0410:暴走列島~信頼~





(誰か来る)
サクラは人の気配を感じ、薬草を摘む手を止めて息を潜めた。
幸い、相手はまだこちらには気付いていないようである。
(――どうしよう?)
一度戻ってアビゲイルに伝えるとすれば、その間に彼らは小屋へ近づくかもしれない。
まだ姿も見ぬ彼らは、もしかしたらマーダーかも知れない。
考えを巡らせ、サクラはデイバッグに今までに摘んだ少量の薬草を入れ、代わりにマルスの柄を握り、そっと彼らの方へ向かった。



ここへ来て数度目にもなる見慣れた景色が目に入る。
リョーマは雨足が弱まるまで木陰で休み、その後新八を背負ってゆっくりながらも、小屋まであと数kmという所までようやく辿り着いた。
よほど疲れたのだろう、背負われた新八はあれから数時間経つが目を覚まさない。
新八の寝息を聞きつつ、休んでいる間に頭の中に響いたあの放送の事を考える。
そのとき、頭の中に響いたのは――
『――チュー、藍染惣右介、小……』
「……は!?」
思いがけない名前に小さな声を漏らす。
その声に答える者は居ない。
(あの人、死んだんだ)
立ち止まり、思考する。
とりあえず藍染に騙されたり危害を加えられる者は居なくなる。
けれど、あの常人離れしたスピードを持つ人を殺すほどの人となれば、よほど油断させる事ができる人か、よほど強い人か。
いずれにしろ、こちらも油断してはならない。
(とりあえず、早いとここの人をちゃんと休ませないと)
雨に打たれたままでは自分も新八も体力を奪われる。
小屋へ急ごうと前を見据えると、目の前にはいつの間にやら現れたピンクの髪の女性の姿があった。

「動かないで」

雨音の中、その女性の声が響く。
リョーマは心の中でチッと舌打ちをした。
女性の手にはナイフ。
こちらは眠っている新八を背負っている為、両手が塞がっている。
(この体勢は、隙だらけだった……)
動くなと言われているので、下手に新八を起こすわけにもいかない。
女性の次の言葉を待つしかなかった。

「質問に答えて、あなたたちはこのゲームに乗っているの?」
「ないっス」
リョーマは女性を見据え、あっさりと即答する。
「……そう」
女性はリョーマの言葉を聞くと、ナイフを仕舞う。
どうやら向こうもゲームに乗ってはいないらしい。
(こっちを油断させる作戦かもしれないけどね)
藍染の件を思い出し、リョーマは警戒を緩めない。
「私は春野サクラ。あなたたちは?」
「……越前リョーマ。こっちは、志村新八サン」
警戒は緩めず、首を動かし新八を指す。
女性はこちらの言葉に納得したような、ほっとしたような表情を浮かべる。

サクラが越前の言葉をあっさり信じたのには理由があった。
サクラには、越前の容貌に覚えがあった。
無論、実際に会ったのは今が初めてだ。
ただし……話は聞いていた――彼の先輩である、乾に。
乾と同じジャージを着ていた越前を見て、サクラは全てではないが、乾の30分以上に及ぶ自己紹介の思い出した。
次々に自分のことを話す乾の姿すら、思い出せるほどだった。
『俺が探しているのは、越前リョーマと竜崎桜乃跡部景吾だ。
越前は、俺と同じくテニス部所属の後輩だ。身長は…君と同じ位だったな――』
サクラと同じ位の身長。
『いつも白い帽子を被っていて、俺と同じジャージを着ている――』
白い帽子と、赤い色が飛び散っているが、それを除けば乾と同じデザインの服。
『三白眼で睨んでくるんだ――』
今、こちらを睨んでくる三白眼。
乾の話していた『越前リョーマ』の容貌と一致。
目の前の少年も『越前リョーマ』だと名乗っている。
(乾くんの知り合いなら、信じる)
それに加え、二人とも服装や顔色を見る限り、傷つき疲れ果てているようだ。
リョーマの手は塞がっているし、リョーマが背負う新八も動く様子を見せない。
万一、そんな彼らが攻撃してきても、先にやり返せる、という自信もあった。
「ねえ、サクラサン」
じっと2人を見つめるこちらに、不意にリョーマが声をかける。
「この人を休ませたいから、あそこに行きたいんだけど」
目線を小屋に向けるリョーマ。
「私も一緒に行くわ、あそこには仲間がいるから、あなたたちだけで行くときっと疑われる」
サクラはリョーマの横へ行こうと近寄る。
しかし。
『仲間』
その言葉に、リョーマがピクンと反応した。
目に浮かぶ警戒の色が濃くなる。
雨音が続く以外、時間が止まったかのように静寂が流れる。

「ん~……津村さん……」
静寂を破ったのは、リョーマが背負う新八の寝ぼけて間延びした声だった。



セーラー服に、短いスカートを履いた女の人。
向こうを見ていて、表情はわからないけれど、髪はおかっぱ。
彼女の周りには、何枚もの鋭い刃物。
服にも、髪にも、刃物にも、付着している赤い色。
――こんな馬鹿な真似はしちゃだめだ!
そう叫ぼうとして、新八は声が出ないことに気付く。
女の人が振り向く。
顔には2筋の傷。
目からは、大粒の涙。
新八は彼女の名を呼ぶ。
捕まえようと手を伸ばす。
彼女は逃げるように空へと舞い、新八の手は空を切り――――



空を切るはずだった新八の手は、何かを掴んだ。
ぼんやりとする意識で、自分の腕を辿りその先のものを見る。
誰かの肩。
さらに顔を上げてみれば、桃色の髪をした知らない女性。
「うわァァァァァァァァ!!今度は誰ェェェェェェェェェェ!!」
斗貴子の時の事が頭を過ぎる。
新八は驚きのあまりサクラの肩から弾かれるように手を離す。
バランスを崩してよろめき、彼を背負っているリョーマを巻き込んでその場に倒れる。
「んぎゃァァァァァァァァ!!」
新八は倒れた拍子に右腕を打ち、大声を上げ激しくもだえる。
「……あんた、何やってんの」
冷めた目でこちらを見るリョーマ。
新八は痛みのあまり叫び続け、周りの様子にお構い無しだ。
「ちょっと静かにして」
リョーマは新八の口を手で無理矢理塞ぎ、女性を見据えた。
しばらくはリョーマの手の間から声が漏れていたが、
新八はただならぬ雰囲気とリョーマが傍に居る事の少しの安心で、落ち着きを取り戻しつつあった。

「斗貴子さんを、知ってるの……?」

サクラは表情を硬くして、震える声で呟く。
リョーマはサクラの様子を窺うように睨み、立ち上がる。
「へえ……サクラサンもあのオネエサンの事知ってるんだ。
サクラサンも、あの人みたいに『ドラゴンボール』の存在、信じてるんスか?」
「まさか!」
サクラは頭を振り、即答する。
シカマルも、鵺野も、クリリンも、乾も……ナルトも。
「死んだ人が生き返るなんて、あり得ない」
肩が震える。
俯く。
下唇を噛む。
再度頭を振る。
「じゃあ、少なくともあの人の仲間じゃないんスね」
その声と同時に、サクラの右肩が叩かれた。
顔を上げれば、自分の右側にはリョーマがいる。
「小屋にサクラサンの仲間がいるんでしょ?早く」
新八を支え起こすリョーマの目から、警戒の色がほとんど消えていた。
新八はまだ状況が飲み込めていないようで、僅かに困惑した表情を浮かべながらも、サクラに笑みを見せた。
(信じてもらえた……のかしら?)
リョーマの態度の変化に、戸惑いつつサクラは考える。
彼らの言動を聞く限り、斗貴子と何かあった……恐らく、襲われたのだろう。
最後に会った時の斗貴子の様子からしても、十分あり得る。
小屋に着いたら、詳しく話を聞いた方が良いかもしれない。
(でも、その前に治療が必要みたいね)
仙道に早く薬草を飲ませないといけない事も考え、サクラは二人と一緒に早足で小屋へ向かった。





【滋賀県/琵琶湖周辺/日中】

【春野サクラ@NARUTO】
 [状態]:ナルトの死によるショック中(大分立ち直りました)
 [装備]:マルス@BLACK CAT
 [道具]:荷物一式(二食分の食料を消費、半日分をヤムチャに譲る)
 [思考]:1.新八とリョーマを小屋に連れて行き治療。
     2.薬草を煎じて仙道に飲ませる。
     3.琵琶湖周辺で秋本麗子、星矢を捜索。
     4.四国で両津達と合流。
     5.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖
     6.ケンシロウ、洋一を心配。

【志村新八@銀魂】
 [状態]:重度の疲労、全身所々に擦過傷、特に右腕が酷く、人差し指・中指・薬指が骨折。上腕部に大きな切傷(止血済み)。
     顔面にダメージ、歯数本破損、朦朧、たんこぶ多数、貧血、現在の状況が読めていない
 [装備]:無し
 [道具]:荷物一式、火口の荷物(半分の食料)、毒牙の鎖@ダイの大冒険
 [思考]:1.とりあえずサクラについて行く。
     2.もう一度斗貴子に会いたい。
     3.藍染の計画を阻止。
     4.まもりを守る。
     5.銀時、神楽、沖田、冴子の分も生きる(絶対に死なない)。
     6.主催者につっこむ(主催者の打倒)。

【越前リョーマ@テニスの王子様】
 [状態]:非親衛隊員、重度の疲労、脇腹に軽度の切傷(止血済み)
 [装備]:線路で拾った石×1
 [道具]:マキ○ン
 [思考]:1.サクラと一緒に小屋に行き、休息。
     2.新八が無茶をしないよう見張る。
     3.新八の傷を治してくれる人を捜す。
     4.藍染を殺した人を警戒。
     5.死なない。
     6.生き残って罪を償う。

※新八は放送を聞いていない為、藍染の死亡を知りません。

時系列順で読む


投下順で読む


397:Rain of passing each other 越前リョーマ 415:アビちゃんの撤退大作戦
397:Rain of passing each other 志村新八 415:アビちゃんの撤退大作戦
397:Rain of passing each other 春野サクラ 403:愛をとりもどせ!!

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2024年07月27日 06:38