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言っておきたいことがある

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『プルルルル、プルルルル』
「あー、はいはい」
  少々雲っていて肌寒い逢魔が時。無機質な音が鳴り響く。
  こんな時間に電話なんて誰だろう。めったにかかってこないのに。
「もしもし」

  とても懐かしい男からの電話だった。
  そいつとは小学校のときに家族ぐるみでつき合っていた。中学に上がってからは学校が違ってしまったため、疎遠になってしまいそれっきりだった。
  そいつがいったい何の用だろうと思ったが、『ちょっと会えないか』 といった簡単な呼び出しだった。
  場所はそいつとよく遊んだ公園。歩いて15分くらいか……時間には少し早くなるけど、すぐ出とくかな。
  部屋着に一枚上着を羽織り、その上にコートを着て早々に玄関に向かう。
  と、忘れるところだった。
漬物石ー。ちょっと出かけてくるから」
「あ、はい。夕御飯までには帰ってきて下さいね」
  ひょこっと台所から顔を出す漬物石。
「あぁ、わかってる。それじゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」

  少し厚着をしてきたけど、寒さが身にしみる。けどまぁ、風がないのが救いか。
  公園には時間の5分ほど前に着いた。だというのに、そいつはすでにベンチに座っていた。お互いに軽く手を上げて再会の挨拶する。
  呼び出しとは言っても大した用はないらしく、ただただどうでもよくて、下らなくて、楽しい話を交わした。
  けど、少しだけ違和感を感じた。
  家族の話がまったく出てこないのだ。そいつの親父さんには俺も世話になったから、それが少し気になって、
「そういえば親父さんは元気にしてるか?」
  と聞いた。
  今思えば聞かない方がよかったかな、と思う。
  そいつは何でもない風を装って、辛そうに語った。何でも、年が開けて間もなく亡くなったらしい。母親は検査入院だかなんだかで家におらず、そいつはすでに家を出ていたので、家には親父一人で住んでいたそうだ。
  そして、今年に入ってからやたらと忙しくて、そいつは実家に顔を出していなかったらしい。
『もし、自分が顔を出してれば、こんなに悔いが残らなかったんだろうな。やってやれなかったこと、言えなかったことが多すぎる』
  そう言って、そいつは哀しそうに笑った。その顔が、とても印象的だった。

  そのあと、そいつは何事もなかったように他愛のない話題を提供してきた。
  結局、奴と別れたのは待ち合わせの30分後だった。夕飯の時間にはまだ余裕がありそうだったから、安心した。
  帰り道、ふとコンビニが目に入った。

  ――やってやれなかったこと、言えなかったことが多すぎる

  やれなかったこと、か……。
  思い立って、俺はコンビニへと足を向けた。

「ただいま」
「おかえりなさい、マスタ-」
  居間から漬物石が出てきた。
「悪い、待たせたか?」
「いえ、ちょうど仕度が終わったところです」
「そうか、ならよかった。と、先に渡しておくか」
  コートのポケットから、綺麗に包装された小さな包みを出して、漬物石に渡した。
「えっと……これは?」
「バレンタインデーだしな、いつもの礼だよ。ありがとうな、漬物石」
  言いながら、俺は漬物石の頭を撫でる。
「あ……え、えっと……ありがとうございます! どういたしまして!」
  顔を真っ赤にしてお辞儀をする漬物石。
「あ、その……私からも」
  言うや否や、漬物石は台所に入っていき、間髪いれずに出てきた。手には小さな包み。
「バ、バレンタインデーですので。マスターに、チ……チョコレートを、作って、みました」
「おぅ、ありがとう。んじゃ、夕飯食べ終わったあとで二人して食べようか」
「はい!」

『ありがとう』
  こればっかりは、言い損ねたくないからな。


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