0389:不幸が呼んだ必然の遭遇
「……ついてねー」
そんな一言で何もかも誤魔化せるなら、どんなにいいだろう。
我が身に降りかかる災難を全て取り払う事が出来るなら、どんなにいいだろう。
いくら目を逸らしたところで変わる事のない、事実だった。
助けなくてはならない、それだけを思って自分が撃ち出した炎の渦は、 結果的に彼を更なる命の危機へと追いやってしまった。
どうしようもなく最低な自分を、見捨てる事なく追いかけてきてくれた彼を。
挙句の果てに、自分はその現実から逃げ出した。
あの無機質な紅の瞳がどうしようもなく恐ろしくて、気がついた時には、『死にたくない』、その言葉だけが頭の中を支配していた。
己の過ちによって焼き尽くしてしまった男の事でさえも、その瞬間には抜け落ちてしまっていた。
そうして自分は生き延びて、人っ子一人見当たらない雑木林の中を、とぼとぼと行く当てもなく彷徨っている。
仮に黒い仮面の男が自分を追いかけてきているのならば、自分はとっくに命を落としている筈だから――助かった。つまりは、そういう事だ。
やった。俺ってラッキーだ――当然、そんな気持ちになれるわけもないのだけれど。
……今更何が、ついてねー、だよ。
よくよく考えてみれば、自分が人助けをしようだなんて土台不可能な話だったのだ。
自分は『ついてない』のだから。『不幸』なのだから。
追手内洋一の行動、願望というのは、何もかもが裏目にでて然るべき。それは、自分が最も深く理解していたというのに。
燃焼砲によって赤く焼け爛れた、ケンシロウの背中を思い返す。
あの二人の実力は、洋一が見る限りでは拮抗していたように思えた。
その均衡を崩したのは、他ならぬ洋一自身だ。釣り合いの取れなくなった秤は、当然重みを持つ方へと傾く。
ケンシロウはもう、生きてはいまい。
洋一が、殺したようなものだった。
「……う」
黒仮面の男から逃げ出す際に散々垂れ流した涙が、今更になってまた滲み出してきた。格好悪いことに、鼻水のおまけ付きで。
そもそも自分に、泣き出す権利があるのかさえも怪しい。
泣きたいのはむしろ、不幸のとばっちりを受けたケンシロウの方だろう。
もっとも、あの精悍な顔付きの男が涙する姿というのもあまり想像は出来ないが……
未だに、こんな事を考えられる自分にも呆れ果てる。
――これから、どうしよう、俺。
この世界に連れてこられてから、一人きりの時間というのはあまり長くはなかった。
如何なる時も、洋一は誰かに守られ続けて生きてきた。
槇村香、
三井寿、L、ムーンフェイス、
趙公明――彼は決して、自分を守ってくれるような存在ではなかったが――そして、ケンシロウ。
趙公明はともかく、香、三井と共にいた時には、三井が。
Lとムーンフェイスの時には、ムーンフェイスが、戦いの末に命を落としている。
ケンシロウに至っては、この手で命を奪ってしまった。
偶然の一言では、片付ける事が出来ない。自分は、仲間にまでも不幸を齎すのだ。
自分一人で殺人者と出会って勝てる自信など、当然ない。
かといって、善良な参加者と行動を共にするのも、気が進まない。八方塞だった。
いっそこのまま、誰とも出会わなければいいのに――一瞬とはいえそう考えてしまったのが、幾度目となる『運の尽き』だった。
「――は?」
それは、ほんの数十分前に別れたばかりの男の名前。
男が残した最後の台詞を思い返す。あの自信満々の口調は、一体何だったのか。
『うむ。この世界一の殺し屋、
桃白白に任せなさい』――そう言い放った男が、死んでいた。
お前、世界一の殺され屋の間違いじゃないのか?
頭が痛くなってきた。確かに
桃白白の実力は自分にこそ遠く及ばなかったものの、
6人もの参加者を葬ったという言葉もあって、それなりに期待を掛けていたのだ。
それがいきなりこの様とは――思い描いていた計画の図式が、のっけから狂わされてしまった。
……ったく、どうすっかな……
頬の傷痕を一撫でしつつ、『地球人最強』の男、
ヤムチャは思案に暮れていた。
何の気もなしに空を仰いでみる。
今は爽やかなくらいの快晴だが、放送によれば今日の午前中から一部の地域で天気が荒れるという。
立ち込める暗雲。今の自分の境遇を表しているようで、これまた不吉だ……これは流石に考え過ぎか。
しかし、真剣にどうしたものか。
先程にも思った事だが、
桃白白は自分に対して、西へ行け、と言った。そして奴は南へ行くと言い、死んだ。
ここから
ヤムチャが考えた事は、二つ。
まず一つ、
桃白白が向かった南の方角、
桃白白と別れたのは群馬県での事だから、
この場合は首都圏の辺りに、
桃白白を屠るほどの強者がいるという事。
そしてもう一つは、先程にも思った事になるが――
あれだけ強気の態度を取りながら、自分と別れて早々に命を落とした
桃白白の進言をそのまま受け入れて動くのは、不安があるという事。
後者は考察でも何でもない、単なる個人的な感想であるが――即行死んだ奴の言う通りに動くってのも、なんか気が進まないだろ。
そういう事で、当初の予定であった西への移動という選択肢は、あっさりと
ヤムチャの思考から排除される事となった。
残る方角は、三つ。
東は駄目だ。あの『ジッパー』の青年――
ブローノ・ブチャラティ、とか名乗っていたか――と、再び遭遇する恐れがある。
戦闘力で遅れを取ったとは到底思っていないが、左小指に取り付いたこの『ジッパー』が、彼との再戦をどうにも躊躇わせていた。
戦いの後半では自分がブチャラティを圧倒していたが、次もあの通りにいくとは限らない。
『ジッパー』の鈍い輝きは、 『次に会ったら必ず始末する』というメッセージにすら思える。
この『ジッパー』が消える時までは、ブチャラティには会いたくない、と思った。
残された方角は、二つ。
そういえばこれがあったっけかと、デイパックの中から地図を取り出して、
ヤムチャは改めて移動先を吟味し直す。
……あれ、マジかよ。北も南も両方とも禁止エリアじゃねーか……やっぱ素直に西に行くか? いや、けどなぁ……
この世界に連れてこられてから、何度目になるか分からない優柔不断。
一応新潟の隣には富山があり、静岡の隣には愛知県があるが――
ふと、そこで一つの可能性が頭を過ぎった。
桃白白を殺した参加者が、首都圏から西に向かって移動を行っていたら――南に向かえば、そいつと鉢合わせする可能性がある。
それなりの強者と、出会うかもしれないというわけだ。
――これはヤバいな。北に行こう。そう結論付けて地図を仕舞い込もうとした時に、
――いや、しかし、待てよ? 地図を畳み込む途中だった手を、ぴたりと止めた。
――こいつはむしろ、絶好のチャンスなんじゃないか?
ヤムチャの瞳に、調子付いた者特有の怪しげな光がきらりと瞬いた。
桃白白を倒したからといって、自分よりも強い相手だとは限らない。
何しろ
桃白白は、自分が一撃で気絶させることの出来た相手なのだから。
そう。あの数瞬の手合わせから導き出した結論。
桃白白は自分にとっての『ザコ』なのだ。そのザコを倒した相手にビビっていて、どうする。
――しっかりしろよ。オレは『地球人最強』なんだぞ?
あの鎧のヤロウだって倒せたんだ。
桃白白を倒したからって、それが何だっていうんだよ。
今のオレより強いヤツなんか、それこそ悟空くらいのもんじゃないか。
悟空? あ、そうだよ、その可能性があったんだ!
もし
桃白白を倒したのが悟空だったら、それこそ好都合ってやつだ! あいつにも
クリリンの計画を話してやるんだ。
悟空が協力してくれれば、こんなゲームあっという間にケリがつく! ひゃっほう! そうと決まれば、気合が舞い戻ってきたぜ!
――意気揚々に地図を仕舞い込む
ヤムチャの中では、既に南にいる参加者=
孫悟空、という事になってしまっていた。
『スティッキィ・フィンガーズ』の真の効力を目の当たりにしていない彼には、知る由もない。
桃白白の死因、それは彼の半身に大きく取り付いた『ジッパー』が解除されたためであり、
更には今から数時間後、
ブローノ・ブチャラティの命は、『友情』の二文字を冠したヒーローの手によって奪われることとなり、
彼が追い求める『
桃白白を殺した参加者』の存在は、完全にこの世界から消え去ってしまうという事も、
何もかも――この時の
ヤムチャには、想像する事など出来なかった。
――吸血鬼の帝王は、かく語りき。真の強者とは、『運命』という名の悪魔を乗り越えた存在である、と。
この時の
ヤムチャもまた、『悪魔』の掌の上に立たされていたのかもしれない。
幾多の事象が絡み合い、結果として南へと歩を進める事となった
ヤムチャは、
時が経ち、太陽の光が雨雲によってすっかり陰ってしまった頃、こうして――
「――何だ、お前? ずいぶん変な頭してんなー……」
――『彼』と、出会ってしまったのだから。
自分のことを言われているのだという確信よりも先に、
突然背後から声が聞こえてきたという事実に驚いて、洋一はばっと振り返った。
山吹色の胴着に身を包み、頬と右目に痛々しげな傷痕を刻んだ男の姿がそこにいた。
暢気そうな顔をしているが、真っ先にその『傷痕』へと目が行ってしまった事で、
洋一の心は一瞬にして恐怖で埋め尽くされる事となった。
「ぎっ……ぎえ~っ!!」
溢れんばかりの絶叫が、曇天の空に響き渡る。
まさか出会い頭に叫ばれるとは思っていなかったのだろう、目の前の男があからさまに狼狽した様子になって、
「ば、バカ! いきなりそんなデカい声を出すんじゃない!」と洋一を宥めかける。
……あれ、もしかして、いい人? そう思って声を静めた洋一の前で、傷痕の男はうっかりしたとでも言うような調子で続けた。
「……って、別に誰か来ても大丈夫か。今のオレに掛かれば誰が来たってイチコロだしな……フッ」
一瞬にして、男の印象が『いい人かも』から『ナルシストかよ』に変化する。
キザったらしく最後に付け加えた笑みがまた、その自意識過剰っぷりを増長させている。
流石に失礼かとも思ったが、知り合いの目立ちたがり屋ヒーローの顔が、浮かんだ。
ジト目になって眺めていると、男はワザとらしい咳払いを一つしてから、至極当然だと言うように、堂々とした声色で宣言した。
「い、いいかよく聞け! オレの名前は
ヤムチャ、地球人の中で一番強い男だ!
後で絶対に生き返らせてやるから、黙ってオレに殺されな!」
――と。
…………
はい?
「こ……殺され?」
「そうだ。ああ、言っとくけど生き返らせてやるっていうのはウソじゃないぞ。
ドラゴンボールっていう玉があって、それを使えばどんな願いも……」
「……つ」
「え?」
「ついてねえ~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
――うお~っ、ちくしょ~っ! 結局どこ行ってもこうなるのかよ、ついてねえ~っ!
未だに消える事のない不幸を呪いつつ、洋一は
ヤムチャに背を向けると、脱兎の如く駆け出した。
これ以上にない全速力だった。しかし――
そこは木々の密集する森林地帯。
加えて洋一は突然の遭遇に対して焦りまくっていて、極めつけに洋一は不幸。大宇宙一運の悪い男。
洋一が木の根に足を取られてスッ転んだのは、ある意味必然のことだった。
顔面を咄嗟にカバー出来ただけでも、不幸中の幸いと言える。
「ぶえっ!」
腕を思いっきり擦り剥いた。
痛い。痛いし、何より――ついてねー、って、そんな事思ってる場合じゃねーよ! 早く起きなくちゃ捕まる!
お約束とも言えるこの状況を嘆きつつ顔を上げ、間もなく「げっ!」と声を上げる羽目になった。
少しは引き離したと思っていた
ヤムチャの足が、すぐ目の前にあった。常人離れしたスピード。
どっちみち洋一が転ばなかったとしても、この分ではすぐに追いつかれてしまっていたに違いなかった。
「おいおい、お前……『足元がお留守』なんじゃないか? もうちょっと周りに気を配るんだな」
妙に得意気な顔で洋一を見下ろしつつ、
ヤムチャが言った。
『足元がお留守』のところであからさまに口元がニヤついていたが、何故だかはさっぱり分からない。
ただ一つ明らかなことといえば、大ピンチだ。
例の燃焼砲も逃げ出す際に放り捨ててしまったので、この自信満々の男に抵抗する手段が何一つ手元には無い。
相手が自分を『殺す』と明言している以上、何とかしなければ本当にその通りの結末を迎えてしまう……!
「おおおお願いします! どうかこの通り、命だけは助けてぇ~っ!!」
地に手を付いて頭を下げる、命乞いの土下座。
毎度お馴染みの行動であるが、他にどうしようもないのだから仕方がない。
頼む、このままどうにか見逃してくれ。そう胸中で願い続けた。
しかし、頭上から聞こえてきた
ヤムチャの言葉は、非情だった。
「落ち着けよ。後で生き返らせてやるって言ってるだろ? 大丈夫だって、痛むのは一瞬にしてやるから」
「ウソだぁ~! 絶対そんなこと言って自分一人だけ生き残るつもりなんだ、俺は信じねーぞ~っ!!」
土下座が通じないので、泣き落としに移行する。というか、恐怖でそうせざるを得なかった。
涙といい鼻水といい、これだけ垂れ流してよく枯れないものだと我ながら思う。
顔面をぐちゃぐちゃにしながらの懇願は流石に効いたのか、
ヤムチャがたじろいだ。
「わ、分かったよ! そんなに疑うんなら一から説明してやるから、とりあえず静かにしてくれって!
それからそのみっともない顔を拭け!」
そう言ってハンカチを差し出してくれたこの男は、やっぱり悪い人ではないのかもしれないとその時ちょっとだけ思ったりした。
「ふーん、ドラゴンボールねぇ……」
ヤムチャの親切に与って――自分を殺そうとしている相手に、親切も何もないと言えばそうだが――汚れた顔を一通り拭き終えた後、
洋一はドラゴンボールに関する詳しい情報と、この世界における
ヤムチャの目的をあらかた聞かされた。
どんな願いでも叶えることの出来る不思議な玉。些か都合の良すぎる話だとは思う。
けれど、熱意の篭もった口調で話す
ヤムチャの言葉を聴く限りでは、それを一朝一夕の作り話と即座に切り捨てる事は出来なかった。
何しろ洋一自身、一度は『蘇り』を経験した人間である。『都合の良すぎる話』というのも、幾度となく経験している。
それこそ、『どんな出来事も幸運によって解決出来る正義のヒーロー』などという話の方が、
神秘性溢れる七つの宝玉の話よりもよっぽど如何わしい。
まず、仮にこの話が本当であるのなら、こんな行く先々で命の危険が付き纏う世界ともおさらばする事が出来る。
らっきょを持たない自分への無力感に打ちひしがれる事もなくなる。渡りに船という奴だ。
だが、逆に。
この一生懸命な
ヤムチャの姿も、言葉の内容も、何もかもが嘘八百で飾り立てられただけのものだったとしたら。
土下座も泣き落としも通じず、逃げ出す事さえも叶わない以上、洋一の命運は尽き果てる事となってしまうが――
疑おうが、信じようが、どの道殺されてしまうというのなら――信じる以外の道など、洋一には残されていないということだ。
諦めの境地から導き出された、結論だった。がくりと項垂れて、これっぽっちの覇気も感じられない声で、言った。
「――分かったよ。
ヤムチャさんの話、信じるよ……」
「ホントか!? よし、それじゃあ情の移らないうちにスパっとやらせてもらうぜ、恨むなよ!」
「だぁぁ、でもちょっと待ってーッ!!」
「何だよ、往生際の悪いやつだな……」
比喩でも何でもなく、まったくもって
ヤムチャの言うとおりだったが、殺される側にも心の準備という物がある。
というか、実に情けない話になるが、今更になって『やっぱ死にたくない』という強烈な感情が洋一の中で暴れ始めていた。
どうにか口八丁でやり過ごせないかと、なけなしの脳細胞をフル回転させる。
とりあえず、駄目元の提案を突きつけてみる事にした。
「そ……その、
ヤムチャさんの計画っていうの、ボクにも手伝わせてもらえないかなー、なーんて……」
「ダメだ!
桃白白のやつも同じこと言ってすぐに殺されちまったし、
少なくともオレより弱いやつはもう仲間になんかしてやらんぞっ!」
即座に却下された。当然と言えば当然だ、
あれだけ醜態を晒した後で『仲間にしてくれ』などと言い出したところで、向こうも期待は持てまい。
それにしても、この
ヤムチャという男。よっぽど自分の実力に自信を持っているらしい。
怪物揃いのこの世界において、『誰が来てもイチコロ』などと言ってのけるほどの自負。
それだけの力を持っているからこそ、他の参加者を全滅させて蘇らせるなどという無茶苦茶な計画をも実行に移す事が出来るのだろうが――
……コー、ホー。
ふと、その特徴的な呼吸音を思い出した。
あの、七つの傷を持つ拳士とも互角に渡り合ってみせた、黒い仮面の参加者。
自分で成し遂げる事は、到底叶わないと思っていた、恩人の仇討ち。
あの場から一目散に逃げ出してしまった自分に出来る、せめてもの償い。
……そう。この男にならば、それが出来るのではないか。
不甲斐ない自分に代わって、あの恐ろしい仮面の男を、打ち倒す事が出来るのではないか――?
「…………」
……はっきり言って、今更な話だ。
ヤムチャがあの男を殺したところで、
洋一がケンシロウに傷を負わせて、あの場から逃げ出したという事実は変わり様がないのだから。
そう、これは自己満足だ。ケンシロウの仇を討ちたいとか、あの男は危険だから放っておけないとか、
それらしい御託をいくら並べてみたところで、根底のところにあるのは、それなのだ。けれど――
「……
ヤムチャさんっ!」
「どわっ! きゅ、急にどうした? 遺言か何か残しときたいのか?」
「どうしても……死ぬ前に、どうしても
ヤムチャさんにやってほしい事があるんだっ! その、かくかくしかじか……」
「……なっ!? じょっ、冗談じゃないっ! 何でオレがそんなことを頼まれなくちゃいけないんだよっ!?」
「地球人で一番強いんでしょーっ!? それが終わったら殺そうが何しようが構わないからさぁ、ねっ、この通りっ! 頼むよ~っ!!」
――ケンシロウさん。
俺、怖そうな金髪の男の人に捕まったり、いきなり泣いていなくなったり、
とどめに背中焼いちゃったり、迷惑掛けっ放しだったと思うけど。
やってみるよ。ていうか、実際にやるのは
ヤムチャさんだけど――
ケンシロウさんのために、なんて、言わない……言えない、けど。
俺が、後悔しないで死んでいけるように。俺に出来る、精一杯のことを。
「そ、そんな事言われたってな……」
ヤムチャとしては、洋一の要求を突っ撥ねるのは簡単である。洋一は
ヤムチャに対して、何の強制力も持たないのだから。
ただ、この必死に食い掛かってくる少年を突き放して、有無を言わさず黙らせるというのは、
流石に良心が痛む。あまりにも悪役に過ぎる。
かつては荒野の盗賊として無法者を気取った
ヤムチャも、今となっては数多くの友人を持つ気のいい三枚目である。
寄り縋ってくる少年に対して、『うるさい! 死ね!』などと吐き捨てて首を刎ねるような外道感の溢れる行為に走れるほど、
ヤムチャはまだ非情になり切れてはいなかった。
……まあ、一応利害は一致してるよな。
オレの目的は人数減らしなワケだし、それが済んだらこいつも死んでもいいって言ってるワケだし。
万が一、その仮面の男ってのがオレより強かったら、その時は逃げりゃいいだけの話じゃないか。
そういえば、あのイカつい野郎から逃げ出した時に置いてったサクラ、大丈夫だったかな。
放送じゃまだ名前呼ばれてねーけど……
「
ヤムチャさ~ん!」
「うおっ!? こ、こら! 襟首を掴んで揺さぶるなっ!
……ったくっ、分かったよ! この
ヤムチャ様が、その仇討ちを引き受けてやるぜ!」
「えっ、ホントに? うわ、追手内くんのままなのになんかラッキー!」
「ただーし! それが済んだらお前とは文字通りお別れだからな!
自分で何しようが構わないって言ったんだぞ、忘れんなよ!」
「ぐっ……や、やっぱりついてねぇ~っ!!」
……こいつ、本当に死ぬ気あんのかよ? しょーがないやつだな……
頭を抱えるたまねぎ頭の少年を、呆れ果てながら
ヤムチャは眺めていた。
ただ、このどうしようもなく無様な姿を晒し続ける少年のことを、
同情の念というか、『俺にもこんな時期があったっけなぁ』とでも言うような、
奇妙な親近感を持った意識で見ている自分がいることに、彼自身はまだ気付いていなかった。
かくして、自称地球人最強の男と、自他共に認める大宇宙一不幸な少年が、未だ降り頻る豪雨の中、ここにコンビを組む事となった。
何とも不思議な協力関係を築いた彼らの元に、『ケンシロウ生存』を伝える放送が入るのはこの数十分後の事となるが――
――その時の物語は、また別の筆によって綴られる事になるだろう。
【長野県南部/昼】
【追手内洋一@とっても!ラッキーマン】
[状態]:右腕骨折、全身数箇所に火傷、左ふくらはぎに銃創、背中打撲、軽度の疲労、鼻が折れた、左腕に擦り傷
[道具]:荷物一式×2(食料一食分消費)
[思考]:1、ケンシロウの仇を討つ。
2、↑が済んだ後、ヤムチャの手で殺される……予定だが、やっぱりまだ覚悟は決まっていない。
【ヤムチャ@DRAGON BALL】
[状態]:右小指喪失、左耳喪失、左脇腹に創傷(全て治療済み)、左小指に"ジッパー"
超神水克服(力が限界まで引き出される)
[装備]:無し
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料、バスケットボール@SLAM DUNK
[思考]:1.ウォーズマンを倒し、それが済んだ後に洋一を殺す……つもり。
2.参加者を減らして皆の役に立つ。
3.あわよくば優勝して汚名返上。
4.悟空・ピッコロを探す。
5.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。
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最終更新:2024年07月19日 19:25