「…」
ダークグリーンの眼に映る、太陽。
空条承太郎が地上に出てきたのは、結局の所道が他に無かったという単純な理由だった。歩き出して間もなく、上へ行く階段が現れたのだ。
開け放ったその大きな扉の横合いから、声が投げられる。
「…空条、承太郎、か?」
※ ※ ※
マウンテン・ティムが水から上がるのに成功したのは、康一よりも下流だった。
びしょ濡れの身体でそれでも休まずにここまで歩いてきたのだが…さすがに疲労が重なり、どこかに休める場所はないかと建物の側へとやって来た所で放送が流れ出して。
結局ティムは中へは入らない事を選び、入り口の横で放送を聞いて暫し休憩をしていた所へ、承太郎が出てきたというわけだ。
主催者に爆破されたはずのその顔をティムはよく覚えている。そして何より…仗助、噴上、康一がその名前を口にしていた。仗助曰く『グレートな甥っ子』であるという男。
「…人に名前を尋ねる時は、名乗ったらどうだ」
低いがよく通る声、傷ついた身体…何よりティムの目を引いたのは怒りと悲しみの宿るダークグリーン。まるで孤高の狼…いや、それ以上か。触れれば焼きついてしまいそうなこの男が歴戦の戦士だという事はティムにも痛いほどわかった。
「…すまない。私はマウンテン・ティム。保安官だ」
「…空条承太郎だ。武器もスタンドも出さねえって事は、やる気はねえと思っていいか?なら、俺に関わるな」
承太郎はティムに背を向けようとした。
「…待ってくれ。一緒に…来てほしい…仲間が待ってるんだ。仗助くんも、裕也くんも…康一くんも」
ティムは食い下がった。一人でも多く協力者が欲しい。もし自分が主催者であるなら…見せしめに使うような人物が何処かの下っ端と言うことはないだろう。かなりの影響力を持っているはずだ。
「…『エコーズ』…広瀬康一か?」
承太郎は呟いた。
「…やっぱり、知っているんだな?」
「…保安官だと言ったな?カウボーイか?」
「…ああ」
承太郎は無造作に紙を1枚取りだし、自分とティムの前に広げた。
「…なら、これで帰ればいい」
付いて行きたくはなかった。ただ、広瀬康一という人間は承太郎にとって敬意を払うべきものだ。年など関係はなく、敬うべきと思ったものを敬う。怒りの中に生まれたそれは、結果としてティムに味方した。
承太郎が背を向けた次の瞬間、その身体は僅かにバランスを失う。
空白の一瞬…それは確かに大いなる偶然だったが、ティムは見逃さなかった。頭より身体の反応の方が速く、気づくと縄を投げていた。
幸運だったのは、承太郎が反射的に身体にかかった縄を掴んだ事だ。
ティムは愛馬の首元に承太郎の上半身を、自分の背中に腰と脚をくくりつけて背負う。そのままロープの端を手に巻き付けて手綱と共に持った。
「少し重いが…頼むぞ。『ゴーストライダー・イン・ザ・スカイ』…手荒な真似をしてすまないが…そんな眼をした奴を置いてはいけない」
承太郎は自分に起こった事に表情を変えず困惑していた。いきなり冷水を頭から被ったかのようだ。
無理矢理に、思考が引き戻されて行く。色々な事を経験してきたが…無論馬に蹴られた挙げ句、身体をバラバラにされるなどというのは初めてである。
「…」
「もし何か良からぬ事を考えてるなら、やめてくれると嬉しい。ロープが切れたら…あなたの身体がどうなるか保証しかねる。その代わり…連れていけたなら、その後で遠慮なく殴ってくれても構わない」
ティムの言葉と眼差し、その真っ直ぐさに誠実を感じた承太郎は軽く首を振った。
「…よくわからん奴だな、あんたは…」
「…俺は、『黒』を打倒したいだけだ…来てくれれば…出来るかもしれない。その為になら、力を使うことを惜しまない。頼む」
元々
川尻しのぶと合流することは『今すぐ』の選択肢として承太郎の頭から消えていた。逃げおおせているならば自分が行っても意味がなく、敵に見つかっていたなら尚更しのぶが危険だ。徐倫まがいを救う事…こちらは『結果論』として頭にあった。
ティムは言葉を続ける。
「…あなたもそんな眼をしているからには、大事なものを失ったんだろう。俺がどうこう言える立場じゃないが…俺の知っている範囲の事を話す。ひとりごとだと思って、聞いてくれ」
「…その前に」
承太郎はスタープラチナを現した。
落とされるのか?
ティムは落馬を覚悟したが、その影はティムを通りすぎた。
「…スターフィンガー!」
スタープラチナが指を振るう。その手は次の瞬間、間髪入れず真っ二つになったトランプのカードを捕まえていた。
それはもちろん、ティムの愛馬にくっついて情報収集しようとしていたムーロロのスタンドである。
「…誰か、俺達をつけてやがったようだ。くだらねえ」
「…ありがとう」
ティムは振り向いてそれを確認し、承太郎に告げた。
「…別に助けたわけじゃねえ、こいつは、『警告』だ。盗み見してる根性の曲がった奴へのな」
それがティムのものではない事はわかっていた。地下にいた時からずっと、朧気ながら何かに見られている感覚があったからだ。スタープラチナはトランプを細切れにして放り投げた。
「それに、いくらスタープラチナでこの縄を細切れにした所で…万一でも俺の胴体が泣き別れでもしたら、死んでも死にきれねえ。分の悪い賭けは嫌いじゃねえが、今それをするのは得策とは言えん」
「…では、改めて…」
ティムは自分の知る限りの事を、簡潔に述べ始めた。
※ ※ ※
シュトロハイムは、唐突に噴上の足を払った。
「…な…」
宮本と噴上とが両方驚愕した時には、シュトロハイムのその目から宮本に向けて紫外線が照射されていた。
「…う、あ…」
たまらず怯んだ隙を見逃さず…つかつかと宮本に歩み寄るとその手元にある紙を躊躇なく引っ張り、取り上げて開いたり閉じたりして確認する。
「…フンガミ、これはただの紙のようだが?」
転ばされた噴上にとってはいい迷惑だったが、これぐらいで済めば良い方だろう。
「…やっぱり騙しやがったな、紙使い!」
「…っ…仕方が…なかったんだ…僕は…あいつに…」
「…やかましい。そんな事を言いながら、シュトロハイムの事を『観察』してたのを、俺は見逃しちゃいねえぜ…」
言って、噴上は宮本の頬に『ハイウェイ・スター』の拳を叩き込んだ。
「…ぐふ…っ」
「…それでおあいこにしてやる。とっとと、どこへでもいっちまえ」
「…うむ、よくわからんが…人質をとるような人間はこの戦いに必要なし!蜂の巣にされないうちに、去ることだな」
シュトロハイムに仕込まれた機関砲の銃口が宮本に向くと、宮本は流石にきびすを返して逃げ出した。装備自体は雲泥の差だし、何より自分の役目は果たしたのだ。
ワムウの事は気になるが、今はこれでいい。
「…フンガミ、ジョジョを探せるか?」
シュトロハイムと噴上は走り出した。
※ ※ ※
その戦いは、途中から純粋な殴りあいに変化した。
ジョセフと仗助、双方とも『食え』ず…また今の狭いトンネル内にいる状態では神砂嵐を使っても文字通り砂山を作りかねない。もっと良くないのは、瓦礫を風で吹き飛ばして増援を呼んでしまうことだ。
それでもクレイジーダイヤモンドのラッシュと、それに乗じてフェイントを掛けたジョセフの波紋入りパンチをいなしているのだから、ワムウは正に怪物と言って良かった。
紙一重の攻防が続いた。
何回目かのやりとりの後、仗助とジョセフはワムウから距離を取る。放送が流れ出したが、構っていられそうにない。
深いものはないが、手足は細かい傷だらけだ。
「…いやあ、しぶといスね…」
「…ヒトじゃないから…疲れるのを狙ってたら、ダメなんだろうぜ…何か…ないか…」
ジョセフがごそごそとデイパックを漁ると、指先が紙に触れた。
「…そういや、なんだこれ?」
引っ張り出して開いた紙の中のものを見て、笑った。
「…いくぜ、ワムウ!」
ジョセフはくっつく波紋で洞窟の天井からぶら下がり、奇襲をかけた。
「…そんな格好で仕掛けてきても無駄だ!」
「くらえ、波紋!」
ジョセフは左手の掌で、ワムウの頭に触れようとした。無論、黙ってさせるワムウではない。
かわした場所に、右の拳が迫る。
「くどい!」
一手遅れてやってきた仗助とクレイジーダイヤモンドに対応すべく、ワムウは頭を僅かに振ることでそれを回避した。
―その後頭部から、波紋の衝撃。
「…
ジョセフ・ジョースター…」
ワムウはよろめいた。
クレイジーダイヤモンドのラッシュを受けて、吹き飛ぶ。
「…今回もやらせていただきましたァン」
ジョセフの右の小指には糸が絡んでいた。その先には、ブリキのヨーヨー。拳で殴ると見せかけてそのヨーヨーを離し、死角から攻撃したのだ。
立ち上がったワムウは己の人差し指をこめかみに当てる。
一度、これと似た攻撃をされた事があった。確かアメリカンクラッカー…とか言うものだったか。その時は身体を変形させる余裕があったが、今はなかった。
即ち、それは仗助のクレイジーダイヤモンドのラッシュのスピードの速さを物語っている。
戦う事の喜びの中に、あるひとつの感慨がふつふつと湧いてきた。
「…ジョジョの子よ。お前も、一人前の戦士であるのだな…」
「…あんた、どうして…」
音石から二人が親族であるとは聞いていた。確信をもったのは、一連のやりとり、そして何より何かを企んでいるようなその笑顔だ。
「…そっくりではないか…俺は…一度ジョジョに負けたのだ。もう一度その姿を…その子供まで見られるとは、幸せだと思わんか?」
そこまで告げた所で、近くから破砕音がした。
「ジョジョ!ジョウスケ!近くにいるか!?」
「増援か…やはり奴は足止めにならなかったようだな」
元より、ワムウはすっかり恐怖していた宮本が誰かを長時間引き留めておけるとは思っていなかった。
これ以上敵の数が増えれば正々堂々とした戦いはしにくい。声を聞いたワムウは、神砂嵐の構えを取ってバックステップを踏んだ。
「「おわっ!?」」
二人が数メートル吹き飛んだ後には風が荒れ狂い、その隙に作ったらしい瓦礫が先を阻んだ。
「…ワムウ…その気があるなら…もう一度、待ってるぜ…」
「…行こうぜ…皆が、待ってる…おーい、聞こえるか?」
(…このワムウが…ジョジョ…ジョウスケ…俺は今かつてない程に、強くなりたいと願っているぞ。この猶予、無駄にはせん)
ジョセフがぶつかってくる直前に放送は
J・ガイルの名前を告げた。もう約束の場所に行く必要もない。
残された二人は、後を追うことはしなかった。
(ワムウにとって地下はハンデだろうな…さすがにみんなでかかって倒すってのも、なんか目覚めが悪ぃし…)
(…やれやれ、なんつーか…二人の複雑な思いって奴か?目ぇつけられちまったみてえだし…まあ、それより、早く合流しねえと)
※ ※ ※
膠着状態から、ナイフの飛び交う接近戦へ。
いつものビットリオであれば自傷して相手にダメージを与える所だろうが…麻薬切れで混濁した意識と、2対1の構成が中々それを許さない。
特に
シーラEは…隙を与えてはならないと悟り、多少の傷を承知でヴードゥ・チャイルドを牽制に使っていた。
そして金属同士が弾かれる、音。
何度かのそれを制したのは、意外なものだった。
「…んの、っ…!」
何かに気づいたヴードゥ・チャイルドの拳が、ビットリオとエルメェスの距離を引き離す。
そこへ、「バコォン」の文字が貼り付けられてビットリオは更に吹っ飛んだ。
「「…康一!」」
吹っ飛んだビットリオの額には、唇が出来ていた。そこから、呪詛のような罵りが漏れる。
「…うるさい、うるさい、うるさい…!」
蓄積していたビットリオの精神疲労は、罵詈雑言を聞いた所で限界を迎えようとしていた。
『ドリー・ダガー』には何も映っていないように見えたが、躊躇なく額を抉ろうと刃を突き立てたその瞬間…そのスタンドは映り込んだ不安定な瓦礫の柱にダメージを反射してしまう。
「…!」
離れていた三人にはどうすることもできない。ビットリオは頭を潰されて死を遂げる事となった。
…彼の幸運は尽き、不幸が襲ったと言っても良いだろう。
【ビットリオ・カタルディ 死亡】
※ ※ ※
外と中から瓦礫をどうにかし、何とか仗助、エルメェス、噴上達は合流した。
それから暫くして戻って来たティムと予想外の客に仗助や康一は眼を丸くする。
ありありと傷を作っているその姿を見て仗助が「またアブねえ事してるんでしょう?」と言うと、承太郎は帽子を深く被った。
「悪いか」
「…悪いっスよ。あんた絶対無茶苦茶ばっか、するんです。わかんねえんスか?おれだって承太郎さんが傷つけば平気なわけ、ないじゃないですか。まして…おれはあんたが死んだって、思ってたんスから…」
ジョセフは何も言わなかった。
ただ、パンチが一発飛んできた。
「心配してる奴に向かってその態度は何だ」という意味合いのその拳は、承太郎に当たる寸前で止まる。
仗助が近寄って半ば無理矢理承太郎の傷を癒していく。空条の名前に線の引かれた名簿は仗助も既に目にしている。何より双方の痣が燃えるように痛んだ。
「あんたが悲しいのも、怒ってるのもわかる。けど…一人誰かが死ぬたび、見てるホントのクソッタレはほくそ笑んでるんですよ。
殺されたそいつがいいやつとか、悪いやつとか、関係なく。それは承知して下さい。
そして少なくとも…悔しいですけど、そういう奴に『空条承太郎』は一度負けたんスよ。あれは…人形なんかじゃ、なかった」
「…だからと言って、吉良やDIOを野放しにしておくわけにはいかねえ。俺は…母親も娘も…」
二人とも表情や口調こそ平静だが…その後ろにある殴りあいが始まりそうな雰囲気を仲裁したのは康一だった。
「…承太郎さん、取り敢えず…何があったか話してくれませんか?」
「…やれやれ、だ」
承太郎は全てを話す事にした。
望んだというよりは、その方が小出しに色々問われて鬱陶しいよりはマシだろうと判断したからだ。
※ ※ ※
「父さん、って、確かにそう言ったんだな?」
これまでの放送内容と情報交換が粗方終わった後漏れた、その疑問の声。それは承太郎にとって意外な人物…エルメェスからのものだった。
「ああ」
「…それは…
F・Fかもしれない…あいつが…徐倫の記憶を…」
エルメェスは身体を預けていた石柱から背中を離す。冷たかったはずのそれには、すっかり温もりが移ってしまっていた。
承太郎は息をひとつ吐き出す。
少なくとも、ここに承太郎が『敵』だとはっきり認識している者はいない。
エルメェスは、危険を承知で神父を倒すために付いてきたのだとアナスイに聞いた。
そしてF・Fの事も無論聞いて知っていたが…あの状態で思い至れというのは、流石に無理がある。」
「確証はねえだろう。
ラバーソールの奴か、他の…DIOの手下の自作自演なら、心配は無駄だ」
「…承太郎さん、あんたの『感覚』でもわからなかったのか?」
エルメェスは再度尋ねた。
「…少なくとも、徐倫まがいのその身体自体が『生きていない』事はわかったが、それ以上はわからん。そんなに便利な代物じゃねえ」
声が僅かに苛立ちを含んでいた。この男は冷静に怒っている、と声を聞いた誰もが感づき、考える。
承太郎がその徐倫まがいを味方(若しくはそうなれる者)ではないと思いたいのは自然だ。いっそ、その方がすっきりするだろう。
『よくも娘を冒涜したな』と、殴りかかれば良いのだから。
それにしても、まず探し出さねばならないが。
暫し場は沈黙に包まれる。次に口を開いたのは康一だった。
「…近くにDIOを感じますか?」承太郎は緩く首を振った。
「少なくとも奴はこの近くにはいない。逆に、僅かに遠くなったように感じる」
「…そうですか…川尻さんも…心配ですね…」
その返答に、承太郎は僅かに顔をしかめる。
「…あまり四の五の考えたくはねえが…彼女には地図がある。名前は呼ばれなかったんだろう?ならば、すぐ殺されたり落盤の下敷きになった可能性は低い。一番厄介なのは…DIOか吉良と会ったパターンだ」
確かに逃げろと言ったのは自分だが…もし人質に取られたら厄介以外の何者でもない。そして、それは過去に起きているのだ。
「…いずれにせよ…行きましょう。承太郎さんの家って言うのがちょっと皮肉みたいですけど…これも何かに引かれているなら、必要なのかもしれません。
何が待っていようが、みんなで行けば大丈夫です。そして、次にDIOを探しましょう」
康一が軽く頷きながら告げ、一同も納得したように顔を見合わせる。その中でティムが唯一納得のいかない顔をしていた。
「そのDIOという吸血鬼は恐らく地下か建物の中にいるんだろう?出会ったばかりで戦闘になったというなら…そこからとんでもなく離れているわけではないと思う。それはそれでいいんだが…」
「…何だ?」
承太郎は尋ねた。
「主催者…スティーブン・スティールの事だ。彼はこっちの関係者というべきなんだが…そうだ、承太郎。ファニー・ヴァレンタインという男が合衆国の大統領になったことは?」
「ねえな」
ティムは顎に手を当てる。
「…と言うことは、僕らと君らとは、大分違う世界という事も考えられるな。
もうひとつ…引っ掛かった事があるんだ。君には俺がスティール・ボール・ランの参加者だったと話したが、そのレースには
ディエゴ・ブランドー、そして、
ジョニィ・ジョースターの二人が同じように参加して優勝争いをしていた。
ブランドーにジョースター…偶然にしては妙だろう?ただ、ディエゴ…彼は人間のはずだ。さもなければ、とっくに塵になっている」
「少なくとも俺の祖先…ジョナサンはイギリス生まれだ。確か1890年と言ったな?その年にアメリカでレースに出ていたはずはない。出られたはずがないんだ。第一そのレース自体がこっちの歴史には存在しないもの…
と言うことは、DIOの信奉者が主催者を操っている、もしくは結託しているとは限らなくなってくるわけか?…クソ…」
出られたはずはない、というのはその前の年にジョナサンはこの世を去っているからだ。
承太郎が言いながら人を射殺せそうな顔で訝しんでいると、康一が顔を上げた。
「…これは承太郎さんから話を聞いただけの僕の邪推に過ぎませんけど…
もしそのDIOが全てを知らされていて、優勝する予定の出来レースだったとしたら…まだ残りが随分いる中、挨拶に出てくるのかって疑問が生じますよね。
何より、承太郎さんにわざわざ『数年ぶりか』と尋ねたのも…ブラフにしてはうっかりしてる気がするんです。
もし裏があったとしても…僕らと同じく何も知らされないまま参加したと読んだ方がいいかもしれません」
そこで、珍しく黙って話を聞いていたシュトロハイムが口を挟んだ。
いつもの調子でがなっていれば、承太郎は「やかましい!」と告げて踵を返してしまったかもしれないが、その声は静かだった。
「…要は吸血鬼なのだろう?このシュトロハイムがいれば…」
「…ダメだぜ、シュトロハイム。時を止めて逃げられるのがオチって奴だ」
噴上が、すかさずツッコむ。
「…いずれにせよ、主催者の目的がよくわからないね。ジョースター、ブランドー…スタンド使い、人間…殺しあわせて何がしたい?」
シーラEがぽつりと呟いた。空条承太郎が生きているなら、ひょっとしたら、ジョルノ様もいるのかもしれない。
自分の事を知っているかはわからないが、それは二の次だ。
「…それとも、何かを探してるのか?」
仗助が大分くたびれた声で唸る。
情報交換しているうちに皆を治して回っていたので、休息しようと口を出さないでいたのだ。
まあ承太郎が仗助より未来からやって来たらしいとわかった時点で、説明する事もなかったのだが。
しかし柱の男である
カーズ、DIO、そして吉良といっぺんに遭遇するとは…無論待ち合わせていたはずはないし、仮に約束していたとしてもそんな邂逅は無理に近いはずだ。
この甥は光が強い分、濃い闇まで引き寄せてしまうとでもいうのだろうか。
そんな事を仗助がぼんやりと思っていると、承太郎が幾分か落ち着いた様子で口を開いた。
「いずれにせよ、俺はDIOをぶち倒しに行く。一応、待ち合わせの場所にも寄るつもりだからそこまでは一緒でもいい…
放り出しっぱなしってのは、目覚めの良いもんじゃないからな」
パズルのピースが足りないようだが、自分のやる事に変わりはない…承太郎はそう自分に言い聞かせて帽子を被り直す。
「…ワムウとカーズを逃したのは痛いが…その吸血鬼とやらも問題なら、止めねばならんだろうな。仕方あるまい。
肉の芽…だったか?屍生人より、よっぽどたちが悪いではないか。配下を増やされたなら厄介この上ない…救急車があったな?あれで行けば速かろう。点検したら、出かけるとするか」
そう言ってシュトロハイムは立ち上がった。
※ ※ ※
ジョセフは承太郎から粗方の話を聞くと、エリナを埋葬しに行っていた。この先何があるかわからないので、少しでも早く安心して眠らせてやりたかったのだ。
「…エリナ…おれは…」
丸い石を墓標に、近くに咲いていた小さな花を手向けてジョセフはただ目を瞑った。
「…そろそろ行くぜ、『ジジイ』」
呼びに来たのは仗助だった。
親父と呼ぶにはやはり違和感がある。かといって、ジョセフと呼ぶのも何か他人行儀なような気がしたのだ。
「仗助ちゃん、俺まだ新婚なんだけどォ?…まあいいか。しっかし俺ら、改めて奇妙な体験してるよな…これが殺しあいじゃなけりゃ、笑ってどんちゃん騒ぎしたいとこなんだけどなあ…」
子供に、孫。
しかも、孫に至っては自分より年上とくる。
(…しっかし…仗助はともかく…なんつーか堅物な孫が出来たもんだ…
リサリサの血かねえ?)
ジョセフは苦笑いすると仗助と並んでそこを後にした。
※ ※ ※
ぞろぞろと、男たちは救急車に乗り込む。マウンテン・ティムはその時、紙を承太郎に渡した。
「…乗ったら読んでくれ」
エルメェスの運転で救急車は走る。シーラEが助手席に陣取り、後ろはそれぞれが見張る…いくらか定員オーバーだが致し方あるまい。その後ろから、マウンテン・ティムが愛馬にまたがってついてきた。念のため、救急車の後ろは開け放たれている。
「…」
この首輪にカメラらしいものがないのは
スティーリー・ダンの首輪を拾った時にスタープラチナで確認済だ。承太郎は紙を開いた。
『首輪の仕組みがわかれば、能力を組み合わせて外せるかもしれない。そうすれば、光が見えてくる』
小さくそう書かれた文字を一瞥し、車の左側の窓からスタープラチナの眼で外から何か不審な動きがないか見張り始める。
右側はシュトロハイムが引き受け、後ろは噴上。ジョセフと仗助は、休憩しながらお互いの傷を癒している。
仗助が時計を見れば、針が3時を指そうとしていた。
―目指すは、空条邸。
【残り 51人】
【B-4 古代環状列石(地上)/1日目 午後】
【チーム名:
HEROES+α】
【空条承太郎】
[時間軸]:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。
[スタンド]:『星の白金(スタープラチナ)』
[状態]:痛みと違和感、疲労(小)
[装備]:ライター、
家出少女のジャックナイフ、
ドノヴァンのナイフ、カイロ警察の拳銃(6/6 予備弾薬残り6発)
[道具]:
基本支給品、スティーリー・ダンの首輪、DIOの投げナイフ×3、ランダム支給品3~5(承太郎+
犬好きの子供+
織笠花恵/確認済)
[思考・状況] 基本行動方針:バトルロワイアルの破壊。危険人物の一掃排除。
0.…。
1.始末すべき者を探す。
2.空条邸へ向かう。
[備考]
※空条邸前に「上院議員の車」を駐車しています。
※織笠花恵の支給品の中に『ゴーストライダー・イン・ザ・スカイ』が含まれていました。
※全て納得してついてきているわけではありませんが、DIO捜索まではチームと同行するつもりです。
※
カンノーロ・ムーロロの『ウォッチタワー』を1枚切り裂きました。どのカードかは次にムーロロのSSを書かれる方にお任せします。
【マウンテン・ティム】
[スタンド]:『オー! ロンサム・ミー』
[時間軸]:
ブラックモアに『上』に立たれた直後
[状態]:痛み、体力消耗(小)
[装備]:
ポコロコの投げ縄、琢馬の投げナイフ×2本
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いに乗る気、一切なし。打倒主催者。
0.ゴーストライダー・イン・ザ・スカイから辺りを見張る。
1.空条邸へ向かう。
2.協力者を探す。
[備考]
※ゴーストライダー・イン・ザ・スカイを空条承太郎から譲り受けました。
※自分の能力+承太郎の能力で首輪が外せないか?と考えています。ただ万一の事があるのでまだ試す気にはなっていません。
【
エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:
スポーツ・マックス戦直前
[状態]:全身疲労(小)、痛み
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.ちきしょう、こうなりゃ何処までも行くぜ!
1.空条邸へ向かう。
2.F・F…おまえなのか?
※ビットリオの持っていたデイパックがB-4のどこかに埋もれています。
【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:精神的疲労(小)
[装備]:ナランチャの飛び出しナイフ
[道具]:基本支給品一式×3(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1~2(確認済み/武器ではない/シ―ラEのもの)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ
0.ジョルノ様が生きている?
1.空条邸へ向かう
2.このまま皆で一緒にいれば、ジョルノ様に会えるかも?
[備考]
※参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです。
※元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません。
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:痛み、貧血気味、体力消耗(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(食料1、パン1、水ボトル1/3消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.色々考える事はありそうだけど…まず、今は川尻さんを…
1.空条邸へ向かう。
2.仲間たちと共に戦うため『成長』したい。
3.協力者を集める。
【
ルドル・フォン・シュトロハイム】
[能力]:サイボーグとしての武器の数々
[時間軸]:JOJOとカーズの戦いの助太刀に向かっている最中
[状態]:健康
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶にして誇りである肉体
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、
ドルドのライフル(5/5、予備弾薬20発)
[思考・状況]
基本行動方針:バトル・ロワイアルの破壊
0.柱の男だけが脅威ではないのか…?
1.周りに警戒する。
2.空条邸へ向かう。
【
噴上裕也】
[スタンド]:『ハイウェイ・スター』
[時間軸]:四部終了後
[状態]:痛み
[装備]:トンプソン機関銃(残弾数 90%)
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:生きて杜王町に帰るため、打倒主催を目指す。
0.何だか大所帯になってきたな…
1.空条邸へ向かう。
2.協力者を集める。
【ジョセフ・ジョースター】
[能力]:波紋
[時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前
[状態]:健康
[装備]:ブリキのヨーヨー
[道具]:首輪、基本支給品×4、不明支給品4~7(全未確認/
アダムス、ジョセフ、エリナ)
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえずチームで行動。殺し合い破壊。
0.ワムウ…エリナ…
1.空条邸へ向かう。
2.悲しみを乗り越える、乗り越えてみせる
[備考]
エリナの遺体をB-4に埋葬しました。
母ゾンビの支給品がブリキのヨーヨーでした。
【
東方仗助】
[スタンド]:『クレイジー・ダイヤモンド』
[時間軸]:JC47巻、第4部終了後
[状態]:左前腕貫通傷(応急処置済、波紋治療中)、疲労(中)
[装備]:ナイフ一本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1~2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。このゲームをぶっ潰す!
0.ジョセフ・ジョースター……ジジイ、か。
1. 承太郎さん…
2. 空条邸へ向かう。
[備考]
クレイジー・ダイヤモンドには制限がかかっています。
接触、即治療完了と言う形でなく、触れれば傷は塞がるけど完全に治すには仗助が触れ続けないといけません。
足や腕はすぐつながるけど、すぐに動かせるわけでもなく最初は痛みとつっかえを感じます。時間をおけば違和感はなくなります。
骨折等も治りますが、痛みますし、違和感を感じます。ですが"凄み"でどうともなります。
また疲労と痛みは回復しません。治療スピードは仗助の気合次第で変わります。
※仗助が傷を塞いで回り、その間にチーム内で放送内容やこれまでに会った者などの情報交換が行われました。
そのやりとりの中でチームメンバーは多かれ少なかれ空条承太郎が悲しみと怒りに囚われていることに気づきました。そして、誰かが見張っている事を知らされています。
※救急車はD-4空条邸(地上)に向けて疾走中。ティムの馬で並走できる位なので、速さの目安はスクーター程度でしょう。
【B-4 古代環状列石(地下)/1日目 午後】
【
宮本輝之輔】
[能力]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助に本にされる直前
[状態]:恐怖、左耳たぶ欠損
[装備]:コルト・パイソン
[道具]:重ちーのウイスキー
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない
0.取り敢えず逃げる。
1.ワムウの表情が心に引っかかっている
[備考]
※考えなしに逃げています。ワムウと会えるかはわかりません。
【ワムウ】
[能力]:『風の流法』
[時間軸]:第二部、ジョセフが解毒薬を呑んだのを確認し風になる直前
[状態]:疲労(小)、身体ダメージ(中)、身体あちこちに波紋の傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:JOJOやすべての戦士達の誇りを取り戻すために、メガネの老人(スティーブン・スティール)を殺す。
0.ジョジョ…
1.JOJOとの再戦を誓って強者との戦いを求め地下道を探索。
2.カーズ様には会いたくない。
3.カーズ様に仇なす相手には容赦しない。
[備考]
※J・ガイルの名前以外、第2回の放送を殆ど聞いていません。
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最終更新:2016年02月01日 15:47