歩いて、歩いて、歩き続けて……。
一度として立ち止まることはしなかった。一度として道を逸れることもしなかった。
輝き、照らし出す灯りは道標だった。俺は自分だけを信じ、自分だけの道を進んできた。“俺”だけの“気持ちのいい”道だ。
それが急に途切れることなんぞ、考えたこともなかった。
進むか、倒れるか、そのどちらかだと思って生きてきた。途中で野垂れ死ぬならばそれまでのことだと、ここまで鞭打ち、歩いてきた。
だというのならば、この先俺はどうしろというのだ。道はもうない。光ももう見えない。
俺は失った……。俺はもう、全てを失ったんだ……!
▼
―――それでは良い朝を!
スティーブン・スティールの言葉が宙に消えるのを、男は長いことぼんやりと見つめていた。
何を見ているわけでもない。その目は空虚で哀愁を誘うほどに、何も写してはいなかった。
いつからだろう。今のこんな生き方しかできないとわかったのは。
リンゴォ・ロードアゲインは自身の記憶を一つずつ振り返っていった。
覚えている限りの一番古い記憶から、つい最近の事まで。そして数時間前のことを。
空を見上げれば飛び立っていく鳥の姿が見えた。リンゴォはその姿をぼんやりと見つめた。鳥が見えなくなるまで、見つめていた。
鳩が置いてった名簿にのっている『
エシディシ』の文字。放送の男が読みあげたその名前。それを聞くのがたまらなく嫌で、信じられなくて。
気がつけば足元に散らばる細切れの紙くず。冷たくもない横風が吹くと、細く裂かれた破片が舞う。
季節外れの雪のようだ。男の冷たい頬をさっと撫でると、名簿だったモノは遠く彼方に飛んでいった。
「俺は、信じないぞ」
それは何を?
レオーネ・アバッキオと呼ばれた男の話を?
パンナコッタ・フーゴと言った青年の言葉を? スティーブン・スティールが行った放送の内容を?
それとも……これまで自身が歩いてきた道のりを、だろうか。
男はどうしようもなく、男の道しか知らなかった。彼は悲しくなるほどに、男の世界でしか生きられない男だった。
信じなければ死を意味する。しかし死ですら、男の世界を内包している。
それはつまり死ぬことと生きることの否定だった。男の世界を失ったリンゴォは、生きることも死ぬこともできなくなった。
彼に残された道は、自分を誤魔化しながら生きていくという道だけだった。
「……ケほッ」
乾いた咳、続いて聞こえるぴちゃりと液体が滴る音。吐き出した唾には血が混じっていた。リンゴォは顔をしかめる。
だがいくら誤魔化そうとも、どれほど強く否定しようとも……いや、否定したからこそ、その歪みは彼を容赦なく蝕む。
生まれつき、リンゴォは皮膚が弱く、ちょっとしたことで擦りむいたり、血が止まらなくなったりした。或いは病気にかかりやすい体質でもあった。
今、彼の健康状態はその時のものに戻りつつあった。咳が止まらない。簡単に出血する。男の世界を取りあげられた代償が、彼の身体を追いこんでいた。
リンゴォはゆっくりと息を吸うと、足を進めた。向かう先はわからない。ただそこに留まる理由がもうなかった。
わかっている、彼だって自分の体に何が起きているか。自分がどんな矛盾を抱えているのか、わかっている。
でも、それでも彼は男の世界を進む。リンゴォ・ロードアゲイン、不器用で真っすぐな男。あまりに不器用すぎる男。
口の端から流れ出た血をぬぐい、男は進む。東から昇った太陽が彼の行く先を照らすと、まるで道は光り輝いているかのようにも見える。
光を探せ、光輝く道を……。しかし、そう呟いた男の眼に、光は宿っていなかった。
―――これは呪いを解く物語なのかもしれない。男の世界に別れを告げることはできなかった、一人の男の物語。
【D-6 中央/1日目 朝】
【リンゴォ・ロードアゲイン】
[時間軸]:JC8巻、ジャイロが小屋に乗り込んできて、お互い『後に引けなくなった』直後
[スタンド]: 『マンダム』(現在使用不可能)
[状態]:右腕筋肉切断、幼少期の病状発症、絶望
[装備]:DIOの投げナイフ1本
[道具]:
基本支給品、不明支給品1(確認済)、DIOの投げナイフ×5(内折れているもの二本)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.それでも、決着をつけるために、エシディシ(アバッキオ)と果し合いをする。
[備考]
※名簿を破り捨てました。眼もほとんど通していません。
※幼少期の病状は適当な感じで、以降の書き手さんにお任せします。
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最終更新:2014年06月09日 23:04