0390:魔翼飛翔
小早川セナ。
泥門高等学校所属一年生。15歳。12月21日生まれ。
身長155cm。体重48kg。血液型A。
以前は、泥門デビルバッツのRB『アイシールド21』の正体であるという秘密があったが、
その秘密も仲間に明かし、現在は胸を張ってエースと言える存在となっていた。
引っ込み思案だった性格を変えた、元イジメられっ子の男の子。
どこにでもいる、普通の高校生。
少し気弱でおとなしい、アメフト好きの少年。
人殺しの運命などとは無縁である、平和な日本の学生。
それが、
どうして今、
(こんなことになってるんだろう)
がちっ
歯が強く噛み締められ、ギリリ、と耳障りな音が響く。
間接が軋み、カタカタと鳴っている。
別れ際にミサに見せた、虚勢の笑顔は消え去っていた。
恐怖だけでは、こうはならない。
想像だけでは、こうはならない。
『現実』の重みが腕を押さえつけ、駅のベンチから小早川セナが立ち上がることを妨げている。
鈍く輝く、無骨な凶器。
人殺しの道具は、小早川セナの腕の中に静かに存在していた。
(僕は、今から、この散弾銃で、Lさんを、殺す………… 殺 す ……)
カタ カタ カタ
全身の骨格が震える。
『人を殺す』
思うまでは簡単だ。「ブッ殺す」なんて誰にでも言える。試合前に皆で言ったことだってある。
だけど、実行するとなれば、それは完全に別の話だ。
人一人の人生を終わらせる行為を、どうして簡単に決意することができるのか。
それが簡単に出来る者は、既に人間を辞めている。
人間の義務を、辞めている。
感情という爆弾で『人間』を粉々に破壊している。
或いは快楽で。或いは怒りで。或いは悲しみで。
或いは、大切な人を護るための情愛で。
人は人を殺す。
「殺そう」と思って殺す。
しかし、小早川セナには足りていなかった。
理性を吹き飛ばす程の感情も、
何より、人を殺す『決意』が圧倒的に足りていなかった。
ガシャン
掌に湧いた大量の汗によって、少年の手がショットガンを支え損ねた。
人殺しの凶器が駅のホームに滑り落ち、鉄が擦れる音が駅舎に響く。
無人の駅には、ショットガンと少年だけが存在している。
手から滑り落ちた凶器を、小早川セナは呆然と見ていた。
少年は動かない。
凶器を、ジッ、と見つめたまま動けない。
怯えという名の魔物に取り憑かれた少年の肩には、見えない重石が乗っている。
足の震えは大きくなり、涙までが頬をつたう。
気弱でおとなしい少年は、遂にショットガンから目を逸らし、両目を閉じた。
(このまま、逃げてしまおうか)
ミサさんとの約束は守れないけど、僕は――
アメフトの道へと自分を引き込み、その楽しさを教えてくれた蛭魔妖一。
常に努力を怠らない、再戦を誓った最強のLB、
進清十郎。
頼りになる剣客。また、命の恩人である緋村剣心。
火影を目指すと目を輝かせていた、
うずまきナルト。
瞼の裏に何人もの顔が浮かぶ。
死んでいった人間の顔。
死んで欲しくなかった人の顔。
息を大きく吸った後、目を見開く。
(逃げる?違う!)
ガクガクと震える膝でベンチから立ち上がる。
(勝つんだ!運命に!)
地面に落ちたショットガンを恐る恐る掴み、抱き締めるように抱えこんだ。
そのまま、おぼつかない足取りで出口へと向かう。
(まもり姉ちゃん、ごめんなさい)
心の中だけで姉のように慕っていた女性に謝る。
僕、今から人を殺します。
最悪な運命を打ち破るために。
Lさんの言葉を無視して、四国に仲間を助けに行けなかった罪を贖うために。
皆のために。
皆を生き返らせるために。
今から、人を、殺します。
駅の出入口へと足を進める。
意味無く声を潜め、足音を殺しながら。
その間も小早川セナの手は震えていた。
怯えを無視して無理矢理動かした身体はぎこちなく、
その決意は、虚勢とごまかしで塗り固められたまがい物でしかなかった。
人を殺す決意など、一介の学生がそう簡単にできるものではない。
強がりで人を殺すことなど、無謀以外のなにものでもない。
それでも少年は前に進む。
勇気を振り絞り、一歩一歩地面を踏み締めて。
身体を動かせば覚悟は決まると信じて。
足は、まだ震えていた。
【大阪府・駅舎内/2日目・午前】
【小早川瀬那@アイシールド21】
[状態]:顔面に軽傷、精神不安定(重症)
[装備]:ショットガン
[道具]:荷物一式(食料残り1/3)、野営用具一式
[思考]1:Lを殺す。可能であれば、パピヨンとポップも殺害。
2:ドラゴンボールを信じて、より多くの参加者を減らす。
3:まもりとの合流。
4:ピッコロを優勝させる。
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最終更新:2024年07月15日 06:45