目の前にあるのは見慣れたサンピエトロ大聖堂。
太陽の元でも、月明かりの下でも、その神々しさは変わることがない。少し周りを見回して見る。
大聖堂の正面に位置する大階段も、広場を囲む立派な柱も、アメリカに旅立つ前と何も変わっていない。
『聖なる遺体』をすべて集めるまでは、ヴァチカンには戻って来られないと思っていたのに……

あたしはどうしてこんなところにいるのかしら?
いえ、自問するまでもなくこれは『スタンド攻撃』に違いないッ!
ここは、そう、強いて言うなら『隣の世界』だ。

大聖堂に来るまでのことを整理しよう。
Dioと協力関係を結び、ヴァレンタイン大統領をあと一歩の所まで追いつめたこと、
ルーシー・スティールの身に変化が起きていたこと、
それに気付いた時あたしの体内にいきなり窓ワクが入って来たこと、そして列車から落ちて……!
たぶんその時に大統領のスタンド能力でこちらの世界に来たのだろう。そうに違いない。
その後は薄暗いホールでスティール氏に趣味の悪い一人舞台を見せられ、気が付いたらここに……

つまりこちらの世界では『SBRレース』の代わりに『バトル・ロワイアル』が開催されている、と言えるはず。
そして『隣の世界のあたし』が襲いかかってきた時に言っていたことが真実なら、
この隣の世界にあるのは『遺体』ではなく『ダイヤモンド』。
ここにいたって意味がない。早く元の世界に戻らなければ……

そうだ、モノとモノの間に挟まれば元の世界に戻る事ができるんじゃあないかしら。
さっきDioがそうやってあたしたちを隣の世界に戻していたわ。
今、『隣の世界にいるあたし』が挟まれば『元の世界』に戻れるかも知れない。早速試してみよう。
地面に寝そべり、いつの間にか背負わされていたデイパックを身体の上に置いてみる。
……あたしの身体を地面とデイパックで挟む形になったが、何も起きない。

……それにしても、この大聖堂の前で寝転がるなんて初めてだわ。
夜風が少し生温かいが、背中に当たる石はひんやりして、緊張で火照った身体を冷ましてくれる。
懐かしいヴァチカンのニオイがする。辺りは静まりかえっている。
あたしはまたここに清い心で戻って来ることができるのかしら。

遺体を手に入れれば、すべて許して貰えるかも知れない……
あの遺体だけがあたしの罪を清めてくれるはず……

弟を殺してしまった後では家族と一緒に暮らせないと思って修道女になったけれど、
犯した罪について忘れたことなんて一度もなかった。

――お姉ちゃあああああああああん うわあああああああああ――

今でも夢に見る。木の実を取りに森に入ったらグリズリーと出くわした。
あたしの手で…… あたしは…… 弟を差し出してしまった……
弟の温もり。弟の背中。弟の顔。弟の視線。弟の涙。弟の声。弟の悲鳴。弟、弟、弟。
グリズリーの牙が怖かった。足跡さえ見たことなかったのにどうして。
血のニオイがした。あたしじゃあなく弟の血。
落とした靴はあの子が気に入っていた。それだけでも拾って帰れば良かったのに。
一人で逃げた。知っているのはあたしだけ。
父さん。母さん。ああ、神様……

駄目だわ、また罪の意識に押しつぶされそう……!
列車から落ちる直前もそうだった。ゲティスバーグでスタンド攻撃を受けた時もそうだった。

今、大階段に影が伸びた様な気がする……
ああッ! なんでこんな時に……! あの柱から誰か出てくる……
どうしよう! 『クリーム・スターター』は手元にあるけれど……
今もし攻撃されたらあたしは……! 落ち着け、落ち着くんだッ!

一人の…… 男かしら? ああッ! でも、良かった!
よく見たら心配することなんて何もなかったわ! あの人は大丈夫!
こんなところで出会えるなんて、神の御加護に感謝致します……



「あの…… 神父様でしょうか?」



 *



「どうしましたか、ご婦人。随分慌てているようだ…… 私でよければ話を伺いましょうか?」



目の前の女が口を開く前に、鈍く光る首輪が彼女が参加者であることを雄弁に語っていた。
女は少し錯乱しているように見える。訳のわからない『ゲーム』に巻き込まれたのだから無理はない。
私だってあの空条承太郎が死んだことに驚いているのだから……
ホールで殺された残りの二名については何も知らないが、両者ともどことなく承太郎に似ていた気がした。
刑務所内で利用した元軍人の囚人ジョンガリ・Aのように、DIOを慕っていた者の中にはヤツに復讐したい輩も多くいるだろう。
今の承太郎はDISCを抜かれているので殺すのも訳なかっただろうが、
もしかすると、あの主催者の男、スティーブン・スティールもまた仇討を誓ったDIOの元部下だった男かも知れない。
それにしてもわざわざ100人近くを巻き込んで一体何を行うつもりなのだろうか?

まずは目の前で起こっている事象に目を向けることにしよう。
大聖堂を出た私に話しかけてきたのはホット・パンツと名乗る修道女。
デイパックの他には腰にスプレー缶のようなものを携えているだけ。
年齢は20代くらいか。それにしても最近じゃああまり見ない服装だが。
名前も職業も嘘かも知れないし、それに何か隠し事をしているようにも見える。
しかしわざわざ記憶DISCを見る程でもなさそうだし、
DISCに命令を書き込むことなぞしなくてもコイツを利用することなど容易いだろう。
現に今、自分の身の上話で精一杯になっているじゃあないか。

『アメリカ』『SBRレース』『ヴァレンタイン大統領の不思議な力』『隣の世界』
……何を言っているのかよく分からないな。それに今の大統領はヴァレンタインじゃあないぞ。
アメリカからここに連れて来られた、と言うのなら私と同じだ。不思議な力、というのはスタンドのことだろう。
ところでコイツはスタンド使いなんだろうか? もしそうだとしたら利用する価値があるかもな。

『スティール氏』
あの妙な演説をした男を知っているのか、後でまた詳しく聞いてみよう。一度話し出した女を止めるのは面倒だからな。
私の考察が正しければ、主催の男と大統領(後者は話半分くらいに考えている)はDIOの関係者だが
――元部下の可能性が濃厚、かつスタンド使いなんだろう――
果たしてこの女にDIOの名を出した所で何か知っている可能性なぞあるのだろうか?

ジャイロ・ツェペリ』『ジョニィ・ジョースター
……コイツの知り合いか? 『ジョースター』と言う名字が気になったが、
あのジョースター家にそんな名前のヤツがいただろうか?
確かDIOの首から下の男は『ジョナサン・ジョースター』と言う名前だったが、名前が似ているだけだろうか?

『Dio・ブランドー』
……DIO!? コイツDIOの知り合いなのかッ!?
この女もDIOの元部下の一人で、何かしらの事情を知っている可能性があるッ!
それにしても妙だぞ、まるで『さっきまでDIOと共に行動していた』ような口振りだ。
錯乱状態にあるだけじゃあなく、少々イカレているんだろうか。
後でそれとなくDIOとこの女がどのような関係だったか聞くのが良いだろう。
今すぐに私がDIOの親友だと打ち明ける義理はない。
殺し合いに乗るにしても、この女が言うところの『元の世界』に戻るにしても、または別の方針を選ぶにしても、
手駒は多い方が良いに決まっている。ジョンガリ・Aのように殊勝な働きをするかも知れないしな。

ああ、身の上話が終わった途端に罪の告白か。ここは懺悔室でもないだろうに。
こんな所で『弟を殺した罪』について懺悔を聞くなんて思ってもいなかったな。
……いや、余計なことは考えないでおこう。今の私は懺悔を聞く神父だ。
迷える子羊の話が終わったら、まずは先程気になった点について詳しく聞いてみるとしよう。





【C-1 サンピエトロ大聖堂 / 1日目・深夜】

【ホット・パンツ】
[スタンド]:『クリーム・スターター』
[時間軸]:SBR20巻 ラブトレインの能力で列車から落ちる直前
[状態]:健康、精神的に不安定
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2(未確認)
[思考・状況]
1.元の世界に戻り、遺体を集める


エンリコ・プッチ
[スタンド]:『ホワイト・スネイク』
[時間軸]:承太郎のDISCを抜いた後(詳しくはあとの書き手の方にお任せします)
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2(未確認)
[思考・状況]
1.ホット・パンツを利用する






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最終更新:2012年07月19日 20:51