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七夕の災難

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 短冊に書く願い事。
 見せ合っている子もいるけれど、僕のは到底見せられない。
 『もう少し女の子らしくなれますように』
 ……こんなの見られたら、本当に大変だ。特にアメジストには。
「私には、何だって?」
「うわあぁぁっ!?」
 どうして彼女はこんなにも唐突なんだろう。
「ふむ、女の子らしく、か。そうかそうか」
 で、いつの間にか僕の手から短冊はなくなっていて……。
 短冊を持ったアメジストが、何故かとても嬉しそうに見えた。
「えっ、あ、か、勝手に見ないでよっ!」
「大丈夫、誰にも見せないよ。もちろん月長石にも」
「そ、そういう問題じゃなくてっ……って、えぇっ、ど、どこに行くのっ!?」

 突然アメジストにさらわれたと思えば、着いたのは何故か僕の部屋。
 いや、僕の部屋というのはおかしいか。マスターの家だし……。
「さて、用意したのはいいが、どうしたものか」
「よ、用意って……それ、浴衣だよね」
 アメジストが手に持っている大きな布。
 水色で、綺麗な模様の描かれた浴衣だった。
「ああ……だがあいにく、私は和装の着付けに疎くてね」
「だったらそんなの用意しなくても……」
「確かに。だが、せっかくの時期だ。女の子らしくなるのにも、こういうのがいいだろう」
「だ、だから別に今じゃなくてもっ」
 そんな僕の抗議を聞き入れることもなく、アメジストは着物や帯を眺めている。
 ……珍しい、アメジストが衣服を前に真剣に悩んでいる。
 あのアメジストでも、分からないものもあるんだというのも、また驚きだった。
「確かこれがこうなっているんだったか……うぅむ」
「あ、あの……」
「いや、見た目だけでは判断しにくい、か。瑪瑙」
 僕の呼びかけに反応した訳でもなく、こちらに顔を向ける。
 そして、次に告げられた言葉に、僕は耳を疑った。
「試しに、私に着せてもらえないかな」
「……は?」

 確かに、漬物石姉さんのおかげで和装の着付けは出来る。
 だけど……。
「アメジストが女性の服を自分から着るなんて、なんか変な感じだよ」
「確かに。だが分からないことは、自ら実践してみるのが一番さ」
 いつも通りの、余裕のある笑顔。
「それに、どうせここにいるのは君だけだろう?」
 おまけに、赤面しそうな台詞。
 ……うぅ、やっぱり苦手だなぁ。
「なるほど、ここはこうするのか」
 なるべく顔を見られないように、アメジストに浴衣を着せていく。
 きっと今の顔を見られたら、また変なことを言われるに違いない。
 大体、何で僕だと平気なんだろう……他の子だって別に変だなんて思わないのに。
 ……僕なんかより、ずっと似合ってると思うのに。
「あの……終わったよ」
「ん、ありがとう」
 なるべくアメジストを見ないように、その場から離れる。
 彼女の顔は……どこか満足げだ。
「……に、似合ってるよ」
「そうか」
 口元に笑みを浮かべているアメジスト。
 新しい服を着て浮かれるようなキャラではないはずなのに、何でそんな顔を……。
「じゃあ、次は君だな」
「えっ!?」
「今ので大体は分かった。だから次は私がだな」
 どうやら、当初の目的はしっかりと覚えていたようだ。
「い、いいよっ。僕なんてアメジストが着るより全然似合わないしっ、むしろアメジストが
そのまま外に」
「それは遠慮しておくよ。この姿は君だけの心に留めておいてくれ」
 一体どこから取り出したのか、もう一着の浴衣を持って近寄ってくる。
「それに、私の前で似合わないとか言わないでくれ」
 ……真剣な顔で、一言。
 その顔を見て、何故か抵抗する力がなくなってしまう。
「……さて、それじゃあまずは服を脱がそうか」
「えっ、ちょっ! そ、それぐらいは自分でっ!」
「駄目だ。いつ逃げられるか分からないだろう?」
「だ、だからそれは、ま、待って待ってってばーっ!!」

「お、瑪瑙着替えてきたんだな」
 外に戻った僕を出迎えてくれるマスター。
 結局いつも通り着せ替えさせられた僕。
 外に出てみると、早速みんなの視線を受けることになった。
「わぁ、似合ってる……ますねっ」
「……良い、仕事だ」
「綺麗ですよ、瑪瑙ちゃん」
「あ、ありがと……はぁ」
 似合ってると言ってもらえるのは嬉しいけれど、素直に喜べないのはどうしてだろう。
 やっぱり、アメジストが着た方がずっと綺麗なのに……。
「なぁ、【黒曜石のマスター】」
 いつも通りの服装のアメジストが、マスターの横に立つ。
「彼女のあの姿を見て、何か感想はないのかな?」
 そして、いつもとは違う……どこか優しげな視線を、僕に送ってくる。
 駄目だ、顔が赤くなってしまう。
「え? そりゃあもちろ似合ってる。可愛いよ」
「なるほど……月並みの答えだが、及第点ということにしておこう」
 ……可愛い、か。
 マスターにそう言われると、やっぱり嬉しいと思う。
 可愛い……良かった、そう思ってもらえて。
「ねーねーアメジストっ、これは写真に納めるしかないよねぇー」
「ん、そうだな。じゃあその辺は月長石に任せる」
「りょーかいっ」
 ……そんな穏やかな心を、月長石の不敵な笑みがかき消してしまったのは、
その後のことである。
「可愛い……えへへ」

          ◇

「あの姿、ホープには絶対見せられなかったな……」
「何の話ー? それよりこれ見てよっ、瑪瑙の浴衣姿激写! きっと
【黒曜石のマスター】が見たら喜ぶねっ、いろんな意味で!」
「……ははは、相変わらずのやりすぎっぷりだな」

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