0391:京都時雨案内





主催者たちの予告通り雨が降り始め、無人の古都の景色をいっそう暗いものに変えていった。
遠くで汽笛が聞こえる。上りの機関車が京都駅を発し、名古屋方面に向かうのが見えた。窓が破損して見えるのは気のせいだろうか?
大分縮小されているが京都の町並みは残っている。どういう理由かは不明だが有名な建造物は残っている事が多い。
古来より京都は権力者たちの争いの場であった。ある者は権力を、ある者は経済力を、ある者は武力を持って覇権を競い合ってきた。
今現在古都に降る雨はつわもの共の血と汗と涙なのだろうか? それとも志半ばで倒れた参加者のものなのか? 京都の風景は無言を返事とする。

(どうやら桑原和真はまだ生き残っているようだな。ピッコロと、そしてアビゲイルも・・・・!)
定時放送を聞いた飛影はただそれだけ感想を抱いた。
飛影は桑原をあまり評価していない。人間にしてはやるな、そのくらいの認識だ。
しかしその桑原が生き残っている現状から、彼が実力者と組んでいる可能性が高いと考えられる。
桑原だけではない。かつて不覚を取ったピッコロと、そしてアビゲイルも生き残っている。
エリア封鎖が端から迫っている以上、遠からず彼らと再遭遇するだろう。
機関車に乗ってきても駅で待ち構えていれば逃すまい。
桑原やピッコロら以外の者でも情報源になる。場合によっては武器が奪えるかもしれない。
浦飯幽助が死亡した今、内容はともかく目的ができたのは僥倖だ。
市内に入った飛影が真っ先にすべき事は拠点、スナイプポイントの確保だ。
こちらから一方的に相手を補足できる監視所、いうなればスナイパーが目標の狙撃かつ反撃を受けずに行える場所――
――もっとも探す手間も無く“それ”は姿を現したのだが。
京都タワーに登れば市内を一望できた。今は時雨に染まった古都の風景しか見えないが、侵入者があれば即座に補足できる。
スナイプポイントを確保した飛影はふと、ついさっき見た光景を思い浮かべた。
京都タワーで監視を始めた直後、兵庫県方面にて落雷発生を見た。
妖怪である飛影には、稲妻が妙に人工的であり(人工空間内の現象に言うのも何だが)、自然にできたものではないと感じる。
(兵庫県に術者がいる・・・・稲妻を操る、か)
邂逅が楽しみだ、と軽く笑みを浮かべた。
落雷を発生させた輩が京都に来るとは限らないが、西にいるのが確認できたのは十分な収穫である。

京都タワーに居座って数時間、市内には誰も足を踏み入れてはこなかった。雨を避けて移動を自粛しているとも思われる。
遠く北に微かな気配を感じないでもなかったが、ピッコロアビゲイル戦の負傷を回復させるのを優先させた。何より遠すぎる。
もう下りの機関車到着まで1時間を切っている。
また次の放送次第では京都に留まるか、それとも東西どちらかに移動する必要もありうる。
(・・・・うん?)
そろそろ駅に移動しようか、と思っていた時である。
西から市内に向かってくる人影を発見した。奇遇にも京都駅を目指しているではないか。
数時間ぶりに飛影は動く。複数の目的を果たす機会に向かって。


「ハア、ハア、んもうヤになっちゃう!」
京都駅構内、弥海砂は乱暴にも板切れを放り投げた。乾いた床に板切れが跳ね、これまた乾いた音を立てる。
大阪で小早川瀬那と別れた後、東へ向かった。
Lは完全封鎖前に九州、そして沖縄の確認を目指しているから逆に東へ向かえばいいと考え、とりあえず京都を目指したのだ。
彼女は関西方面出身なので地理には明るかった。
途中で雨に降られため仕方なく板切れを拾い傘代わりにして京都までたどり着いた。
女優兼アイドルの彼女にはちょっとカッコ悪い屈辱である。
一息ついて時計と時刻表、斗貴子に譲ってもらった真空の斧を確認し、ふと大阪の方角を振り向いた。
「セナくんはうまくやってくれたかな~?」
ドラゴンボールによる死亡者の復活とピッコロの優勝には、Lが反対するに決っている。
セナに殺害を教唆し、彼は一応それを了承したが、Lの他にもパピヨンという変態とその仲間がいる。
L殺害の可能性は低いと考えざるをえない。
「まあいっか、まだ手段は残っているし」
彼女の作戦はこうである。
上り列車に乗ったキン肉マンは列車内で包帯グルグル巻きの男(志々雄真実)と対決、
勝負の如何に関わらず、名古屋で乗り換え大阪に戻る手筈になっている。
またセナがL殺害に失敗したならば、自分が教唆したと発覚するのは明白である。
もし勝ったのが包帯男ならばさっさと京都を去る。これが手間も最小限で理想的ある。
逆に勝ったのがキン肉マンなら合流するフリをして隙を見て殺害、包帯男に罪を着せる。
多少リスキーだが、女優である自分なら演技で騙し通せる自信がある。
立会人としてパピヨンの仲間が乗り合わせているはずだが、ヘタレっぽかったので問題無いだろう。
脱出も機関車は遅いので飛び降りるのはそう難しくない。
どちらに転んでもLはキン肉マン(+ウソップ)殺害を包帯男の仕業と見て敵視するはずである。
志々雄は生き残っている限りL、場合によってはパピヨンも敵に回し自分への注意は分散され時間を稼げる。
全てが発覚した頃にはどこか遠くへ高飛びしており、どうすることもできまい――――
「・・・・おい、女」
突然の闖入者にミサの脳内作戦会議は中止された。心臓が飛び出しかかったが杞憂であった。
振り向いた方向には黒尽くめの少年がたたずんでいた。

「女、いくつか聞きたい事が――――!?」
闖入者飛影の台詞は旋風に遮られた。照準はメチャクチャであり難なく避ける事ができた。肌を撫でる強風が妙に心地いい。
ミサは反射的に真空の斧を振るった。女の腕力で振るうには重かったが、風の魔力がそれを補った。
発生する旋風が吹き荒れ、板切れすらも空中へと舞おうとしている。
「ほう、風の術が付与してあるのか。面白い」
旋風が駅構内の壁を削るが崩壊させるにはいたらない。
飛影も自身の身体能力とミサのヘッピリ腰のせいで、致命的一撃を避け冷静に相手を観察できた。
何度目かのスイングで先程から吹き飛びそうだった板切れが舞った。
板切れはミサの前方斜め上方へと飛翔し、それに合わせて飛影も柱を蹴り、板切れの上空を押さえミサに向かって蹴り飛ばす――――
只の板切れ如きが飛影の蹴りに耐えられるはずも無い。板切れは砕け、破片と化しミサへと降り注ぐ。
とっさに両腕で頭を覆ったお陰で、手を少し切ったが頭部には影響はなかった。我に返り周囲を見渡すが飛影は姿を消していた。
「・・て、何なの・・・・アレ? あの子は何処へ・・・・ッッ!?」
鈍い音と共に右腕が後ろ手に捻られた。あまりの激痛に真空の斧が滑り落ちる。
「ちょ・・・・やめ・・・・痛い・・・・!」
「いくつか聞きたい事がある。虚言は勿論、黙秘も許さない。正直に答えなければ・・・・分かっているな?」
ミサからの返答は無かったが首を縦に振る動作を了解と取る。
「桑原和馬という男を知っているか? 髪を茶色に染めた、年齢は・・・・お前と同じくらいだ」
「し、知らない・・・・会わなかったし、名前を聞いた事もない・・・・」
「そうか。ではお前の名前は? 仲間がいるならそいつ等の事も話せ」
「私は弥海砂・・・・仲間とは大阪でケンカ別れしてきたの。Lって覚えてる? あいつとキン肉マンっていうパンツ一枚のレスラー」
セナの事は言わなかった。L殺害に成功していれば今後も利用できそうな隠し玉だ。虚言、黙秘の禁止にも接触しないと考えた。
「大阪と言ったな? 数時間前列車が停車したはずだが誰か乗っていたか?」
「パピヨンっていう蝶仮面の変態とその仲間が二人いて、一度大阪で降りたけど一人は名古屋へ向かってった。
ねえもういいで・・・・ウグゥッ!」
軽く小指を捻った。骨折する心配は無いが相当堪えるはずだ。
「質問の途中に余計な口を叩くな。続けるぞ、兵庫県で大きな落雷があったがその被害の状況は?」
邪推されたくなかったのでブラフも含めて誰かが稲妻の術を使った事実は伏せた。
「知らない・・・・そっちの方には行ってない」
「最後の質問だ。氷泪石という首飾りは?」
「・・・・知らない」
「・・・・フンッ」
ミサの右腕の戒めを解くと飛影は乱暴に突き飛ばした。
3、4歩よろめいたもののミサは何とか転ばずに体勢を整えた。
振り向くと飛影はすでに真空の斧を拾いあげているところだった。
「斧・・・・返して。それないと」
「失せろ。殺されなかっただけ幸運だと思え」
ミサを振り返らずに飛影は下りのホームへ向かう。
既に彼にはミサへの興味は失せた。相手にするどころか殺すのも面倒なだけだ。
「アイタタ・・・・え、ちょっ・・・・待ってったら!」
右腕の痛みを堪えてミサは飛影を追う。大阪から強行軍した上、飛影との戦いで消耗しているので差は容易に縮まらない。
人数減らしの途中で倒れるのは覚悟していたが、自分の意志は誰かに継いでもらわなくては死に切れない。
やっと追いつく事ができたのは飛影がホームのベンチに座っている頃だった。
下りの機関車が来るまでは約10分くらいある。ミサは恐る恐る空いている飛影の左側のベンチへ座った。
「失せろと言ったはずだ。それとも死にたいのか?」
「ううん、ホントは死にたくないけど脱出するには一回は死なないといけないらしいから」
(うざい女だ・・・・)
飛影は徹底無視を決め込んだ。
「その斧はあげる。でも代わりに私の話を聞いてくれても罰は当たらないと思わない?」
(よく言うぜ、いきなり襲いかかってきたクセに)
ミサの物言いには呆れ返ったが無視し続けた。
「あのね、死人も生き返るドラゴンボールっていう不思議なアイテムがあって、ピッコロっていう人が使えるの」
ピッコロ――――! 意外なところで聞く名だ。
そういえば先程尋問した時は、西日本にはいないと考えピッコロアビゲイルの事は聞かなかった。
「おい女、今ピッコロと言ったな!? ヤツは何処にいる!?」
尋問で痛めつけた右腕を再び捻る。返答の変わりに悲鳴が返ってきた。
「痛い痛い痛い・・・・! 話す、話すからお願い、腕を放して・・・・!」
「ちっ・・・・」
突き飛ばしはしなかったがまた乱暴に腕を解き放った。
「言え、隠し事は無しだ!」
2回も捻られた右腕をさすりながらミサは答える。
ピッコロ本人には会った事はないの。
ただドラゴンボールってアイテムがあって、それを使えるのがピッコロだって聞いただけ・・・・て、信じてくれる?」
「・・・・続けろ」
「それでね、その人を優勝させてからドラゴンボールで死んだ人たちを生き返らせれば全部解決できるのよ。
どお、グッドアイデアで・・・・ねえ?」
最後まで聞く必要はなくなった。さっさと立ち上がり停止線へと飛影は向かう。
大体自らを“大魔王”と称する輩がそんな計画を実行するはずが無い。
よしんばドラゴンボールの話が本当でも、自分と遭遇したとき話を持ちかけているはずだ。
「待ってったら、ミサの話がデタラメだと思っ・・・・!?」
一瞬見せたそれは刺すような、などとありふれた形容詞では表せない眼光だった。あえて例えるならメデューサの視線。
「フンッ、知らないというのは幸福だな」
「な、何よ・・・・?」
鼻で笑われて怯えながらも食い下がるミサ。
「そんなに与太話を信じたいなら関東へ向かえ。今頃ヤツが移動しているかもな」
「え・・・・あなたピッコロに会ったの? ねえ、教えてよ!」
飛影は答えない。とっくに彼の中ではミサは用済みの殺す価値も無い存在になっている。
遠くで汽笛が響いた。東には機関車が見えてくる。後ろでまだミサが喚いているが一切無視。
桑原和馬の仲間、ピッコロアビゲイル、そして氷泪石――――何と、目的は結構残っているではないか。
『京都~京都~』
列車到着と告げるアナウンスが流れる。
乗せているのは希望か、それとも絶望か? 兎に角機関車が到着し、そして――――扉は開かれる。





【京都/午前】

【飛影@幽遊白書】
[状態]全身に無数の裂傷
[装備]真空の斧@ダイの大冒険
[道具]荷物一式
[思考]1:強いやつを倒す
   2:桑原(の仲間)を探す
   3:氷泪石を探す(まず見つかるまいし、無くても構わない)
   4:ピッコロ、アビゲイルを探す
   5:稲妻の術者(ダイとは知らない)の確認

【弥海砂@DEATHNOTE】
[状態]軽度の疲労、興奮状態、右腕が痛む(小一時間程度で治まる)
[道具]荷物一式
[思考]1:ピッコロを捜しつつ人数減らし。
   2:ドラゴンボールで月を生き返らせてもらう。
   3:いざとなったら自分が優勝し、主催者に月を生き返らせてもらう。
   4:友情マンを殺し、月の仇を取る。
   5:ピッコロを優勝させる。

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364:狂殺万華鏡 飛影 391:[[]]
388:関西十一人模様 弥美砂 391:[[]]

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最終更新:2024年07月15日 08:21