0363:帰結する復讐心





 見覚えのある風景だった。馴染みがあるという意味ではない、単に来たことがあるというだけだ。
 しかし――忘れもしない場所だった。
 岡山県、北西。あの主催者達の間から放り出されて、最初に降り立った地点。
 ゲーム開始から丸一日が経過した今になって、再びこの景色を眺める羽目になるとは思っていなかった。
 周囲に視線を配ってみたが、あの男に渡してやった支給品も見当たらない。手元にあるのは、存在を隠していた盤古幡と二つの首輪のみ。
 振り出しに戻った。そういう訳だ、分かりやすい――

 怒りのあまり食い縛った歯が、ギリ、と小さく音を立てた。
 飛ばされてきた方向である、東の空へと視線を向ける。朝日が昇り始めていたが、そんな事は今どうだっていい。
 藍染惣右介という男にとって、これは紛れもない屈辱だった。死神の自分が使うには妙な言葉かもしれないが、恐らく人生で最大の。
 何の力も持たない人間。一度自分が刀を振るうだけで、その生涯に幕を閉じることが出来るような人間に――
 ――してやられたのだ。


 ぱひゅーん


「…………」

 ……認めたくはない、が。
 今回の事は、『人間界最高の頭脳』を侮っていた私の落ち度だ。
 事実へと目を向けよう。支給品の大半という、実に高い授業料を払わされたのだから。
 私はそこから、学ばなければならない。そして学んだ事は、次に活かさなければ。
 藍染は視線を虚空から外して、近くにあった一本の大木へと背中を預けた。
 冷静な思考は、一分もしない内に戻ってきていた。


 現状を整理してみよう。
 L達の手へと渡った支給品は、雪走、核鉄、そして斬魄刀。
 どれも手痛い損失だ。特に、斬魄刀を失ってしまったのは厳しい。『鏡花水月』の発動に、あれは必要不可欠なのだから。
 手元に残った盤古幡は確かに強力な支給品だが、体力の消耗が激しいというデメリットが存在する。あまり多用はしたくない。

 次に、計画の実行に当たって。岡山の地へと飛ばされたことで、琵琶湖への到着は更に遅れることになってしまった。
 志村新八と越前リョーマ。あの二人はいい加減、琵琶湖に到着してしまっているだろう。
 一向に現れない自分へと業を煮やして、既に計画を見限っている可能性もある。
 琵琶湖における脱出の実験――破棄、とまではいかないが、彼ら以外の新たな人材を起用することも考えておいた方が良さそうだ。

 肝心要の、今後の身の振り方。
 今の自分が成すべき事は、斬魄刀の再入手と、あのダイという少年を始めとした、主催者達の能力を知る参加者の捜索。
 早急に行わなければならないのは、居場所が知れている前者の方であろう。
 当然向こうも、こちらの狙いを見越して移動を開始している筈だ。行動を起こすなら、早い方がいい。
 今度の接触は、友好関係を築くためのものでも、相手を利用するためのものでもない。
 Lは既に、己が看破したこちらの意図を仲間達へと話してしまっているだろう。小早川瀬那は当然のこと、弥海砂に対しても。
 要するに、今の彼らは、藍染にとっての敵でしかないのだ。敵を野放しにしておく理由など、一つも存在はしない。
 藍染惣右介は、L達を殺すためだけに、彼らを探すのだ。
 弥海砂が『死神の眼』を持つだけの少女である事は既に知っているし、
 残る二人の身体能力も、大蛇丸趙公明といった常人離れの物ではないことは一目で理解出来た。始末するのは、容易い。
 斬魄刀の奪還、そして邪魔者の排除を同時に行える、実に理に適った選択だ。何より――


 ――私自身、このままで済ます気など毛頭もないのだよ、L。



 藍染惣右介は、己の心に忠実な人間だった。
 殺し合いという舞台の上でも、彼は溢れる探究心に基づいて、様々な世界の能力を、存在を求め続けていた。
 その彼が、己の中で渦巻いている最も大きな優先事項――"復讐"という名の目的意識に駆られ行動する事。
 それは、当然の成り行きだったのかもしれない。



 死神の鎌は首を探す。斬り落とすべき首を探している。

 新世界の神が命を落とした世界になっても、正義の傍へと『死神』の影はちらついている。

 正義が鎌を跳ね除けられるか、再び命を断たれるか、或いは二度と、それらが相対する事などないのか。

 その答えは、知れない。





【岡山県北西(藍染のスタート地点)/黎明】

【藍染惣右介@BLEACH】
[状態]やや疲労(睡眠により回復、盤古幡使用可能)
[道具]荷物一式×2(食料残り約5日分)、盤古幡@封神演義、首輪×2
[思考]1:L一行を探し出し始末、斬魄刀を取り返す。
   2:興味を引くアイテムの収集(キメラの翼・デスノート優先。斬魄刀の再入手は最優先)
   3:ルーラの使い手、バーンと同世界出身者を探す
   4:能力制限や監視に関する調査
   5:琵琶湖へ向かう(斬魄刀を手に入れてから)
   6:琵琶湖に参加者が集まっていなかった場合、新たな実験の手駒を集める

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351:藍染VSL 藍染惣右介 363:[[]]

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最終更新:2024年06月25日 22:35