宝石乙女のマスターに求められる資質の一つとして、『孤独を好む』というのはかなり重要だと思う。衆目を避けるため、たいていは山奥で暮らすことになるからだ。
「マスター、鶏冠石さんたちがお見えになりました」
「お、もうそんな時間か。あいつらももうちょっと早めに連絡くれればいいのになあ。まったく迷惑なことだ。黒曜石も、無理して豪華な料理を出すことないぞ」
「ふふ、またそんなこと言って。本当は遊びに来てくれて嬉しいんですよね。顔が笑ってますよ」
……まあ、たまに人恋しくなることもある。時には同じマスター同士、乙女たち相手にはできない話をするのも悪くない。
「やあ、久しぶりー。ちょっと近くを通りかかる用事があったもんだから、寄らせてもらった――いてっ! 何すんだよ鶏冠石!」
「挨拶ぐらいきちんとなさい……こほん。マスターが失礼いたしました。突然の訪問、お許しください」
「はは、相変わらずだな二人とも。そんなにかしこまらなくてもいいって言ってるのに。さああがってあがって」
「そうだぞ鶏冠石、乙女のマスター同士といえば兄弟も同然なんだから、もっと気軽に――痛い痛い痛い!」
「親しき仲にも礼儀あり、ですわ!」
マスターと乙女の関係はそれぞれだが、この二人の場合、たいてい鶏冠石が主導権を握ってるようだ。
「うふふ、あの二人、いつも仲良しさんですよね。ちょっとうらやましいな」
耳を引っ張られながらリビングへ引きずられていく彼を見て、黒曜石がほほえんだ。
「あー、まあ仲悪くはないんだろうけど……さあ、私たちも行こう」
黒曜石の期待に満ちた目にみつめられ、私はさりげなく手で耳を隠しながら二人の後を追った。
「マスター、鶏冠石さんたちがお見えになりました」
「お、もうそんな時間か。あいつらももうちょっと早めに連絡くれればいいのになあ。まったく迷惑なことだ。黒曜石も、無理して豪華な料理を出すことないぞ」
「ふふ、またそんなこと言って。本当は遊びに来てくれて嬉しいんですよね。顔が笑ってますよ」
……まあ、たまに人恋しくなることもある。時には同じマスター同士、乙女たち相手にはできない話をするのも悪くない。
「やあ、久しぶりー。ちょっと近くを通りかかる用事があったもんだから、寄らせてもらった――いてっ! 何すんだよ鶏冠石!」
「挨拶ぐらいきちんとなさい……こほん。マスターが失礼いたしました。突然の訪問、お許しください」
「はは、相変わらずだな二人とも。そんなにかしこまらなくてもいいって言ってるのに。さああがってあがって」
「そうだぞ鶏冠石、乙女のマスター同士といえば兄弟も同然なんだから、もっと気軽に――痛い痛い痛い!」
「親しき仲にも礼儀あり、ですわ!」
マスターと乙女の関係はそれぞれだが、この二人の場合、たいてい鶏冠石が主導権を握ってるようだ。
「うふふ、あの二人、いつも仲良しさんですよね。ちょっとうらやましいな」
耳を引っ張られながらリビングへ引きずられていく彼を見て、黒曜石がほほえんだ。
「あー、まあ仲悪くはないんだろうけど……さあ、私たちも行こう」
黒曜石の期待に満ちた目にみつめられ、私はさりげなく手で耳を隠しながら二人の後を追った。
鶏冠石が雲母の相手をしながら黒曜石と談笑している。それを横目で眺めつつ、私は彼のグラスにワインを注いだ。
「サンキュー。今日は天河石とソーダちゃんは?」
「殺生石たちのマスターのところに預けてきた。3人まとめて相手するのは鶏冠石が大変かと思って」
「あ~、そういえばこの間アポなしで来たときは、鶏冠石がキレちゃって大変だったからな……あのときはホントすまなかった」
「いやあ、あれはしかたないよ。子供はパワフルだからな……慣れてるはずの私や黒曜石でさえもてあますときがあるし」
前回の惨事の記憶を振り払うかのように、私たちは同時に頭を振り、一気にワインを飲み干した。
「サンキュー。今日は天河石とソーダちゃんは?」
「殺生石たちのマスターのところに預けてきた。3人まとめて相手するのは鶏冠石が大変かと思って」
「あ~、そういえばこの間アポなしで来たときは、鶏冠石がキレちゃって大変だったからな……あのときはホントすまなかった」
「いやあ、あれはしかたないよ。子供はパワフルだからな……慣れてるはずの私や黒曜石でさえもてあますときがあるし」
前回の惨事の記憶を振り払うかのように、私たちは同時に頭を振り、一気にワインを飲み干した。
いい大人が酒の席で話すことなど、仕事の愚痴と相場は決まっている。だが、これが乙女のマスターとなると事情が違ってくる。
「しかし、いつ見ても鶏冠石は凛としててきれいだね。大人の魅力にあふれてて……」
「いやいや、ちょっと気位が高すぎて困ってるよ。やっぱり黒曜石ちゃんみたいにちょっと控えめな方がかわいらしくていいね」
当然だが彼女たちの話題で盛り上がるのだ。それも最初のうち、マスターとしての苦労話や相手の娘の賞賛をしてるあいだはいいのだが、酒が進むと少々怪しくなってくる。
「……まあ、あれだね。なんだかんだ言っても鶏冠石はサイコー! 特にあの髪の美しさといったら、もう比べるものは何もないね!」
「はっはっは、おもしろいこと言うね。そりゃ悪くはないけど、雲母の髪のふわふわさに比べたら月とスッポンだよ」
「なーに言ってんだか。鶏冠石の髪のなめらかさといったら、最高級の絹もかくやって感じで……」
「いやいや、雲母の髪の柔らかさときたら、天女の羽衣もかなわないくらいで……」
ガタン!
二人同時に椅子を蹴って立ち上がり、酒臭い顔を近づけ、据わった目でにらみ合う。
「鶏冠石!!」
「雲母!!」
互いの乙女を呼ぶのも同時だった。
「しかし、いつ見ても鶏冠石は凛としててきれいだね。大人の魅力にあふれてて……」
「いやいや、ちょっと気位が高すぎて困ってるよ。やっぱり黒曜石ちゃんみたいにちょっと控えめな方がかわいらしくていいね」
当然だが彼女たちの話題で盛り上がるのだ。それも最初のうち、マスターとしての苦労話や相手の娘の賞賛をしてるあいだはいいのだが、酒が進むと少々怪しくなってくる。
「……まあ、あれだね。なんだかんだ言っても鶏冠石はサイコー! 特にあの髪の美しさといったら、もう比べるものは何もないね!」
「はっはっは、おもしろいこと言うね。そりゃ悪くはないけど、雲母の髪のふわふわさに比べたら月とスッポンだよ」
「なーに言ってんだか。鶏冠石の髪のなめらかさといったら、最高級の絹もかくやって感じで……」
「いやいや、雲母の髪の柔らかさときたら、天女の羽衣もかなわないくらいで……」
ガタン!
二人同時に椅子を蹴って立ち上がり、酒臭い顔を近づけ、据わった目でにらみ合う。
「鶏冠石!!」
「雲母!!」
互いの乙女を呼ぶのも同時だった。
「何ですの、突然大きな声で?」
「何か用か」
驚いた顔をしてやってきた二人は、同時に鼻の頭にしわを寄せ、手で口元を覆った。
「う、お酒くさい……いったい何本飲んだんですの!? 飲み過ぎですわよ!」
「くちゃい」
「そんなことはどうでもいい。鶏冠石、こいつの前に立って後ろを向いてくれ」
「雲母はこっち。で、あっちむいて……」
怪訝そうに振り返る二人に無理矢理前を向かせ、私たちは互いに相手の乙女の背後に立った。
「じゃあ……30秒ずつな。あんまり気持ちいいからって変なことしたらぶっ飛ばすぞ」
「君こそ、本当に昇天してしまわないように気をつけるんだね。では……せー、の!」
私の合図とともに、二人して目の前の乙女の髪に手を伸ばす。さわさわ……。
「おお……これはなかなか……」
隣で彼が感嘆の声を上げた。そうだろう、雲母の髪は実に気持ちいいからな……いやしかし、この鶏冠石の髪もまたつややかで侮れない……。
「あの、お二人ともそのへんにしておいた方が……」
30秒のはずが時間を忘れてさわさわしていた私たちに、黒曜石がおそるおそる声をかける。しかしその警告はほんの少しだけ遅かった。
「……いきなり……何をするんですのーーーーーー!!!!」
「触るな」
「「ぎゃーーーーーーー!!!!」」
文字通り怒髪天を突いた二人が振り返る。鶏冠石の強烈なビンタをもらってたっぷり2mは吹き飛ばされると、酒の回った私の脳みそは強制終了した。
「何か用か」
驚いた顔をしてやってきた二人は、同時に鼻の頭にしわを寄せ、手で口元を覆った。
「う、お酒くさい……いったい何本飲んだんですの!? 飲み過ぎですわよ!」
「くちゃい」
「そんなことはどうでもいい。鶏冠石、こいつの前に立って後ろを向いてくれ」
「雲母はこっち。で、あっちむいて……」
怪訝そうに振り返る二人に無理矢理前を向かせ、私たちは互いに相手の乙女の背後に立った。
「じゃあ……30秒ずつな。あんまり気持ちいいからって変なことしたらぶっ飛ばすぞ」
「君こそ、本当に昇天してしまわないように気をつけるんだね。では……せー、の!」
私の合図とともに、二人して目の前の乙女の髪に手を伸ばす。さわさわ……。
「おお……これはなかなか……」
隣で彼が感嘆の声を上げた。そうだろう、雲母の髪は実に気持ちいいからな……いやしかし、この鶏冠石の髪もまたつややかで侮れない……。
「あの、お二人ともそのへんにしておいた方が……」
30秒のはずが時間を忘れてさわさわしていた私たちに、黒曜石がおそるおそる声をかける。しかしその警告はほんの少しだけ遅かった。
「……いきなり……何をするんですのーーーーーー!!!!」
「触るな」
「「ぎゃーーーーーーー!!!!」」
文字通り怒髪天を突いた二人が振り返る。鶏冠石の強烈なビンタをもらってたっぷり2mは吹き飛ばされると、酒の回った私の脳みそは強制終了した。
「――冷た! あ、いててて……頭ががんがんする……ん、なんかしゃべりにくいな……」
目を開けると、黒曜石が膝に私の頭を乗せ、ほほに冷たいタオルを当てていた。
「あ、気がつきましたか? あんまりしゃべらないでください。口の中が少し切れてるんですから」
「……あ~、なんかだんだん思い出してきた……鶏冠石たちは?」
「もう帰りましたよ。気を失ったマスターさんを鶏冠石さんが背負って。雲母ちゃんが思いっきりひっかいちゃったから、今夜はひりひりして眠れないかもしれませんね」
かたわらに置いた洗面器でタオルを濡らすと、黒曜石は少し乱暴に私のほほにあてがった。
「いてっ! 黒曜石、もうちょっと優しく……」
「知りません! もう、ほかのマスターと契約した乙女の体にさわったりしたら怒られるに決まってます! 酔っぱらってたにしてもやりすぎですよ!」
「頭に響く……大きな声出さないで……」
冷静になって考えてみれば、あのときの私たちはどう見ても変態だった。しかし豪語するだけあって、鶏冠石の髪もなかなか気持ちよかった……。
「……なんですか、その手は?」
「い、いや、なんでもない」
無意識に手をわきわきさせていたら、黒曜石に白い目で見られた。焦ってごまかしていると、いつの間にかそばに来ていた雲母がその手を取って自分の頭に乗せた。
「ん? 雲母どうした?」
「マスターなら、さわってもいい……ちょっとだけな」
「……そうか。うん、ありがとう。やっぱり雲母の髪は柔らかくて気持ちいいね」
ぎゅーっと抱きついて顔を隠してしまった雲母の髪を何度も撫でる。
「あ、あの……よければ私のも、ちょっとだけなら撫でてもいいです、けど……」
「はは、それは嬉しいな。うん、黒曜石の髪はさらさらしてて、指の中で溶けてくみたいだね」
まったく、なんで他の乙女と比べて優劣をつけようなんて馬鹿なことを考えたんだろう。
うちの娘たちが世界で一番に決まってる。
目を開けると、黒曜石が膝に私の頭を乗せ、ほほに冷たいタオルを当てていた。
「あ、気がつきましたか? あんまりしゃべらないでください。口の中が少し切れてるんですから」
「……あ~、なんかだんだん思い出してきた……鶏冠石たちは?」
「もう帰りましたよ。気を失ったマスターさんを鶏冠石さんが背負って。雲母ちゃんが思いっきりひっかいちゃったから、今夜はひりひりして眠れないかもしれませんね」
かたわらに置いた洗面器でタオルを濡らすと、黒曜石は少し乱暴に私のほほにあてがった。
「いてっ! 黒曜石、もうちょっと優しく……」
「知りません! もう、ほかのマスターと契約した乙女の体にさわったりしたら怒られるに決まってます! 酔っぱらってたにしてもやりすぎですよ!」
「頭に響く……大きな声出さないで……」
冷静になって考えてみれば、あのときの私たちはどう見ても変態だった。しかし豪語するだけあって、鶏冠石の髪もなかなか気持ちよかった……。
「……なんですか、その手は?」
「い、いや、なんでもない」
無意識に手をわきわきさせていたら、黒曜石に白い目で見られた。焦ってごまかしていると、いつの間にかそばに来ていた雲母がその手を取って自分の頭に乗せた。
「ん? 雲母どうした?」
「マスターなら、さわってもいい……ちょっとだけな」
「……そうか。うん、ありがとう。やっぱり雲母の髪は柔らかくて気持ちいいね」
ぎゅーっと抱きついて顔を隠してしまった雲母の髪を何度も撫でる。
「あ、あの……よければ私のも、ちょっとだけなら撫でてもいいです、けど……」
「はは、それは嬉しいな。うん、黒曜石の髪はさらさらしてて、指の中で溶けてくみたいだね」
まったく、なんで他の乙女と比べて優劣をつけようなんて馬鹿なことを考えたんだろう。
うちの娘たちが世界で一番に決まってる。