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街路は灯りに照らされて - (2007/01/01 (月) 15:54:30) の1つ前との変更点

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  黒曜石ちゃんには悪いと思っている。   だけど、俺と漬物石は一足先にパーティ会場を後にさせてもらう。 「もう少し話してたかったか?」 「え、ええ少しは……でも、マスターとのお出かけも、楽しみでしたから」 「この期に及んでデートって言ってくれないんだな。俺は悲しいぞ」 「ま、マスターっ、また意地悪……」   そんなつもりはないんだけどなぁ。まぁ、可愛いから怒らせるのもまた……。 「結局黒曜石ちゃんのところでご飯済ませちゃったから、街でぶらぶらしようか」 「そうですね。マスター、今度あのレストラン連れて行って下さいね」 「はいはい」           ◇   漬物石と初めて来る市街地。   俺自身はまぁ、仕事で来る事が多いから物珍しい事など無い。 「すごいですねぇー。目がチカチカします」   だが、漬物石はここに来る事が出来ただけでも嬉しいといった様子。こちらとしても嬉しい事だが。 「ま、この時期だけだけどな。クリスマスシーズンだし」 「本当、クリスマスというのは明るいんですね。まるで昼みたいですよ」 「だなぁ。俺としては夜は暗いっていう当たり前の方が嬉しいのだが」 「でも暗いのはやっぱり怖いですよ。あ、あそこの可愛いですよー」   指差す先には、動物をモチーフにしたイルミネーション。地球に優しいLED製と見た。 「マスター、これは何という動物ですか? あまり名前に詳しくなくて……」 「んー、こっちがトナカイで、こっちは多分イルカ。イルカは海に住んでる奴な」 「魚ですか?」 「いや、ほ乳類」 「ほ、ほ乳瓶?」 「違うって」   思わぬおとぼけぶりに笑いが漏れてしまう。あ、ふくれっ面。 「く、詳しくないだけですっ」 「でもほ乳瓶と聞き間違えるのはどうかと思うぞ」 「笑わないで下さいっ。もう、マスターの意地悪……」   そうやって可愛く拗ねるから意地悪したくなるっていうのには、永遠に気付く事はないだろうな。   まぁ、その方がこちらにとっては都合が良い。いつでも可愛い漬物石が見られるのだから。   ……そうだな、いつまでも見ていたいよな、こういうの。 「分かった分かった。もう笑わないからそんなふてくされるなって」 「ふてくされてなんかないもん……」   いや、そもそも普段と口調が違うし。 「ったく、じゃあなんか奢ってやるから。それで許してくれ」 「……じゃあ、鯛焼きが良いです」   クリスマスに鯛焼きかよっ! 「あそこの結構美味いな」 「はい」   この時期に鯛焼きの屋台なんてある事自体驚きだが、まぁいいや。   しかし、ずいぶん味わって食べてるなぁ。あまりにゆっくり過ぎて冷めちまいそうだ。 「漬物石ー、もう少し早く食べないと冷たくなるぞ?」 「でも口小さいからこれが限界ですよぉ……あ、半分こしませんか? マスターのは中身が違うんですよね」 「ん、そうだけど。つーか分けてたら本末転倒だよな、結局食うのに時間かかる」 「うぅ、でもぉ……うん、やっぱり半分こしましょう?」 「まぁそこまでいうならいいけど」   という訳で、鯛焼きを真っ二つ。そして頭の方を漬物石に渡す。 「え、頭の方は中身いっぱいあるんですよ。いいんですか?」 「あぁ、構わない。その代わり漬物石のも頭くれ」 「分かりました。それじゃあ……はい」   鯛焼きを交換。とりあえずまだ暖かいな、うん。   早速一口……ん、スタンダードなあんこも美味いな。 「じゃあ私も……あっ」 「どーした?」 「……そ、その、よく考えたら私……頭から、食べてました」 「? だからどうした?」 「いや、だってその……えっと……」 「間接キスとでもいいたいのか?」   無言で顔を赤くする漬物石。   ま、何を言いたいか実は分かっていたんだけどな、はっはっはー。   ちなみに俺は尻尾から食べるタイプだ。 「照れる事はないぞー。男として漬物石みたいな可愛い子との関節は大歓迎だ」 「ま、マスターっ。もぉ……」   そして案の定、真っ赤な顔で拗ねる。   こんな顔を見る事が出来ただけでも、今回デートに誘ってみて良かったと思う。 「……じゃ、じゃあ……マスターの食べかけも……下さい」 「え?」 「だ、ダメならこっちを一口かじって返して下さいっ。マスターばかり喜んでいたら……不公平です」   予想外の反応。まさから向こうから間接キスやらせろとは……。   しかも喜ぶって……漬物石、自分で墓穴を掘ってるような。   まぁいい、尻尾は無くなったから漬物石が差し出してくる先ほどあげた頭の部分を、少しだけ食べる。   それを見ている漬物石といえば……顔が堅い、ものすごく。 「い、行きます……」   鯛焼き食べるのにこんな緊張をしている人を、俺は初めて見る。   まぁ、純情な漬物石らしくて良いけどね……お、ダイレクトに俺の噛んだところを口に運ぶか。なかなかやるな。 「……お、美味しいですよ。マスターの、か、かか……間接、キス……はうぅ」 「お、おいっ、倒れるなっ!」 「……はっ、わ、私は一体……」   ……なんというか、笑うのを堪えるので精一杯なのだが。もしかしてわざとやってるか? 「うぅ……は、恥ずかしいですよぉ」 「そうだな、恥ずかしいな」 「ま、マスターのせいですよぉ、そんな他人事みたいに……」 「でも俺は嬉しいけどな」 「す、少しは恥ずかしがって下さいよぉー」   なんだ、つまり俺を恥ずかしがらせるために間接キスなんて荒行をやったのか。   しかし残念、年を取るとそういう感覚は鈍ってしまうものでな、はっはっはー。 「って、俺はおっさんかーっ!」 「ま、マスターっ?」 「はぁ、はぁ……まだ中年になりたくねぇ……」 「マスターはちゃんと若いですよ。だから落ち着いて」   つーか俺は何下らない事で取り乱してるんだ……。 「す、すまん漬物石……お、あそこ見てみろよ」 「え? わぁ、大きなクリスマスツリーですねぇ」   そうか、いつの間にか公園の方まで来ていたのか。   このツリーは毎年イルミネーションの目玉として用意されている奴だ。かなりでかい。 「マスター、クリスマスって綺麗ですね」 「ん、まぁな。これで雪も降れば……おっ、言ってみるものだな」   俺の言葉に反応したのか、空から小さい雪がちらほらと。 「わぁ……」   そんな小さな白い粒に、漬物石は目を輝かせる。   まるで初めて雪を見た子供みたいな顔だ。   ……ま、雪を見てテンション上がるのは俺も一緒だけどな。 「マスター、これ積もりますか?」 「んー、それは分からないかな。でも積もったら楽しいだろうなぁ」 「一緒に雪だるま、作りますか?」 「……そうだな、そうするか」   なんだかなぁ。   漬物石を子供っぽいとか言っていても、結局俺もガキか……。 「楽しみですね」 「ああ」   まぁ、それも良いだろう。   図体ばかりでかくて、妙にガキンチョな男。   そして普段は良い奥さんで、とても可愛らしい仕草を見せる漬物石。   それで良い。それが続けば、それで良い。 「来年もこれ、見れるといいな」 「マスター、もう来年の事を考えてるんですか?」 「……あぁ」   クリスマスも終わる。   この後は西暦の数字が一つ増えて、平成の数字が一つ増えて。   そしてまた来るクリスマスを待つ。 「漬物石」 「はい?」   365日の日常が、続いていく。   ずっと……。 「……これからも、よろしくな」   俺を見上げる少女にそう告げる。 「はいっ」   それに彼女は、笑顔で応えてくれた。
  黒曜石ちゃんには悪いと思っている。   だけど、俺と漬物石は一足先にパーティ会場を後にさせてもらう。 「もう少し話してたかったか?」 「え、ええ少しは……でも、マスターとのお出かけも、楽しみでしたから」 「この期に及んでデートって言ってくれないんだな。俺は悲しいぞ」 「ま、マスターっ、また意地悪……」   そんなつもりはないんだけどなぁ。まぁ、可愛いから怒らせるのもまた……。 「結局黒曜石ちゃんのところでご飯済ませちゃったから、街でぶらぶらしようか」 「そうですね。マスター、今度あのレストラン連れて行って下さいね」 「はいはい」   漬物石と初めて来る市街地。   俺自身はまぁ、仕事で来ることが多いから物珍しいことなどない。 「すごいですねぇー。目がチカチカします」   だが、漬物石はここに来られただけでも嬉しいといった様子。こちらとしても嬉しいが。 「ま、この時期だけだけどな。クリスマスシーズンだし」 「本当、クリスマスというのは明るいんですね。まるで昼みたいですよ」 「だなぁ。俺としては夜は暗いっていう当たり前の方が嬉しいのだが」 「でも暗いのはやっぱり怖いですよ。あ、あそこの可愛いですよー」   指差す先には、動物をモチーフにしたイルミネーション。地球に優しいLED製と見た。 「マスター、これは何という動物ですか? あまり名前に詳しくなくて……」 「んー、こっちがトナカイで、こっちはたぶんイルカ。イルカは海に住んでる奴な」 「魚ですか?」 「いや、ほ乳類」 「ほ、ほ乳瓶?」 「違うって」   思わぬおとぼけぶりに笑いが漏れてしまう。あ、ふくれっ面。 「く、詳しくないだけですっ」 「でもほ乳瓶と聞き間違えるのはどうかと思うぞ」 「笑わないで下さいっ。もう、マスターの意地悪……」   そうやって可愛く拗ねるから意地悪したくなるっていうのには、永遠に気づかないんだろうな。   まぁ、その方がこちらにとっては都合がいい。いつでも可愛い漬物石が見られるのだから。   ……そうだな、いつまでも見ていたいよな、こういうの。 「分かった分かった。もう笑わないからそんなふてくされるなって」 「ふてくされてなんかないもん……」   いや、そもそも普段と口調が違うし。 「ったく、じゃあなんか奢ってやるから。それで許してくれ」 「……じゃあ、鯛焼きがいいです」   クリスマスに鯛焼きかよっ! 「あそこの結構美味いな」 「はい」   この時期に鯛焼きの屋台なんてあること自体驚きだが、まぁいいや。   しかし、ずいぶん味わって食べてるなぁ。あまりにゆっくり過ぎて冷めちまいそうだ。 「漬物石ー、もう少し早く食べないと冷たくなるぞ?」 「でも口小さいからこれが限界ですよぉ……あ、半分こしませんか?  マスターのは中身が違うんですよね」 「ん、そうだけど。つーか分けてたら本末転倒だよな、結局食うのに時間かかる」 「うぅ、でもぉ……うん、やっぱり半分こしましょう?」 「まぁそこまでいうならいいけど」   というわけで、鯛焼きを真っ二つ。そして頭の方を漬物石に渡す。 「え、頭の方は中身いっぱいあるんですよ。いいんですか?」 「あぁ、かまわない。その代わり漬物石のも頭くれ」 「分かりました。それじゃあ……はい」   鯛焼きを交換。とりあえずまだ温かいな、うん。   さっそく一口……ん、スタンダードなあんこも美味いな。 「じゃあ私も……あっ」 「どーした?」 「……そ、その、よく考えたら私……頭から、食べてました」 「?  だからどうした?」 「いや、だってその……えっと……」 「間接キスとでもいいたいのか?」   無言で顔を赤くする漬物石。   ま、何を言いたいか実は分かっていたんだけどな、はっはっはー。   ちなみに俺は尻尾から食べるタイプだ。 「照れることはないぞー。男として漬物石みたいな可愛い子との間接キスは大歓迎だ」 「ま、マスターっ。もぉ……」   そして案の定、真っ赤な顔で拗ねる。   こんな顔を見られただけでも、今回デートに誘ってみてよかったと思う。 「……じゃ、じゃあ……マスターの食べかけも……下さい」 「え?」 「だ、ダメならこっちを一口かじって返して下さいっ。マスターばかり喜んでいたら……不公平です」   予想外の反応。まさから向こうから間接キスやらせろとは……。   しかも喜ぶって……漬物石、自分で墓穴を掘ってるような。   まぁいい、尻尾はなくなったから漬物石が差し出してくる先ほどあげた頭の部分を、少しだけ食べる。   それを見ている漬物石といえば……顔が堅い、ものすごく。 「い、行きます……」   鯛焼き食べるのにこんな緊張をしている人を、俺は初めて見る。   まぁ、純情な漬物石らしくていいけどね……お、ダイレクトに俺の噛んだところを口に運ぶか。なかなかやるな。 「……お、美味しいですよ。マスターの、か、かか……間接、キス……はうぅ」 「お、おいっ、倒れるなっ!」 「……はっ、わ、私はいったい……」   ……なんというか、笑うのをこらえるので精一杯なのだが。もしかしてわざとやってるか? 「うぅ……は、恥ずかしいですよぉ」 「そうだな、恥ずかしいな」 「ま、マスターのせいですよぉ、そんな他人事みたいに……」 「でも俺は嬉しいけどな」 「す、少しは恥ずかしがって下さいよぉー」   なんだ、つまり俺を恥ずかしがらせるために間接キスなんて荒行をやったのか。   しかし残念、歳を取るとそういう感覚は鈍ってしまうものでな、はっはっはー。 「って、俺はおっさんかーっ!」 「ま、マスターっ?」 「はぁ、はぁ……まだ中年になりたくねぇ……」 「マスターはちゃんと若いですよ。だから落ち着いて」   つーか俺は何下らないことで取り乱してるんだ……。 「す、すまん漬物石……お、あそこ見てみろよ」 「え?  わぁ、大きなクリスマスツリーですねぇ」   そうか、いつの間にか公園の方まで来ていたのか。   このツリーは毎年イルミネーションの目玉として用意されている奴だ。かなりでかい。 「マスター、クリスマスって綺麗ですね」 「ん、まぁな。これで雪も降れば……おっ、言ってみるものだな」   俺の言葉に反応したのか、空から小さい雪がちらほらと。 「わぁ……」   そんな小さな白い粒に、漬物石は目を輝かせる。   まるで初めて雪を見た子供みたいな顔だ。   ……ま、雪を見てテンション上がるのは俺も一緒だけどな。 「マスター、これ積もりますか?」 「んー、それは分からないかな。でも積もったら楽しいだろうなぁ」 「一緒に雪だるま、作りますか?」 「……そうだな、そうするか」   なんだかなぁ。   漬物石を子供っぽいとか言っていても、結局俺もガキか……。 「楽しみですね」 「ああ」   まぁ、それもいいだろう。   図体ばかりでかくて、妙にガキンチョな男。   そして普段はいい奥さんで、とても可愛らしい仕草を見せる漬物石。   それでいい。それが続けば、それでいい。 「来年もこれ、見れるといいな」 「マスター、もう来年のことを考えてるんですか?」 「……あぁ」   クリスマスも終わる。   この後は西暦の数字が一つ増えて、平成の数字が一つ増えて。   そしてまた来るクリスマスを待つ。 「漬物石」 「はい?」   365日の日常が、続いていく。   ずっと……。 「……これからも、よろしくな」   俺を見上げる少女にそう告げる。 「はいっ」   それに彼女は、笑顔で応えてくれた。 ----

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