サン・マルコ広場は赤く、燃えていた。
カーテン越しに辺りを見渡し、誰もいないことを確認するとナランチャは顔を引っ込める。
エアロスミスを呼び出し、スタンドでも辺りを確認する。
酸素を排出するものなし。肉眼で確認できるスタンドなし。今のところは安全、といったところだろうか。

「アイツ、本当に行っちまいやがったな……」

同時にそれはジョニィがナランチャたちの元を去ってしまったことを意味している。
行きずりの関係だったとは言え、気分のいいものではない。
なにより戦力が足りない。今ここにいるのはナランチャと、いまいち信用のならない小林玉美、そして……

「仕方のないことよ、ナランチャ。
 それだけジョニィにとっては切実なことだったんでしょう。
 それに……」

ソファに寝転び、青い顔をしたトリッシュ・ウナだけなのだから。
トリッシュの元に駆け寄るとナランチャは顔をしかめ、ブランケットを彼女の顎の下まで引っ張り上げた。

「足を引っ張っているのは私の方……」

ジョニィと分かれてすぐ、トリッシュが体調を崩したのだ。
急に目眩がし、気分が悪くなったトリッシュを男たちは近くの民家まで運び込んだ。
額に浮かんだ汗で前髪が張り付いている。こんな弱気なトリッシュを見るのは初めてのことだった。

「トリッシュ殿~、多めにブランケット持ってきましたぜ~。
 さ、さ! これで体でも温めてくださいよ~」
「……ありがとう」
「あまり持ち場を離れるんじゃあねェよォ、玉美~! いつ、誰が襲ってくるかわかんねェんだからよ!」

ナランチャの怒声に、玉美は何も言わず肩をすくめただけだった。
トリッシュがそっとナランチャの肩に手をおいた。

待ち続けるのはひどく疲れることだ。まだ少年とも言える年のナランチャならば、その辛さはなおさらだった。
事態は遅々として進まない。この18時間、ナランチャは幸か不幸か、戦闘らしい戦闘を行っていなかった。
確かに戦いはした。だがそれは覚悟のある戦いでなかった。望んだものでない、覚悟のない戦い。
ナランチャにとって少なくとも、彼の日常はもっと騒がしく、もっと殺伐としたものだった。

安全がもどかしい。目的が見えないことが不安だった。


(ブチャラティがいてくれれば……)

貧乏ゆすりを繰り返し、親指の爪を強くかんだ。

いま自分が何をすればいいのかがわからない。何もしていないように思える自分が、惨めに思える。
アバッキオも、ブチャラティも ――― 信じたくはないが、逝ってしまった。
フーゴは離れ、ミスタもジョルノも行方不明。

(俺が、俺が守らなきゃいけないんだ……! 任務はこの俺にかかっているッ!)

それがなんと重たいことか。いままで自分はどれだけ他人に頼っていたことか。
なにか明確となる指針が欲しかった。
例えそれこそが、自分の意志で作り出さなければいけないものだと理解していても……。

(あの時ブチャラティは『お前には向いていない』と言った。確かにそうかもしれねェ……俺にはわからねぇよ、ブチャラティ)

皆それぞれ目指すことがある。成し遂げたいことがある。
だがナランチャにはそれが見当たらなかった。命を賭してまで成し遂げたい、男の道が。
隣で蹲るトリッシュの息は荒い。そう、トリッシュも自分と一緒だ。
巻き込まれ漂流し、引きずり出された。たまたま貧乏くじを引かされただけの女の子だ。
だからこそ彼女だけは守りたいッ! トリッシュは俺なんだ、ナランチャは彼女にも聞こえない声で小さく言った。


「う……」
「トリッシュ」

トリッシュの呻き声がナランチャの考えを遮った。

「大丈夫、ちょっと……急に目眩がしただけ。私、気分が―――良くないわ」
「トリッシュ……! お、あんた、え……?」
「どうした、何があった!?」

ナランチャはソファから飛び上がると足元に広がっていく波紋を馬鹿みたいに見つめた。
となりで玉美がぽかんと口を開け、目の前の光景に釘づけになっていた。

トリッシュを中心として絨毯がうごめいていく。シワが重なり、図形が浮かび上がっていく。
そこに浮かび上がったのは地図だった。横二メートル、縦一メートルと半分ほどの地図。
北西にはカイロ市街があり、西の果てにはヴァチカン市国。
東には杜王住宅街が広がりその北に砂漠地帯。

そして……散らばるように広がる「星」が意味するものは ―――。







【E-4 サン・マルコ広場脇民家/一日目 夕方】
【小林玉美】
[スタンド]:『錠前(ザ・ロック)』
[時間軸]:広瀬康一を慕うようになった以降
[状態]:健康
[装備]:H&K MARK23(0/12、予備弾0)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュを守る。
0.???
1.トリッシュ殿は拙者が守るでござる。

ナランチャ・ギルガ
[スタンド]:『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)
    不明支給品1~2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
0.これは……なんだ?
1.フーゴとジョナサンを追う

【トリッシュ・ウナ】
[スタンド]:『スパイス・ガール』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』ラジオ番組に出演する直前
[状態]:目眩、倦怠感
[装備]:吉良吉影のスカしたジャケット、ウェイトレスの服、遺体の胴体
[道具]:基本支給品×4
[思考・状況]
基本行動方針:打倒大統領。殺し合いを止め、ここから脱出する。
1.フーゴとジョナサンを追う
2.ルーシーが心配
3.地図の中心へ向かうように移動し協力できるような人物を探していく
[備考]
※ブチャラティの最後の支給品が「遺体の胴体」でした。
※トリッシュを中心とした地図は他の遺体の点在箇所を示しています。
 具体的に何個で、どの遺体の居場所を示しているかはお任せします。



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169:トリニティ・ブラッド -カルマ- 小林玉美 186:ブレイブ・ワン
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169:トリニティ・ブラッド -カルマ- トリッシュ・ウナ 186:ブレイブ・ワン

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最終更新:2016年01月27日 17:00