0026:噛ませすらになれなかった漢





「くそっ!何でこんなのに巻き込まれるんだよ!」
男は闇の中を唯ひたすらに駆けていた。
「あのレベルの強さでさえ相手になってなかったじゃないか……」
いとも簡単にやられたナッパを思い出す。
いつもは身の程もわきまえず強がってみせる彼だが、今回ばかりは違った。
明らかに自分より強い奴が黒幕に楯突いたのだが、あっという間にやられてしまったという事実。
そう、最初の噛ませ犬の役を取られた時点で、彼の演ずるべき役目はもう残ってはいなかった。
「――どうせ俺がいたって足手まといさ」
逃げて逃げて逃げて何とか生き延びる。
「そうさ、今回だって悟空達がなんとかしてくれる!」
それまで逃げ切るのが自分に出来るただ一つのこと。
こんな所で変なヒーローっ気を出し死にたくはない。
取り敢えず目に入った民家に隠れることにした。
走って逃げるよりも隠れていた方が生き延びられる気がしたからだ。
「早くなんとかしてくれよ、悟空」

民家に逃げ込んだ彼が最初にすることは状況整理だった。
現在地は京都。
実際は県名なんて彼には関係はなかったが、逃げるときに逃げ道が多い方が良いわけで、
なるべく他県と隣接している地域、そして東西南北危なくない方に逃げられる為、この配置は運が良かった方なのだと考える。
そして支給された武器はと言うと……
「超神水ね……」
説明によると自分の中に隠された力が湧き出るが、猛毒で体力の無い人が飲むと死んでしまうという代物らしい。
「いらねーもん引いちまったな」
自分が飲むのは怖くてとてもじゃないが出来ない。
それに眠っている力がどれだけあるかってのも謎だ。
だからと言って毒として使う分にはあまり魅力的ではない。
体力が無い一般人レベルなら自分でさえ勝てる自信はある。
噛ませだなんだと言われてもあれは超人の中にいるからなのだ。
伊達に修行はしていない。
そして逆に強い奴に毒を盛ろうとして失敗したら、敵が更に強くなって襲いかかってくる可能性もある。
その上、こんな良いアイテムならば、悪人が存在を知ったら是が非でも奪いに来るだろう事は目に見えていた。
「むしろ便利なのはこちらの方か……」
手にした空のホイポイカプセルを見つめる。
多少かさばる物でも中に入れられる便利な道具。
彼はため息をつくとバックの中の物を全てカプセルに移動させた。
武器みたいに即座に取り出さないと負ける物が支給されていない場合、カプセルに移して身を軽くした方が少しでも有利だと考えたからだ。

「取り敢えず休憩するか……」
危険になるまでこの民家で隠れていようとしたが、外から女性と思われる悲鳴が聞こえてくる。
「ちっ!早くも危険なのかよ!」
三十六計逃げるにしかず。
身近に危険が迫ったのならば隠れているよりも逃げながら隠れた方が良い。
隠れていても気を感じて探しに来る奴がいるかも知れないし、レーダー系を支給されていると一発でアウトだ。
しかし、彼の頭の隅に先程木霊した声が引っかかった。
「あの声からするとまだ若いだろうなぁ……」
基本的に良い格好しいの彼は先程の超神水を思い出す。
彼――ヤムチャは女性の前で目立つのと自分の命を本気で天秤にかけて悩んでいた。




【京都府 (1日目)/黎明】

【ヤムチャ@DRAGON BALL】
 [状態]:健康
 [装備]:特になし
 [道具]:バックを除く支給品一式、超神水@DRAGON BALL
 [思考]:1悟空達が何とかしてくれると信じそれまで逃げて生き延びる
     2悲鳴が聞こえた女性を助けに行くかどうか思案中


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GAME START ヤムチャ 052:狼牙の受難

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最終更新:2024年08月13日 09:32