0415:アビちゃんの撤退大作戦



14:45
仙道は闇の中にいた。
遠くで複数の人の声と、強い風の音が聞こえる。
ここはどこだろう。皆は?話し声はするのに姿が見えない。
やりきれない寂しさが胸を攻める。これが孤独なのか。ひょっとして自分は死んだのだろうか。


「・・・さん。仙道さん。大丈夫ですか?起きられますか?」
声。聞き覚えのある、優しい声が仙道を呼んだ。
「・・・・・・」
仙道の瞳に、ぼんやりとではあるが、薄暗い部屋に散らばる仲間たちの姿が映った。
カーテンの隙間からほんの少し弱い光が漏れている。いつの間にか雨は止んだらしい。
「・・・・・・ここは、」
「琵琶湖のコテージよ。大丈夫。みんな、そろってるわ。お客さんも増えたし」
香がいる。横にサクラ。後ろでアビゲイルが誰か見知らぬ子供と何かを話している。

(そうか、俺は・・・)
仙道の表情が曇る。1人で飛び出した挙句、倒れたことを思い出した。
「うぐっ・・・!ケハッ、こほ、」
「だ、大丈夫!?仙道君、落ち着いて」
「・・・いえ、すみません、情けないっス。1人で突っ走ったあげくに倒れて、皆に迷惑かけるなんて・・・
 俺はホントに・・・」
きちんと謝りたいのに、起き上がることすら出来ない。悔しげに目を閉じる仙道に、労わる様に香が言う。

「そんな顔しないで。小屋の血ね、誰の仕業かわかったの」
「えっ・・・?」
「いま、アビゲイルさんが話を聞いてる。あの子達、今朝、ここで襲われたそうよ。
 命からがら逃げてさっき戻ってきたんだって」

ほら、と香の示す方向にアビゲイルと2人の少年が座っていた。
帽子の子供は仙道のほうを振り向きもせず、アビゲイルと話し込んでいる。
眼鏡の少年は妙な体勢で壁に寄りかかり・・・爆睡していた。
衣服は血と泥に塗れ、身体は傷だらけ。それでも彼らからは強い生気を感じられた。

「襲われたって・・・その襲ったって奴はどこに」
「それは・・・あとで説明するわ。それより、サクラちゃんがね、薬草を採ってきて風邪薬を作ってくれたの」

さっそくサクラが湯飲みに薬湯を注ぎ、持ってきた。
「解熱と疲労回復に効果があります。ちょっと苦くて飲みにくいですけど・・・」 

仙道はなんとか香に支えられて上体を起こした。まだ酷い眩暈がする。
受け取った湯飲みは暖かかった。どこで火を熾したのが、この心遣いが仙道にはありがたい。
頂きます、一口含むと、目の覚めるような渋みと青臭さが口内に広がった。
(こりゃまた、厳しい味だ)

そんな仙道の表情を、少しバツの悪そうな顔を見ているサクラ。慌てて仙道は笑顔で返す。

「いや、うまいです、サクラさん。今まで飲んだ風邪薬の中じゃ一番、刺激的でパワフルっす」
(そういや、良薬口に苦し、なんて言葉をばあちゃんが言ってたなあ)
雨の中、大急ぎで薬草を探してきてくれたあろうサクラの献身に、心の中で頭を下げた。
仙道は残りの青汁、もとい薬湯を一気に飲み干した。

(できればこのまま休ませてあげたいけど、そうも言ってられないわ)
再び仙道をベッドに寝かし、サクラは部屋の隅にいるアビゲイルの所に向かう。
その一角には、アビゲイルの武器コレクション。食料の山にデイパック。
地図に時計に、仙道や香の持ち物までズララッと並んでいる。
さすがにこれだけあると圧巻だが、その乱雑な散らかりように、サクラは少しだけ苛々する。まるで子供部屋じゃない。

アビゲイルさん。仙道さんに薬湯を飲ませました。少し経てば効果は現れると思います」
サクラは言いながら、アビゲイルの横に置いてあるオリハルコンレーダーを手に取った。

※『アビゲイル・レーダー「目指せオリハルコン!巨人の星君グレート」』
通称オリハルコンレーダー。オ(略)という材質を探知する機能がある。現在、映し出されているのは以下の通り。

(1):アビゲイルの持つディオスクロイ
(2):サクラの持つマルス
(3):両津の持つハーディス
(4):両津の持つクライスト
(5):欠番
(6):ダイの持つダイの剣
(7):承太郎の持つシャハルの鏡
(8):承太郎の持つ双子座の聖衣
(9):ディオの持つフェニックスの聖衣
(10):桑原の持つ蟹座の聖衣
(11):ダイの持つペガサスの聖衣

(注:使用者が見ているのは番号だけである)

(9)は吸血鬼たち。皮肉にもケンシロウが聖衣を奪われたことで奴らの位置が確認できる。
(6)は斗貴子である。琵琶湖、大阪、岡山と進み、香川に辿り着いたらしい。一緒にいる(3)(4)(11)は何者なのだろうか?
今のところ、吸血鬼たちの動く気配は無い。雨が止んだことが影響しているのだろう。

アビゲイルは手元で別の機械を弄りながらサクラの方を向いた。

「ありがとうございます。お嬢さんも少し休まれるといい」 
「そんな悠長なこと言ってていいんですか!?吸血鬼が来るのに、すぐにでも出発した方がいいと思いますよ」

「心配は無用です。レーダーで常に監視が出来ますし、雨が上がったばかりとはいえ、
 吸血鬼にとって命取りとなる陽の光が出ています。貴女の走ってきた最短ルートを今の彼らは辿れませんよ。
 彼らの地点から琵琶湖まで、森や建物がトンネルのように続いてるわけではありませんからね」

「でも・・・」

「おそらく到着は日没後でしょう。ケンシロウさんとの戦いで彼はすでに『食欲』を満たし、
 万全の状態にあるようですが、それだけにリスクの高い行動は慎むと考えられます。
 この冥界の預言者アビゲイルが月に代わって保障しますよ」

確かにアビゲイルの言う通りだが、奴らの目的地がわかっているだけに不安が募る。
ケンシロウの最期を間近で目撃してしまったサクラとしては、一刻も早くこの場から仲間を連れて逃げ出したかった。
勿論、彼を殺された悔しさもある。でも今は逃げることが先決だ、そう強く思っていた。
そんなサクラの考えを見透かすかのように、アビゲイルが言う。

「仙道君とそこの彼が、最低でも自力で動けるまで待たねばなりません」

「動けないなら私が背負います。アビゲイルさんは、あの吸血鬼『DIO』の恐ろしさがわかってないんですよ。
 あのスピード、あの強さ・・・悔しいけど私達とは次元が違う。そんな化け物が2匹もいるんですよ!?
 私だって、こんな状態の仙道さんたちに無理強いなんてさせたくない。
 でも、少しでも遠くに逃げないと、簡単に追いつかれてしまいます」

「サクラさん、休息は必要です。貴女も香さんも、この子達も、私も。違いますか?
 確かに私達の傷は塞がりましたが疲労だけはどうしようもない。
 貴女の魔力・・・失礼、チャクラと云いましたね。大分、消耗しているのではないでしょうか」

「私なら平気です。この人達の治療ならアビゲイルさんも『魔法』で手伝ってくれたじゃないですか」

「では貴女は人を背負ったまま戦えるのですか?」
「・・・逃げることはできます。力には自信ありますから」 

「敵は吸血鬼だけとは限りません。それを忘れてはなりませんよ、お嬢さん。
 仮にいますぐ小屋を捨てて撤退したとします。もしも移動先に危険人物がいたらどうします?
 動けない者がふたり、非戦闘要員がふたり。まともに戦えるのは私とお嬢さんのみ。しかも体力は万全ではない。
 そうなれば香さんとリョーマ君に2人を背負って逃げてもらうことになります。しかし彼らもまた疲労している。
 そんな状態で四国まで行けると思いますか?下手をすれば全滅、ということになりかねません。我々は圧倒的に不利なのですよ」 

アビゲイルの言葉にサクラは言い返せない。拳を握り締めて反論の言葉を考えている。

「それに我々が探している星矢君、麗子さんがこの琵琶湖に来るかもしれない。
 彼、リョーマ君は昨日、彼女達と会ったそうです。そして、今朝、同じ場所で斗貴子さんに襲われたと」 

「更に困ったことに」
心なしかアビゲイルが渋い顔をしている。彼の無表情にも色々とバリエーションがあることをサクラは知っている。
なんだろう、この不穏な空気は。それにリョーマの表情も硬い。何かを堪えてる、そんな気がした。

「いいよ、おじさん。それは俺から言う。俺は・・・人を殺してる。
 麗子さんと星矢の仲間、キルアって奴を殺したんだ」

「えっ・・・ちょっと待って、それって、・・・どういうこと!?」
成り行きを見守っていた香が叫んだ。斗貴子に襲われたことは聞いていたが、それは初耳だ。
動揺する香を制し、アビゲイルは少年に話の続きを促した。

「昨日、ここで麗子さんと星矢と会った。麗子さん達は『藍染』てヤバい奴を追ってキルアと3人で琵琶湖に来たんだそうだ。
 で、俺と新八さんは京都を歩いていた時、突然変な奴に銃で襲われて、一時別行動をとるはめになった。
 二手に分かれれば敵も混乱するだろうと思ってさ。それで慌てて合流場所に決めたのが琵琶湖だっだ。

 そんなわけでホントに偶然・・・麗子さんたちとは、ここで出会ったんだ。

 麗子さんと星矢は良い人だった。ずっと襲われたり騙されたりしてきたから、信用できる人に会えてその時は嬉しかった。
 キルアは俺の来る少し前に友達を探しに出てったと言った。そいつの名前は確か、ゴンだったかな・・・

 色々話を聞いた・・・ただ、いくら待っても肝心の新八さんが来なかったから、すぐ大阪に探しに向かったんだ。
 一方で、麗子さん達は『太公望』さんって人と連絡を取りたがっていた。
 『藍染』が琵琶湖に潜伏していると推理したのも『太公望』さんなんだって。その通りだった。
 一日目に『藍染』が星矢の仲間を殺し琵琶湖に向かって逃走している最中に、俺たちはアイツに武器と道具を奪われてる。
 自称科学者と名乗り「琵琶湖に人を集めろ」とも言われた。

 アイツはここに人を集めて脱出?とにかく、何かをする気だったみたいだ。
 麗子さん達に事情を聞いてなかったら、そのまま口車に乗せられて人集めに協力してしまうとこだったよ。
 ・・・でももうソイツ、死んじゃったみたいだけどね。
 とにかく、その藍染と戦う準備をするために、2人は四国にいる仲間の所へ向かったんだと思う」

香たちが探していた星矢と麗子の所在。彼らは確かに琵琶湖を訪れ、去っていた。
やはり、彼女らは四国に居るのだろうか。

「ふむ。しかし、当面の敵『藍染』が死に、仲間を集めていた『太公望』さんはお亡くなりになった。
 そして、香さんの話によれば太公望さんの仲間の内、ターちゃん、竜吉公主さん、斎藤一さん、沖田総悟さん、富樫源次さんが。
 四国に向かったサクラさんの仲間の内、鵺野さん、乾君が亡くなっている」

淡々と喋りながらも、アビゲイルの目が油断なくレーダーをチェックしている。
死者の多さがサクラを打ちのめす。わかっていたことだが、言葉に出されると辛い。

「四国でなんらかのアクシデントが起こったと解釈するべきでしょうね・・・リョーマ君、続けて下さい」
リョーマは頷く。肩は震えていた。彼の先輩であり大切な仲間であった乾。彼は本当に死んだのだ。 

「お、大阪へ向かった俺は、山道で、自転車・・・自転車のチェーンが切れて、直そうと焦ってた。
 そこへ、キルアが、繁みを破って俺の所へ突っ込んできた。凄い形相で、酷い怪我を負っていて、俺は・・・
 ・・・俺は、彼が助けを求めていることに気がつかないまま殴ってしまったんだ。コイツで」 
リョーマは手元の壊れたラケットを示した。
斗貴子の襲撃で破損し、そのまま部屋に置き去りにしていたものだ。
「俺はどうしていいかわからなくなって逃げた。逃げて逃げて、またここに戻ってきた」

「そして到着していた新八君と合流し、数時間も経たないうちに斗貴子さんに襲われた、と・・・
 香さん、仙道君。お聞きの通りです。彼は太公望の仲間である星矢君達の仲間を殺害しています」

全く予想外の展開に香は言葉に詰まり、仙道も天井を見据えたまま動かない。
サクラだけが声を上げた。

「そんな・・・でも、それって事故みたいなものじゃないですか。彼に殺意があってやったことじゃないでしょう!?」
「わからないよ、あの瞬間、考えるより先に身体が動いたんだ。
 ・・・よく見ていれば、キルアが酷い傷を負ってたこと、わかったのにね」


「さて、私たちはこれからその麗子さん、星矢君に会いに四国へ向かいますが」
「ちゃんと話す」
「そうなると、彼女達とお近づきになりたい我々としては非常に困ります。
 この場所に来たのも彼女達との合流が目的なのですから」
アビゲイルさん!!」
堪りかねてサクラが叫ぶ。動じた様子もなくアビゲイルは少年を見ている。

「それでも、話すよ。話さないと償いが出来ない。あんた達に迷惑が掛かるなら出てく。別のルートで四国まで行く。
 怪我まで治してもらって何も返せないのは悪いと思ってる。でも、どうしてもちゃんと言っておきたいんだ」
俯いたまま、頑固にそう言った。


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15:20
サクラとアビゲイルは外に出た。
出て行く前にせめてトラップを仕掛けておこうと主張するサクラに根負けしたのだ。

雨上がりの空。雲の切れ間から光が射している。時刻は15時を過ぎた。日没までおよそ3時間。
恵みの光が少しでも長く続くことを願いながら2人は作業する。
トラップといっても簡単なものだ。落とし穴に、ツタと削った木を使った簡単なボウガン(脚を引っ掛ければ発射する)。
吸血鬼が引っかかるとは思えぬ罠。サクラにとっては焦燥を静めるための気休めなのかもしれない。

「いっそ、燃やしちゃいますか。この小屋」
薬湯を作る時に使用した火種がまだ残っている。
あの憎い吸血鬼たちに明け渡すくらいなら、破壊した方がマシというもの。
しかし、即座にアビゲイルが否定する。

「いいえ、拠点となる場所を与えておいた方が動きが読みやすい。
 位置はこのレーダーで調べられますが、表示されるのはオリハルコン―――フェニックスの聖衣を持つ『DIO』だけです。
 もう一匹の吸血鬼の存在も忘れてはなりません」

「じゃ、この罠も蛇足ですか、ね・・・」
木を削りながら、やや意気消沈したようにサクラが言う。
「そんなことはありません。嫌がらせをしていると思えば落ち着くでしょう」
「・・・・・・」

「ところでサクラさん、私少々詩の心得がありましてね。感想をお聞きしたいので読んでくれませんか」
「ハァッ!?そんな呑気なことしてる場合じゃないでしょう!」
怒るサクラをよそに、アビゲイルはさらさら、地図の裏に言葉を書き込んだ。


(先の放送から推測するに、私以外にも首輪の解体に手を出した者がいるようです。
 そして間違いなく会話は盗聴されてます。混乱を避けるため香さん達にはナイショにしといて下さい)


「・・・!?」
「どうでした?どうでした?私の詩。琵琶湖の雄大さを詠ってみたのですが」
「は、はい・・・す、凄くエキセントリックです・・・」

アビゲイルの濃ゆい顔がドアップになる。至近距離だと心臓に悪い。
サクラは慌てて彼からペンを奪い余白に書き込み始めた。

(どうして今まで教えてくれなかったんですか!?)

(ですから無用の混乱を避けるためです。知ったらあの正直な人たち、どんな態度をとると思いますか?)

そりゃ当然、当たり障りなく、不自然極まりない会話が展開されるだろう。
今日の天気とか、夕食とか、恋人はいるの?とか。唯でさえ、混乱している状況だというのに。 

(承知しました。で、首輪の解体ですがアレって確か一度失敗したって聞きましたけど)

(はい。継ぎ目に刃を入れた途端、爆発しました。
 爆破の衝撃は先日お話した「排撃貝」で吸収して凌いだのですが、あの道具無しで解体した強者にぜひ会ってみたいのです。
 先の放送でわざわざ首輪の事を持ち出すくらいですからね。恐らく失敗してはいないはずですよ。多分)

(逆に失敗のしすぎで死者が続出したとも考えられますよ。その牽制かも)

「う~~ん。サクラさんの詩はちょっと辛口ですね。このアビゲイル、傷心でショック死しそうです」
「馬鹿なこと言ってないで続きを書いて下さい。その、素敵な詩をたくさん」

(続きは後にしましょう。会話が途切れると怪しまれます)
(この野郎)

「話は変わりますが、襲撃時の斗貴子さん、リョーマ君によると「相当、迷っていた」らしいです」
「迷っていた・・・って、ドラゴンボールの信憑性をですか?」
「はい。しかし、一度固執した考えを捨てることは容易ではありません。
 彼らの説得も一応聞いたようですが、やはり『賭け』は続ける、と――――」

―――君達は、このまま頑張ってくれ。どう転ぶか分からないが……
   私は、もう少し賭けを続けてみようと思う

「説得って、あの斗貴子さんを?リョーマ君が?」
存在自体が刃のような、威圧感の塊である彼女と、よく会話なんかできたものだ。

「あの気絶している少年もですよ。彼女の攻撃を受けたその身体で、捨て身の説教をしたそうです」
「あの人がっ・・・!?あんな出血量で・・・呆れた根性だわ・・・よく生きてたなぁ。
 斗貴子さんは、気迫負けしたわけですね」

「私達の時はアビゲイル必殺の命乞いと貢物で見逃してもらったというのに、乙女心とは理解しがたいものです」
「それ、威張るとこじゃないでしょ」

「・・・彼女は人殺しを止めるでしょうか」
「断言は出来ませんよ。彼女は非常に不安定です。危険なことに変わりはありません」

「・・・結局、ドラゴンボール計画は続行中ってわけですか。どうしてそんなに頑ななのかなぁ」

クリリンを殺害した負い目もあるのでしょうね。
 彼にしろ目的のため―――全員の生還を賭けて、長年の友人を殺すという暴挙に出ている。
 その葛藤や苦痛を斗貴子さんは見ていた。
 彼女の選択は、彼のため、いや、彼の無念を昇華したいがための行動なのかもしれません」

「そしたらもう対処のしようもないじゃないですか。死者に対する想いってのは絶対に変えられないもの」

「その斗貴子さんが四国にいる確率が高いのです。どうしましょう」
アビゲイルの指し示す、香川の4つの光点。
「・・・どうするもこうするも・・・この3つのオリハルコンは彼女が略奪したんでしょうか?」
「いえ、動きから察するに誰かと行動を共にしているようです」
(3)(4)(11)。何者かが(6)の斗貴子の傍にいる。特に(11)が不気味である。
通常では有り得ない速さで大阪から香川に移動した。特異な能力を持っているのは間違いない。

「それって新たな賛同者がいるってことですか?それともピッコロ・・・?彼ってドラゴンボールを作った人ですよね。
 斗貴子さんの仲間になるとしたら彼か、ヤムチャさんか(思い出しただけで腹立つなぁ!)、
 孫悟空さんぐらいしかいないんじゃ・・・」

(ああ、そういえばヤムチャとかいう男もいたような気がしますね。
 サクラさんの機嫌が悪くなるので彼の名は口にしないようにしていたんですが)
(アイツのことは早く忘れたいです!って、別にコレ筆談にしなくてもいいじゃないですかっ!)

「製作者のピッコロならドラゴンボールが使用不可能であることぐらい気付くはずです。
 仮に彼が優勝し、元の世界に帰還したとしましょう。ボールを集め神龍とやらを呼び出す。叶えられる願いは一つだけです。
 「ゲーム自体を無かった事にしてくれ」、もしくは「ゲームで犠牲となった者達全員を生き返らせてくれ」と言ったとします。

 確かにそれは神の創りし奇跡のレアアイテムであり、ピッコロの世界では万能の存在かもしれません。
 しかしね、この強力な結界に閉じ込められている限り、我々の死体、霊魂には干渉できないのですよ。
 結局のところ主催者を倒すか、この結界を破るかしなければ「蘇生」術やアイテムなどは使えません。
 ・・・実に、悲劇的な結末です」


(で!我々がこれから注目したいのは主催者が『見逃した』能力者、アイテムです。
 脱出や首輪解体に役立たないと判断され、放置されている者たち。
 今一歩及ばない己の能力に諦めて悶々としている者。妙な体質、下らない特技、役に立たない道具。
 それらを見逃さず味方にし、パズルのように組み合わせるのです。
 もう残り人数は大分少なくなってしまいましたが、無理でも強引でも手遅れでも、や・る・し・か・ありません。
 脳髄をフル回転させてアイデアを捻り出して下さい)

(は、はい・・・善処します)
「それにしても、私が薬を作ってる間に随分色々話したんですね。アビゲイルさん、けっこう聞き上手じゃないですか」
「ええ、会話の途中で悲鳴を上げられることもありませんでした」
(・・・洋一くんに逃げられたことやっぱ気にしてたんだ)
彼女との会話の中で、アビゲイルの顔を見て逃げ出した少年が、
実は香の知り合い(本名・追手内洋一)だと判明していた。

「香さんとも長く話しました。太公望という賢人のことを。生きていたらお会いしたかったですね」

香の体験談はそれなりに有益な情報をもたらしたが、
アビゲイルの感想は深い深いため息だった。

自分のよく知る仲間が(もはやそんな言葉すら使いたくありませんがね!)
香達に襲いかかり(うら若き女性を目の前にした彼の行動など考えるまでもありません)
香の仲間を魔法で殺害(不運にも男性だったようですね)その後、あのファッキン野郎はいったいどこへ消えたのか・・・
(そんなにハーレムが好きなら次はアザラシにでもなればいいんです)
おそらく奴の死亡の原因も女性絡みと見て間違いない(唯の勘ですが外れてはいないと思います)
正直、知りたくありませんでした。~byアビゲイル

アビゲイルは頭と首の血管をピクピクさせて、D.Sのことは香たちに黙っておくことに決めた。
この切羽詰った状況下での仲間割れなど勘弁願いかったからである。
幸いにもフ(略)野郎のことをサクラにはまだ話していなかったし、香とは互いに伝えることは多く、
そのフ(略)野郎に関する話題はすぐに終わった。こうなれば知らぬ存ぜぬで通すしかない。
波風は立てぬに越したことはないのだ。

それなのに。

アビゲイルさん、すんっっごい不機嫌な顔になってますよ。何を考えてるんですか」

「いえ・・・すいません。あの少年のことです。
 この状況下で、人を殺めたなどと告白したことに正直呆れてましてね。
 それも自分のことだけでなく意識の無い仲間の罪まで。
 馬鹿正直にも程があると思いませんか?少なくとも庇護を必要とする人間のすることではありません」
「・・・彼らを連れてきたのは私ですから、苦情は私だけにしといてくださいね」
「お嬢さんを責める気にはなれませんよ。貴女はよくやっています。仙道君の薬を作り、あの子達を助けました」 
「・・・」
「ああ、それからもうひとつ」
懐から取り出した装飾具をサクラに見せた。
女性物のネックレスだが、妙なデザインのせいか冷たい印象を受けた。
こんなものを身に着けるのは一体どんな女性なのだろう。

「この首飾りを見て下さい。おっと、触れない方がいいと思いますよ。
 呪術具の類で幻覚剤か何かが塗られているかもしれません。
 薬の専門家である貴女に調べて欲しいのですが、匂いだけでは毒物の特定は無理でしょうか」
「やってみます。そのまま下げていてください」

サクラは両手でチャクラを練り、直接手で触れないよう首飾りを調べた。
「・・・強い毒性のある薬物を金属部分に塗ってありますね。危険です、猛毒じゃないですか。
 こんなのが体内に入ったら即死ですよ!? どうしたんですか、これ」

「新八君が所持していました。
 リョーマ君の話では「自分達は武器の類は持っていない」との事でしたが、治療のときに見つけてしまったのです。
 こんな呪いのアイテムを所持してしらばっくれるとは危険な子供、
 このアビゲイル必殺の尋問で、問い詰め吐かせてやろう・・・と思ったのですが、

 ・・・本当に、知らなかっただけのようですね。
 あの怪我で直接肌身に着けていましたし、リョーマ君は私から首飾りを取り返そうとして刃先部分を握ったんです。
 幸い傷にはなりませんでしたがね。まあ、そのおかげで、彼らが嘘をつけない人間だとわかりました。
 計り知れないほどのお馬鹿で、強運の持ち主ですよ。だから斗貴子さんも手こずったのでしょう。
 ・・・彼女は、あの子達にとどめを刺せずに泣いていたそうです」

喋りながらもアビゲイルの目はレーダーを追っている。
冷や汗が出てないということは、今のところ吸血鬼や斗貴子の目立った動きはないということだろう。

「・・・・・・」

「斗貴子さんの気持ち、本当はわからなくもないですよ。
 私も半信半疑でしたけど、ドラゴンボールのこと信じてた期間がありましたから。
 はしゃぎまわるヤムチャさんを見てたら、ついそうなっちゃって(ああ、思い出す度に腹立つ!)、
 信じないと救われないから信じるしかないっていうか・・・
 ・・・ある意味、これも呪いのアイテムですよね。変な意見ですけど」

「知った以上は手を出さずにはいられない禁断の果実とでも言うのですかね。
 ・・・揺れている今が彼女を止められる最後のチャンスかもしれません。機会があれば、接触してみましょうか」

アビゲイルの顔は少し切なそうに見えた。
本当は彼女を救いに行きたいのかもしれない。

「キルア君のことですが、あれは穏便に済ませるというのは難しいかもしれませんね」

「あの子達からすれば殺そうと襲い掛かってきた人を返り討ちにした、それだけです。
 悲しい結果になったけど・・・その判断自体は間違ってないと思うんです。
 抵抗しなきゃ殺される。そんな状況に追い込まれて何もするなというほうが無理ですよ。 
 ただ・・・命を奪ったという結果を受け止めなきゃならないのは、本当にきついでしょうね」

「彼らに同情しているんですか」 

サクラはアビゲイルの問いに、少し考えてから答えた。  
「・・・そうです。同情してます。面識ないのに変な話ですが、キルアさんにも星矢さん達にも。
 なんだか悲しくて、やりきれないです」

くるりとアビゲイルに背を向け、濡れていない木の根元に腰を下ろした。
アビゲイルには口では勝てない。だからというわけではないけれど、目を閉じて話した。

「私はずっと任務で動いてきました。私の家は忍者の血筋じゃなかったけど、
 優れた忍者を目指すのが木の葉の里に生まれた子供の宿命、
 義務みたいなものでしたから、疑いもせず忍者の教育を受けました。

 全てにおいて任務が最優先。目の前で味方が殺されても理性を失わず激情を殺し、徹底的に自分を抑制する。
 冷静で的確な判断を下さなければいけない。失敗すれば自分の死も仲間の死も全部無駄になる。そう教えられてきました。

 葛藤は絶えずありました。任務の過程で障害になる敵は殺さなきゃならない。味方も失う覚悟で動く。
 自分の命を失うかもしれないリスクを背負っているし、必死でした。
 里の命令で動いてますから、人を殺したって罪悪感はあっても罪にはなりません」

独り言を呟いてるみたいだと、サクラは思う。
アビゲイルは聞いてくれてるだろうか。

「・・・だから、こうして任務の外に放り出されると、途端に迷ってしまう。
 何をしたらいいのか、自分の判断は正しいのか。常に揺れて、目先のことで頭がいっぱいになる。
 当たり前ですけど、敵対する相手を殺してしまった場合も自分で背負わなきゃならない・・・重いです。
 最善の行動をとったつもりでも容赦なく仲間は死んでいく。
 ナルトもシカマルも、乾君も鵺野先生も・・・死んでしまいました」

「彼らが死んだのはサクラさんの責任ではありません。あくまで個人の意思で行動した結果です。
 止めていれば彼らは死ななかったと感じているのなら、それは大きなお世話ですよ。貴女が悔いることではない」

いつもと同じ淡々とした静かな声。自分とは違う、迷いのない口調。

「そうだとしても、私は無力です。いくら修行したって役立たずのままで・・・誰の力にもなれない。
 医療忍者は仲間の傷を癒すのが仕事・・・なのに、その仲間が次々と死んでいく。
 ・・・おまけに仇もとれず逃げ回ることしかできない」

こんな風に無様に愚痴るしかない自分を、彼はどんな目で見ているだろう。

「意味、ないですよ。私は」

「サクラさん、やめなさい。これ以上は、」


「・・・でも、でもね、アビゲイルさん。乾君の後輩だっていう子を見つけた時に、
 ああ、私にもまだできることがあるんじゃないかって・・・思ったんです。
 アビゲイルさんは、私が仙道さんやあの子達を助けたと言うけど、救われたのは私のほう」


目を開くと、アビゲイルは目の前にいて、サクラに背を向けて座っていた。 
大きな背中と、泥まみれのマント。胡坐をかいてレーダーを見ている。
あまりに彼らしい態度に、サクラは思わず笑ってしまった。

「・・・何か、動きありました?」
「いえ、今のところは何も」
アビゲイルさん・・・死なないで下さいね。私、仲間あっての医療忍者ですから」

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最終更新:2024年07月30日 11:50