…流されていく。
『プカァ』のしっぽ文字がなければ、水の中で康一の体力は無くなっていたかもしれない。辺りを見回すが、ティムの姿はなかった。
(…ティムさんっ…どこかに、どこかに掴まれるようなものはないのか?)
そのうち、また橋が見えて来た。あそこなら?
しかし、今いる位置から橋脚や川岸へは少し遠い。まだ流れが急な今、無理をするべきではないと判断して次の橋を待つ。
(…来た!)
今度は、橋脚に近い所を流れていきそうだ。
失敗すればまた流される。タイミングを図りながら、康一の取った行動は迅速なものだった。
スタンドに己の身体を引っ張らせ、その尻尾から『ピタッ』を生み出して橋脚に張り付き…そこで少しずつ方向と高さを変更し取り敢えず水から上がる。
(…誰も、いないか?大丈夫か?)
エコーズで周りを確かめながら、川岸の方を見る。
幸運な事にくっついた反対側まで回れば、川岸まで数メートルの距離だ。障害物はない。
そこへ移動すると、康一とエコーズは密着し同時に橋脚を蹴った。バランスを崩して頭から着地してしまう可能性もあったが、『ポヨン』のしっぽ文字がうまくクッションになり、最終的には倒れるような格好で川岸に落ち着く。
立ち上がって辺りを見回すと、北西と北東の方角に何やら大きな建物が見えていた。
北東のそれは流される前に南に見えていたホテルらしい。
取り敢えず辺りに人の気配がないとわかった所で、橋の下で隠れるようにして身体を休める事にした。
すぐに北上したいのはやまやまだったが…今は単独である以上、川岸やその土手という開けた場所で疲労困憊して倒れるのは最悪に近づく事だ、そう判断する。
「…そもそも、今何時だろう?」
太陽はかなり高い。時計を探すついでにデイパックからパンを1つだけ取りだし、少しの水と共に腹に入れる。
食べ過ぎれば眠くなるから、最小限。
仲間たちの顔を、声を思い出しながら…近いと知ったその時までを過ごした。
(みんな…どうか、無事で)
暫くして、その時…即ち2回目の放送が響き始めた。禁止エリアを聞いて、それが遠い事にひとまず安堵する。続いて死亡者の名前が読み上げられていく。
山岸由花子の名前を告げられた時…ずきん、と胸が傷んだ。
(由花子さん…)
それでも続きの名前を耳をそばだてて聞き続ける。他に知りあいの名前が含まれていない事に康一は大きく息を吐き出した。
「じゃあ、大丈夫なんだな…」
最悪ティムはまだ流されているかもしれない。ただ、先に陸に上がった可能性もある…さて、どうしようか。
そんな思考に入ろうとしていた康一を引き戻したのは、勝手な言い分を並べ始めたスピーカーだった。
(…冗談じゃない…!)
大勢の生命を弄ぶように引き込み、けしかけるだけけしかけて自分達はそれを眺めている…それだけでも許されない事だ。
尚且つ、もっとぶつかり合え?地を這って得たものが真の勝利と言えるのか?希望に過ぎない?
…そんな言葉に踊らされてたまるものか。
時計を見て放送が近いのを知った時、きっとその後は多かれ少なかれこんな気分になるとは思っていたが、予想以上だ。
ならば休憩は終わりにしよう。この怒りは前進するために使うべきだ…まだ疲労の残る足で、満身創痍で、それでも康一は川岸を土手沿いに北へ向けて歩き始めた。
その途中で背の高い草の群生を見つけたので、葉を結んで数個輪を作っておく事にした。
歩いた痕跡を残すのは危険だが…これなら川に落ちた事を知っている
マウンテン・ティムが通りかかるか、探知に特化したスタンドでもなければ誰だかは特定できないはずだ。
誰でも良いから…と言うような奴はそもそも目印など見なくても襲いかかるだろう。
その分、注意を払わなければならない。
(…気をつけろ、康一…見るんじゃなくて、観るんだ…聞くんじゃなくて、聴くんだ…さもなければ折角繋いでもらった命を、台無しにしてしまうぞ)
自分に言い聞かせながら、康一は隙なく進んでいった。
【C-4 ティベレ川・川岸/ 1日目 日中】
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:全身傷だらけ、顔中傷だらけ、貧血気味、体力消耗(中)、ダメージ(大)
[装備]:なし
[道具]:
基本支給品×2(食料1、パン1、水ボトル1/3消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.主催者への反発
1.マウンテン・ティムを信じ、シュトロハイムたちと合流する。
2.仲間たちと共に戦うため『成長』したい。
3.各施設を回り、協力者を集める。
※勿論戻る道中にマウンテン・ティムがいれば合流するつもりです。
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最終更新:2014年06月08日 23:01