―――初めて乗るバイクはとても大きかった。






双葉千帆は小説家を夢見るフツーの女の子だ。
親の愛情をたっぷり受け、のびのびと育ち、温かな家庭で生きる女の子。
家に帰っても母親がいないというのは年頃の女の子に少しだけ辛い事実であるが、父は優しく、時に過保護すぎるほどだった。
そんな家で育ったから千帆は夜遊びなんてめったにしなかったし、バイクに乗るなんてことはもってのほかであった。
彼女にとってバイクとは学校にいる悪い先輩のオモチャ道具、あるいは住宅街でやたら騒音をたてる耳障りなものでしかなかった。

「……お前、運転できるか?」

折りたたまれた最後の支給品を開けば、そこから飛び出て来たのは一台のバイク。
なにが入っているか確認していたとはいえ千帆が想像していた以上にそのバイクは大きかった。
目を丸くする千帆にプロシュートが尋ねる。千帆は黙って首を振った。自転車なら載れますけど、彼女はそう申し訳なさそうに返事をした。
プロシュートはそうか、とだけ言うと何でもないといった感じでバイクに近づき、シートやハンドルを優しく撫でた。

えらく手慣れている感じがした。普段からバイクに乗り慣れているのだろうか。
千帆が見守る中、プロシュートはサッと脚をあげ座席に跨り、メーターをチェック。
ガソリンの量を確認し、ハンドルの感触を手に馴染ませる。なんら異常のない、むしろ手入れが行き届いている良いバイクだった。
手首を返すようにグリップを捻り、バイクのスタンドを蹴りあげる。途端に機械の体に命が宿ったようだった。
腹のそこまで響く様な低音が辺りを包む。ドドド……と唸るバイクはまるで大きな獣のようだ。手懐けられた元気いっぱいの鉄の生き物。
そしてそれに跨るシックなスーツをまとったプロシュート。

凄く『絵になる』風景だな。千帆は状況も忘れ、一人そう思った。
まるで古いハリウッド映画の一コマの様な、そんなことを連想させるワンシーンだった。


「なにしてるんだ、おいていくぞ」

千帆の思考を破ったのはそんな言葉だった。目をパチクリとさせながら見れば、プロシュートが座席の後ろ側を指さしている。
千帆は最初プロシュートが何を言っているのかわからなかった。おいてく、って何が?
いまいち状況が飲み込めていない千帆の状況を察し、男が深々と息を吐く。

「お前が持ってた支給品なんだからお前がのらないんでどうするんだ」

だから乗るって……どこに―――?







「しっかりつかまっておけよ」

改めてみる男の背中は大きかった。千帆は振り落とされないようにその体にしがみつく。
親でも兄妹でも恋人でもない男の人に抱きつくのは初めてのことで千帆は最初、それを躊躇った。
腕越しに伝わる男の体の温もり、スーツ越しでもハッキリとわかるほど鍛え抜かれた肉体。心臓が早鐘を打つ。
お願いだから振り返らないでほしい。誰にいうわけでもなく千帆はそう願った。今の自分は間違いなく赤い顔をしているだろうから。

一台のバイクが街をゆく。ゆるいカーブに千帆は振り落とされないよう、少しだけ腕に込める力を強くした。

プロシュートが気を使ってくれたのだろうか。あるいは乗車中に襲撃されることを考慮したのかもしれない。
バイクはそれほどスピードを出さないで、滑るように道路を進んでいった。音は微かにしか出ず、振動もほとんど感じられない丁寧な運転だった。
最初は緊張に身を固くしていた千帆も、その内運転を楽しむまでになっていた。
頬を撫でる風が心地よい。風景があっとういまに前から後ろへ流れていく。とても新鮮だった。
バイクに乗るってこんな感じなんだと思った。そんな驚きと興奮が彼女の中で湧き上がっていた。

二人の旅は順調に進んでいく。千帆とプロシュートは一度地図の端まで参加者を探しに南下し、ついで禁止エリアの境目を確認する。
そこにはなにもなく、目印も標識も一切なかった。何も変わりない街並みが、ずっと先まで続いている。
それはとっても非現実的な光景だった。日本のただの住宅街なのに、そこには生活の臭いと言うものを感じさせない、居心地の悪い無機質感が漂っていた。


折り返し、今度は病院を左手に北上していく。東から地図に記されている拠点をしらみつぶしに周っていった。
レストラン・トラサルディー、東方家、虹村家、靴のムカデ家、広瀬家、川尻家、岸辺露伴の家……。

そうして幾つものカーブを曲がり、無数の十字路を通り過ぎ、何度か左に右に曲がったころ……。
順調に進んでいたバイクがスピードを落とし始め、遂には完全に止まる。
それはこの旅で一度もなかったことで、突然の停止に千帆は何事かとプロシュートの背中を見つめた。

ひょっとしたら誰か他の参加者を見つけたのかもしれない。それとも何か人がいたと思える痕跡を見つけたのかも。
何も言わないプロシュートの後ろから首を伸ばして道路の先を見る。すると一人の男が立っているのが視界に写った。
どうやら向こうもこちらに気づいたようで、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

近づいてくるにつれ、その男の容貌がはっきりとしてきた。ヒゲ面で腰のベルトにナイフを刺した風変りな男だ。
抜き身のまま剥き出しの刃物が怪しく光る。見るからに『危ないヤツ』というを雰囲気を醸し出している。
アウトロー丸出しの、西部劇に出ても違和感なく馴染めそうな浮世離れした男だ。
自然と千帆の腕に力がこもる。プロシュートは何も言わなかった。だが千帆の腕を無理にひきはがすようなこともしなかった。
それが彼女を少しだけ冷静にさせた。

バイクにまたがる二人に近づく男。お互いに顔がわかるぐらいまで近づいたころ、ようやくその男が口を開いた。
思ったよりハッキリとした口調でしゃべるなと千帆は思った。もっとぼそぼそとくぐもった声でしゃべるかと思っていた。

エシディシという男を知らないか。民族衣装の様な恰好をして、がっちりとした体つきの二メートル近い大男だ。
 鼻にピアスを、両耳に大きなイヤリングをしていて頭にはターバンの様なものも巻いていた。
 一度見たら忘れらない様な、強烈なインパクトの男だ」
「……しらねェな、そんなヤツは」
「そうか」

沈黙が辺りを漂った。会話はそれでおしまいのようで、ヒゲ面の男は要は済んだという顔で踵を返し、元来た道を戻り始める。
プロシュートはそんな男を何も言わず、ただ見つめていた。とても険しい顔をしていた。
千帆が話しかけられないほどにプロシュートは鋭い目つきで、その男が見えなくなるまでずっとその後ろ姿を睨んでいた。

男が角を曲がり、ようやくその影も見えなくなる。初めてプロシュートが緊張を解いた。
短い間だったはずなのにずしっりとした疲労感を感じさせる、緊迫した時間だった。
千帆も止めていた息を吐くと、張りつめていた神経を解く。実を言うと千帆はあの男が怖かった。
ギラギラとした眼、亡霊のように力なく揺れる身体。気味が悪かった。エシディシと言う男との間によっぽど何かがあったのだろう。
その底知れない執念というのか、怨念と言うのか。きっとそれは千帆が初めて体験した『生の殺意』だったのかもしれない。
混じり気なしの、ただただ“殺したい”という気持ちが凝縮された感情。

思い出すだけでゾッとした。千帆はそっと鳥肌が立った腕を撫でる。改めて自分がとんでもない場所にいるんだ、と実感する。
早人や露伴先生、プロシュートのような人ばかりでない。あんな恐ろしい男が沢山いるかもしれないのだ。


再び動き出したバイクはさっきより遅くなったように思えた。
滑るように進んでいたその機体はノロノロと住宅街を進む。千帆は少し躊躇ったが口を開いた。
ずっと黙ったままのプロシュートに尋ねる。背中越しにその表情はうかがえない。
二人を包む風に負けないよう、大きめの声で言った。

「あれだけでよかったんですか?」
「あれだけって言うのはどういうことだ」
「だからあれだけですよ。何も聞かなかったじゃないですか。
 向こうはエシディシって人のことを聞いたのに何も聞かなかったし、今思えばあの男の人の名前もわからないじゃないですか。
 さっき言ってましたよね、仲間と情報が欲しいって」
「……そうだな」
「そうだな、って……」
「千帆、アイツの眼見たか?」

プロシュートがスピードを緩めるとT字路を左に折れた。
こうやって会話を交わしながら、運転しながらでも、プロシュートが辺りをしきりに警戒していることがわかる。
見ることは見ましたけど。千帆は自信なさげにそう返す。だけど見たからなんだというんだ。
千帆は軍人でもないし、心理学者でもないのだ。正直言ってあまりいい印象を持たなかった、としか言いようがない。詳しく聞かれたところでなにも言える自信はない。
プロシュートも彼女の言わんとすることがわかったのか、問い詰めるようなことはしなかった。ただ少し間を開けた後、彼はこう言った。

「病院で話したよな。“最終的には『持っている』人間が生き残る。力の優劣とは、また別の次元の問題だ”って。」
「はい」
「直感でいい、お前から見てアイツはどう思った?
 あの男は『持ってる』ヤツか? それとも『持ってない』ヤツか? 千帆の眼にはどう映った?」
「…………」

すぐに答えることはできなかった。難しい問いかけだ。
千帆はもう一度さっきの男のことを思い出す。今度は曖昧な記憶を掘り起こすのでなく、しっかりと男の容姿から話し方まで、全部くっきりとイメージする。
話しながらどんなふうに身振りをしていたか。プロシュートを見る時どんな眼をしていたか。千帆を見た時、どういう顔をしていたか。
身長はどれぐらいだ? 癖は何かなかったか? 薄暗い雰囲気をしていた。ならどうしてそう思ったのか。どこがそう思えたのか。
プロシュートは千帆の返事をじっと待っていた。急かすようにするわけでもなく、その間もバイクの運転とあたりの警戒に神経を注いでいる。

やがて長い直線が終わるころになってようやく千帆の中で答えがまとまった。
ハッキリとした声で千帆は言う。まちがってるとか、正解は何だと聞かれてたらこうは答えられなかっただろう。
でもプロシュートが聞いたのはどう映ったか、だ。だから自分の思ったことなら、千帆は自信を持っていうことができる。


「『持ってない』ヤツ、だと思います」
「……なんでそう思った?」
「難しいんですけど、あの人から“死んでも生き残ってやる”って気持ちが伝わってきませんでした。
 変な表現なんですけど……というか矛盾してるし、きっと小説でこんな言葉使っちゃいけないんですけど……私にはそう見えたんです。
 凄い気持ちがこもってる人だとは思ったし、それが伝わってきたのは確かです。怖かったぐらいです。
 でもだからこそ、一度それが壊れたら……脆いんじゃないかなって」
「なるほど」
「エシディシ、って人を探してるみたいで……きっとその人を……殺したがってるみたいなんですけど……。
 なんというか、殺したらそれで満足しちゃいそうな気がしました。生き残れって言われてるはずなんですけど、殺したらそれで満足だ、みたいな……。
 悲壮な覚悟って言えばいいんですか。特攻隊というか、思いつめてるというか……」
「俺もだいたい同じことを考えてた。俺から見ればアイツは『持ってるものを放り捨てれるヤツ』だと思った。
 目的のためなら簡単に飛び移れるやつだ。何かを犠牲にして次のステージに写って、そっからまた次へ……って具合でな。
 こうやって言うのは簡単だが、それをするのはなかなか難しい。それにそれがいつだってそれがいい事かと言えばそうでもない」


持ってるものを放り捨てるヤツ。千帆はその言葉を聞いて顔をしかめた。
あまり好きそうになれないタイプだ。繋がりとか積み重ねというものを大切にする千帆にとってはそういう人はなかなか信用できる人ではない。
勿論何かを成し遂げるには何かを犠牲にしなければいけない。小説を書くときに睡眠時間を削ったり、友達の誘いを断ったり。
でもそういうのも普段の積み重ねのうえでの取捨選択だ。100から0に、イエスかノー。切り捨てや立ち切りというものはそう簡単にできるものではない。
逆説的に言えば、それができるほどあの人は強い人でもあるのかもしれないけど。千帆はそう思った。

プロシュートの話は続いた。

「俺が銃の構えを教えた時、何て言った?」
「えっと……引き金を引くことに意識を集中させるんじゃなくて、引き金を『絞る』」
「それ以外は?」
「6発あるからだなんて考えるんじゃなくて、一発で仕留めろ」

プロシュートが大きく頷いたのが筋肉の振動で伝わってきた。
声のトーンが少し変わった。もしかしたらうっすら笑っているのかもしれない。

「そうだ。なら聞くけど一発でも仕留められそうにもない時、お前だったらどうする?
 今しかきっとチャンスはない。ここで撃てば確実仕留められるはずだ……ッ!
 でもどうしてだか、相手に銃弾が当たる気がしない。コイツを討つイメージが頭に浮かばない。
 そう思った時、お前はどうする?」
「…………」
「……俺がお前の立場なら答えは決まってる。『逃げる』、ただそれだけのことだ。
 そしてもう一度待つ。次こそは見逃さない、今度こそ絶対に一発で仕留めてやるってな」
「逃げていいんですか?」
「勿論逃げちゃいけない時もあるし、逃げられない状況もある。けど逃げが間違いだっていうのは『間違い』だ。
 逃げだって選択肢の一つだ。それに時には撃つ時よりも、戦う時よりもよっぽど勇気が必要な『逃げどき』だってある。
 忘れるな、逃げることだって立派な選択肢なんだ。進む方向が違うだけで逃げだって前進してる。
 イノシシみたいになにがなんでも突っ込めばいいってもんじゃねーんだ。まぁ、その選択が一番難しいってのはあるけどな」

難しい話だ。一発で仕留めなければいけない覚悟が必要なのに、二発目以降も準備しておかなければならない。
歌を歌いながら小説を書けと言われてるのも同然だ。そんなことが自分にできるのだろうか。まだ銃の構えだっておぼろげなのに。
千帆の不安が伝わったのか、プロシュートは更にスピードを緩めながら口を開く。
その口調は確かに柔らかなものになっていた。

「俺が言いたいのはな、さっきの言ったことと矛盾してるみたいだが、一発外したら、はい、そこでお終いなんてことはないってことだ。
 そりゃ相手を前に外したら誰だってヤバいって思う。衝撃を受けるのは当然だ。俺だってきっと動揺する。
 けど大切なのはそこで敗北感に打ちひしがれないことだ。まだ相手は生きてるし、自分も生きてる。
 もしかしたら相手が俺を撃ちぬくことのほうが早いかもしれない。けどもしかしたら相手も慌てていて、俺の二発目が間に合うかもしれない。
 俺が逃げ伸びて、次の時にうまく弾丸をぶち込めれるかもしれない。一瞬硬直して、逃げようとしたら背中を撃たれるかもしれない」
「…………」
「つまりだな、千帆、生きることを最優先しろ。生きてればリベンジできる。生きてる限り、銃弾を込めなおすこともできる。
 けど死んだらおしまいだ。死んでもやってやるなんて覚悟は『死んだ後』にでも考えておけ。それか『どうあがいても間にあわない』って時にでもとっておけ。
 死を賭してでもって覚悟はけっこー諸刃のもんなんだ。少なくとも俺はそう思う」
「…………」

千帆は何も言えなかった。ただ何も言わないのは失礼な感じがして、黙って大きく頷いた。
背中越しでも頷いたことがわかるように少しだけ大袈裟に。プロシュートがどう思ったかはわからない。でも千帆はその言葉に素直にうなずけない自分がいることを自覚した。
自覚したから頷くだけで返事をしなかったのだ。バイクは何事もなく進んでいった。辺りには人影一つ見当たらなかった。


―――生きること、か。


それは時にものすごく残酷な刃物になる。
悲しみを背負って歩き続けなければいけないことは辛いことだ。それが努力ではどうにでもならないものであればなおさらだ。
だが千帆に逃げる気などさらさらない。死のうだなんて絶対思わないし、さっきプロシュートに言った言葉に偽りはない。

―――『私、小説を書くんです。元の世界に戻って。絶対に』

絶対に……。絶対に……! 彼女は言い聞かせるように心の中でその言葉を繰り返した。
ああ、そうだとも。生き残ってやる。例えそれが呪われた運命だとしても、それを選んだのは千帆だ。千帆自身だ。
千帆は自分が『何かに巻き込まれた』とは思ってない。千帆がここにいるのはそうする必要があったからだ。
千帆がここにいるのは、千帆である必要があったから。千帆にしかできないこと、千帆が成し遂げるべき何かがあるからだ。

プロシュートが一瞬だけ視線をサイドミラーに移した時、後ろの少女と眼があった。
さっきあった男と正反対の意志が彼女の瞳には宿っていた。誇り高き、強いものの眼だ。プロシュートは彼女のそんなところが気に入った。



再び口を開いた時、プロシュートの口調は元の淡々としたものに戻っていた。
バイクのスピードを落とし、次の角も右に曲がる。まるでそこにある『なにか』がわかっていたかのような感じで、彼はバイクの速度を緩める。
二人の視線の先に一人の男が映っていた。さっきのような怪しい気配剥き出しの男ではなかったが、こちらを警戒しているのが一目でわかる。

身長は平均よりやや高いぐらい。腕や肩のあたりががっちりしていて、それに比べると足や腰はほっそりしている。
バイクの音を聞きつけていたのか、びっくりした様子もなく、鋭い目つきでこちらを睨んでいる。
片方の腕を伸ばし、突きつける様に指さしている。見た感じ武器を持っているようには思えなかったが油断はできない。スタンド能力を持っているのか知れない。
プロシュートはそんな彼の手前、三十メートルほどでバイクを止めると振り向くことなく千帆に言った。

「千帆、お前が説得してみろ」
「え?!」
「さっきのヤツは見るからにヤバいヤツだったから俺が対処した。今度のヤツはまだマシに見える。
 いつまでも俺におんぶにだっこってわけにはいかねーだろ。それに俺はお前の眼を信用してる。お前のツキも信用してる」
「そんなこと言われても……」

いいからやってみろって。そう背中を押され、千帆は最後にはやるしかないと覚悟決め、バイクを降りた。
プロシュートが隣に立ってくれていることが彼女を勇気づけた。真正面に立つ青年がそれほど怪しい目つきでないのも彼女を奮い立たせてくれる。
唇を一舐めすると、心臓に手をやりながら口を開いた。なんだか喋ってるのが自分じゃないみたいだ。
千帆は相手に聞こえる様、大きな声ではっきりと話した。

「私は双葉千帆と言います。ある人を探していて、その人のことについて知っているならお話がしたいです。
 私は誰も殺したくありませんし、貴方も誰も殺さないというのなら一緒に力を合わせたいと思います。
 どうでしょうか、私と協力してくれませんか?」

訪れた沈黙が居心地を悪くする。ジャケットに入れた拳銃がひやりとしていて、その感触がなんだか胃をムカムカさせた。
馬鹿正直に話しすぎだろうか。千帆は少しだけ後悔した。でも彼女は自分の勘を信じていた。
眼の前の青年は決して平和ボケしたような甘ちゃんではないが、誠意をもって話せば話は通じる相手だろうと。
ピンと来たのだ。この人は私と同じだと。私と同じように誰か探している様な気がする。それも堪らなく会いたいと思えるような、大切な人を探してる。

「彼女の後ろに立ってるアンタ……。アンタはスタンド使いか?」

返事は冷たく、固かった。
視線を千帆からゆっくりと外し、プロシュートを睨みながら青年が口を開いた。
プロシュートは唇を捻っただけで何も言わなかった。肯定も否定もしない。初対面でこの反応はいい印象を与えないだろう。
隣に立つ千帆は少しだけ心配だった。自分に説得するようやらせておいて、それはないんじゃないのと思った。
長い沈黙の後、ジョニィが口を開いた。依然指先はこちらを向いている。その鋭い眼光も一向に衰えていない。

「話をするなら……一人ずつにしたい。僕はあなたたちを悪いヤツではないと思ってる。
 だけど、まだ完全に信頼することはできない。騙し打ちをする気なんじゃないかって、そう疑う気持ちだってある。
 だから話をするならどちらか一人ずつだ。ここじゃないどこかで、一人ずつ話をしたい」

千帆が振り向けばプロシュートは我関せずと言った顔であらぬ方向を向いていた。
話をするかどうかも、全部任されたということだろうか。初めての交渉なのにいきなり投げっぱなしとは信頼されているのか、試されているのか。
少しの間考えてみた。ずっしりとした拳銃の重みが彼女の決断をより一層重大ものにすると訴えている。
そうだ、間違えたら死ぬのだ。眼の前の青年を測り違えたら殺されるのだ。そう簡単にできるものではない。

それでも……再び千帆が動いた時、彼女の中で迷いはなかった。
ジョニィに見える様、彼女は力強く頷いた。その目に一点の躊躇いも持たず、千帆はジョニィ・ジョースターとの対峙を選択した。






ティッツァーノからもらったタバコを病院に置いてきたのは間違いだったかもしれない。
千帆とジョニィ・ジョースターがひっ込んだ民家の前で座り込み、プロシュートは一人思う。
こんなのんびりとした時間がこうもはやく来るとは流石に予想外だ。病院を一歩出ればそこは戦争で、戦い尽くしの未来だと勝手に思っていた。

スーツについたほこりを叩き、さっきまで乗っていたバイクにもう一度またがる。
千帆の予想に反し、プロシュートはそれほどバイクに乗り慣れているわけではない。どちらかと言えば車のほうが普段からよく使うし、車のほうが好きだ。
座席は柔らかいし、オーディオもいい。風にバタバタ煽られることもなければ、不格好なヘルメットをつける必要もない。
ただどうしてか、プロシュートは昔から何事も飲み込みがよく、バイクだってそのうちの一つでしかなかった。
実際さっきの運転中も見た目以上に神経をすり減らしていたのだ。千帆にそれを悟らせなかったところは流石と言うべきか。
わかっていたことではあるが、キツイ道中になりそうだ。プロシュートは身体を馴染ませるようしばらくの間、バイクに跨り考えにふけっていた。

プロシュートの思考を破ったのは道路の先から聞こえてきた足音だった。
住宅に跳ね返り聞こえてきた靴の音。それほど先を急ぐような音ではなかった。一歩一歩、確実に進んでいくような足取り。
バイクにもたれ何が来るだろうと曲がり角を睨んでいれば、一人の男が現れた。
ナルシソ・アナスイだ。そこに現れたのは愛に生きる一人の男。

プロシュートを最初見た時、彼は露骨に警戒心をあらわにした。だが見敵必殺とばかりに襲いかかってこないことがわかると、少しだけ警戒心を緩めた。
そのまま少しずつプロシュートへと近づいてくる。一歩、そしてまた一歩。その歩き方が少し不自然で、プロシュートはアナスイが怪我を負っていることに気がついた。
見れば服装も汚れ、所々血が付いているの見える。プロシュートはアナスイにばれないよう、後ろのベルトに刺した拳銃に手を伸ばす。
グリップの冷たさが彼の思考をクリアにした。怪我を追っているとはいえ油断はできない。なにかあれば容赦なく、撃ち抜く。


「……ここを誰か通っていかなかったか?」

アナスイが言った。

「人を探してるんだ。男と女の二人組。アンタは見てないか?」










タロットカード、十三枚目。それは死神。
意味は終末、破滅、決着、死の予兆。しかしひっくり返して逆位置にすれば……その意味は再スタート、新展開、上昇、挫折から立ち直る。
リンゴォ・ロードアゲイン。双葉千帆、プロシュート。ジョニィ・ジョースター。そして、ナルシソ・アナスイ。
死神に取りつかれ、死神に魅了された五人ははたして死神に呑みこまれずにいられるのか?





                                        to be continue......




【D-7 南西部 民家/1日目 午前】
【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:全身ダメージ(中)、全身疲労(中)
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 30/60)
[道具]:基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還。
0.目の前の男に対処。
1.暗殺チームを始め、仲間を増やす。
2.この世界について、少しでも情報が欲しい。
3.双葉千帆がついて来るのはかまわないが助ける気はない。

【ナルシソ・アナスイ】
[スタンド]:『ダイバー・ダウン』
[時間軸]:SO17巻 空条承太郎に徐倫との結婚の許しを乞う直前
[状態]:全身ダメージ(極大)、 体力消耗(中)、精神消耗(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:空条徐倫の意志を継ぎ、空条承太郎を止める。
0.徐倫……
1.情報を集める。
【備考】
※放送で徐倫以降の名と禁止エリアを聞き逃しました。つまり放送の大部分を聞き逃しました。


【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:疲労(小)
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:基本支給品、露伴の手紙、救急用医療品
[思考・状況]
基本的思考:ノンフィクションではなく、小説を書く。
0.ジョニィ・ジョースターと情報交換。
1.プロシュートと共に行動する。
2.川尻しのぶに会い、早人の最期を伝える。
3.琢馬兄さんに会いたい。けれど、もしも会えたときどうすればいいのかわからない。
4.露伴の分まで、小説が書きたい。
[備考]
※千帆の最後の支給品は 岸辺露伴のバイク@四部・ハイウェイスター戦 でした。

【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』Act1
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、リボルバー拳銃(6/6:予備弾薬残り18発)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロに会いたい。
0.双葉千帆と情報交換。信用はまだできない。
1.ジャイロを探す。
2.第三回放送を目安にマンハッタン・トリニティ教会に出向く
[備考]
サンドマンをディエゴと同じく『D4C』によって異次元から連れてこられた存在だと考えています。




【D-7 南西部/1日目 午前】
【リンゴォ・ロードアゲイン】
[時間軸]:JC8巻、ジャイロが小屋に乗り込んできて、お互い『後に引けなくなった』直後
[スタンド]: 『マンダム』(現在使用不可能)
[状態]:右腕筋肉切断、幼少期の病状発症、絶望
[装備]:DIOの投げナイフ1本
[道具]:基本支給品、不明支給品1(確認済)、DIOの投げナイフ×5(内折れているもの二本)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.それでも、決着をつけるために、エシディシ(アバッキオ)と果し合いをする。
[備考]
※名簿を破り捨てました。眼もほとんど通していません。
※幼少期の病状は適当な感じで、以降の書き手さんにお任せします。



投下順で読む


時系列順で読む


キャラを追って読む

前話 登場キャラクター 次話
120:Dream On プロシュート 147:夢見る子供でいつづけれたら
110:石作りの海を越えて行け ナルシソ・アナスイ 147:夢見る子供でいつづけれたら
118:彼の名は名も無きインディアン ジョニィ・ジョースター 147:夢見る子供でいつづけれたら
119:ああ、ロストマン、気付いたろう リンゴォ・ロードアゲイン 143:本当の気持ちと向き合えますか?
120:Dream On 双葉千帆 147:夢見る子供でいつづけれたら

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最終更新:2014年06月09日 22:31