「お姉さん、名前は?」
「…凪。」
「凪さんですねー。わたしは美琴です、よろしくお願いしますー。」
「よろしく…」
悪い子ではない、ナンパ男を追い払ってくれたのだからむしろいい子だ。
しかし、時折感じる圧力はなんだろう。
「凪さんは、村の方ですか?」
「まぁ」
「街に来たのは初めてですか?」
「前に、一回だけ。」
「さっきから元気ないですけど、大丈夫ですか?」
「暑いの嫌いだから…それからもともとこんな性格です」
「あ、着きましたよー。ここが月光茶屋ですー。」
そこには、和洋の混在した建物があった。月光茶屋の噂は聞いていたが、実物を見るのは初めてだった。
「不思議な建物…」
「かわいいでしょ?中もかわいいですよー。それじゃ、私はグミを渡してきますから凪さんはそこで待っててください。後で何かおごります。」
「えっそんな悪いよ、私が金出させてるみたいで嫌だよ」
「暑い中鮮度を落とさず頑張ってくれた人にお金まで出させるわけにはいきませんから。労働に見合った対価です。」
「そ、そう…なんかミコトさんにばっかり苦労かけて申し訳ない…」
「もー、凪さんちょっと遠慮しすぎですー。今はお客さんなんですからここで待っててください。あ、何食べたいか決めておいてね。」
「うん…でもよくわかんないから、冷たいものだったらなんでもいいよ。」
「それじゃ、アイスクリームにしますね。」
その後、美琴が持ってきたアイスクリームを食べながら、凪は自分の事を少しずつ話した。もちろん、妖怪であるということは伏せて。
「凪さん、大変なんですねー。」
「別に多くは望んでないから現状でいいんだけどね。ところでこのアイスクリームって、自分の家でも作れる?」
「うーん、できないことはないと思いますけど、機械で作った方が味は安定すると思いますよ?」
「やっぱり文明の利器しかないか…ん?」
「ねえ聞いた?また妖怪退治だって」
「どこ情報よそれ、前科ありまくりだからあんたの話は信用ならんわ。まぁどっちにしてもやばいのだったら早急に退治して町まで来ないようにしてほしいけどねえ。」
そんな会話が聞こえた時、美琴の表情が変わった。
「退治って、殺す前提なのですかね。」
「え?よ、妖怪ってあんまりよく思われてないみたいだし、仕方ないんじゃないかな?」
「あなたもあの人達と同じことを言うのですね。悪い妖怪が出た時、話が通じずただ暴れるだけで被害が増える事しか見えないというのであれば、殺処分も致し方ないと思います。しかし、話しがある程度わかるような妖怪ではどうでしょう。ありあまる力を他の事に使えば、資源不足や人材不足が解消できるかもしれません。どうにかすれば使えるものを危険だからと殺すのはあまりにももったいないです。1匹始末するのに流れる血とお金がもったいないです。そこで有効利用すれば妖怪は死ななくて済むし、人間はエネルギーを得られてどちらも得です。わざわざ誰も得しない選択肢を選ぶことはないのですよ。」
「えーと、ミコトさん、私そろそろ帰らないと…」
「ああ、そうですよね、ではグミの代金と、あとはお菓子です。保存のきくものを詰めたので大丈夫ですよ。では。また、来て下さいね?」
「あまり期待はしないでね、暑くなかったら考えるかも。」
「お待ちしておりますー」
「うん、いろいろ、ありがとうございました。」
「一人で帰れますか?」
「大丈夫だとおもう。たぶん。」
荷物を持ち、凪は山へと帰っていった。美琴の言葉の意味を考えながら。
「ただいま」
「おかえりー。ちゃんとできたじゃん。お土産も持たせてくれるなんてラッキーだったね。」
「あのさ、妖怪のあり方って、なんだと思う?」
「え?えーと、人に迷惑かけなきゃいいんじゃない?てか何なのいきなり。」
「あー、そう、そうだね。…なんかね、街で会った人間が、妖怪は利用した方がいいとか話せばわかるとか言ってたから」
「妖怪の採用でも始めたんじゃない?もっとも、うちらは対象外だろうけど」
「うん、あんまり難しいことはわかんないや。」
ひきこもり雪女、任務完了
最終更新:2014年08月14日 09:11