天体観測 ~世界の終りの始まり~ ◆j1I31zelYA


























「――みんな、みーんな、終わらせましょう」



【18:30 ユッキーが携帯のアドレスと電話番号を教えてくれたよ!
これでいつもみたいにメールができるね。さっそくアドレス登録しなきゃ。
アドレスは――】

即座にアドレスを登録し、歩みを再開する。
一度だけ振り返れば、先刻までいたツインタワーが夜闇にのまれて天辺から黒く染まりつつあった。
もう、戻ってくることは無いだろう。
すでに用意されていたものは頂いた以上、未練など何もないけれど。

「わたし、分かったよ」

他にも秋瀬或が何か考察をしているらしきことが書かれていたが、雪輝に直接に関わる情報ではないため日記にはほぼ割愛されている。
とはいえ、現時点ではさほど不自由は感じていない。
ムルムルからは納得いく範囲で『褒美』への信憑性について聞かせてもらった。
しいて言えば、ムルムルが出現したタイミングが、当人の理由づけを差し引いても唐突だったのは腑に落ちないけれど、どうせ『秋瀬が存在を仄めかしたからあわてて出てきた』とかそんな理由だろう。
『あの宝物』を譲ってくれたことを考えると、秋瀬のことが無くとも遠からず『あの宝物』を見つけさせる狙いも込みで接触してきたことは違いないだろうし。

「もう分かってるのよ、ユッキー」

ムルムルが肩入れをしたがる理由は、簡単なものだ。
我妻由乃なら、『ALL DEAD END』の前提を知っても、なお勝ち残ることを目指すから。

「やるべきことが分かった。
もう迷わなくていいって、分かった」

大半の中学生なら、まず茶番だと怒る。
予知を覆したとしても、元いた世界には帰してもらえないのだから。
しかし、我妻由乃にとっては、そんな事情など埒外の些事でしかない。

「本当は、ずいぶん前から頭の中がぐちゃぐちゃしてた。
でも、ひとつだけ分かったよ。これだけは絶対に言える。」

優勝者をもといた世界に帰せない理由は、なぜ?
それは殺し合いの目撃者を、生還させる道理がないから。
大東亜共和国と市長の敵対勢力となりえる者に、目撃者を発見、回収されてしまっては第二、第三の実験が潰えてしまう。

「ユッキーは、まだ私と仲直りするつもりでいるのかしら。
『死んだ人は帰ってこないけど、生き残った皆で力を合わせて脱出しよう』とか、そんな風に」

だから、我妻由乃はどんな世界にも安心して帰せるうちの一人だし、もう金輪際関わらないと約束さえできる。
だって由乃は、世界がどうなっても構わないから。
いくら滅ぼうが、星の数ほど死人が出ようが、心底どうなってもいいと思っているから。



「――ふざけないでよ」

たとえば、人間社会から弾かれて、人間になりたいと望んでいる少年。
たとえば、社会の犠牲者となり、社会を食い物にして生きていこうとする少女。
たとえば、全ての人間を滅ぼすべきだと志向している少年。
彼ら彼女らも、条件しだいでは大人たちと敵対することはないだろう。
もといた世界にもそれなりに愛着を持つものはいるだろうが、彼や彼女の『願い』は元いた世界を維持しなくとも達成できる。
人間になることを望む少年は、大切な人さえ与えてやれば、残りの世界など見放すだろう。

だから、彼ら彼女らに望みがないわけではない。
ただ、我妻由乃だけは『だろう』や『条件』を付けるまでもなく、
無条件で世界を見殺しにするというだけのこと。

「昔のユッキーなら、きっとこう言ったはずよ。
『やり直せば全部元通りになるのに否定するなんて』って」

彼女は全てを殺し、手にとりたいものだけを救い上げる。
一週目では失い、二周目では諦めていたそれを、今度こそ掴み取り、取戻し、離さないために。

「だから……私はあの時、あなたの隣で言ったよね」

私はユッキーを失いたくない。
そのためにはユッキーが邪魔。
だからユッキーも殺す。

……殺した後で、『あのユッキー』に未練が残れば生き返らせる。

うん、どこもおかしなことはない。

「ユッキーが頑張らなかったら……その時は、由乃は許さないって、はっきりそう言ったよね?」

由乃はいつでも、ユッキーのために死ねる。
だからユッキーは、最後に由乃も殺す。そして生き返らせる
そう約束したのに、破ったのは雪輝の方だ。
だからこの世界では我妻由乃が、それを代行する。

「許さないよ」

雪輝がいて、由乃がいて、雪輝の両親がいて、由乃のパパとママもいる、
その幸せを侵略する者は絶対にいない、
そんな世界を、掴みとる。
他人なんて不純物は、消え去ってしまえ。
そいつらから幸福を補完してもらえるなら、由乃はそもそも『こんなこと』になっていない。

「私はユッキーに支えてもらったけど、
でも、約束をやぶったことは、絶対に許さないよ」

腰には、血を吸ってきた刀を。
両腕には、撃ち尽くしてしまった拳銃の代わりとしてPDW(個人携行武装)を。
取り回しがずいぶん重たくなってしまったが、その重さは人を殺す弾丸の重さだ。
スタンガン、催涙弾、軽機関銃……すべての武装は点検を済ませ、我妻由乃の一部として収納される。

雪輝日記には、ユッキーの電話番号とメールアドレス。
折りを見て、陥れるために利用させてもらえばいい。

雪輝を殺しに行くつもりではあるが、先に『いただいたもの』を使うとしたら、向かう先は中学校だ。
デパートに行くか、中学校に行くか。
切り札を先にさらしてしまうのは少し惜しい気がするが、
『それ』を使えば楽に生き残りを掃討できることも事実だ。
さらに言えば、放送と同時に受信した『デパートに一定数の参加者がいる』という情報も考慮すべきだろう。
雪輝も同じメールを受信していれば、おそらくそこに向かう。
回り道をして切り札を動かすか、争いを利用して掃討すべく最短で戦場に駆けつけるか。
歩みを進めながら、考えればいい。

「それに、今の私はひとりじゃない」

大金庫の中に収蔵されていた薄い金属のプレート。
プレートの表面には、刻まれる11桁の電話番号。
電話番号のアドレス登録を済ませ、役割としては不要になったそれを、
しかし彼女は大事そうに撫でて、愛おしそうに笑う。



「ママがいる」

地図の中心地。
作為を感じさせるかのように配置されている、中学校。
もちろん、そのことに意味はある。
子どもたちにとって馴染みのあるそこが中央にあれば、自然と参加者同士の出会いが起こるだろう、とか。
意外といろいろな機能を備えた施設だから、中央に配置するには適している、だとか。

しかし、最大の理由は、『ひとつづきに存在する広い校庭と運動場とプールとテニスコートの存在によって、広範囲の人工的な平地を自然と確保できることにある』とムルムルが言っていた。
つまり、地下に眠っている巨大な『それ』を射出することができて、
なおかつ地上からはそれを隠すために、ごく適した施設だったからだ。

『それ』のもとにたどり着くためには、校庭で電話をかければいい。
電話の相手が、地下に降下するための入り口へと案内してくれる。

地下何十メートルか、何百メートルか、もしかしたら何キロメートルかはわからないが、
ともかく地下だ。

地下には、船がいる。
『それ』をいくつも格納できるだけの、大きな、がらんどうの船がいる。

『奇跡』の名前を与えられた船が鉄壁の壁を精製し、この舞台を外部から守っている。



そして、『それ』が見つけられるのを待って、眠りについている。



『それ』は、人の願いを叶えるもの。

そして、人が造りしもの。

そして、大事な人が眠りしもの。

「そしてパパ」

同盟を組むための誠意とは、『先払い』だと帝王学を学んだ際に教わった。
言いえて妙だ。
ムルムルはしっかりと、先に返してくれた。
本来は特別な子どもにしか操れない『それ』を、
心を開ける子どもなら、乗れる可能性を与えるために。

未だ掘り当てられていない宝物の隠し場所から、最も入手が難しい位置にある『数か所』を選定して。
ひとつの隠し場所には、ひとつの電話番号を刻んだプレートがあり。
着信を受けた電話番号によって、かりそめの船を管理する者が、いくつかある『それら』のひとつを指定し、コアを書き換える。
その子どもの母親が顕在であれば、『ダミー』を用いるしかない。
その子どもに母親がいなければ、その魂を『そこ』へと移しかえることになる。
魂なら、ある世界の『霊界』に由来する道具を用いることで、事前に収集しているのだから。



「ぜんぶ終わったら、改めて、私の未来の旦那様を紹介するね」



由乃の母親は、戻ってきた。
母の胎内にいるかのごとき、その場所に。

「わたし、頑張るから。何 を 犠 牲 に し て も」

それは由乃にとっての切り札であり、
それは秘蔵された宝の中でも最大のものであり、
それは皆の魂を取り戻せるという証左でもあり、



「エヴァンゲリオン――私が必要とする、その時まで待っててね」



そして、肉親を失った少年少女が、喪われた魂を媒介として動かす、巨大な鋼の人造人間。



「私は行くよ。誰かのためじゃない。私自身の願いのために」

笑え、我妻由乃。





紛い物の星空を塗り替えるための、進撃/新劇を始めよう。





【F-6/一日目 夜】

【我妻由乃@未来日記】
[状態]:健康
[装備]:P90(予備弾倉5個)@現実、雪輝日記@未来日記 、詩音の改造スタンガン@ひぐらしのなく頃に、真田の日本刀@テニスの王子様、霊透眼鏡@幽☆遊☆白書 、『ある電話番号』が書かれたプレート@現地調達
[道具]:基本支給品一式×5(携帯電話は雪輝日記を含めて3機)、会場の詳細見取り図@オリジナル、催涙弾×1@現実、ミニミ軽機関銃(残弾100)@現実
逆玉手箱濃度10分の1(残り2箱)@幽☆遊☆白書、鉛製ラケット@現実、滝口優一郎の不明支給品0~1 、???@現地調達 、来栖圭吾の拳銃(残弾0)@未来日記
基本行動方針:真の「HAPPY END」に到る為に、優勝してデウスを超えた神の力を手にする。
1:すべてを0に。
2:雪輝を追ってデパートに向かう? 先に中学校に向かう?
3:秋瀬或は絶対に殺す
4:他の人間はただの駒だ。
※54話終了後からの参戦
※秋瀬或によって、雪輝の参戦時期及び神になった経緯について知りました。
※ムルムルから主催者に関することを聞かされました。その内容がどんなものか、また真実であるかどうかは不明です。
※天野雪輝の電話番号とメールアドレスを、一方的に知りました。

※中学校の地下に空間があり、AAAヴンダー@エヴァンゲリオン新劇場版が存在しており、会場のATフィールドを発生させています。
汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンも、何体か存在する可能性があります。

【ある電話番号が書かれたプレート@現地調達】
見た目にはテレホンカードか何かのような形をした薄い金属片であり、電話番号が刻印されている。
中学校の敷地内で電話をかければ、応答する音声が会場の地下まで案内してくれるらしい。
(上記のことや、会場の地下にあるものについてはプレートとともに説明書きが付属している)

【FN P90@現実】
天野雪輝に支給。その直後に我妻由乃に奪取される。
が、彼女がメインウエポンを軽機関銃と日本刀に頼り、かつサブウエポンとして拳銃も使用していたために、終盤まで死蔵されていた。
もっともポピュラーなPDWのひとつ。(形状や用途は短機関銃と類似しているが、短機関銃が拳銃用の弾丸を使用するのに対し、PDWは貫通力を重視したそれ専用の弾丸を用いる。そのため短機関銃とアサルトライフルの中間に位置する武器と捉える事ができる)予備弾倉5個も付属。



Back:ガーネット 投下順 Next:スノードロップの花束を
Back:ガーネット 時系列順 Next:スノードロップの花束を

天国より野蛮 浦飯幽助 スノードロップの花束を
天国より野蛮 常盤愛 スノードロップの花束を
狂気沈殿 我妻由乃
ぼくらのメジャースプーン 天野雪輝
ぼくらのメジャースプーン 綾波レイ
ぼくらのメジャースプーン 越前リョーマ
ぼくらのメジャースプーン 秋瀬或


最終更新:2021年09月09日 20:17