その目が見続けているものは、北斗七星の横に輝く一つの星。

――まさかこの拳王が死兆星を見ることになるとはな。
この死兆星は我が末弟との戦いを暗示したものか、それとも、
江田島、ウヌとの戦いを暗示したものなのか?
どちらにせよ、此度の再会でわかることだ。ウヌとの戦いでな。

拳王は歩を進める。その心を満たしているものは戦いへの自信か、それとも期待か。


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江田島達の一時の拠点となっている民家。
第四放送が流され、その放送について話し合おうと休息中の五人の男が話し合っていた。

「桑原君はどこのポジションがいい?DF…いや攻撃的だからFWかなあ。
MFってのもいいかもしれない。でもやっぱり本人の希望に沿った方がいいよね!」
翼が桑原にサッカーチームの具体的なポジション決めについて話を振れば、
「こんな時に何言ってやがんだ…」
桑原がその話の内容に呆れ、
「やれやれだぜ」
承太郎が溜息をつく。
絶妙なコンビネーションを発揮する三人だった。


桑原がまだ話し足りなさそうな翼を無視して、話をサッカーから第三放送へと戻す。
「一人だけ生き返らせることが出来るって話だがな…
ありゃ本当だと思うぜ。玄海ってバーサンが生き返った事例がある」
その言葉を聞いて承太郎が即座に切り返す。
「桑原、お前はゲームに乗るのか?」
あまりにも直接的な言葉に翼が思わず息を呑んだが――

桑原はさも心外だと言わんばかりに首を振る。
「冗談じゃねえ!あんなクソ野郎どもの言いなりになんかなるか!
浦飯の奴もそんなことは望んでねえよ」

その言葉に承太郎は納得したかのように頷いた。翼も胸を撫で下ろす。

と、このように三人は今回の放送では知り合いの名前が呼ばれなかった為、
比較的余裕を持って話し合っていた。
ただ、桑原にしてみれば夜神月という青年の名前が呼ばれたことにより、
同行している友情マンが心配ではあったが。



しかし、残りの二人――男塾の面々はそうではなかった。


伊達臣人
男塾の中でもトップクラスの実力を誇る一号生の名前が呼ばれたのだ。
「伊達殿が…信じられん」
特に伊達をリーダーとして慕っていた雷電は動揺を隠しきれていない。
その一方、江田島は特に動揺した様子も見せずこれまでのように言い放つ。
「男として戦いの果てに力尽きることは本懐である!伊達も見事な戦いの末に力尽きたに違いあるまい!」


その言葉に反応したのは、本来全く関係ないはずの男、桑原和真であった。
「おい…おっさん。知り合いが死んだってのにそれはねえだろう?
すぐ傍に悲しんでいる人間がいるってこともわかんねぇのか?」
真っ直ぐすぎるヤンキーに、江田島の無神経な言葉を看過することが出来るわけがない。

江田島はその言葉に全く怯まない。

「我が男塾生にそのような軟弱者はおらんのである!」

自らの意見を曲げる気は更々ないらしく、そのまま民家の外に出て行く。
その態度に激昂して立ち上がり、江田島の後を追おうとした桑原を雷電が押さえた。
「待たれよ和真殿!」
しかし桑原は止まらない。押さえる雷電を撥ね除けんばかりの勢いだ。
「離せ!あんたも悔しくねえのか!
俺はあいつみてえな人の心や命を何とも思っていねえようなクソッタレが大嫌いなんだ!
一発殴ってやらねえと気が済まねえ!離しやがれ!」
そうして二人が押し合いへし合いしていると、



「ぬおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーっっっ!!!」



外から大気を震わす叫び声が聞こえてきた。
同時に何かが砕け散るような破砕音。
(敵襲か?)
民家の中にいた四人は急いで外に出る。


するとそこにいたのは敵ではなく――粉々に砕け散った岩と、
その前に立つ江田島平八であった。
その後ろ姿からはもう何も感じ取ることは出来ないが、
岩を砕いたのが彼であることは容易に想像がついた。
その姿を見て桑原は悟った。江田島が決して悲しんでいなかったわけではないと。
いままで溜め込んでいた怒りや悲しみを、岩を砕くことで発散したのだと。


「塾長にとって塾生は我が子も同然。
その塾生が死んだことは塾長にとって如何程の苦痛か想像もつかぬ。
しかし塾長は決して泣き言を言わぬ。
何故同行者の士気を下げるようなことが言えようか!
今まで誰が死のうと塾長は、その感情を自分の胸の中に封印してきたのだ。全く恐れ入る…」
雷電が尊敬の眼差しで江田島を見つめる。


――おっさん…あんた漢だ、感心したぜ。
さっきはアンタのことをクソッタレなんて言っちまったが訂正する。
そこまで仲間のことを…チッ、目から汗が出てきやがったぜ…

桑原は目を擦りながら漢の背中を見続ける。

――監督…そこまでチームの士気のことを考えていたなんて…まさに監督の鑑だ!

その横にいた翼も感動で目を潤ませていた。
またもや空気に取り残された承太郎が溜息をつきながら告げる。

「やれやれ…お取り込み中のところ悪いが”お客さん”だぜ」




木の陰から現れるのは、巨躯の男。
戦意を隠そうともしない姿に、外に出ていた全員が厳戒態勢を取る。
しかし、その男――ラオウは他の人間には見向きもせず江田島だけを相手に言葉をかける。
「ウヌと会うのは一日ぶりといったところか」
江田島はその男を覚えていた。まだ二人の少年と行動を共にしていたころの鮮烈な遭遇を。

――この男は確か昨日出会った……
この殺気、わしとの決着を付けにきたか!
ちょうどよい、少々暴れたかったところである!

不敵に笑みながら言葉を返す。
「もう一日になるか、元気そうで何よりである!」
ラオウはその言葉に苦笑する。

――我の傷だらけの身体を見て言い切るとは皮肉か?まあどうでもよいわ。

本題に入る。


「江田島、ウヌは北斗七星の横に輝くあの星が見えているか?」

「わしの視力は30.0である!」


――肯定の返事。戦いを止める理由は、もうない。


「江田島、決着を付けるぞ」

「望むところである!」

二人は向かい合い構え合う

昨日のやり直しのように

特に気張った様子もなく

静寂の中対峙する



戦いが、始まる。




ラオウの構えを見て雷電が唸った。
「むぅ……あれは世に言う北斗神拳!!」
「知っているのか!?雷電!!……のおっさん」
「うむ、あれこそ人体を内部より破壊する恐るべき暗殺拳よ!!」


北斗神拳

一子相伝の暗殺拳で地上最強と呼ばれる拳法。 北斗神拳の真髄は極限の怒りと哀しみであるといい、愛を象徴とする。
その極意は経絡秘孔(経絡とは血の流れ、神経の流れで秘孔とはその要。
経絡秘孔は全部で708あり、深く突けば血の流れを異常促進させ細胞を破壊し、
柔らかく押せば体内の治癒力を活発化させる)を突くことで、身体を外部からではなくむしろ内部から破壊することにある。
また、常人には30%までしか使えない人間の潜在能力を100%使い切ることが可能で、それにより超人的な能力を発揮する。
北斗神拳はその凄絶な力と創始者の悲話ゆえに一子相伝とされている。伝承者争いに敗れた者は自ら拳を封じて隠居するか、
拳を破壊もしくは記憶を奪うことによってその拳を使えなくなるようにするという掟がある。
この拳法の創始はおよそ1800年前、三国志の時代に遡る。
まだ小勢力であった西方の浮屠教徒(仏教徒)たちが、群雄割拠する乱世にあり、
その教えを守り生き抜くためにあみだした秘拳であった。
発祥地は修羅の国(中国)西の砂漠にある泰聖殿。修羅の国で古代に発祥した北斗宗家の拳から発展、成立したものらしい。
分派に北斗劉家拳(北斗琉拳)、北斗孫家拳、北斗曹家拳がある。
あまりに凄絶なその秘拳は太平の世には死神の拳法として忌避され、20世紀にはただ伝説として語られるのみであった。
民明書房刊『暗殺拳――その血塗られた歴史――』より




雷電の説明が終わると同時に翼が大声をあげた。
「大変じゃないか!監督が死んじゃう!みんなで加勢しないと!」
その言葉に残りの三人の男は――動こうとしなかった。

「いいか?タイマンってえのは喧嘩の華だ。ガチンコ勝負は邪魔するもんじゃねえよ」
桑原がヤンキーの論理を言い、
「翼、物事は”時”と”場合”と”その人間の覚悟”によって変化する。
今はその全てがこう言っている”手を出すべきじゃあない”」
承太郎もその意見に賛同し、
「左様!今、拙者達に出来ることは塾長を信じて待つことのみ!」
雷電が結論を出した。
ブチャラティは気絶中。
かくして翼の提案は賛成一、反対三、棄権一となり、この戦いに他者は関わらないことが決まった。





江田島とラオウは互いに睨み合っている。その間に言葉はない。

男の勝負に言葉は不要。後は拳で語り合うのみ。

先の先、後の先、そんな小細工など微塵も存在しない。

存在するのは、自分の肉体へ比類なき自信。

それは過信でも妄信でもなく、確信。

「ハァッ!」
最初に動いたのはラオウ。身体をひねるようにして拳を繰り出す。颶風を纏った拳が唸る。

「ヌン!」
受け止めるのは江田島。皮膚筋肉神経全てに気合を入れ、身体全体に力を込める。

激突。

「む……」
江田島の胸を抉りラオウの拳がめり込むが、肋骨を数本砕いただけで拳は停止。突き破るには至らない。

「こんどはこっちの番じゃ!」
その隙を逃さず江田島は繰り出された左腕を自分の右腕で捕まえ、絡め取り固定してラオウに接近。
ラオウは右拳を構えて迎撃態勢。

「わしが男塾塾長、江田島平八である!」
江田島は拳も脚も使わず――その石頭を使っての頭突きを繰り出す。

「何!?」
左のパンチをフェイントにして意表を突いた攻撃に、回避できないラオウ。
二人の頭がぶつかり合い火花を散らす。

「ぐ……」
石頭対決は――江田島の勝利。額から血を噴出させて仰け反るラオウ。

「おまけである!」
すかさず江田島のコークスクリュー気味の左ボディーブロー。
仰け反りつつあったラオウの上体が前のめりになる。

「――」
しかし、頭突きを喰らったとき、既にラオウの脚は動いていた。
無想陰殺。殺気を読み、相手との間合いを見切り、無意識無想に繰り出される必殺の蹴り。

「ぬおっ!?」
蹴撃が江田島の左足に炸裂し、そのバランスを崩す。決定的な隙。

「ウヌの左腕を貰う!」
ラオウの指がボディーブローの為に伸ばされた左腕の秘孔を突く。
捻じ曲がり、断裂し、動かなくなる江田島の左腕。

「いかん!」
江田島の右腕とラオウの左腕は最初の攻防で組まれており、両者とも使用不可。

「終わりだ!」
左腕が使えない江田島の頭に、破壊の権化であるラオウの右拳が迫る。

「まだ終わりではないわ!」
と、ラオウの股間に衝撃。勃起した江田島のムスコが人体の急所を襲撃。

「な!?」
絶対に予想できない攻撃にラオウの右拳の照準が狂う。

「全く、つくづく親孝行なムスコじゃわい!」
その拳を首を捻ることだけで避け、江田島は大きく口を開ける。

「これでおあいこじゃい!」
狙うは自分の右腕を固定しているラオウの左腕。その強靭な顎でその左肘を食い千切る。
要である関節を失った腕はもう使い物にならない。

「おのれ……!」
これで二人とも左腕が使えなくなり、間合いは超至近距離。繰り出される二つの右拳。

「砕けよ!」
「わしが男塾塾長、江田島平八である!」
二人の拳が交差する。渾身の一撃はそれぞれの顔面にクリティカルヒット。
弾け飛ぶ歯、血、肉、骨。

「がっ!?」
「ぐうっ!」
その衝撃に両者とも後ずさる。間合いは中距離。しかし二人にとっては必殺の距離。




共に片腕を失い
満身創痍で傷も深く
いつ死んでもおかしくない出血量
決着の時に辿り着き
確実にどちらかが息絶える段階になって






それでも二人は笑っていた。

まるで戦いを終わらせるのが惜しいかのように。




――天よ、感謝する。ここまでの男を我の前に現れさせたことに――
「北斗――」ラオウの右掌にオーラが集中する。


――これほどの男がまだいたとは――是非男塾に入って欲しいものである!
「千歩――」江田島の右拳に気が溜められる。


二人の間のオーラは既に飽和状態。その均衡が今、破れる。



「剛掌波!!!」
「氣功拳!!!」



衝撃波がぶつかり合い、充満したオーラが大爆発を起こす。

地面の土は吹き飛び、周りの木は根こそぎなぎ倒される。


「翼!伏せろ!」
承太郎はスタープラチナを出現させ、翼を余波からガードする。
桑原、雷電も各々の方法で防御。

余波が去っても土煙が辺り一帯を覆い、周りが何も見えなくなるが、
時間と共に段々と視界が回復してくる。
土煙が晴れ、そこに現れたのは、
地面に穿たれた巨大なクレーターと、未だ対峙し続ける二人の男。

一瞬の静寂。

その静寂を破ったものは、辺り一帯に響き渡ったであろう大声。




「我は世紀末覇者、拳王ラオウなり!!!」

「わしが男塾塾長、江田島平八である!!!」




その大声に、僅かに残っていた樹木の葉が全て吹き飛んだ。
耳を塞ぐ見学者四人。


そして訪れる本当の静寂。

江田島とラオウは対峙したまま、
もうその静寂を破るものはない。


「どうしちまったんだよ一体…」
桑原があまりに動かない二人に疑問を抱く。
「いや待て、あれは……」
承太郎が違和感を感じる。
「こ、これはぁーーーーー!?」
そして雷電が、気付いた。



「し、死んでいる………」



江田島とラオウは仁王立ちのまま、その呼吸を止めていた。
死してなお戦意を失わないとは――まさに鬼人。




「そ、そんなあーーーーっっ!!
監督、一緒にチームを作るって誓ったじゃないかあーーーっっ!!」


翼が号泣する。
折角見つけた監督。チームメイトも集まってきてこれからというところだったのに。
ロベルトのことを思い出す。

――監督はいつもいつも僕を置いてどこかにいっちゃうんだ。
監督の……バカ。


「塾長…見事な大往生でした!!!」
雷電も涙を滝のように流しながら敬礼する。
男として見事すぎる死――――


しかし、その死に様に泥を塗る愚か者が、まだ残っていたのだ。


その愚か者は影のように二人の死体に忍び寄ると、
死体が持っているデイパックを掠め取った。
そのまま逃げ出す愚か者――アミバは走りながら哄笑する。
「ヒャハハハハーーーーー!!!思い知ったか江田島ァ!!!
これが天才たる俺様の策略よおおーーーっっ!!」


うまくいった!この上なくうまくいった!やはり天は俺様の味方だ!
この手で殺せなかったのは多少残念だが、ほとんど俺様が殺したようなものだ!
江田島め、見ているがいい!
これから貴様の仲間を一人一人ジワジワと嬲り殺しにしてくれるわ!
この天才を怒らせてしまったこと、あの世で後悔するんだな!


アミバは走りながら奪った支給品の説明書を読む。


江田島の支給品は人形爆弾で、拳王の支給品は――仕込み盾か!
大当たりだぜヒャアッハーーーー!!
俺様の快進撃は――ここから始まるのよ!


アミバは駆ける、一切合切の不安なく。自分に追い風が吹いていることを確信しながら。





逃げ出すアミバを追いかけようとする者が一人、いや二人。

まず先に駆け出したのは桑原。

――あのヤロウ、まだ生きてやがったか。
漢と漢の真剣勝負に水を差すなんて男の風上にもおけねえ。
やはりあの時トドメをさしておくんだったぜ。ヤロウ、絶対に逃がさねえ!

情と義に厚いヤンキーが卑劣な悪党を見逃すことは、ない。


そして走り出したもう一人は、誰であろう、一般人である大空翼であった。

――いけないなあ、他人の物を盗むのはよくない。泥棒は犯罪だよ!
サッカーで汗を流してサッパリすれば泥棒なんてしないはずだ!
あの身のこなしなら良いMFになれる。
いなくなった監督のためにもキャプテンである僕が頑張ってチームメイトを集めなきゃ!

流石クレイジー翼である。サッカーのことしか頭にない。



「やれやれだぜ」

承太郎は溜息をつき、駆け出した二人を追いかける為にデイパックを背負い直す。
そして背後にいる、今にも駆け出そうとしている雷電に向かって声をかけた。
「あいつらの世話は俺がする。
雷電は家の中で寝ているブチャラティを頼む。あんたには悪いがこの役割分担のほうがいい。
翼の扱いは俺の方が慣れているからな。それじゃあ”また会おう”雷電」
そう言い残すと雷電に背を向け、桑原と翼の向かった方角へと走り出す。

雷電は走り去る三人の後ろ姿を見ながら、心中で塾長に語りかける。


――塾長、どうやら我々はとんでもない仲間を持ってしまったようですな…
あの三つの背中に映るは真の男!
三人とも男塾に入るに相応しい資質を持っている!
あなたが遺していった男塾の精神は、しっかりと受け継がれておりますぞ――


この状況で即座に駆け出す真の男達。その姿に雷電は期待を隠しきれなかった。



『ぐわははははははーーーーー!!塾長死すとも男塾魂は死せずである!!』



果たしてそれは空耳か、雷電には今は亡き塾長の大声が聞こえたような気がした。





【栃木県/二日目深夜】
【アミバ@北斗の拳】
 [状態]:顎骨破砕
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式×6(食料四日分消費)、ジャスタウェイ@銀魂、テニスボール@テニスの王子様(残り2球)
     クリークの大盾(防毒マスク付き、炸裂手裏剣弾残弾5、槍弾残弾不明)@ONE PIECE    
 [思考]:1、夜を生かして殺しまくる。雷電、桑原、翼、承太郎、ブチャラティを優先。
     2、皆殺し。

【大空翼@キャプテン翼】
 [状態]:精神的にやはり相当壊れ気味
 [装備]:拾った石ころ一つ
 [道具]:荷物一式(水・食料一日分消費)、クロロの荷物一式、ボールペン数本 
 [思考]1:アミバをスカウトする。
    2:悟空を見つけ、日向の情報を得る。そしてチームに迎える。
    3:仲間を11人集める。
    4:主催者を倒す。

【桑原和真@幽遊白書】
 [状態]:左肩・背中に銃創(処置済み、戦闘には支障なし)
 [装備]:斬魄刀@BLEACH
 [道具]:荷物一式(水・食料一日分消費)
 [思考]1:アミバを追いかけ、ぶっ飛ばす。
    2:ブチャラティのことが気になる。
    3:ピッコロを倒す仲間を集める(飛影を優先)
    4:ゲームの脱出

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
 [状態]:肩・胸部に打撲、左腕骨折、肩に貫通傷(以上応急処置済み)
 [装備]:シャハルの鏡@ダイの大冒険
 [道具]:荷物一式(食料二食分・水少量消費)、双子座の黄金聖衣@聖闘士星矢、らっきょ(二つ消費)@とっても!ラッキーマン
 [思考]1:アミバを追いかけ、再起不能にする。
    2:悟空・仲間にできるような人物(できればクールな奴がいい)・ダイを捜す
    3:主催者を倒す

【雷電@魁!!男塾】
 [状態]:健康
 [装備]:木刀(洞爺湖と刻んである)@銀魂
     斬魄刀@BLEACH(一護の衣服の一部+幽助の頭髪が結び付けられている)
 [道具]:荷物一式(水・食料一日分消費)
 [思考]1:気絶中のブチャラティを背負い、仲間を追う。
    2:何があっても仲間を守る。

【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
 [状態]:右腕喪失、全身に無数の裂傷(応急処置済み)、気絶、全身の関節が外れている
 [道具]:荷物一式、スーパー・エイジャ@ジョジョの奇妙な冒険
 [思考]1:気絶
    2:首輪解除手段を探す
    3:主催者を倒す

※塾長とラオウの死体は仁王立ちで向かい合ったまま放置されています。
※承太郎・翼・桑原チームと雷電・ブチャラティチームに分かれました。
※MH5の弾は乾の支給品「弾丸各種」の中に入っています。



【ラオウ@北斗の拳 死亡確認】
【江田島平八@魁!!男塾 死亡確認】
【残り57人】

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0318:集う男達 大空翼 0340:大型殲滅兵器“ジーニアス”による被害報告
0318:集う男達 アミバ 0340:大型殲滅兵器“ジーニアス”による被害報告
0318:集う男達 雷電 0340:大型殲滅兵器“ジーニアス”による被害報告
0318:集う男達 空条承太郎 0340:大型殲滅兵器“ジーニアス”による被害報告
0318:集う男達 ブローノ・ブチャラティ 0340:大型殲滅兵器“ジーニアス”による被害報告
0318:集う男達 桑原和真 0340:大型殲滅兵器“ジーニアス”による被害報告
0318:集う男達 江田島平八 死亡
0319:東京交差点~男と女~ ラオウ 死亡

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最終更新:2024年06月20日 12:12