0364:狂殺万華鏡





もう間もなく二度目の陽が昇る。

この世界の太陽は残酷である。
夜が来れば、より殺戮は進むというのに――構わず沈む。
朝が来ればその深い悲しみが嫌応なく親しかった者たち全てに知らされてしまうというのに――構わず昇る。

太陽は全てを照らす。それが仕事なのだと言うならば、嘘も甚だしい。
この世界の太陽は、悲哀の影を生み出すためだけの存在なのだから……


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その名を体現するかのように、飛影は闇の中にある町を軽やかな影の如く進んでいた。

アビゲイルに他県に飛ばされてしまった事など気にも留めていない。
そもそも彼はただ強い者と戦う事を望んでいるだけなのだ。相手の生死など気にも留めぬ。アビゲイルが憎くて戦った訳でもない。
――出来るならばあれ程の強さを持つ者、再戦の機会があればそれに越した事はないが…無いなら無いでそれもまた巡り合わせ。
飛影はまた新たな強き者を探すだけなのである。


「……そういえば……」

ふとある事を思い出して道路脇で足を止める。
アビゲイル戦で武器を失って、飛影にとってその意義は食料を収めるためだけの袋になっていたデイバックを久方ぶりに開け、
中から参加者名簿を取り出し久しぶりに眺めてみる。

「あの馬鹿はまだ生きてるんだったな…」

死者の名前に印を付けている訳ではないのだが、記憶を辿ってみる限り、その人物――桑原和真が放送で呼ばれた記憶は飛影に無かった。
桑原に関して特に感慨は無い。死んだら死んだでそれまで。
幽助亡き今、自分を知る者は桑原だけになった事を思い、初めて少しだけ桑原の事に考えをやる。

(幽助さえ簡単に死ぬこの世界…奴にはもしかして、実力のある仲間がいるのか?)

飛影が戦った桃やアビゲイルも自分と肉薄する実力の持ち主であった。
もし戦ったのが自分でなくあの馬鹿な人間ならば、まず間違い無く負けて死んだのは桑原の方。
ならば未だ生き延びている桑原には、もしかしたら強い仲間がいるのかもしれない。

(そもそも奴は馬鹿正直だから、お人好しな奴なら仲間に引き込むのは得意だろうしな)

桑原の気性を考えるなら、ゲームを隠れてやり過ごそうなどとは考えない正義感だけは無駄に強い男であるのは飛影も知っていたし、
ならば放送で聞いた『四国と九州にいるゲームを隠れてやり過ごそうと企む者たち』の中にもおそらく桑原はいないだろうと考えられる。

(……探してみる、か……)

それはただの気まぐれ。
手掛りもゼロ、別に見つからなくとも問題は無い。
しかし、強い敵を探す以外これといった目的もなく、
そのちょっとした行為が、今までの戦いより更に楽しめそうな戦いに繋がるかもしれないのならば、それもまたありかもしれない……
飛影はそう結論付けた。

無意識に薄く口元に笑みを作り再び移動を開始しようとしたその瞬間、ふと芽生えた今の“らしくない”自分の感情に気付く。

(…フン…感傷などない。奴を見つけたとしても、あいつの仲間を殺す事になるんだ、俺は…)

まるでその不要な感情を無理矢理押し込めるように、自らを諭すかのように、虚空を睨みつける。

そして再び飛影は走り出す。その空虚な心を満たしてくれる存在を探すために――


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「――クソ!クソッ!クソォオッッ!!!」

――吠える。
行き場無く我が身の内で暴れ狂う…怒り、苛立ち、憤り。
それらをぶつけるかのように、草木を燃やす。枝を叩き折る。岩を蹴り飛ばす。
理由など無い、それはただの無駄な行為。

「クソガアアアァッッ!!!」

千切れ飛んだ葉がひらひらと舞い踊る。

「あんなクソガキどもに…この俺様が…またしても…ッ…!!!」

その怒れる異形の者の名をフレイザードと言う。
三時間ほど前にあったボンチュー・ルキア戦は、フレイザードの心に大きな『しこり』を残す結果に終わった。

「北海道での決闘(デュエル)野郎……ピッコロ……麦わら小僧……ルキアとかいうしつこいメスガキ……黄金聖衣とかのあの男……!」

頭の中に現れては消える、その憎々しい対象たちの姿。
過去、フレイザードに“恐怖”を与えてきたその者たちの、勝ち誇る笑い声に囲まれているような幻が脳裏に焼き付いて離れない。

「俺は戦うのが好きなんじゃねぇ………“勝つ”のが好きなんだよオッッ!!」

怒りのまま、己の胸にかかるメダルに手を掛け、己の体に巻き付いている鎖ごと強引に引き千切る。

暴魔のメダル――
この世界で手に入れた物ではない、唯一フレイザードが最初から所持していた自身の持ち物。
何の役にも立たない、ただ、フレイザードの過去の栄光を示すだけの代物である。

ただの雑魚であったはずの、ちっぽけな二人の人間。
その者たちから“恐怖”という屈辱を与えられたという有り得ない事態に、フレイザードは燃え盛る暴火のごとき憤怒を抑えきれないでいた。

結果としては、完全に負けた訳ではない。
あの二人との戦いではリスクを省みない博打技でピンチは脱したが…なにせあのようなハデな大技、
彼らの仲間たちがそれを察してすぐにでも救援に現れてしまう可能性も高く、あの後二人の生死確認は出来ずにすぐ退却した。
ルキアもボンチューもすでに息絶えていた可能性はある。それならば敗者は死んだ彼ら、勝者は生き長らえたフレイザードとなるはずである。

しかし……彼にとって、重要視されるのはそこではない。
何より彼をここまで苛立たせているのは――
未知の力を持つ勇者でもなく、恐るべき高みにいる大魔王でもない…
ただの脆弱な人間などによりここまで幾度となく苦汁を舐めさせられてきたという事実の積み重ねが、フレイザードの逆鱗に触れてしまっていた。

「俺様は確実にここでどんどん強くなっている!今の俺ならば、例えあの魔王ハドラーであってもいい勝負……
いや!もはやハドラーすら凌駕しているはずだぁッッ!!!」

――吠える。

遠き天に向けてその自信を力の限り示し、フレイザードは立ち尽くす。

「ハァ…ハァ…」

いや、本当は彼も気付いていた。
幾度も激しい命のやり取りをこの舞台で経て、
通常の訓練などでは考えられない膨大な経験値をこの短期間で一気に得ている実感があり、
それによりみるみる成長出来ている手応えを自身が感じている今…それは当然の事。

――周りも、そうなのだ。

最初に会った時のルキアなど、ただの雑魚Aとでも言うのか、完全な狩られる側の弱者であったはず。
それがどうだ、あの変貌ぶりは。
…あの戦いぶり、もはや立派ないち戦士のそれである――

「ハァ………ハァ………」

すでに生存者は半分以下。これまで生き延びてきたという事は、生存者は皆それなりに大なり小なり命を賭した戦闘を経ているはずなのだ。
しかも仇敵勇者ダイはまだ死んでいない。もし勇者もめきめき成長しているならば、優勝はさらに遠くなるかもしれない。

――だったら…――

氷炎将軍……炎のような狂暴性と、氷のような冷静な狡猾さの二面性を合わせ持つ悪魔。
怒りのままに叫び荒れていたのも…それゆえ。
あまりにも膨れ上がってしまった憤怒――炎側の感情を、氷側の思考が対応した、つまり、発散させたのだ。

「だったら……強い奴らに、潰し合ってもらおうじゃねえか…!」

ようやくバランスの取れてきたその頭が、一つの結論に達する。
フレイザードの今一番の危惧は、勇者ダイと………ピッコロ大魔王。
あの忌々しいピッコロとはいずれ戦わねばならない定め。
ピッコロに対する対策もずっと悩んでいたが、これなら勝てる確率がグンと上がる。

『ピッコロをダイに引き合わせる』

もし二人が戦いになれば、どちらが勝とうが確実に無傷では済まない。そうすれば後は残った方を潰すだけだ。
二人が遭遇するまでの間にピッコロが自分に牙を剥く危険は確かにあるが、どうせいつかは戦らねばならぬのだ。これは賭け。

少し前に一人で隠れている所を世直しマンに見つかってしまったような不本意な由々しき事も、二人で行動していれば避けられる確率が上がる。
不慮の戦いになってしまっても、もちろんピッコロをけしかけて捨て駒にする事も、
少しでも弱らせるための…あの前世の実を使わせる機会を増やさせる事も出来る。
ならば取る道は一つ。

「戦いが好きなんじゃねぇ………勝つのが好きなのさ!最後に立ってた奴が勝者、ってなァ!ヒャハハハハハハハーーッッ!!」

フレイザードは歩き出す。進路は北、ピッコロとの合流予定地点へ。
フレイザードが姿を消してのち、その誰もいなくなった荒らされた場には醜く握り潰されたメダルだけが残されていた――


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――朝が近くなり、小さくさえずる小鳥の声にピッコロは目を開ける。

深くダメージを受けた体の回復に完全に集中するため、あの後長い時間微動だにせず身を休めていた。
元来の回復力も手伝い、体力はなんとかほぼ本来の値程まで戻りきっていた。

「……フレイザードめ……来ぬつもりか……?」

白ばみ始めたまだ暗い空に視線をやったまま、ふと小さく呟く。
放送で呼ばれなかった事により、フレイザードの生存は間違い無い。
しかしこれだけ待っていても一向に姿を現す気配もないフレイザードに対して、少なからず苛立ちを覚えていた。

(フン……24時間も猶予を与えたのは間違いであったかもしれんな。体はもう十分回復出来たしな……)

湖に映る自身の姿を見つめつつ、無表情のまま考えを巡らせ始める。

フレイザードがまだ生きているならば、姿を見せないのは何か理由があっての事かもしれない。
あの麦わらの小僧どもにこっぴどくやられた体の回復に時間がかかっているのかもしれない。
そうでなくとも、あれからまた違う戦闘を行っているため遅れているのかもしれない。

奴ならばおそらく、傷付いた体のままこのピッコロ大魔王の前に姿を現すのは避けるだろう。
ならば到着が遅れているだけの可能性は高い。

「クックックッ……このピッコロ大魔王が優勝最有力候補なのは、奴自身の体がよく知っているはずだしな…!」

――まさか逃げる訳もあるまい。奴もそこまで馬鹿ではあるまい…

ピッコロはフレイザードを遥か上の天から見下ろしているような気分に浸りながら笑いを噛み殺す。

もし逃げたなら、自分が不利になるだけ。
フレイザードが後々まで一人で生き延びたとしても、再び相対した時にボロボロの満身創意では話にもならない。
ならば多少の危険を伴ったとしても、行動を共にして利用しようとした方がまだ希望が見える。
実力差は明白、そうするしかフレイザードに勝ち目はない。

「クックックッ……なら、もう少しだけ待ってやるとするか……」

フレイザードは必ず来る、とのある種の確信を抱き、再び瞳を閉じる。
間もなく流れる放送にフレイザードの名前が入っていなければ、確実に合流は成る。そう確信する。

(……合流したら、例の蒸気機関車とやらで島の中央に向かうのも悪くはないか……
これだけこの場に留まっていても誰も通らぬのだ、すでに生き残りは中央に集まりつつあるのかもしれぬしな……)

朝の穏やかな空気に身を任せたまま、ピッコロは再びその空気に体を溶け込ませていった――


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笑う。泣く。嘆く。走る。etc…etc……
一つ一つが違う色、違う模様のカケラたち。
どんな模様に見えるのかは見る度に移り変わる。

全てを見通し、その様々な生のカタチを一度に堪能する。
まるで、そう――万華鏡のように。


その場所は、常に慌ただしく動いていた。
このゲームの参加者たち全ての首輪から得られる音声データ等を一同に取り扱う、主催者側の要の施設の内の一つとも言えるような、その小さな部屋。
兵士たちが常に忙しなく働き続けているその後方――バーンは壁に背を預けたまま、瞳を伏せて佇んでいた。

「…………」

兵士たちの働きを見ているのではない。中央モニターに次々と浮かんでは消えていく文字や数字の羅列を眺めているのでもない。
ただ、聞いていた。
参加者たちの断末魔、嘆きの声、小細工の様、そして笑い声を――

「……フリーザ王、何の要件かな?」
「フフ……さすがバーンさん。こんな所にいらっしゃったのですか」

バーンの横の出入り口の向こう側。
音も気配も無くいつの間にかその向こうに立っていた人物の気配を見る事もなく察知し、
姿勢を変えぬまま視界にも入れず、バーンは小さく声だけ発する。
気配を殺していたフリーザはその言葉に少し驚いたかのように小さく笑みをこぼすと、
穏やかな笑顔を浮かべてゆっくりと部屋に足を踏み入れ、バーンの隣に立つ。

「いえいえ、そろそろ放送の時間も近いですので…バーンさんを探していただけですよ」
「そうか……」

バーンの返事を聞き、モニターを眺めたまま満足げに口を閉じるフリーザ。

「……………おやおや、確かこの大きな声は、あなたの部下だったフレイザードさんの物ですね…頼もしい限りです。フフフフ…」
「フ……最後に立っていた者が勝者…か。確かにその通りだな…」
「フレイザードさんが優勝した暁には、さぞあなたも鼻がお高いでしょう。
優秀な部下をお持ちのようで、羨ましい限りですよ、ホホホ…」
「余はそう簡単にもいかないと思うがな?フリーザ王」
「……と、おっしゃいますと?」

横目でバーンのその静かな表情を窺うフリーザに、バーンは顔を上げて小さく口を開く。

「……ゲームに抗う者たち……」

そう呟き、どこか遠い目をして前を見つめるバーンに視線を向けた後、クク…と笑みを漏らして俯く。

「無駄ですよ、無駄。可哀想ですが、彼等には脱出する手段も首輪を解除する方法も、絶対に得られないんですから」
「………」

バーンは返事をしない。遠い目をしたまま、兵士たちの事務的な声が飛び交うのみ。

「バーンさんも心配性な方だ、フフ……さて、では参りましょうか。
ハーデスさんは既にいらっしゃってましたから、あまりお待たせしてしまってもいけませんからねぇ」
「…そうだな、では参ろうか、フリーザ王…」

壁から背を離し、フリーザの後に続いて部屋を後にする。

「“種”は芽吹きつつあるが、な……」

「……?……何かおっしゃいましたか?バーンさん」

フリーザが足を止め振り返った先、瞳を伏せて俯くバーンの姿。

「………いや、何でもない、独り言だ」
「…そうですか。フフ、おかしな方だ」
「………」


特に気に留める事も無く、再びフリーザは歩き出す。

――二日目の朝の放送は、もう間もなく。





【滋賀県/早朝】

【飛影@幽遊白書】
[状態]全身に無数の裂傷
[道具]荷物一式
[思考]1:強いやつを倒す
   2:桑原(の仲間)を探す
   3:氷泪石を探す(まず見つかるまいし、無くても構わない)


【山形県/早朝】

【フレイザード@ダイの大冒険】
[状態]ダメージ・疲労共に大(前回戦闘時よりはやや回復)、氷炎合成技術を実戦経験不足ながらも習得
[装備]霧露乾坤網@封神演義、火竜鏢@封神演義、核鉄LXI@武装練金、パンツァーファウスト(100mm弾×3)@DRAGON BALL
[道具]荷物一式
[思考]1:ピッコロと合流し、ダイへけしかける
   2:氷炎同時攻撃を完全に習得する
   3:優勝してバーン様から勝利の栄光を


【秋田県、田沢湖湖畔/早朝】

【ピッコロ@DRAGON BALL】
[状態]ほぼ健康
[道具]荷物一式、前世の実@幽遊白書
[思考]1:フレイザードを待つ
   2:合流後に機関車でミニ日本中央部へ向かう
   3:世直しマン・イヴ・悟空を殺す
   4:フレイザードを利用
   5:主催者を殺す

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306:静夜のシ者~アビゲイルvs飛影~【下】 飛影 391:京都時雨案内
297:ピッコロ大魔王の世界~相×剋~ ピッコロ 379:雪の陣~memento mori~
340:フレイザードの世界~いつか勝利の旗の下で~ フレイザード 379:雪の陣~memento mori~

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最終更新:2024年07月15日 08:18