このベスト・バリュー制度は、全面実施から2年目を迎えた2001年度に入り、特にイングランドにおいては政府の政策転換により大きく見直された。
政府は2001年12月11日に、地方自治体改革に関する政策報告書「地域リーダーシップの強化と公共サービスの高品質化 (Strong Local Leadership - Quality Public Services)」を公表、ベスト・バリュー制度の見直しの一環として「リーグ・テーブル (league tables)」の導入を提示した。(*1)
監査委員会は、上記政策報告書で政府が提示した「リーグ・テーブル」の導入を受け、新しい評価システムとして「包括的業績評価制度(CPA)」を導入した。これは、ベストバリュー制度が、地方自治体職員の不必要な事務量を増やし、成績の良い地方自治体でも悪い地方自治体と同様なやり方で画一的な検査を強いられている等の問題点の指摘があったため、成績の良い地方自治体については「軽易な監査」(light touch approach)だけですむようにし、地方自治体の要請に政府が応えたという背景もある。
(1) 2002年~2004年のCPA
(a) CPAの定義
CPAは地方自治体による行政サービスの改善と地域住民生活の質の向上を目的に、従来のベスト・バリュー制度の枠組みを利用したもので、ベスト・バリューが個々の行政サービス分野ごとの評価しか行わないのに対して、CPAは個々の行政サービス分野ごとの評価に加えて、地方自治体全体としての組織運営能力・政策形成能力に対する評価を統合して地方自治体を総合評価し、5つのカテゴリーに地方自治体を評価区分する制度である。
(b) CPAの手法
CPAの作業は大きく3つの段階から構成されていた。
ア 第1段階(各種評価)
ここでは2部門の評価が行われた。一つ目は、地方自治体の6つの行政サービス分野(教育、社会福祉、環境、図書館・レジャー、住宅、助成金)及び「地方自治体資源の活用状況」についての業績評価である。この評価は監査委員会のほかその分野の専門検査機関(例えば教育であれば教育水準検査局)がサービス水準検査及び外部監査の結果、業績指標(PIs)、その他の情報に基づいて行うものである。
二つ目は、地方自治体が実際に公共サービスを提供する上で前提となる組織としての能力に対して行うコーポレート・アセスメント(組織能力評価)であり、組織の全体的な政策形成能力、組織経営能力を診断することにより、地方自治体が備えるサービス改善能力を評価するものである。2002年にCPAが誕生した際に新しく導入された評価分野である。この評価は地方自治体が行った自己査定を資料に、監査委員会が特定の評価項目と査定基準に従って訪問検査・外部監査を行った結果によって評価されるものである。
イ 第2段階(スコア化)
上記の各種評価に基づき、各地方自治体の状況がスコア化された。その内容は大きくサービス業績評価(1(lowest)から4(highest)の4段階)と、改善の可能性を示すコーポレート・アセスメント(1(lowest) から4(highest)の4段階)の2つに分けられる。
ウ 第3段階
・最終区分
第3段階では、まず第2段階での当該地方自治体のサービス業績評価及びコーポレート・アセスメントに関する最終スコアに基づき、最終的に地方自治体のカテゴリーを「優秀(excellent)」、「良好(good)」、「普通(fair)」、「弱体(weak)」、「劣悪(poor)」の5つに区分した。
・改善計画及び調整計画の作成
このCPAの最終評価を受けて、地方自治体は改善計画(Improvement Planning)を作成し、当該地方自治体の地域戦略や、今後3年間の優先項目とその取り組み方法を明示しなければならない。一方、監査委員会は今後の外部監査及びサービス水準検査の実施日程を示す調整計画(Regulation Planning)を作成しなければならない。この際、監査委員会は地方自治体の最終評価に応じてその監査及びサービス水準検査の頻度を決定しなければならない。すなわち、サービス水準検査の回数が、「優秀(excellent)」自治体には少なく、「劣悪(poor)」自治体には多くなることになる。更に政府は、CPAの最終評価に応じて、規制緩和や地方自治への裁量の付与を行うとともに、「劣悪(poor)」自治体に対しては直接介入措置を講ずることとなる。なお、過去には、キングストン・アポン・ハル市とウォルサル市が政府による直接介入を受けたが、現在ではいずれも業績が向上し、政府による介入を受けている地方自治体はない。
(2) 2005年以降のCPA
地方自治体の業績が一目で比較ができ、またその地方自治体の業績が簡潔に表記される分かりやすさなどから、CPAが地方自治体に与えるインパクトは大きく、数々の批判的な意見、見直すべき点はあったものの、CPAが地方自治体の業務の改善に貢献していることは広く認められてきた。
地方自治体の評価は総じて上昇したが、 住民の地方自治体への期待の高まり、要望の多様化などから各地方自治体は今後もさらに向上していくことを求められた。
監査委員会は2004年までのCPAの枠組みを大幅に見直し、よりバリュー・フォー・マネーの実現、住民の視点、パートナーシップによる取り組み、国と地方の優先政策のバランスを重視した評価方法を模索した結果、これまでのCPAの問題点の改良として、検査の削減を明言、評価の正当性を保証、公表の際に内容に関する概要も併記するなど新たな方法を取り入れた、CPAの新たな枠組みを2005年に公表した。
この新たな枠組みでは、地方自治体が現状に甘んじることなく向上することを狙いとして、評価の採点基準の引上げ、評価内容の詳細化など、2004年までより厳しい評価となった。また、6つのサービス分野の分類が「児童青少年サービス」、「成人(高齢者を含む)福祉サービス」、「住宅」、「環境」、「文化」、「助成金」に変更され、また、「地方自治体の資源の活用状況」の評価内容がより強化された。
これに対し、多くの地方自治体では、2005年以降は以前より低いカテゴリーに評価されることにより、住民にマイナスイメージを与えることを懸念する意見が表明された。そこで、監査委員会は、2005年10月に発表した 「2005年の一層制の地方自治体とカウンティ・カウンシルに対するCPAの枠組み(CPA-the harder test, Single tier and county councils’ framework for 2005)」の中で、従来の言語表記(poor、weakなど)によるCPAのきつい印象を和らげるために、新たに星マークの記号(★)を使った表記方法を提唱した。星4つから星なしまでの5段階評価で、2005年から2008年まではこの方法で評価が行われた。
(3) 一層制の地方自治体及びカウンティ・カウンシルの実施結果
CPAの評価結果は、その年の12月にすべての一層制の地方自治体及びカウンティ・カウンシルの結果が一覧表の形で公表される。これまで5回にわたってCPAの結果公表が行われたが、地方自治体は総じて回を重ねるごとに評価をあげている。
【図表9-6 一層制の地方自治体及びカウンティ・カウンシルのCPA実施結果の推移】
2002年 | 2003年 | 2004年 | |
優秀(excellent) | 22 | 26 | 41 |
良好(good) | 54 | 56 | 60 |
普通(fair) | 40 | 40 | 33 |
弱体(weak) | 21 | 18 | 15 |
劣悪(poor) | 13 | 10 | 1 |
2005年 | 2006年 | 2007年 | 2008年 | |
★★★★ | 39 | 49 | 56 | 62 |
★★★ | 70 | 69 | 69 | 57 |
★★ | 31 | 25 | 22 | 26 |
★ | 9 | 5 | 2 | 4 |
星なし | 1 | 0 | 0 | 0 |
出典:CPA最終報告
注:2006年のバッキンガムシャー・カウンシルは公表時に再見直しが条件となっており、カテゴリー化されていない。
シリー島については、島であるという特殊環境をふまえて、2006-8年のCPAの最終カテゴリー化の義務が免除されている。
注:2006年のバッキンガムシャー・カウンシルは公表時に再見直しが条件となっており、カテゴリー化されていない。
シリー島については、島であるという特殊環境をふまえて、2006-8年のCPAの最終カテゴリー化の義務が免除されている。
(4) ディストリクト・カウンシルへの拡大
監査委員会は2002年10月に、ディストリクト・カウンシル用のCPAに関する協議書「ディストリクト・カウンシルへのCPAの展開(Delivering Comprehensive Performance Assessment for District Councils)」を公表した。
その結果、ディストリクト・カウンシルについては、2003年6月から2004年秋にかけてCPAが開始され、その結果は2004年12月に公表された。その後、評価内容について地方自治体及び関係団体と協議のうえ、2006年から新たに適用されるディストリクト・カウンシルに対するCPAの枠組みを規定した文書である「CPA-district council framework from 2006」が発表され、必要に応じて2回目のCPAが実施された。
【図表9-7 ディストリクト・カウンシルのCPA実施結果の推移】
(評価カテゴリーごとのディストリクト・カウンシル数)
(評価カテゴリーごとのディストリクト・カウンシル数)
2003/2004年 | 2008年 | |
優秀(excellent) | 28 | 51 |
良好(good) | 86 | 101 |
普通(fair) | 86 | 75 |
弱体(weak) | 29 | 10 |
劣悪(poor) | 9 | 1 |
詳細は次のウェブサイトを参照
http://www.audit-commission.gov.uk/localgov/audit/cpa/CPA_district/Pages/spreadsheetofcpascores.aspx
http://www.audit-commission.gov.uk/localgov/audit/cpa/CPA_district/Pages/spreadsheetofcpascores.aspx