私が疑心暗鬼なのはどう考えてもお前らテニスプレイヤーが悪い! ◆j1I31zelYA
先頭を、元気よく行進する遠山金太郎。
その後ろを、前原圭一と天野雪輝が、左右に並ぶようにして後に続く。
そんな三人の道中は、やがて森の中を抜ける。
景色は、田畑の点在する田舎道へと変わっていった。
雪輝がGPSで
現在位置を確認すれば、三人がいるのはE-4のエリアだと表示される。
結局、雪輝は金太郎の案を採用し、目的地を学校に定めた。
学校行きもそこまで悪くないとしていたこともあるし、金太郎の希望する場所に付き合おうという趣が大きい。
圭一もまた、「学校行きが良さそうな気がするな……」と消極的に賛同した。
もっとも圭一の場合は、『病院=怪我人が行く場所』という発想から、負傷した水使いと再会するかもしれないという嫌な予感が最たる理由だった。
ちなみに、当初の『装備を充実させよう』という方針に則って、雪輝は圭一に支給品の公開を頼んでいる。
圭一は、支給品は弾道ナイフが一本だったと打ち明け、装備なしでは心もとなかろうとこれを雪輝に渡した。
雪輝はその気前の良さに驚いたものの、圭一は『飛び出しナイフなんて上手く扱えるか分からないしな』とあっさり雪輝に譲渡する。
それらが、道中で起こったやり取りだった。
互いに互いの隠しごとについて疑念を持ちながらも、その会話は穏便なものに終始する。
圭一としては、疑念を解消するには『切原赤也に会っていた』ことを明かさねばならない。その勇気が出せなかった。
雪輝としては、圭一の態度に違和感を感じたものの、問い詰めればもれなく素直な金太郎が
『こっちだって隠しごとをしてるのに問い詰めるのはどうかと思う』と咎めてくる可能性が高い。
圭一を白状させる時、自分が正体を明かす時は、タイミングを見て行いたいという意識があった。
金太郎としては、仲間が増えたことを素直に喜んでいた。
そんな彼らの、足を止める出来事が起こった。
時間帯は、放送も間近という早朝。
場所は、点在する民家の合い間にたつ、児童公園の脇道を横切ろうとした時。
原因は、東の空がすっかり明るくなり、景色がより鮮明になったこと。
土地の開けた田舎道を横断する彼らには、離れたエリアに建つビルディングの群れでさえ、うっすらと視認することができた。
その中に、ひときわ目立つ、背の高い建造物がひとつずつ。
ひとつは、雪輝たちが通過してきた東の方向に。ひとつは、ずっと南の方向に。
その二か所の建造物に見覚えのある雪輝が、まず足を止める。
「あれは……桜見タワーに……ツインタワー?」
東の方角に見えるは、かつて7thの二人と激闘を演じた地元のタワー。
南の方角に見えるは、かつて11thが居城としていた高層ビルディング。
「なんや天野、何か知っとるんか?」
「あの遠くにある建物が、どうかしたのか?」
「うん……ちょっと待ってくれるかな」
携帯電話の画面を開き、地図を縮小表示に切り替える。
桜見タワーは、地図の『タワー』の方角に。
桜見市ツインタワービルは、地図の『ビル』にあたる方角と、それぞれ一致した。
「なんで……桜見市の建物がここに?」
一万年前の記憶とはいえ、生まれた時から住んでいた地元の名所を忘れるほど衰えてはいない。
そうでなくとも、あれだけ大規模な公共施設をいくつも建てられる地方自治体なんて、そうそうないだろう。
主催者が移築した意図は読めないものの、懐かしく因縁の場所には違いない。
興味をひかれる気持ちと、近寄りがたいというせめぎ合いが、小さく心にさざ波をたてた。
もしかしたら、自分の心は、そこまで枯れているわけでもないのかもしれない。
何か聞きたそうな二人を前に、雪輝はどう説明したものかと言葉につまり、
しかし、その応答を中断させるものがあった。
ちょうど時刻が6時に到達し、3人の携帯電話が鳴り始める。
◆
通り過ぎるはずだった小さな公園は、三人の休憩地点として使われることになった。
それぞれに、放送を聞いて思うところがある。
前原圭一は、公園内の街灯に背中を預けて考え込んでいた。
「園崎詩音って……魅音と似た名前だよな? アイツ、姉妹でもいたのか?」
前原圭一は、雛見沢に越して来てからまだ一カ月にも満たない。
部活仲間の家族関係までは、しっかりと把握していなかった。
もちろん、異なる世界のカケラでは詩音と友人になる道もあったはずだが、神視点を持たない圭一にはそこまで把握しようがない。
しかし、家族だとしたら魅音が心配だ。こんなわけも分からない内に親しい人物を殺されたと聞いて、動揺していなければいいが。
遠山金太郎は、その近くの木製アスレチックに腰かけて、足をぶらぶらさせながら肩を落としていた。
「青学の部長はんが死んだとか、信じられへんわ……」
金太郎と手塚国光とは、直接的な交流の機会は少ない。
しかし、全国大会の中でチームメイトである千歳千里を破ったこと、その後の全国決勝での奮戦ぶりなどから、『とにかくすごい人なんだ』という印象は大きい。
そのすごい人があっさりと退場したと言われ、不意打ちを受けたことは否めない。
天野雪輝は、少し離れたベンチから、そんな二人を見ていた。
彼もまた、日野日向という友達の名前が呼ばれている。
友達、だったのだろう。
雪輝などには過ぎたぐらい、良い友達だった。
どんなに雪輝が窮地に追い込まれても、そのせいで危ない目に会っても、雪輝を救い上げようとしてくれた。
そして、天野雪輝がこの手で殺した友達だった。
命がけで『お前のやり方は間違っている』と伝えようとした彼女を、
彼女が正しいと分かっていながら、撃った。
最低の裏切りをしてしまった。
その死んだはずの彼女が、この会場にいたというだけでも、まず雪輝を困惑させている。その彼女が死んだと言われて。
罪悪感のような、口惜しさのような、半端な感情をもてあましているのが今の雪輝だった。
他の二人は、9人の犠牲者が出たことや、その中に知り合いがいたことを、普通に悲しんでいるように見える。
そういう率直な感情表現が、雪輝には羨ましかった。
「すまん」
携帯電話を手に考え込んでいた圭一が、おもむろに顔を上げて、遠慮がちに切り出した。
「ちょっとトイレに行ってくるよ」
公園内に見える可愛い屋根の公衆トイレに、そそくさと歩いて行く。
用を足したいというより、雪輝たちから距離をおきたいだけなのかもしれない。
しかし、放送後ということもありそれをスルーした。
一般人が殺し合いに放り込まれ、9人もの人間が死んだと聞かされれば、1人で考え込みたくもなるだろう。
――『9人もの人間』か。
その言い回しが、雪輝の感覚に合っていないようで、笑えないおかしさがあった。
神になろうと多くの人間を殺したことや、二週目世界の滅亡を経て、『死』に対する動揺はだいぶ麻痺している。
しかし、そんな雪輝とは対照的に、素直な少年がいた。
「うぅ~っ……!!」
何分か、経過した頃合いだっただろうか。
それまで落ち込んでいた鬱憤を晴らすように、動物のような唸り声があがる。
遠山金太郎だった。
「嫌や!! やっぱり嫌や~っ!
知り合いが死ぬとか、一人しか生き残れんとか!
青学の部長はんが死んでいいわけあるかいっ!
皆からすごいすごいって言われてた、偉い人やったんやで!」
ごねてごねて、ごね倒す子どものように、怒りを発散させている。
最後に、ぽつりと悲しげに呟いた。
「コシマエが可哀想や……」
そして朝の公園に、暗い沈黙が降りる。
やがて、頭を切り替えるように、ぶんぶんと首を左右に振った。
「アカンな……天野かて友達の名前が呼ばれたのに」
「いや、いいんだよ。僕は日向が来てるってだけでも現実味がなかったんだし。
……それに、日向を殺した僕がとやかく言えることじゃないんだから」
「せやから」と金太郎がすぐに切り返す。
日向の死を悲しんでいない雪輝は、もしかして不人情だと思われたのだろうか。
「ごめんな、天野」
しかし、頭を下げられた。
なんでそうなるのだろうか。
「どうして謝るの……?」
「天野は、友達に謝れへんようになってもうたやろ。
天野にやりたいことがないなら、手伝ってもろてもバチは当たらんって思うてた。
せやけど、天野の友達は天野を探してたかもしれん。ワイはそのことを考えてへんかった」
驚いた。
似合わぬ深刻な顔で、本気で悔いているらしい金太郎に、「そんなことない」と否定するよりも驚いた。
金太郎は、雪輝と日向が再会したら、雪輝はまず謝るものだと信じている。
また、日向が雪輝を探している可能性があるなら、雪輝は『友達』として、会いにいくべきだと当然に考えている。
それだけ、純粋ということなのか。
雪輝は、日向や高坂、秋瀬たちに会った時のことを『保留』にしていた。
もちろん、日向たちが雪輝の犯した罪を知っているか分からない、という前提はある。
二週目の我妻由乃は、『雪輝を殺そうとしていた時期』の由乃だった。
それすなわち、『雪輝を殺せずに自害を選んだ由乃』が、そのまま生き返ったわけではないということだ。
主催者は、過去に雪輝も経験した『時間跳躍』の要領で、『雪輝を殺すつもりだった時期』の由乃を連れて来たのだろう。
ならば、日向らも死亡する前後から連れて来られたとは限らず、雪輝に殺されたことも身に覚えがないかもしれない。
しかし、そういった事情を差し引いても。
どんな顔をして会えばいいか分からない、という逃避があったことは否定できない。
やりたいことがない、失うものなど何もないと言いながら、
滅ぼしてしまった二週目世界の友達からは、逃げていた。
償うべき責任があり。
また、彼女らも雪輝を探している可能性を、予測できたにも関わらず。
もちろん、我妻由乃と悪質な再会を果たして、どうでもいいと投げやりになっていたからだったのだが。
――責任、か。
お前が帰るのは二週目の世界だ、その先の責任はテメーで取れという、雨流みねねの言葉が思い出された。
「謝られても、日向は困っただけかもしれないよ? 『君は未来の僕に殺される予定だからごめんなさい』って言われても、どうしようもないじゃないか」
「う……それはそうかもしれへんけど。……あぁ~っ、『たいむりーぷ』ってややこしいわぁ~っ」
金太郎はわしゃわしゃと髪の毛をかいて、頭を抱える。
そこには、どろどろしたことを考えずに、ただ『人を殺すのは悪いことだし、悪いことをしたら謝るべき』という単純な図式だけがあった。
許されるとか許されないとかは深く考えず、悪いことをしたらあっさり認める。
そんなに簡単じゃないんだと、苛立ちを覚える一方で。
こんな生き方ができたら気持ちがいいんだろうなと、尊い目で見ることができる雪輝がいた。
こういう心根があれば、『願いの為に皆を殺す』前に、どこかで止まれたのかもしれない。
それは、どこかの過程で雪輝が置き去りにしていたものだった。
『神になる為に皆を殺す』のがワガママだと分かっていて、『じゃあ他にどうすれば良かったんだよ』と言いわけを用意していた。
雪輝は、手を汚してきたことに対して、本当にちゃんと向き合ってきただろうか。
おぼろげに輪郭をなくした一万年以前の記憶は、やや頼りない。
それでもおよそ起こったことを思い出すには充分だし、自分のしでかしたことぐらいは分かる。
あのサバイバルゲームにおいて、雪輝は殺し合いを止めようとなどしなかった。
もちろん、当初は非戦的なスタンスをとっていたし、『殺し合いを止めさせよう』という来須圭悟の誘いに乗って未来同盟に入った。
しかし、殺し合いを停止させるべく動こうとしたことはなかった。
襲いかかって来る日記所有者を、由乃に頼りつつ返り討ちにしていただけだ。
ただ、生き残ればいいという考えしかなかった。
火山高夫の日記を破壊した時は、所有者が消える現象に恐怖したけれど、殺人をしてしまったと怯えたりしなかった。
春日野椿と戦った時は、彼女の日記を破壊することを躊躇わなかった。
来須に銃口を向けた時は、由乃を誤射してしまうことを恐れても、来須を殺すことに罪悪感を感じなかった。
そんな自分は、ずっと最初の方から、道を踏み外していたのかもしれない。
由乃には『殺すことはない。日記を取り上げるだけでいいじゃないか』とたびたび説教をしておきながら、
いざ自分が手を汚した時は、その責任を延々と回避し続けている。
殺さなければ死んでいたんだから、他に方法はなかったのだと。
そんな理屈を無意識に用意して、目をそむけ続けてきた。
由乃が、汚れ役をやってくれた。
来須さんや西島さんは、警察権力で保護してくれた。
秋瀬或は、雪輝君のせいじゃないと言ってくれた。
日向たちは、友達だからと味方してくれた。
そんな助けの手に甘えるだけで、責任を持たなかったから。
だから両親が死んだ時に、暴走してしまったのかもしれない。
『神になれば死者を蘇生できる』という話を吹き込まれてからは、
『生き残ればいい』が『死んでも生き返らせればいい』に変わっただけだ。
初めて過ちを認めたのは、他の所有者や友人を皆殺しにして、由乃と二人っきりになってから。
雨流みねねに『責任を持て』と言われたように、その埋め合わせをしようとした。
三週目世界は救えたから、できる限りのことはしたはずだ。
しかし、由乃を救おうとしたら結果的に救えただけで、己で考えて行動して、償いを果たしたという実感はない。
ましてや、本来の償う対象である、二週目世界の人々は死んでしまったのだ。
もう、償いようなんてない。
どうにもならない。
そう思い込んでいた。
けれど、ここに『二週目世界の友達』が来ているのだ。
日向はもう死んでしまったけれど、あと二人は、まだ生きている。
「うん……決めたよ」
だから。
たった二人から責められるぐらいなら、せめてそのぐらいのやる気は出してみよう。
「遠山を手伝うって言ったことは変わらない。
でも、もし途中で秋瀬君や高坂に会うことがあったら……その時の僕は、彼らに謝るよ」
未だに、己のやりたいことなど見つけることができず。
今さらのように責任と向き合うことが、重たくもあり。
それでも、『新しい友達』の善意だけは、どうにも裏切れない気がしたから。
「許してもらえることでもないし、相手のことを考えてないかもしれないし、
……『自分のしたことを吐き出したい』だけの自己満足かもしれない。
でも、隠しごとをしておくのは、『友達』として不誠実だろうから」
もちろん、彼らがどの『時期』から来ているか分からない以上、雪輝のしでかしたことを知らない可能性もある。
『君たちの世界は僕のせいで滅びる予定なんだ』と明かして、絶望させるかもしれない。
けれど、出会ってしまえば隠すこともできないだろう。
初対面の金太郎でさえ『じじ臭い』と指摘するような今の雪輝に、彼らが違和感を覚えないはずがない。
ならば、ひたすら謝ろう。
そして高坂はきっと殴ってくるだろうから、何度だって殴られよう。
「よう分からんけど……天野は少し前向きになったってことやな。良かったやん」
金太郎から、屈託のない笑顔が返って来た。
その笑顔に、懐かしいような、温かいような情動が初めて生まれる。
数時間前までは、失われていた感情だった。
だから雪輝は、決意の理由を知ることができた。
雪輝は、金太郎と交流が持てて嬉しかった。
記憶はなくしたけれど、『一万年も独りきりだった』ことは知っている。
一万年もの間、ムルムルしか話相手のいない歳月を費やしていた。
人間と会話することができて、過去の自分に少しだけ立ち戻れたのだろう。
だったら……『甘い考え』も、少しは悪くないかもしれない。
「それにしても……圭ちゃん遅いなぁ」
ずいぶん長いこと戻ってこない圭一を心配して、金太郎が公衆トイレの方を眺めていた。
◆
前原圭一は、トイレの個室に立て籠もった。
『立て籠もった』という表現は正しく、用を足す為ではなく、隠れる為にその空間に入った。
とはいえ、誰かから攻撃されたわけではない。
恐怖を抱かせた原因は、彼自身の所有物――携帯電話にあった。
放送を終えたた携帯電話をいじる内に、未読メールが1件あるという報告を見つけたのだ。
メールが受信された時刻は、放送と全く同時だった。
だから、最初は放送のコール音にまぎれて分からなかった。
『メール』というものなど初めて聞いたが、それが『リアルタイムで手紙を送る為のツール』だと、頭にインプットされている。
自分だけが送信されたらしいメールを、2人には見られたくなかった。
それは、天野雪輝から支給品を見せてほしいと頼まれた時に、ナイフよりも強力な支給品――ブローニング・ハイパワーという拳銃を隠したのと、同じことだった。
隠しごとをする後ろめたさは、ある。
それでも、『自分だけの』アドバンテージがあるとなれば、安心材料として隠さずにいられなかった。
しかしメールを読んで、圭一は『隠してよかった』と確信することになる。
こう書かれていた。
【送信者】From:天使メール
【件名】好戦的人物のお知らせ
【本文】
越前リョーマ、綾波レイの二名はこの殺し合いに乗っています。
非戦的な振りをして近づき、隙を見せた途端に攻撃してくる模様。
遭遇された場合、二人の話には耳を貸さず迎撃、もしくは逃走することをおすすめします。
今回のお知らせは以上です。次回のメールをお待ちください。
越前リョーマ。
それはまさに、遠山金太郎から信頼できるとして紹介された名前だった。
越前をコシマエと呼んでいたから、印象に残っている。
その越前リョーマが、殺し合いに乗っているという。
「殺し合いに乗らないヤツじゃ……なかったのかよ……」
正直なところ、胡散臭いメールではあった。
送信者の名前が『天使メール』としか書かれていないのだ。
しかし、その情報を疑うには、あまりにも身に覚えがありすぎた。
友好的な振りをして、仲間になろうとしてくる。
こちらも仲間だと見なしかけたところで、本性を露わにされる。
即座に逃亡を選ぶしか、選択肢がない。
――ウィッス!俺は立海大2年エースの切原赤也ッス!以後ヨロシク
『非戦的な振りをして近づき、隙を見せた途端に攻撃してくる模様。』
――ヒャヒャヒャヒャ!! オラァ! どうした立てよォ!!
『非戦的な振りをして近づき、隙を見せた途端に』
――放っといてくれりゃいいんスよ。こいつは……痛い目に合わせねーとダメなんだよ!
『非戦的な振りをして近づき、』
――前原圭一か……ほな圭ちゃんでええな!
『非戦的な振りを』
「いやいやいやいや、何を考えてるんだよ。クールになれよ、前原圭一」
それまで圭一は、彼らを疑っていた。
彼らも切原のように、豹変するかもしれないと妄想していた。
でも、今のところ金太郎たちは友好的に接してくれている。
ただ、ちょっと……金太郎が『信頼できる』と言った2人ともが、危険人物だと分かっただけで。
彼らの人物像が、ひょっとしたら演技かもしれないだけだ。
それに、複数人が同じ手口を使うというのはおかしいのだ。
いくら知り合い同士だからといって、
たとえ3人全員が殺し合いに乗ることにしたとして、
『友好的な振りをして近づき、隙を見て豹変する』という手段まで一致するのは不自然だ。
ここにいる人間は、突然に攫われて殺し合いを命じられている。
あらかじめ示し合わせたように、そんな遠回りな手口が一致するなんてそうは無いだろう。
論理的に考えて、金太郎らが乗っているというのはおかしい。
結論を出すのはまだ早いじゃないか。
そうだ、疑うのは、
……しっぽを出してからでも、遅くはない。
そんな用心があったから。
こっそりとトイレを抜けだし、公園の垣根をぐるりと回って、金太郎らの話を盗み聞きするルートを選んだ。
圭一のいないところで、彼らはどんな話をしているのか。
信用する為に、それが知りたかった。
身をかがめて、気配を殺し、圭一は垣根の向こうをそろそろと進んだ。
もし盗み聞きがばれたら、どうなるんだろう。
二人が、本性を露わにしたら、どうすればいいんだろう。
俺が渡したスぺツナズナイフの刃が、飛んできたりしないよな。
そんな妄想が、脈拍を加速さる。
のろのろと圭一は、園内の二人と、直線距離で結べる位置までたどり着いた。
垣根越しに細々と、二人の会話がとぎれとぎれに聞こえる。
懸命に耳を研ぎ澄ませて、圭一はその音を聞きとった。
――天野かて友達……呼ばれたのに……。
――日向を殺した僕が…………だから……。
……………え?
耳を疑う――ことはなかった。
聞き違えようはない。
聞きとりは難しくとも、聞き違えたような言い方ではない。
友達の名前が呼ばれたと言った。
その友達を殺したのは自分だと、天野雪輝が言った。
2人は、圭一に出会う前に、人を殺していると言った。
その事を、圭一に隠していた。
隠しごとを、していた。
無害を装って近づいて来た2人は、既に人を殺していた。
殺し合いに乗っていないと言ったのに、殺したと隠していた。
2人の会話は、圭一の衝撃などお構いなしに続いた。
――殺(や)りたいことが……………バチは当たらん……。
2人の言葉は、もはや悪意を伴った言葉にしか聞こえない。
頭が真っ白になった圭一に、閃きが落ちたのはその時だった。
いくら知り合いだからと言って、全員が同じ手口を使うとは思えない。
示し合わせたのでもない限り、そんな偶然はない。
………………示し合わせていたのだとしたら?
主催者が何者かなど、圭一は分からない。
だから、参加者の中に、主催者の回し者がいたって、おかしくもない。
知り合い同士が例外なく同じ手口で乗っているなんて、そんな偶然よりずっと起こり得る。
切原赤也。越前リョーマ。遠山金太郎。
あらかじめ『非戦的な振りをして隙を見せれば殺害し、殺し合いを進行させる』と盟約を結んでいる。
同じく乗っている人間を協力させている。
そんな想像を、嘲笑をこめて肯定するように。
天野雪輝は、言った。
――殺される予定だから…………どうしようもない……か……。
予定だと、言った。
×される、予定だと。
……誰が、誰に?
決まっている。
圭一が。
その答えを、導き出してしまったから。
前原圭一は、とうとうクールを保てなくなった。
――うわああああああああああああああああああっ……!
音を立てず、立ち上がる。
そのまま、そろそろと走り出した。
気付かれる前に、遠くへ。
圭一が、彼らの意図を見抜いたとバレる前に、逃げのびなくてはならない。
赤也から、逃げたように。
遠山金太郎と、天野雪輝から逃げ出した。
ただ、前回の逃走とは、違うところがある。
切原の時と違って、今回は目的意識があった。
『殺し合いに乗っている集団がいる』と分かった。
だから恐怖だけではく、使命感が生まれていた。
伝えないと。
他の参加者に、伝えなければ。
切原赤也、越前リョーマ、遠山金太郎、そしてその同行者。
彼らは、殺し合いに乗っており、
また、主催者の手先である可能性すらあること。
彼らのしてきたことを、暴きださなければ。
誰かに、暴いてもらわなければ。
それだけが私の望みです、と。
そう願わんばかりに。
【F-4/荒野/一日目・朝】
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:KOOL
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ブローニング・ハイパワー(残弾13) @バトルロワイアル
基本行動方針:皆で生きて帰りたい?
1:???
2:切原赤也、越前リョーマ、遠山金太郎とその同行者は危険人物だと、皆に伝える
[備考]
雛見沢症候群を発症したかどうかは、次以降の書き手さんに任せます
金太郎の知り合いとしては、跡部景吾の名前も覚えています。しかし天使メールその他によるショックから、すぐに頭には浮かばないようです。
(手塚国光、真田弦一郎に関しては、金太郎が話した時に上の空だったので覚えていません)
◆
時間がたっても、圭一は戻ってこなかった。
しびれを切らした金太郎がトイレまで向かったところ、個室はどれもが空になっていた。
「大変や……圭ちゃんが消えてもうた!」
すわ襲われたかと心配する金太郎に対して、まだ雪輝の方は冷静だった。
「トイレにも、近くにも争った痕跡や人を引きずった痕はないから……自分からどこかに行っちゃったんだとは思うけど」
とはいえ、圭一の逃走が予想外だったことには違いない。
確かに、圭一には何かを隠している素振りがあった。
しかし雪輝たちも、放送の前後で不審を買う行動はしなかったはずだ。
ここまで性急に、何の前振りもなく行動を起こす理由が思い当たらない。
元いた公園の広場に戻り、二人は打開策を思案する。
「とにかく、はよ圭ちゃんを追っかけな……でも、どっちに行ってもうたんやろ」
「彼が変な誤解をしたままだとしたら、その誤解をばらまかれるリスクもあるからね……」
金太郎は、圭一の身に何かが起こったのではないかと心配していた。
雪輝は、圭一の不自然な挙動から、何かを企んでいるのではないかと警戒していた。
しかし、彼の向かった方向が分からない以上、手詰まりには違いない。
探しようがないなら、このまま学校を目指そうか。
そう、進言しようとした時のことだった。
「なんや……タイヤみたいな音が聞こえるで?」
まず、その音を聞きつけたのは、遠山金太郎だった。
『タイヤみたいな音』と聞いて、雪輝は他者の接近を察知する。隠れて様子をうかがおうと発案しかける。
しかし音の接近は、それよりも速い。すぐに雪輝の耳にも聞こえるようになった。
大きめのモーターを回すような、すべらかな電動音。
それは、二人が児童公園に入ったのと、逆方向の入り口から響いて来た。
どこか懐かしさを感じさせる、白い髪にカッターシャツ。
そんな運転手を乗せた二輪車が、公園の芝生を滑るように駈けてくる。
運転手はその身を傾けてブレーキを踏み、隙のない動作で芝生に着地。
すたすたと、すたすたと。
ごく自然体な、しかし不審とも不穏ともつかない気配を持って、近づいて来る。
すぐに思い出せる少年だった。
記憶はおぼろげでも、その不思議な空気を背負った人間は、他にいるものではない。
「あき、せ……くん」
朝の清涼な涼しさを、あたかも自らが発散するかのようにその身に纏わせて。
「やあ雪輝君。いい終末だね。いや、悪いのかな?」
そのアルカイックスマイルからは、隠しきれない歓喜がにじみ出ていた。
【E-4/児童公園/一日目・朝】
【秋瀬或@未来日記】
[状態]:健康 、歓喜
[装備]:未来日記(詳細不明、薄らと映る未確定エンド表記)、セグウェイ@テニスの王子様
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(0~1)
基本行動方針:この世界の謎を解く。
1:雪輝君に会えて何よりだ。(真田の忠告に、思うところあり)。
2:越前リョーマ、跡部景吾、切原赤也、遠山金太郎に会ったら、手塚の最期と遺言を伝える。
[備考]
参戦時期は『本人の認識している限りでは』47話でデウスに謁見し、死人が生き返るかを尋ねた直後です。
【遠山金太郎@テニスの王子様】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:携帯電話
基本:殺し合いはしない
0:この兄ちゃんが、天野の友達か…?
1:圭ちゃん、どこに行ってもうたんやろ…。
2:学校に向かう
3:知り合いと合流したい
【天野雪輝@未来日記】
[状態]:健康
[装備]:スぺツナズナイフ@現実
[道具]:携帯電話
基本:金太郎に協力する 。自分のすべきことを考えてみる。
0:秋瀬くん……?
1:金太郎と一緒に行動する
2:圭一が逃げたことに困惑と警戒。
3:学校に向かう……はずだったが、桜見タワーとツインタワーが気になる
4:或、高坂に会えたら、二週目でしたことの謝罪をする……って、秋瀬くん?
5:由乃を死なせたくないが、だからどうするという方針もない
※神になってから1万年後("三週目の世界"の由乃に次元の壁を破壊される前)からの参戦
※神の力、神になってから1万年間の記憶は封印されています
※E-2にあるタワーの外観は、『未来日記』における桜見タワーのそれです。
【スぺツナズナイフ@現実】
前原圭一に支給。
ソ連軍で開発された、刀身の射出が可能なナイフ。別名弾道ナイフ。
グリップとシース(鞘)に分解できるようになっており、鞘を装着したままでも警棒のようにして使用できる。
射出による殺傷可能な距離は、10メートル程度。
【ブローニングハイパワー9ミリ@バトルロワイアル】
前原圭一に支給。
原作では内海幸枝に支給され、その後七原秋也の手に渡った。
装弾数13発。9mmパラベラム弾使用。
13発という装弾数の多さは開発当時は画期的であり、そのことから『ハイパワー』と名付けられた。
信頼性は高く、世界の50カ国以上の警察が採用している。
最終更新:2021年09月09日 19:03