――五人の、人影があった。
民家の中であろうか。中央に囲炉裏があり、その火を囲むようにして座っている。皆、何かしらの被り物をしており、その表情はどころか、男なのか女なのかさえも分からない。
「――釈尊は、言われた」
おもむろに、その内の一人が口を開いた。翁の面を被った、若い男だ。禅宗の僧衣を纏っているが、頭は坊主でなく髪を短く生やしていた。
「天と地、両方を指し示して「天上天下唯我独尊」と。ここに、世界に、私という人間を探しても私以外には存在しない、と」
「肯定だ。我らはどれだけ似ていても、実際は違う。皆が唯一無二であり、皆が違っている」
「如何にも。皆、違う物なのだ」
翁面の男に、周囲の者も同調する。狐の面を被った者、ひょっとこの面を被った者。皆口々にそうだ、そうだと同意していた。
「城は、もののけを嫌っている」
「醜い事だ、愚かな事だ」
「袈裟が憎けりゃ、坊主も憎いと言ったな。所詮、それだけの事よ。人に害成す妖怪だけにしか遇わなかっただけの事よ。我は知っているぞ、妖怪にも良い者はいる」
「ほほう。詳しく聞かせてくれないか」
「うむ。この間、遊郭で働いている化け狐のおなごがおってな。かの玉藻御前は白面九尾であると言ったが、あのおなごもなかなかに美人であった。こう、身体は細いのだが、出るところはこう
、ぼんとまるで西瓜のように飛び出ていてな。それはそれは心地よかった」
「何ソレ、詳しく」
「……おっほん」
脱線しかけていた話が、狐面の者の発した咳で修正された。何となく、であるが、その者が放つ目線がどことなく冷たい。
「……ともあれ、妖怪も人間も「同じもの」だ」
脱線しかけた張本人である翁面の男が、誤魔化すように、もっともらしく言う。
「……ああ、そうだとも」
「同じだ。人も、もののけも、この空の下に同じく存在する」
「平等に存在する」
「分けるのはいつだって我らの「目」だ」
「そうとも。我らの阿頼耶識だ」
「……では、今宵はここまで」
翁の面が立ち上がる。それに続いて、ひょっとこ面の者、狐面の者と、他の者も続いて立ち上がる。
「我らは天平(てんびょう)」
「真の平等とは何か」
「阿頼耶に惑わされるなかれ」
「我らは同じものである」
「散」
囲炉裏の火を消し、皆バラバラに去って行く。
彼らの名は、「天平宗」。
〝城〟に刃向かい、人と、妖怪の、真の平等を説いて歩く。
今世にあっては、異端の学人達であった。
最終更新:2014年08月14日 09:07