早い地方では桜の便りが聞こえてきた季節。僕の自宅近辺はまだ蕾がふくらんでいるところだったりする。
当然、自宅の庭の桜の樹も開花はまだ先の話だ。
それでも、ペリドットは毎日のように桜の樹の前に立ち、日毎にふくらむ蕾に春の訪れを感じているようだ。
「見張りですか? お姉さま」
「あら、誰かと思ったらマスターですか。ふふっ。見張ってなんかいませんよ」
「でも、毎日見てるよね。そんなに眺めていると、桜の樹も見張られているように感じてたりして」
「この桜さんとは長いつき合いですから。今年も綺麗に咲いてくれるようですよ」
「分かるんだ」
「ええ。お話してましたから」
「へぇぇ」
草木と馴染みの深い彼女の言葉だ。気持ちが通じるのだろう、と、このときは思っていた。
あまり気にしなかった僕は言葉を続ける。
「世の中にたえてさくらのなかりせば 春の心はのどけからまし」
「和歌ですね。どういう意味ですか?」
「花が咲く前はいつ咲くのかと気になって仕方ない。咲いたら咲いたで風は吹かぬか、雨は降らぬか。散ってしまわぬかとこれまた気になって仕方ない。本当に桜さえなければ春の訪れをのんびりと落ち着いて過ごすことができるのに――ということらしい。君が毎日、桜を眺めている姿はこの歌をなぞるようだったよ」
「あらあら。でもマスターも、そんな私の姿を見てらしたのですね。毎日毎日」
「ん! まあ、そういうことになるね」
「ふふっ」
いつのまにか攻守が入れ替わる。どうやら僕は玩ばれる性質らしい。
「春が近いとは言え、まだ風は冷たいですね」
「ああ、そうだね。長くいると冷えるよ。家に入ろうか」
「まだ大丈夫ですよ。それに……こうしてマスターが抱いていてくれれば温かいですから」
ペリドットを後ろから抱きしめる格好の僕。たしかに温かいや。
「照れなくてもいいのですよ。ここは桜の樹しか見ていませんから」
そんなこと言われてますます赤くなる僕の顔は彼女には見えない。
まあ、いいか。熱気にあてられて桜の樹が早咲きするくらい熱くなってやろうじゃないか。
蕾がまた少しふくらんだ気がした。
桜の樹の下で、僕とペリドットは春を感じていた。
当然、自宅の庭の桜の樹も開花はまだ先の話だ。
それでも、ペリドットは毎日のように桜の樹の前に立ち、日毎にふくらむ蕾に春の訪れを感じているようだ。
「見張りですか? お姉さま」
「あら、誰かと思ったらマスターですか。ふふっ。見張ってなんかいませんよ」
「でも、毎日見てるよね。そんなに眺めていると、桜の樹も見張られているように感じてたりして」
「この桜さんとは長いつき合いですから。今年も綺麗に咲いてくれるようですよ」
「分かるんだ」
「ええ。お話してましたから」
「へぇぇ」
草木と馴染みの深い彼女の言葉だ。気持ちが通じるのだろう、と、このときは思っていた。
あまり気にしなかった僕は言葉を続ける。
「世の中にたえてさくらのなかりせば 春の心はのどけからまし」
「和歌ですね。どういう意味ですか?」
「花が咲く前はいつ咲くのかと気になって仕方ない。咲いたら咲いたで風は吹かぬか、雨は降らぬか。散ってしまわぬかとこれまた気になって仕方ない。本当に桜さえなければ春の訪れをのんびりと落ち着いて過ごすことができるのに――ということらしい。君が毎日、桜を眺めている姿はこの歌をなぞるようだったよ」
「あらあら。でもマスターも、そんな私の姿を見てらしたのですね。毎日毎日」
「ん! まあ、そういうことになるね」
「ふふっ」
いつのまにか攻守が入れ替わる。どうやら僕は玩ばれる性質らしい。
「春が近いとは言え、まだ風は冷たいですね」
「ああ、そうだね。長くいると冷えるよ。家に入ろうか」
「まだ大丈夫ですよ。それに……こうしてマスターが抱いていてくれれば温かいですから」
ペリドットを後ろから抱きしめる格好の僕。たしかに温かいや。
「照れなくてもいいのですよ。ここは桜の樹しか見ていませんから」
そんなこと言われてますます赤くなる僕の顔は彼女には見えない。
まあ、いいか。熱気にあてられて桜の樹が早咲きするくらい熱くなってやろうじゃないか。
蕾がまた少しふくらんだ気がした。
桜の樹の下で、僕とペリドットは春を感じていた。