(1) 地方自治体の種別構成
英国の地方自治体の種別構成は以下の通りである(Directgov資料、LGA「Types and Names of Local Authorities in England and Wales」参照)。日本では、全国一律の構成(二層制:都道府県及び市町村)が採用されているが、英国の場合は地域によって異なる。イングランドにおいては二層制と一層制が混在しており、ウェールズ・スコットランド・北アイルランドにおいては一層制に統一されている。
二層制は、カウンティ(County Council)とディストリクト(District Council)で構成される。カウンティは日本の県に相当する広域自治体であり、ディストリクトは日本の市町村に該当する基礎自治体である。
イングランドにおける一層制の自治体としては、大都市圏に存在する「大都市圏ディストリクト(Metropolitan District Council)」、非大都市圏の「ユニタリー(Unitary Council)」が挙げられる。これらは県及び市町村の機能を併せ持った自治体である。ロンドンは、グレーター・ロンドン・オーソリティー(Greater London Authority : GLA)と32の「ロンドン区(London Borough Council)」及び「シティ(City of London Cooperation)」から構成されている。また、ウェールズ、スコットランドの一層制自治体はユニタリー、北アイルランドではディストリクトと呼ばれている。
【図表3-1 イングランドの地方自治体構成】

(※)3-2参照。
【図表3-2 スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの地方自治体構成】

スコットランド及びウェールズにおいては、イングランドのパリッシュに相当するコミュニティ・カウンシルが、住民に最も近い自治体機能を担っている。
(2) グレーター・ロンドン・オーソリティー(GLA)
首都ロンドンの広域自治体であるグレーター・ロンドン・オーソリティー(Greater London Authority:GLA)は、2000年に創設された。ロンドン全域をカバーする広域の地方自治体である。首長は直接選挙で選ばれる。
(a) 設立までの経緯
グレーター・ロンドン・カウンシル(Greater London Council:GLC)がサッチャー政権により1986年に廃止された後、GLA創設までの間は、32のロンドン区とシティの計33団体の一層制の地方自治体で構成されていた。1997年の総選挙の結果、政権に返り咲いたブレア労働党政権は、その選挙公約で、ロンドンの広域行政を担当する広域自治体を復活させるとした。
1998年 5月 7日 | GLA創設に係る住民投票の実施(賛成72%で承認) |
1999年11月11日 | 「1999年GLA法(Greater London Authority Act 1999)」成立 |
2000年 5月 4日 | 市長及び議会議員選挙(投票率:市長選34%、議会議員選挙31%)、市長にケン・リビングストン氏が当選 |
2000年 7月 3日 | GLA発足 |
2008年 5月 1日 | 市長にボリス・ジョンソン氏が当選(投票率45%) |
(b) 構成及び役割
GLAは、直接選挙で選ばれるロンドン市長(Mayor of London)と、同じく直接選挙で選ばれる25人の議員からなるロンドン議会(London Assembly)、双方を補佐する事務部局、さらには市長を補佐する市長室(Mayor’s Office)で構成される、職員数650名ほどの組織である。
その所管業務は、ロンドン全域にわたる(1)公共交通、(2)地域計画、(3)経済開発及び都市開発、(4)環境保全、(5)警察、(6)消防及び緊急計画、(7)文化、メディア及びスポーツ、(8)保健衛生などの分野でのロンドン全域に係る企画・調整を行うことである。
その所管業務は、ロンドン全域にわたる(1)公共交通、(2)地域計画、(3)経済開発及び都市開発、(4)環境保全、(5)警察、(6)消防及び緊急計画、(7)文化、メディア及びスポーツ、(8)保健衛生などの分野でのロンドン全域に係る企画・調整を行うことである。
また、GLA本体以外に、4つの実務機関(Functional Body)があり、GLAと4つの実務機関を合わせてGLAグループともいわれる。4つの実務機関とは、首都警察局(Metropolitan Police Authority)、ロンドン消防・緊急時計画局(London Fire and Emergency Planning Authority)、ロンドン交通局(Transport for London)及びロンドン開発公社(London Development Agency)である。なお、住民への行政サービスはロンドンの基礎自治体である32のロンドン区とシティが行う。
【図表3-3 GLAの構成】

(c) 市長の権限
市長はGLAの意思決定及び執行の両方の機関を兼ねており、主な権限は、(1)重点的・総合的な計画の策定、(2)予算案の策定及び提案、(3)策定した計画を実施するための調整、(4)実務機関の管轄、(5)実務機関の幹部の任命及び(6)ロンドンの代表としての行動等である。なお、2007年10月に改正GLA法が成立し、新たに健康格差解消、住宅政策や都市計画、職業訓練、文化政策などに関して市長に権限が付与された。
(d) ロンドン議会の権限
ロンドン議会の主な権限は、(1)市長の政策立案の補佐及び実施状況の検証、(2)予算案の修正及び承認(修正には議員の2/3の賛成が必要)、(3)ロンドンの主要課題の調査・検討、(4)GLAの職員の任用等である。
(e) ロンドン議会の選挙
選挙は市長選挙と同時に4年ごとに実施される(5-1参照)。現在、同議会は、小選挙区比例代表制(Additional Member System)が採用されており、小選挙区(各選挙区は2~3のバラから構成される。)によって選出された議員14名と、追加代表(Additional Assembly Member)11名とで構成されている。
(f) 予算
予算案は市長により提出され、議会は予算案を審議し採決を行う。この予算にはGLA本体だけではなく4つの実務機関の予算も含まれている。
2009年度の予算(total expenditure)は総額122億4,230万ポンドである。その内訳はロンドン交通局が75億9,400万ポンド(62.0%)、首都警察局が36億310万ポンド(29.4%)、ロンドン消防・緊急時計画局が4億6,340万ポンド(3.8%)、ロンドン開発公社が4億3,130万ポンド(3.5%)、GLA本体が1億4,180万ポンド(1.2%)、ロンドン議会が870万ポンド(0.1%)である。
【図表3-4 GLA組織図】(GLA organisation structure参照)
(参考)
GLAの4つの実務機関と市長の関係は次のとおりである。
- 首都警察局(Metropolitan Police Authority)(MPA)
- メンバーの一部を市長が任命する。議長はメンバーの互選であり、現在は市長が務めている。なお、MPAは警察の実働部隊ではなく、戦略策定等を行う、最大23名からなる会議体である。
- ロンドン消防・緊急時計画局(London Fire and Emergency Planning Authority)(LFEPA)
- 議長とメンバーを市長が任命する。 議長は現在、Councillor Brian Coleman, AM FRSAが務めている。なお、LFEPAは消防の実働部隊ではなく、戦略策定等を行う、17名からなる会議体である。
- ロンドン交通局(Transport for London)(TfL)
- 理事会の議長とメンバーを市長が任命する。議長は現在は市長が務めている。TfLは戦略策定だけではなく、公共交通サービスも実際に提供している。
- ロンドン開発公社(London Development Agency)(LDA)
- 理事会の議長とメンバーを市長が任命する。議長は現在、Harvey McGrath氏が務めている。LDAは戦略策定だけではなく、経済開発に関するサービスも実際に提供している。
(3) パリッシュ
パリッシュは教会の布教のために設けられた教区に起源を持つ、地域共同体的な性格を持つ法律上の準自治体(Sub-principal)である。現在、イングランドとウェールズを合わせて約1万のパリッシュがあるが、都市部には少なく(ロンドンでは設立が禁止されていた。)、主に地方の田園部を中心に存在する。なお、近年その数は増加傾向(特に都市部で増加している)にあり、ロンドンでの設置も検討されている。
パリッシュの機能は、大きく次の3つに分けることができる。
パリッシュの機能は、大きく次の3つに分けることができる。
- 限定的な行政サービスの提供(遊歩道整備、街路照明維持管理、墓地・火葬場管理、コミュニティホールの提供等。但し、一部のサービスについてはカウンティの同意が必要。)
- カウンティやディストリクトから特定の事項について協議(カウンティによる遊歩道の調査や初等学校の校長の任命等)や通知(当該パリッシュに関係のある開発申請や条例の制定等)を受ける権利
- ディストリクトや国の機関などに対して地域の代表となること
2007年地方自治法により、新たなパリッシュの設置権が、中央政府から地方自治体へ移譲された。また、パリッシュの設置が認められていなかったロンドンでも、コミュニティ及び区(borough)にパリッシュの設置権が与えられた。
(4) ユニタリー化の動き
政府は、イングランドにおけるユニタリーの数を増加させることとしており(3-2参照)、コミュニティ・地方自治省は2006年10月の地方自治白書において、イングランドにおいて、一層制の地方自治体であるユニタリーへの自発的再編を望む地方自治体は、その旨を申請するよう呼びかけた。
26の地方自治体がユニタリー化を申請し、政府の審査の結果、2009年4月1日、9つの新たなユニタリーが誕生した。
ユニタリー化を認める権限は政府にあるが、新たなユニタリーを創設するにあたり、次の条件に照らして審査を行った。なお、引き続き審査手続等が進行中のものもあり(デヴォン(Devon)県とノーフォーク(Norfolk)県が申請中である。)、今後さらに新たなユニタリーが誕生する可能性もある。
- ユニタリー化が費用面で相応であるか
- ユニタリー化がリーダーシップの強化に繋がるか
- ユニタリー化が地域の公共サービス改善に繋がるか
- ユニタリー化がコミュニティの権限を強化するか
- ユニタリー化計画が地域の幅広い支持を得ているか
2009年4月1日に新たに誕生した9つのユニタリーは以下の通りである。この結果、該当する区域に存在していたカウンティ(県)が7つ、ディストリクト(市町村)が37、消滅した。なお、地方自治体構造(リーダーと内閣制など)(第2章参照)は、ベッドフォード市についてはユニタリー化前の市の制度が引き継がれ、その他のユニタリーについては県の採用していたものが引き継がれた。
- チェシャー(Cheshire)県を2つのユニタリー「チェシャー・ウェスト・アンド・チェスター(Cheshire West and Chester)市」と「チェシャー・イースト市」に
- ベッドフォードシャー(Bedfordshire)県を2つのユニタリー「ベッドフォード市」と「セントラル・ベッドフォードシャー市」に
- コーンウォール(Cornwall)県を1つのユニタリー「コーンウォール市」に
- ノーサンバーランド(Northumberland)県を1つのユニタリー「ノーサンバーランド市」に
- ダーラム(Durham)県を1つのユニタリー「ダーラム市」に
- シュロップシャー(Shropshire)県を1つのユニタリー「シュロップシャー市」に
- ウィルトシャー(Wiltshire)県を1つのユニタリー「ウィルトシャー市」に