地方自治体の政策は、直接公選首長若しくはリーダーの主導の下に内閣が決定することとなるが、政策をその監督の下に具体的に実行する事務局のスタッフが事務総長(Chief Executive)を筆頭とする事務職員である。2007年6月現在イングランド及びウェールズで約225万人の事務職員がおり、その内女性職員が7割強を占めている。ただし、女性職員の6割強はパートタイマーであり、その職種も社会福祉や教育に偏っている。(*1)
(1) 事務総長(通常Chief Executive,他にClerk, Principal Officer, Managing Director, General Managerなどがある)
事務総長は行政各部の事務組織の長であり、約90%の地方自治体で設置されている。その役割は、(a)事務局の統括、(b)地方自治体全般に係る総合的判断や調整、(c)政策や組織に関する議会への助言等である。事務総長については特別に求められる資格はないが、法律家や会計士出身者が多い。最近の傾向として民間セクター経験者からの採用も増えている。また、事務総長は複数の地方自治体を渡り歩くことも稀ではない。なお、事務総長の横の連絡組織として全国地方自治体事務総長・上級職員協会(Society of Local Authority Chief Executives and Senior Managers:SOLACE)という団体があり、各種研修事業等を行っている。
(2) 法定職
事務職員の採用については、各地方自治体がその数や職種等を決定する権限を有しているが、社会福祉部長(Director of Social Services)等いくつかの職種については法律で設置が義務付けられている。また、次の3つの役割については、事務職員のうちから指名することが法律で定められている。
(a) 行政サービス長(Head of Paid Service)
地方自治体全体の事務の調整やスタッフなどの組織面について議会に助言する。事務総長(Chief Executive)がこの職につく場合がほとんどである。
(b) 財務部長(Chief Financial Officer)
地方自治体の財政に関する事項の適正な管理を行い、会計報告の責任者でもある。なお、財務部長は会計士の資格を有しなければならない。通常は専任の財務部長が任命されるが、事務総長が兼務している地方自治体もある。
(c) 監督官(Monitoring Officer)
地方自治体内で不法行為や不適切な行為、さらには失政が行われないように注意を払う。不法行為などを発見した場合は、監督官は事務総長や財務部長と協議の上、本会議に報告書を提出しなければならない。通常、監督官には地方自治体の法務部長(Chief Legal Officer)が指名される。事務総長及び財務部長がこの職に指名されることはない。
(3) 採用・異動・任命
(a)採用
英国では、日本のような定期的な採用や異動は行われておらず、内部異動や転出により欠員が生じた場合は、募集が速やかに行われる。そして書類審査の後、面接により採用者が決定される。通常、幹部職員は全国規模で、その他の職員については地域内で募集が行われる。
また、上級幹部職員等を除き、通常の事務職員については、各部局レベルで採用を行い、その任用に関する事項については各部局から議会に報告される。そのため、各部局に人事担当者が置かれ、人事の第一義的な責任を負っている。また、これとは別に、当該地方自治体の統一的人事方針の作成や各部局へのアドバイスを行う人事調整組織(日本での人事課に相当)も設けられている。従って、採用の面接官は幹部職員の場合は議員が、その他の職員の場合は職務上の上司及び部局人事担当者が通常行う。
(b)異動
異動については、日本のように、2~3年毎に定期的に異動する制度はない。各事務職員の専門性を踏まえた採用が行われているため、同一地方自治体内の部局を越えた異動は少ない。職員が異動や昇進を希望する場合は、その地方自治体内外の空きポストに応募することとなる。特に幹部職員については他の地方自治体への転職も珍しいことではない。
(c)議員の関与の禁止
応募者が当該地方自治体の議員あるいは部長相当職以上の者と特別な関係がある場合は、申し込み時点でその旨を告知する必要がある。故意にその旨を隠した場合は、応募者として失格となる(採用後は解雇事由となる)。また、採用に当たって議員に間接直接を問わず接触した場合も失格となる。
一方議員も、採用や昇進に関し、提供された資料に基づき意見を述べる場合を除いては、特定の者の採用要求や昇進推薦を行うことは禁止されている。
(d)任命
募集や異動後に行われる職員の任命については、以下の方法で行われる。
- 上級幹部職員等(事務総長、各部の部長等の政治的行為制限職に当たる者)
- 所管する1つまたは複数の委員会の推薦に基づき議会により任命される。
- その他の職員
- 議会の定める規則に従い、通常各部局長により任命される。
(4) 雇用条件
英国には、日本の地方公務員法のような公法上の特別雇用関係を定めた法律はなく、各地方公務員は、民間と同様、私人間の雇用契約に基づき、業務に従事している。
しかし、現実には、雇用主としての地方自治体側と被雇用者としての労働者側代表が締結する自主的集団協定(Voluntary Collective Bargaining)等の形で、全国レベルでの地方公務員の最低限の雇用条件が決定されており、各地方自治体ではこの最低水準に基づき、それぞれの地域的、経済的実情を加味した上で、各々の職種ごとに勤務条件を定めている。