0022:王者、起つ!? ◆lEaRyM8GWs
自分の胸元に背が届くかどうかという少年の重荷になる自分が情けない。
身長差のせいで肩を貸す事も出来ない事を謝る少年の気遣いが、ますまず自分を惨めにさせる。
ダイは小さな手で
竜吉公主の手を握り、山中をゆっくりと進む。
聞けばまだ12歳の少年であるのに、何と頼もしい少年なのだろうと
竜吉公主は感心していた。
歩いては休み、歩いては休みを繰り返すうちに、2人は静かな山の中へと入っていく。
光源は月明かりのみの
暗い森ではあるが、これならゲームに乗った者に見つかる心配も減る。
「公主さん、そろそろ一休みしようか?」
「そうじゃな……すまん」
ダイは背負っていた2人分の鞄を大木の根の窪みに置いた後、
竜吉公主は幹に背中を預けて座り込んだ。
ダイは自分の鞄を開けて水の入ったペットボトルを取り出す。
すでに4分の1ほど減っているが、ダイはまだ一口も飲んではいない。疲れた
竜吉公主に飲むよう強く勧めているのだ。
ペットボトルは1人2本あるようだが、このペースではすぐ尽きてしまう。
(――手を引いてもらい、荷物を持ってもらい、水まで恵んでもらっている。私は完全な足手まといじゃな)
純潔の仙女として強い力を持っている
竜吉公主だが、
その力は宝貝と呼ばれる仙人用のアイテムが無ければ使う事ができない。
自身の霧露乾坤網があれば、清らかな水のバリアを張って人間界の空気から多少は身を守れるのに。
自然の豊富な山中に来てからだいぶ呼吸が楽になったものの、やはり彼女にとって毒である事に変わりはない。
(そう……長くはないかもしれぬ。このまま安静にしておったとしても、持って数日か……)
遠くない死期を悟りながらも、
竜吉公主はダイに心配かけまいと平然を装っていた。
ダイは地図とコンパスを見ながら、何事かを考えている。
恐らく仲間の
ポップと
マァムがどこにいるのか考えているのだろう。
だが見ず知らずの島を舞台にされているため、どこに行けば仲間と合流出来るのか検討がつかない。
頭脳労働は苦手なのか難しそうな顔をしているダイを見て、
竜吉公主は軽くアドバイスをしてやる。
「……ダイ。人を探したいのなら……人が集まる場所に行くのじゃ」
「でも、どこに人が集まるのかなんて……」
「私もこの島の事は知らぬが、大きな街を探すのがいいじゃろう。人は人の匂いのする場所に安らぎを見出す。
私達のようにこんな山にやってくる者は少なかろう……」
「街かぁ……どこに街があるのか分からないから、完全に運頼みかな。
トベルーラで空から探せば簡単だけど、それじゃあ敵に見つかる可能性があるし、
こんな夜中じゃ暗くて街を見つけられない……」
「街の他にもうひとつ、人が集まる場所がある。それは道じゃ。例えば……北東にあるこの弓のような島。
ここへ渡るには船や橋が必要じゃろう。ならばこの弓形の島側の海岸を回り、港か橋を探し、そこで人を待てばよい」
「なるほど!」
ダイは子供特有の純粋な笑顔を浮かべ、
竜吉公主はフッと小さく微笑んだ。
(こういうところはまだ子供じゃな)
出会ってまだそれほど時間が経っていないにも関わらず、
竜吉公主はダイに深い信頼を抱いていた。
だからこそ、負担でしかない自分が腹立たしい。
(いっそ、私を置いて行くよう諭してみようか)
一瞬脳裏をよぎった解決方法を、ダイは決して聞き入れはしないだろうとも理解している。
口にしてしまえば、ダイに余計な負担をかけてしまいかねない。
せめて、ダイに与えられた優しさの半分でも彼に返す事が出来たら……
気持ちだけではなく、ダイの力になるように。
「ところで……」
「何じゃ?」
何気ない口調で、ダイは訊いた。悪意も無く、純粋な疑問として、
竜吉公主がもっとも困るであろう問い。
「公主さんの支給品って、いったい何なんだい?」
「ッ……!!」
カッと赤くなった頬を隠すように公主はうつむいた。
「だっ、だから、たいした物ではないと言っているじゃろう。何の役にも立たぬ」
「でも、一応何が入ってたのか知りたいよ。
もしかしたら一見役に立ちそうにないだけで、本当はすごい力を秘めたアイテムだってあるかもしれないのに」
「イヤッ……これは、その、そういうのとは無関係なものじゃ」
「……そこまで隠されると、逆に気になっちゃうんだけど」
2つ並んで置かれた鞄に目を向けるダイ。一方の鞄には、
竜吉公主の支給品が入っている。
「だ、ダイよ。女性の荷物を勝手に覗くのはマナー違反じゃぞ」
「そんな事はしな……あれ? 公主さん、顔赤いよ? 具合が悪いのかい?」
「なっ、何でもない」
「無理はよくないよ。待ってて、今水を出すから」
言いながら、ダイは2つの鞄の前に座り込んだ。
こっそり
竜吉公主の鞄を開ける可能性もあるが、心優しいダイに限ってそれはないだろう。
(むぅっ……どうしたものか)
竜吉公主は、頭を抱えて悩み込んだ。
彼女に支給された物……それを確認するべく、海岸を離れた後、
竜吉公主は自分の鞄を開けてみた。
すると中に入っていたのは、ピンク色の薄い本が数冊。
表紙には金髪色白の女性の裸体。
恐る恐るページをめくると、そこでは男女の営みをしている写真がデカデカと載っていたのだ。
竜吉公主は慌てて鞄を閉じ、「何が入ってたの?」というダイの問いを誤魔化し、ここまでやってきた。
(あのような淫らな物、無垢な少年には毒じゃ)
いまだ頬を朱に染めたまま、
竜吉公主はチラリとダイを見た。
ダイは水を取り出そうと、鞄を開けている最中。
(……まあ、ダイならば間違いでもしない限り私の鞄など開けぬじゃろう。隙を見てあの本は捨て……むっ?)
竜吉公主は首を傾げる。
根の窪みに置いた鞄、どっちがどっちのだったか?
ずっとダイが持ち歩いていてくれて、無造作にそこに置いたが、果たして区別はついているのか?
(まあ、自分の水ばかりを私に飲ませているし……区別はついているのだろう)
と、
竜吉公主が前向きに考えていると、
「…………えっと……」
と、ダイが呟いて、
(……えっと? ………………まさか、自分の鞄がどちらか考えて!?)
と、
竜吉公主が考えている間にダイは鞄のジッパーを開けた。
果たしてその鞄はダイの物か、
竜吉公主の物か。
(マズイッ! あの本は思いっきり荷物の上側に……)
祈るような気持ちでダイを見つめる
竜吉公主。その祈りが通じたのか、ダイは手を止め、出刃包丁を構えた。
「誰だ!?」
出刃包丁を森の影に向かって突き出し、双眸を鋭く研ぎ澄ます。
静かな闘気がダイの全身に漲り、臨戦態勢に入る。
ダイの剣が無い今、ダイは全力で戦う事ができない。
出刃包丁を使い、通常闘気と呪文で戦うか。
竜の紋章を使い、素手で戦うか。
後者は体力をかなり消耗する、できれば出刃包丁で倒せる相手であって欲しい。
いや、それよりもむしろ、戦う意志の無い者なら――
「待ってくれ、私に戦う意志は無い」
闇夜から穏やかな声が流れる。
木々の陰からゆっくりと、しかし堂々と人影が出てきた。
「……誰だ?」
「私はジャングルの王者、
ターちゃん。こんな馬鹿げたゲームに乗る気は無い、刃物をしまって欲しいのだ」
とても人殺しをしそうにない優しい口調ではあったが、ダイは包丁をしまわなかった。
なぜなら、現れた男があまりにも不自然だったから。
背中に大きな箱を背負い、左手に支給された鞄を持っている。そこまではいい。
この人は何で腰みの一枚なんだと、ダイも
竜吉公主も疑問に思った。
「信用してくれ、私は本当に戦うつもりは無い。私はジャングルの平和を守る……」
説得しようとする
ターちゃんの言葉が、唐突に途切れる。
同時に、聖人のように穏やかな眼差しが急に熱を持った。
視線は、ダイの後ろにいる
竜吉公主に向けられている。
今までのは演技か!? か弱い女性である
竜吉公主を狙っているのか!?
警戒心を強めるダイの眼前で、
ターちゃんの身体が変貌を遂げた。
「なっ……!?」
「ヒッ……!」
ダイも
竜吉公主も驚愕に目を見開き、
ターちゃんを凝視した。
正確には
ターちゃんの股間を。
彼の腰みのが大きく盛り上がり、股間から斜め上に棒状の何かがせり上がっている。
その先端はなぜか微妙に濡れていた。
「なっ、何だそれは!? まさか武器!?」
モンスターの養父に育てられ、ぱふぱふすら知らない無垢なダイは性的な知識など皆無に等しく、
第二次性徴期も迎えておらず、女性を性的な目で見た事も一度も無いため、その現象が何なのか分からなかった。
「ちっ、違うのだ。その人があまりに綺麗だったので、つい……」
「つい、何だ? 戦う気が無いんなら、腰みのの中の物を捨てろ!」
「これは元々生えているものだから無理なのだ」
「さっきまでは何も無かったじゃないか?」
「だからこれは……」
ターちゃんは
竜吉公主に助けるような視線を送った。
まさか女性の口から説明させる気かと、
竜吉公主は小さな怒りを覚える。
だがこのままでは流さなくていい血が流れてしまうかもしれない。
いきなり自分に欲情したこの男は危険かもしれないが、少なくとも敵意や殺気のようなものは感じられない。
まずは話をして、彼の人格を確かめるべきだ。
「ダイ、いったん刃を引け。その者をどうするか決めるのは話をしてからでも遅くはない」
「でも、アレは……」
「あ、アレは……武器とかではないから、安心しろ」
「公主さんはアレが何か知っているの?」
無知は罪。
しかし無垢は罪ではない。
ダイは悪くない、自分にそう言い聞かせる。
「……うむ……危険……ではないから安心しろ」
(と言っても、女にとっては危険極まりないものなのじゃが)
羞恥に顔が真っ赤になっている
竜吉公主を見たダイは、こう思った。
(あんなに具合が悪そうなのに、ああやって力になろうとしてくれているんだ。公主さんを信じよう)
ああ、純真無垢。
竜吉公主が赤面している真の理由など知る事もなく、ダイは出刃包丁を持つ手を下ろした。
「それじゃあ、ターチャンさんだっけ」
「
ターちゃんでいいのだ」
「じゃあ
ターちゃん。とりあえずそっち側の木の根にでも座って話をしよう」
「ありがとう」
ほがらかな笑顔を浮かべた
ターちゃんの股間が、安堵のおかげか縮み出した。
殺し合いにならずに済んだ事を心底喜んでいる様子を見て、
竜吉公主は思う。
もしかしたらこの男も、ダイのように純粋な心の持ち主なのかもしれない。
だとしたら、彼とは仲間になれるかもしれない。心を許しあえる、硬い信頼で結ばれる仲間に。
ダイが公主のかたわらに寄り添い、
ターちゃんが少し離れた位置に座ろうとした時、彼の目線がダイ達の鞄へ向く。
「あっ」
ダイが開けっ放しにしていた鞄から、ピンク色の雑誌が見えていた。
ターちゃんの声にダイも鞄を見て、雑誌の存在に気づく。
「ああ~っ! 私の愛用している恥ずかしい本ッ!!」
「愛用ッ!?」
我を忘れて鞄に駆け寄る
ターちゃん。悪意は無さそうなので、ダイは警戒は続けていたが止めようとはしなかった。
ターちゃんは
竜吉公主の鞄から恥ずかしい本を取り出すと、パラパラとページをめくり、再び腰みのを盛り上がらせる。
……所々、恥ずかしい染みがついていた。
(わっ、私は……アレを素手で触ってしまったのか……)
飲み水は貴重だ。だが、
竜吉公主は今ある水すべてを使って両手を洗いたいと心の底から思った。
【高知北部の山中/黎明】
【ダイ@ダイの大冒険】
[状態]:健康
[装備]:出刃包丁
[道具]:荷物一式(水8分の1ほど減少)
[思考]:1.ターちゃんと話をする。
2.アバンの使途、太公望を探す。他、仲間になってくれそうな人を集める。
【竜吉公主@封神演義】
[状態]:疲労、普通の空気を吸っている限り、数日後には死んでしまう。
[装備]:無し。
[道具]:荷物一式、恥ずかしい染みのついた本@ジャングルの王者ターちゃん
[思考]:1.ターちゃんと話をする。
2.アバンの使途、太公望を探す。他、仲間になってくれそうな人を集める。
【ターちゃん@ジャングルの王者ターちゃん】
[状態]:勃起
[装備]:無し
[道具]:荷物一式、ペガサスの聖衣@聖闘士星矢
[思考]:1.ダイ達と話をする。
2.自分の仲間を探す。他、仲間になってくれそうな人を集める。
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2024年08月13日 09:26