0396:The Rain Heals A Scar
傍から見れば、オレのやってる事っていうのは自殺行為か何かにでも映るんだろう。
そりゃあそーだな。つってもまあ、今に始まった事じゃない。
このフザケた世界の中で、下らない意地を張ってあれやこれをオジャンにしちまうのはこいつで二度目になる。
今更になって思い返してみると、つくづくウマが合うはずのない奴だったなと思う。
お天道様のそのまた向こうにでも住んでるんだろう、カミサマなんかを信じきっちゃってやがる馬鹿女。
勝手に人の保護者ぶって。
勝手に人殺しの傷を癒して。
勝手に死んでいきやがった、アイツ。
どうなろうが知ったこっちゃねーと、そう思っていた。
……ああ、そうだよ。最初っから最後まで、勝手尽くしの女だったってことは間違いない。
けれど、それはあくまでも“他人のための”自分勝手だっていうこともまた、分かっていて。
だからこそ、オレはあそこに引き返した。何もかもが、手遅れになった後だったけれど。
よくよく考えると、こうやってアイツの印象を一々思い起こしてること自体、オイオイ何やってんだって感じではある。
馬鹿はどっちだって話だよ、くそったれ。オレか? オレだな。ああ、分かってたってんだよそんな事は。
まあだからって、オレがあいつと同じ生き方に走る事なんざ、何億光年経とうがあり得やしないけどな。
何でか、って?
決まってんだろ、バーカ。
オレは、捻くれてんだよ。
勢いを増して降り頻る雨粒の一つ一つが、対峙する男と少年の身体を遠慮なく叩き続けている。
その雨粒は彼らを打ち、大地を打ち、全てを打つ。打ち付ける。激しく、それでいて、淡々と。
雨というものはどこまでも無慈悲で、冷たく、容赦がない。
その容赦のない雨の下に、彼らは、立っている。天恵の雫がもたらす響きなど、微塵も意に介すことなく。
「『安心なんてクソくらえ』か。フン……その気概にはいたく感心させてもらったものだが、
こうして現状を目の当たりにしてみれば、つくづくマヌケな信念だったとしか言いようがないな」
「――ケッ」
力強いオーラを全身から発散させて佇むスタンド・ビジョン、『ザ・ワールド』の後方。
傷だらけの顔で自らを睨み付けている少年から、微動だにせず視線を突き返し、尊大に腕を組んでいる吸血鬼の帝王、
DIO。
その男が発したあからさまな挑発に対して、吐き捨てるかの如く、傷痕の少年――
マミーは、そう端的に応じた。
いつだってそうだ。目の前の野郎はどんな相手に対しても、それを見下す口調と態度で接している。
『恐怖を克服するために生きるのが人間だ』などとのたまったこの吸血鬼こそが、この世に怖いものなどは何もないと、思い上がっている。
罵倒の文句など、その気になればそれこそ湯水のように出てくる。「気にいらねー」「調子に乗んな」「ナメんじゃねーぞ」etc。
それらの全てを、この自称帝王は鼻で笑って聞き流すことだろう。だからこそ、
マミーは沈黙に己を浸す。
必要なのはただ一つ、拳による洗礼。お前の好き勝手が通用しない相手がここにいるのだという存在証明を、その身に直接刻み込むこと。
そう言って
マミーが浮かべる不敵な笑みもまた、『恐怖』を克服した者のそれ。
最も、
マミーの求める理想郷には、『安心』の文字など一片たりとも存在はしないのだけれど。
「……その眼だ」
DIOの瞳が細められる。勇猛果敢な挑戦者に対する賛美の色などというものは、そこには浮かんでいない。
むしろ、その間逆。今正に一戦を交えようという相手に対して彼が向ける眼差しは、薄汚いものを見ているかのように酷く冷めていた。
「我が『運命』の前に二度も立ち塞がった、クソ忌々しいジョースター家の者どもと、貴様の瞳は同じ色をしている。
『負けず嫌い』を前面に押し出した、下等でしかない猿(モンキー)どもの色だ……
フフフ、『気に食わない』のはお互い様という訳だな、
マミー。
そういう色の眼をした連中が、この
DIOと相対した結果どういう末路を辿るのか。命を持って実感するがいいッ!」
一層膨れ上がっていく『ザ・ワールド』の周囲に満ちたオーラは、雨のカーテン越しにもはっきりと認識できる。
今となっては人間を超越した存在でこそあれど、元の世界においては平穏に身を置いてきた彼女にとっては、
直接こちらへ向けられたものではないというのに、その重圧が途方もなく巨大なものに感じられてしまっていた。
この闘いは、いや、果たして闘いと呼べるような体裁を成すほどのものに発展するだろうか。
それほどまでに、『ザ・ワールド』と
DIOから放たれる存在感は圧倒的だ。
身じろぎ一つしない
マミーの精神力に、感服すらしたくなる。
――彼がこれから迎えるものは、『予定調和の死』だ。そのように、
東城綾はこの状況を捉えていた。
元より
マミーは、
DIOを殺すためだけに彼と行動を共にしていたそうだが、
吸血鬼とスタンド能力。二つの異能を持つ
DIOに対して、策一つ弄さず立ち向かおうだなんて、正気の沙汰では到底あり得ない。
DIOは言っていた。誰にでも、乗り越えなければならない『運命』が存在する、と。
ならば、
マミーにとっての『運命』とは、
DIOであるということなのだろうか。この衝突もまた、必然であるとでもいうのだろうか。
「――綾」
一瞬、それが自分の名前であるという事が理解出来なかった。この状況において、自分は蚊帳の外の存在なのだと思っていた。
「君は見届けるだけでいい。『運命』の前に倒れ伏す者の、惨めなザマをな」
手を出すな、という事だ。どうやら、本当に蚊帳の外にされてしまったらしい。
綾へと声をかける間も、
DIOの視線は
マミーを捕らえて離さない。
マミーもまた、同様。
二人の間に、見えない首輪でも取り付けられているかのようだった。
相手の命を奪わなければ、決して外すことの出来ない死の首輪。
「『決闘』が望みなのだろう、
マミー。舞台は整ったぞ」
「ハッ……やる事成す事、つくづく厭味ったらしいヤローだ」
いつの間にか、
マミーの笑みは
DIOにも伝染していた。互いが互いを見据えて笑う、一見奇妙な睨み合い。
自分が上だと信じるからこそ、余裕を抱いて放てる笑い。自己を保ち続けているからこそ、余裕を抱いて放てる笑い。互いに質の、違う笑い。
「――ま、御誂え向きだな」
その笑いの仮面が剥がれ落ち、隠して磨がれていた牙が露になる時――
猛獣同士の血肉の喰らい合いは、始まる。
「うらぁッ!」
先手を取ったのは
マミー。
ハート型のマークという特異なデザインセンスの代物が取り付けられた『ザ・ワールド』の顎を打ち抜かんと、
極限まで握り締められた右拳でのストレートを見舞う。
超人的握力を持つ
マミーならではのファイトスタイル、『ただ、ブン殴る』。
『ザ・ワールド』が放った迎撃の左フックに、拳の側面を正確に打ち払われる。
舌打ちする
マミーの顔面に、返し刃で飛んでくる豪脚の左ハイ。
咄嗟に身を屈めた
マミーの頭上を、尋常ならざる速度で薙がれた死神の鎌が通り過ぎる。
巻き込まれた髪の毛が、数本千切り飛ばされた。想像以上のスピードに肝を冷やす。
まともに受ければ、首の骨を折られていたかもしれない一発。けれど、とにかく、避けられたのだ。
蹴り足を大きく振り上げる必要のあるハイキックを外した、それは絶対的な隙の生まれる瞬間。
その隙を逃すことなく、がら空きになっている『ザ・ワールド』の脇腹へ渾身の左ボディーをぶち込む。
人体とは違う奇妙な殴打の感覚だったが、手応えは、あった。
「ヌウゥ……!」
苦悶の声は『ザ・ワールド』ではなく、その後方で余裕綽々に構えていた
DIO自身の方から上がっていた。
御山の大将を気取っていた男から、初めて漏れる憤りの唸り。
その声を聞きたかったんだよ。口元がニヤ付き出すのを止められなかった。当然、止める気も起きなかった。
そして、良いことを知ったと思った。この『スタンド』とかいうインチキパワーも、完全無欠の能力というワケではないのだ。
こいつをブン殴る事は、
DIOをブン殴ることに繋がる。こいつをブッ殺すことは、
DIOをブッ殺す事に繋がる。
ならば益々、動きに磨きが掛かるというもの。
一気に攻勢に出る、そう考えて踏み込んだ身体は、即座に弾き飛ばされる羽目になった。
「――ぶッ!?」
高圧電流を食らったような痺れが、左頬から伝わってきていた。
驚愕が意識を支配する。よろめく足をどうにか踏み止まらせて、再び構えた。
若干開いた相対距離に、奇妙な違和感を覚える。
何より、自分は確かに攻め込んでいた筈だった。押しの一手のみを選択出来ていたのだ。
見えない一撃。催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてない、決して感じ取ることの出来ない挙動。
何が起こったのかを、悟った。またかよクソヤロー。オレにもその『スタンド』とかいうの寄越しやがれ。
口の中が切れていたが、こんな物は傷の内にも入らない。吐き出した紅混ざりの唾は、すぐさま豪雨に紛れて散っていった。
「なかなかのパワーとスピードだ。マグレとはいえこの『ザ・ワールド』に一撃を与えるとはな……」
いけしゃあしゃあと言ってのける
DIOの表情に、乱れはない。捻り潰してやりたいと思った。
押され気味だった癖に何がマグレだ、ふざけんな。
「だが、今の手合わせで理解出来ただろう? 我が『ザ・ワールド』は最強のスタンドだ。
その気になれば、今の時間停止で貴様を殺すことも出来たのだよ……何故そうしなかったのか、分かるか?」
「…………」
「貴様の望みを叶えてやるためだ、
マミー。死後の世界などに興味はないが、
この
DIOとの対決に比べればさぞかし『退屈』に過ぎる場所だろうから、な。
せめてもの手向けとして、貴様には我が能力の全てを堪能していって欲しいのだよ」
言うが早いか、あれほど強烈な存在感を示していた『ザ・ワールド』の姿は、
まるで最初からその場にいなかったかのようにぱっと掻き消えた。
依然として
DIOの口調は、『帝王』としての態度を崩していない。
立ち振る舞いも、同様。森羅万象を踏み躙るようにして、こいつは立っている。
この男はきっと、生まれついての『帝王』なのだろうと思った。
『自尊心』の三文字が、常に意識の何処かでこびり付いているような奴なのだ。
天晴れだとさえ、思い始めていた。
DIOの言葉を要約すると、『本気を出したら勝負にならないから手加減してやる、安心しろ』という事になる。
ここまで嘗め切った態度を取られてしまっては、
マミーとしても返す言葉が浮かばない。
馬鹿は死ななきゃ治らないという格言があるが、おそらくこの男に関してはそれも通用しまい。
死んでも治らない類の馬鹿だ、こいつは。だから馬鹿のままブッ殺してやる。ああ、決めたぜ。
――
マミーの言語中枢においてごく僅かに残されていた、熱の通っていない冷静な部分はそう言っていた。
一々相手にするだけ馬鹿げていると、丁度この空を埋め尽くしている理不尽に湧いた雨雲のように、
この男の持つ嘗め腐った態度もまた、『仕方のないもの』なのだと。『キレた』ところで、どうにもならないものなのだと。
けれど、その『仕方のないもの』というものは、
マミーの中にもまた存在していた。
DIOの持つそれとはまた別のベクトルを向きながらも、同等以上に存在する、
『調子に乗ったヤローは許さねー』という絶対的な自我。
その自我が、唯我独尊の極みを往く男の発言を余すことなく捉えた結果どうなるのかと言えば――
「……ふ、ざ、け、ん、じゃ……」
――決まっていた。
「ねええええええええええええええええええええええええーッ!!」
咆哮と共に雨粒を突き破った拳が狙うのは、『ザ・ワールド』の加護を自ら取り払った傲慢不遜の帝王、
その本体――直接ブッ殺すッ!!
悠然と翳した左の掌で一撃を受け止めた
DIOの口元が、不気味に吊り上がる。
憤怒の爪を受け止めてみせたことに対する笑みにしては、奇怪な印象を
マミーに与えていた。
『狙い通りだ』とでも言いたげな、歪んだ笑みの浮かべ方。ただ拳を止めただけではない――のか?
「KUUAAA……!」
――こいつは、ヤバい。
何の根拠もない確信だったが、
マミーの第六感は思考回路へ大音量での警告を発していた。
拳を引けと。続けて聞こえた。『食われるぞ』と。
それは賢明な判断だったが、既に全ては
DIOの計略の中にあった。
引き戻そうとした右拳は、万力のような力で掴まれてしまう。
マミーの握力であろうと、吸血鬼となり人間の限界を超えた
DIOの捕縛から逃れる事は容易ではない。
ならば空いている左腕の方で――引き剥がそうとしたその時、異変は起こった。
右手の感覚が失われていく。掴まれているため、等という単純な理由ではない。
神経の自由が利かないのだ。そして気付いた。『冷たい』。
「んなッ……!?」
視界で起こっている現実味のない光景に、思わず目を見開いた。
マミーの右手が、拳骨の形を作った状態で凍り付いていたのだ。
更に、
マミーの拳を握り締めている
DIOの腕もまた、凍っていた。
『ザ・ワールド』のような『スタンド』の影は何処にもいない。
ならば、これは
DIO自身の能力だというのか。
何処までインチキだ、クソ――火傷のような鋭い痛みに、歯を食い縛って耐える。
DIOが口を開いた。
「実に一世紀ぶり、更にはジョジョの肉体をいきなりで操作出来るかは少々心配だったがな……
所詮はみみっちい心配だったと『安心』したぞ。
マミー! 貴様の腕の水分を気化させ『凍らせた』ッ! これがこの
DIOの『気化冷凍法』だッ!
UREEEEEEEEYYYYYYYYYYYYYッ!!」
「うおおおおおおおおおおおおッ!?」
マミーの二の腕から先を完全に凍らせ尽くした『気化冷凍法』は、
そのまま腕の皮をバリバリと引き剥がして夥しい量の血を噴出させていく。
人体の呼吸を司る『波紋』の達人であれど、悲鳴を上げるほどの痛み。
それだけのダメージを受けながらも反撃に転じることが出来たのは、
単なる意地と根性の後押しがあったために他ならなかった。
「……オ……ラァッ!!」
拳もまともに作っていない、力任せに腕をぶん回すだけのラリアット。
飛び退き避けられこそしたが、どうにかそれで距離を取る事は出来た。
意思とは裏腹に荒くなっていく気息。しかし、それは決して『屈服』のためではない。
あの時にぶち当たった壁は、確かに打ち崩したのだから。この呼吸音は、闘争本能の表れだ。
『興奮』は必ずしも『動揺』の証明にはなり得ない。『呼吸』は『生存』だ。
必死になって息を吐くことが、『まだ生きてやる』という意思表示に繋がる。
吸って吐く、それだけの動作を繰り返す事が、そのまま
DIOへの『抵抗』となる。そう思った。
――利き腕を失くした。オレの握力の半分は、もうアテに出来ないっていうワケだ。
けどよ、それがどうしたってんだ?元々バクチで挑んだんじゃねーか。
オレは一時の賭けに負けた。その代償として右腕は使えなくなった。それだけの話だろーが。
腕一本どっちかさえ残ってりゃ、まだオレは闘えるんだ。まだオレは
DIOをブン殴れるんだ。まだオレは
DIOを――殺せるんだ。
だらりと垂れ下がった右腕は、その瞬間に思考から排除した。
闘志を込めて振り上げるのは、残された側の左腕のみ。それで充分だった。
雨のせいだと思いたかった。
心なしか、薄く靄がかった視界の向こう――完全に『余裕』の形で表情を固めていた吸血鬼が、意外そうに眉を顰めたのが分かった。
そうだ、そうやってもっと戸惑いやがれ。オレは幾らでも立ち上がってやる。嫌そうな顔で出迎えろ。
「ほう……まだ這いずってみせるのか。これ程までに力の差を見せ付けられても、尚もこの
DIOに向かってくるのか……」
「笑わせんな……近付かなきゃあ、テメーをブチのめせねーだろーがよ……」
「フン! 吐く台詞までも連中と瓜二つか……何故理解しようとしないのだ?
この
DIOは、貴様の誇る脆弱な『暴力』も、掲げる些細な『感情論』とやらも、
その全てを『超越』したところに立っている存在なのだぞッ!
『波紋』も『スタンド』も持たぬ、只の『人間』が何故足掻く?
貴様の行為は『無駄』でしかない……汚らわしいぞ、このカスが……ッ!」
――――――――。
「……ハッ」
決定的な言葉を、聞いてしまったように思えた。
あの瞬間に何故、自分が一時のこととはいえ『弱肉強食』の理論の中に取り込まれてしまったのか。
それが理解出来たような気がした。
DIOが強者で、
マミーは弱者。図式にでもして表すのならば、結局のところそうなってしまうのだろう。
それを認めたくなかったから、あの月の夜に自分は吼えた。
それはある意味で正しくて、そしてある意味で間違っていた。
単純な力の差を測るだけの『弱肉強食』に、一体何を躍らされていたのか。
自分よりも強い、そう認めた連中などよくよく思えば腐るほどいる。
吼えるまでもないことだった。
DIOは『強い』。それは間違いない。
けれどその力は、『精神』の上に成り立つ『力』ではない。『力』の上に『精神』がいる。
マミーとは違う。比べてはならない質の、『強さ』だったのだ。
……ようやく、スッキリしたぜ。
目の前の男には決して解くことの出来ない難問の答えを、出す事が、出来た。
この時点でもう、オレの――『勝ち』だ。
「――そんなくだらねー『力』の上で胡坐掻いてるウチは、一生経っても分かんねーだろーよ」
勝ち名乗りを、上げてやった。けれど、これで終わりではない。
――『力』でも、勝ってやる。こっから先にあるのはもう、只の喧嘩だ。せいぜい楽しく遊んでやるぜ、
DIO。
「フン――ならば来るがいい、
マミー! 最終ラウンドだッ!!」
従者の如く、再び
DIOの傍らに『ザ・ワールド』が出現する。
それは逃れようのない死の予感。絶対的な、力の象徴。けれど、もう、怯まない。
マミーは、笑った。
一歩一歩を踏みしめる度に、足元で水滴が跳ね踊る。
長い事雨曝しになっていた身体からは、これっぽっちの熱も感じ取る事が出来ない。
それなのに、『寒い』という言葉が欠片も浮かんでこないのは、つまりはそういう事なのだろう。
今更な話だ。そう思って、考えるのを止めた。どうせ、この世界の中で朽ち果てていくだけの身体なのだから。
悲観的になった所で、仕方が無いのだ。今考えるべき事柄は、一つだけ。
「――雨、思ったよりも長く降るかもしれませんね」
「……そのようだな」
もう間もなく放送が流れる。
天候が安定しないのはあくまで午前中のみの事だと、主催者達の言葉を全面的に信じるならばその筈なのだが、
天の気紛れか、無機質に続く雨脚は一向に途絶える気配を見せていない。
この分ならば、午後に入っても移動を続ける事は可能だろう。
並んで歩いている彼も、同じ事を考えている筈だ。先刻までの闘いの記憶に、心を揺さ振られてさえいなければ。
ちら、と横目で眺めるのは、特徴的な星型の痣の横、首筋に浅く刻まれた一線の傷痕。
無謀の少年が、最期に一矢報いてみせたことの証。
彼があの瞬間に迎えたものは、『予定調和の死』――だった。確かに。
しかし、その死の間際に彼がやってみせた行為というのは――果たして、あの帝王の『予定』の中に含まれていたのだろうか?
彼自身が与えた武器なのだと、前に聞いてはいた。
けれど、彼が勝利を確信した瞬間、あの『武器』の存在は思考に入っていたのだろうか?
到底、切り出すことの出来ない問いかけだった。代わりに、別の疑問を口にした。
「その傷は、彼の血を吸えば治すことが出来たんじゃないですか?」
「……フン。所詮は掠り傷だ、放っておけばすぐに消え去る。それに……」
湛えた笑みは、相も変わらず威厳と余裕を兼ね備えたもの。にも拘らず、綾の目にはそれが何処か苦々しげに映った。
それ以上はもう、答えなかった。綾も黙って、前に向き直った。
雨は、止まない。光は、差さない。吸血鬼達の『夜』の時間は、終わらない。終わらないが――
――彼らの『夜』に牙を突き立てた男は、最期の瞬間まで、獣のままだった。
【長野県南部/昼】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:脇腹に小ダメージ、首筋に浅い傷痕
[装備]:忍具セット(手裏剣×7)@NARUTO
[道具]:荷物一式×2(食料の果物を少し消費)
護送車(ガソリン無し、バッテリー切れ、ドアロック故障) @DEATHNOTE、双眼鏡
[思考]:1.得体の知れない不快感。
2.ケンシロウを追う。
3.太陽が隠れる時間を利用し、『狩り』を行う。雨が止んだら近くの民家に退避。
4.綾、ウォーズマンを利用する。
【東城綾@いちご100%】
[状態]:吸血鬼化。波紋を受けたため半身がドロドロに溶けた、ちょっとブルー
[装備]:特になし
[道具]:荷物一式×3、ワルサーP38、天候棒(クリマタクト)@ONE PIECE
[思考]:1.DIOと共に行動。
2.DIOを優勝させ、西野つかさを蘇生させてもらう。
3.真中くんと二人で………
その亡骸は笑っていた。
腹には拳大の風穴を開け。
片腕を紅に染めて。
血溜まりの中に埋もれながらも。
傷痕の顔を満足気にして、笑っていた。
亡骸に歩み寄る影が、一つ。
……『白銀の癒し手(スィルヴェン・マウンティア)』。
女の声が響くのと共に、亡骸の傷が癒えていく。腹の傷も、腕の傷も、顔の傷、も――
ちょっと待て、顔はそのままでいいんだよ。
え、どうして?
……気が向いたら、教えてやる。
亡骸の傍に、気付けば影は、二つ。
友達も向こうで待ってたよ。なんかオジサンみたいな顔のオトコのコと、怖そうだけどカッコいいオトコのコ。
――ハッ、泣かせてくれんじゃねーか、アイツら。
……ありがとよ。
二つの影は、やがて降り落ちる雫の群れの中へと、静かに溶けて、消えていった。
その場には、眠るようにして横たわる少年の安らかな笑顔だけが、残された。
【マミー@世紀末リーダー伝たけし! 死亡確認】
【残り31人】
※フリーザ軍戦闘スーツ@DRAGON BALLはマミーが装着したまま。
手裏剣はマミーの亡骸の側に放置されています。
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最終更新:2024年07月19日 19:25