No Reglet ◆0UUfE9LPAQ


僕が彼を見つけたとき、その場にへたり込んでいて、とても危険に見えた。
危険というのは誰かを襲おうとしているとか、今すぐ処置をしないといけない大怪我を負っているわけでもない。
例えるなら、何かの刺激ですぐ自殺してしまいそうな、そんな危うさだった。
まるで――少し前の僕みたいな。
彼には僕のことが見えてなかったみたいで横から声をかけたら肩がびくんと跳ねた。

「驚かせてごめん、僕は殺し合いなんかに乗ってないから安心して。それで、君に、何があったの?」

本来なら名前とかそういうのを聞くべきなんだけど、あえて単刀直入に聞いた。
多分、それを一番最初に聞いた方がいいと思ったから。
彼は今にも泣き出しそうな顔で、

「俺が……俺が、日向を……」

日向っていうのはアドレス帳にあった日野日向って人のことかな……
でも「俺が」ってどういうことなんだろう?
僕が聞く前に彼の方から続きを言ってくれた。

「俺が、日向を殺したんだ……!」
「え……?」

俺が殺したって?
ならなんでそこまでショックを受けているんだろう。
事故で死んでしまったとか?
そこで、僕は彼の傍らにあった携帯電話に気がついた。
開いたまま放置されていて画面が真っ黒になっている。

「これ、いいかな?」

一応断ってから携帯電話を手に取る。
僕だけ立ちっ放しというのもなんだから、隣に座り込んだ。
電源が切れていたのではなく、スリープ状態になっていたみたいで、適当に何かのボタンに触れた拍子に画面が明るくなる。
出てきたのはメモの画面みたいだけど……この内容って

「こんなの……納得できるわけないじゃないか」

彼――名前を植木というらしい――確かにここにあるのが本当だとしたら「殺した」の意味もわかる。
だからって、この文章だけで死を突きつけられたって?
でも、他にここまでショックを受けるような理由が見当たらない。
――ということは事実なんだろうか。
確認した方がいいのかな。

「植木君……でいいんだよね、ここに書いてあるのは本当なの?とても信じられないんだけど……」
「……未来日記の予知は全部本当だって、日向が言ってた」

未来日記?
初めて聞く単語だ。
だけど、予知、ということは、つまり、そういうことなのだろう。
これを見る限り植木君も僕と同じでこの殺し合いを止めたいと思ってる人間なんだ。
きっと協力しあえるかもしれない。

「――僕もね、植木君と同じなんだ。
 力があったのに、あるとき間違えちゃって取り返しのつかないことになって……
 でも、そのときの決断を間違ってたとは思わないんだ。
 だからこそ、この殺し合いを止めたいと思ってる。
 植木君は――どうなの?」

細部をひどくぼかした、抽象的な言葉になってしまった。
それでも、どこかに響いたみたいで、返事をくれた。

「俺も、殺し合いを止めたい……
 だけど、今の俺には力がないんだ。
 力があれば、バロウを止められたかもしれない、
 日向が死ななくて済んだかもしれないのに――」
「なら、ますます僕と一緒だね。
 今の僕はエヴァも何もないただの中学生なんだ。
 それでも、まだ手遅れなわけじゃない。
 今からでもこんな馬鹿げた殺し合いを止められると思うんだ。
 一緒に、殺し合いを止めようよ!」

最後は自然と力が入ってしまった。
わざわざ座ったのにいつの間にか立ち上がってしまっている。
けど、この「予知」には殺されるのをわかってて逃がしたようなことが書かれていた。
きっと、植木君が殺し合いを止めるのに必要な人間だったから日向さんは自分を犠牲にできたのだろう。
だとしたら、いつまでもここで落ち込んでていいわけがない。

「俺なんかで……いいのか?」
「もちろんだよ。
 それに今もどこかで誰かが襲われているかもしれない。
 少しでも早く行動した方がいいと思うんだ。
 ――日向さんのためにも」

日向さんの名前を出したら雷に打たれたような顔になった。
普通はそうだろう。
傷口を抉るようなものだ。
だからといって放っておくわけにもいかないんだ。

「日向さんは植木君のためを思ってここまで逃がしたんだろう?
 今するべきはここで落ち込むことじゃなくて殺し合いを止めることだと思うんだけど、違うかな?」
「そう……だな。
 その通りだよな」

どうやら、立ち直ってくれた……のかな。

「おし、日向のためにも絶対止めてやるぞ!」

前触れもなく立ち上がって叫んだ。
きっと、もう大丈夫だろう。
でも、ちょっと声が大きすぎないかな……

「……あ、そういえば俺お前の名前聞いてねえぞ」
「あ……確かに言ってなかったね。
 僕は碇シンジ、シンジでいいよ」
「俺は植木耕助だ、よろしくな」
「ちょっと移動しない?
 考えたくないけど近くに危険な人がいたら今の声を聞かれてるかもしれないし、
 適当な民家とかでいいからさ」

言ってから気付いたけどこれ家宅侵入だ……
そうでなくとも、普通に考えたら鍵がかかってるよね。
とりあえず目に付いた一番近くの民家を確かめてみる。

鍵はかかっていなかった。

地図を見る限り第三新東京市とは違う場所のようだし、わざわざ殺し合いのために作ったとか?

「シンジ、どうしたんだ?急に立ち止まって」

考え込んでいたら声をかけられた。


「ちょっと考え事をね……中に人はいなさそうだしとりあえず入ろうよ」

この殺し合いは謎が多すぎる。
他の参加者とも情報交換をしたいな……
でも、まずは支給品を確認しよう。
僕は植木君と一緒に民家に入った。


 ◆


「えっと、植木君たちは次の神様を決める戦いがあって、そこで佐野って人やヒデヨシって人とチームを組んで戦っていた、と」
「その通りだ」

支給品の確認とともに情報交換をして能力者バトルのことを聞いたんだけど、なんというか、荒唐無稽な内容だった。
まあ、エヴァや使徒のことも負けず劣らず夢物語のようだとは思うけど。

そして、植木君の支給品が二つと日向さんの支給品が一つと僕の支給品が三つ。
植木君には怪獣の着ぐるみとテニスのラケットが支給されていた。
着ぐるみには見覚えがあったらしく、真っ先に頭を外して中身を確認してた。
聞くところによると中によっちゃん(植木君を担当している神候補らしい)が入っていたんだとか。
ラケットはいたって普通のラケットだった。
持っておいて損はないだろう――少なくとも着ぐるみよりは。
日向さんのデイパックに入っていたのは目印留というシールが20枚。
貼った本人しか剥がせないという特殊なシールらしいけど今のところ使い道は見当たらないかな……
僕の支給品は拳銃と3本セットのペットボトルと一枚のメモ。
拳銃は正式名称がニューナンブM60といって警察で使われているものと同じ種類らしい。
使徒との戦いのときに陽電子砲を撃ったことはあるけど、今回銃口を向けるのは使徒じゃなくて人間だ。
護身のためであってもできれば使いたくない。
デイパックにしまっておこう。
赤、青、黒のおどろおどろしい液体が入っているペットボトルの説明書には乾汁セットBと書かれている。
赤がペナル茶、青が青酢、黒が粉悪秘胃という名前だそうだ。
試しに青酢のペットボトルを開けてみたら涙が出た。
開けただけなのに。
別の意味で使いたくない……
これもデイパックに封印しよう。
そして、メモには『探偵日記』の説明と電話番号。
さっき植木君が話した未来日記のことと同じなのかな?

「植木君はさ、日向さんから未来日記の契約の仕方って教えてもらったりした?」
「いや、俺はそういうのは聞いてねえ」

植木君も知らないのか……
ちょっと怖いけど、番号に電話してみる。

「ムルムルじゃ。用件はなんじゃ?」

すぐ反応があった。
かわいらしい女の子の声で、最初に聞いた男の声とは全く違う。

「碇シンジだけど、この番号に電話することで『探偵日記』と契約できるんだよね?」
「その通りじゃが今すぐ契約するのか?」
「いや、先にいくつか聞きたいことがあるんだけど……」
「答えられる範囲でならいくらでも答えるぞ、好きなだけ聞くがよい」
「『日記所有者の行動を予知する』って書いてあるけどただ日記を持ってるだけじゃ予知の対象にならないんだよね?」
「うむ、契約済の未来日記所有者しか予知することはできんから気をつけることじゃ」
「じゃあ、予知できる範囲はどれくらいの広さになるの?」
「所有者がいるエリアのみじゃな」
「なるほど……」

探偵日記についての質問はこれで終わり。
壊されたら死ぬということもないらしいし(ということは壊されたら死ぬという未来日記が他にあるのだろうか)、契約しても問題はなさそう。
そこに、一つの考えがよぎる。

「質問はこれで終わりか?」
「えっと、もし今ここで探偵日記と契約して、それからこの電話で他の日記の契約の電話番号に電話したらどうなるの?」
「あー、それはできんのう。基本的に一台につき日記は一つじゃからな」

一台につき一つ……じゃあ他の電話から電話すれば一人で複数持つこともきるのかな。

「わかった。探偵日記と契約するよ」
「了承した。新しい日記所有者『碇シンジ』よ、お主の健闘を祈っておる」

ザザ…ザ…とノイズが入る。
メモ帳を確認したら確かに予知が書かれていた。

「シンジ、終わったのか?」

僕が電話をしている間待っててくれた植木君が声をかけてきた。

「うん、待たせてごめんね」
「いや、気にすることねえぞ」
「それで、ちょっと確認したいことがあるからもう一回電話したいんだ」
「もう一回電話?シンジはもう日記と契約したんだろ?」
「そうなんだけど、こっちの探偵日記じゃなくて友情日記の方だよ」
「つまり……どうなるんだ?」
「僕も完全にわかっているわけじゃないんだけど……とにかくやってみた方が早いかも」

友情日記の発信者履歴を見ると、一つだけ番号があった。
これが契約のための電話番号でいいんだろう。

「ムルムルじゃ。用件はなんじゃ?」

さっきと同じでムルムルと呼ばれた少女(だよね?)が出た。

「碇シンジだけど、友情日記と契約できるかな?」
「もちろんできるぞ」

あれ……?
今し方電話したばかりなのにそれについては聞かないのかな。

「でも、予知の範囲について先に聞いておいてもいいかな」
「うむ、何なりと聞くがよい」
「友情日記には友達なら誰でも予知の対象になるの?」
「所有者がいるエリアとその周囲8エリアの合計9エリアの中にいる場合限定じゃがな」
「探偵日記よりは広いんだ……」
「む、お主なぜ探偵日記のことを知っておるのじゃ」
「……なぜも何もたった今契約したばかりなんだけど」
「あ……所有者が現れたらさっさと教えろと言ったじゃろうがバカ者!」

急に怒鳴られてびっくりしたけど、今のは僕に向けて言った言葉じゃないよね。
――と、いうことはさっき探偵日記の契約のために電話したムルムルとは別のムルムル?
しばらく小さな声で(多分受話器の部分を手で覆っているのだろう)ムルムルの口論が聞こえたけど、少し待ったらムルムルが電話に戻って来た。

「と、取り乱して失礼したのじゃ。契約するなら早くしてくほしいのじゃ」
「もう一つだけ聞きたいんだけど、もしこの電話から他の人がこの番号に電話したらどうなるの?」
「その場合は所有者の上書きになるの」
「それは何度でも可能かな?」
「まあ……システム上は問題ないの」
「ありがとう、友情日記と契約するよ」
「了承した。新しい日記所有者『碇シンジ』よ、お主の健闘を祈っておる」

さっきと同じ言葉だったけど早口で切り方も乱雑だった。
電話の向こう側で何があったんだろう……
そして再びノイズがして予知が書き換わる。
植木君の未来が予知されていたけど、他の人の予知については書かれていない。
少なくとも近くに綾波もアスカもトウジもいないみたいだ。
そういえば――二号機の中にいたあの人もいたとしたら予知の対象になるのかな……
ムルムルに確認しておけばよかった。

「今度は、何をしたんだ?」
「聞いての通り友情日記と契約したんだ。それでさ」

「今から植木君が友情日記と契約してよ」

「ちょっと待ってくれ、俺には意味がよくわからねえんだけど……
 友情日記は今シンジが契約したばっかりじゃねえか」
「この日記は両方とも自分だけでなく他人のことも予知できるんだ。
 探偵日記は日記所有者が対象だから変わらないけど、友情日記は違う。
 もしも周りに植木君の友達がいたら予知できるかもしれないだろう?」
「なるほど、そういうことか。
 俺には絶対考えつかねえよ。
 あれ?……そもそもシンジが契約したのに俺がしても大丈夫なのか?」
「それは今確認したから問題ないと思う」
「よし、わかった」

今度は僕が待つ番だった。
といっても植木君の契約自体はすぐに終わったけど。

「どうだった?」
「ダメだ。シンジの未来しか見れねえ」
「そうか……」

植木君が契約したことで僕の探偵日記の予知も変わっている。
今のところ僕の日記には植木君の未来、植木君の日記には僕の未来が書かれていた。
友達の無事を確認できないのが残念だったけど、お互いがお互いの未来を予知しあう形でサポートしあえる。

「エリアを移動しない?
 そうしたら新しく予知できるエリアが3つ増えるし。
 そのときに日記を交換して契約し直せばいいしさ」
「日記を交換する意味がわからねえぞ?
 友情日記だけ契約すればいいと思うんだけど」
「その通りだけど、一人で二つ持つと自然と両手が塞がるし二人の未来を一人に集めるのはちょっと危ないと思うから」
「まあ、シンジがそう言うんならいいぞ。それで、どっちに向かうんだ?」
「人が集まることを考えたら中央の方がいいよね……診療所とかどうかな?」

そのときだった。
携帯電話が震えだす。
時間を確認したら、6時だった。


【F-7/民家/一日目 早朝】

【植木耕助@うえきの法則】
[状態]:精神ショック(小)
[装備]:友情日記@未来日記
[道具]:基本支給品一式×2、遠山金太郎のラケット@テニスの王子様、よっちゃんが入っていた着ぐるみ@うえきの法則、目印留@幽☆遊☆白書
基本行動方針:絶対に殺し合いをやめさせる
0:放送を聞く。
1:日向のためにももう落ち込んでいられねえ。
2:シンジと協力して殺し合いを止める。
3:日記を使って佐野とヒデヨシとテンコとマリリンも探す。
[備考]
※参戦時期は、第三次選考最終日の、バロウVS佐野戦の直前。
※『友情日記』の予知の範囲はは自身がいるエリアと周囲8エリア内にいる計9エリア内に限定されています。
※日野日向から、7月21日(参戦時期)時点で彼女の知っていた情報を、かなり詳しく教わりました。
※碇シンジから、エヴァンゲリオンや使徒について大まかに教わりました。

【碇シンジ@エヴァンゲリオン新劇場版】
[状態]: 健康
[装備]: 探偵日記@未来日記
[道具]:基本支給品一式、ニューナンブM60@GTO、乾汁セットB@テニスの王子様
基本行動方針:エヴァンゲリオンパイロットとして、殺し合いには乗らずにアスカ、綾波、トウジを助ける
0:放送を聞く。
1:アスカを探しだして謝罪。信用を取り戻す。
2:植木君と協力して殺し合いを止める。
3:日記を使って綾波、トウジを探す。植木君の他にも、信用できる人がいれば協力を頼みたい。
[備考]
※参戦時期は第10使徒と交戦する直前。
※アスカがどちらの方向に逃げたか、把握していません。
※『探偵日記』の予知の範囲は自身がいるエリア内に限定されています。
※植木耕助から能力者バトルについて大まかに教わりました。

【よっちゃんが入っていた着ぐるみ@うえきの法則】
植木耕助に支給。
神候補淀川(よっちゃん)がうえき達に媚びを売るために色々送り付け、最後の仕上げによっちゃん自身が入りサプライズをしようとしていたが……
もちろん中によっちゃんは入っていない。

【遠山金太郎のラケット@テニスの王子様】
植木耕助に支給。
やはり作中では超常現象を起こしているが、あくまでも普通のラケットである。

【目印留@幽☆遊☆白書】
日野日向に支給。
霊界探偵七つ道具の一つ。
貼った者の気紋を記憶し、その当人(またはその気紋をコピーした者)にしか剥がせない。
20枚入り。

【探偵日記@未来日記】
碇シンジに支給。
孫日記所有者『秋瀬或』の日記。
日記所有者の行動を予知する未来日記。
このロワでは、予知の範囲が同じエリア内にいる契約済みの未来日記に限定されている。

【ニューナンブM60@GTO】
碇シンジに支給。
装弾数5発。
日本の警察官が一般的に使っている拳銃。
勅使河原が学校籠城事件を起こした際に、警官から奪ったもの。

【乾汁セットB@テニスの王子様】
碇シンジに支給。
中身はペナル茶と青酢と粉悪秘胃(各500ml)。
ペナル茶はまだ一般人でも飲むことができるが青酢以降は不二ですら卒倒する代物。
これがBだということはAやC以降も存在する……?



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Back:その訳を 時系列順 第一回放送

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最終更新:2012年07月10日 20:06