―――さあ、相応しき舞台は整った。
待ち受けるは邪悪の化身と、その影に潜む貪欲なる獣……そこにある星は一つのみか、それとも二つか……?
挑むは集いし六つの星……ほんの一部、異なるものも混ざっている六つの星。
だが、全ての星にはまだ足りない。
未だに見えぬ最後の星は何処にか……まずはそこから話すとしよう―――
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「アナスイ、こういう言い方はあれだけど……本当に『地下道』を選んでよかったのかな?」
「急がば回れという言葉もあるように、どう進むのが最善かは時と場合による……が、今は間違いなく『近道』を進むべきだ……
承太郎さんを、一刻も早く止めなければならないからな………」
ナルシソ・アナスイと
ジョニィ・ジョースター、彼らは先程他の参加者たちと空条邸の近くにいて、そこから―――いや、細かい話は省こう。
重要なのは彼らが今現在、「二人だけで地下を西へと進んでいる」ことだった。
「………ジョータロー、ね……本当に、この先にその人も居るんだろうか」
「おまえにも大体の方角しかわからないし、誰かもわからない……なら余計なことは考えず、ただこの目で確かめるだけだ。
まあ、相手に『まだ地上に出られないヤツがいる』ということを踏まえるなら……
承太郎さんも同じものを感じ取ってヤツを追い、結局は陽の当たらない場所に行き着く……
だったらこっちも最初から地下を進んだほうが手っ取り早い」
「………」
ジョニィ自身も半信半疑の感覚を彼以上に信用しているアナスイには、果たして何が見えているのか……
そしてアナスイは本当に自分の言いたいことを理解しているのだろうか……いくらか不安を残しつつもジョニィは走る。
やがて、位置的にはもう少しでサン・ジョルジョ・マジョーレ教会にさしかかろうかというところで……
「………ん?」
「どうした……居たのか?」
「いや……何でもない」
ふと立ち止まったジョニィにアナスイは問いかけるが、どうも要領を得ない。
歯切れの悪い答えを訝しみながらも時間が惜しく、アナスイは再び走り出す。
だがジョニィはそこで立ち止まり、考え事を始めていた。
(見間違いか……? あれは、Dioの恐竜―――だったような……)
視界の端にちらりと映った……ような気がする動くもの。
だが確証はないうえに、見えた方向は教会までのルートから大きく外れる横穴。
結局、ジョニィがどちらに進むのかを決断したのはそれから数分後のことだった。
………さて、ここでだいたいの者はある疑問が浮上しているのではないだろうか。
すなわち―――『この出来事はいつの話なのか』という疑問が。
その答えが明らかになるには、もう少しだけ話を先に進める必要がある。
#
「最後の一人は、とうとう現れなかった……か」
「……鐘楼から何度か射撃音がしていた。誰かが近くに来ていたとは思うんだが……」
「それが『そいつ』かどうかはわからん。たとえそうだったとしても、ここまで来れないようではDIOとの戦いには到底参加させられん」
「ジョナサンたちと別れてから数時間以上……ひょっとしたら『既に来ている』のかもしれませんし、命を落としている可能性も十分存在します。
いずれにせよ、『彼』をあてにするのは現実的ではないでしょう」
彼らが待っていたのは名簿に存在し、且つ現時点で名前を呼ばれていない最後のジョースター―――ジョニィ・ジョースター。
奇妙なことにジョースターという姓であるにも関わらず、この場の誰もが彼との繋がりを知らない唯一のジョースター。
数時間前にただ一度だけジョナサンが接触し、そのまま一方的に別れてきた男。
彼もジョースターの一族なら、同じように導かれて姿を現すのではないか……そう考えて一行は待機を選択していた。
だが、ジョニィが教会の扉を開けて入ってくることは終ぞなく……
これ以上待つと太陽が沈んでしまうというところで彼らは待つのを諦め、DIOの潜む地下へとその足を踏み出しかけていたのだ。
「ま、問題ねーだろ。なんたってこっちはこれだけ人数いるんだぜ? DIOのヤツはひとりだったんだろ?」
「……今もそうだという保障はどこにもない。
それに人数など、ヤツに対してはほんの少し有利になる程度だ…むしろそれで油断して足元をすくわれるなよ……
言っておくが、俺はここにいる誰かが危機に陥った場合、そいつを犠牲にしてでもDIOを倒すことを優先する……」
「おいおい承太「わかりました承太郎さん、ケガしたやつはおれが完璧になおしてやります。だから、思う存分やってください」………」
ジョセフ・ジョースターの軽口に承太郎が注意を促し、反発は
東方仗助が押さえ込む。
仗助とて……承太郎もだが、犠牲などハナから出すつもりは無い。
それを理解しているからこそ、彼は不器用な承太郎に代わって言い返すのだった。
偶然……などでは断じてないだろう。
『運命』とか『引力』とか、そんな何かの元で時と場所を超え集結した『ジョジョ』たちは、ある意味自分たち以上に関わりが深い男の元へと進んでゆく。
そして、地下へと続く階段の入り口付近………先頭のジョナサンが振り返り、確認する。
「……みんな、覚悟はいいかい? それじゃあ……」
行
く
ぞ
!
全員の肯定を確認し、一行は地下の納骨堂へと突入を開始した……!
地上からわずかな光が届いてはいるが階段の下は明りが消されているのか何も見えず、まるで深淵を覗き込んでいるような感覚さえ覚える。
勿論、彼らはただ覗き込むだけではなく……その中へ足を踏み入れなくてはならないのだ………!
「………暗いっスね」
「懐中電灯は点けるな、明りは絶好の標的だ………波紋レーダーの反応は?」
「間違いなく『いる』……ヤツの生命の振動を感じる! 地下にいるのは、ヤツひとりだけだッ!!」
前後左右上下、全ての方向に注意しながら連れ立って螺旋階段を下りていく。
だが、地上と地下のちょうど中間あたりまで来たところで……
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ オ ッ ! !
「!?」
「ゲッ! で、出口が塞がれちまったッ!!」
突如轟音とともに、地上へ上がる道が崩れたッ!
同時に、わずかに差し込んでいた光も閉ざされ完全な暗闇が訪れるッ!!
「まずは逃げ道をなくすか……ならおそらく、あいつが次に狙うのは―――!!」
「『世界』ッ!!」
ジョナサンの言葉の途中、承太郎だけはその声を聞いて理解することができた―――時が止められたことを。
だが一寸先すら見えない闇も相まって、DIOの姿を視界に捉えることができない。
即座に見ることを諦め、代わりに注意深く音を聞き……
ビュンッ!
「オラアッ!」
自分に向けてブッ飛んできた石を叩き落すッ!
そのまま追撃はなかったが……時が動き出したとき、承太郎は敵の本当の狙いに気づいた―――
彼らの足場である、階段が崩れ落ちたことでッ!!
(……石は、俺の行動を封じる囮だったかッ!!)
階段はそう簡単に崩れるようには見えなかったが、それは上から見た場合。
内側を最低限支える部分だけ残して削り取っておき、自分が石に気をとられている隙に別の攻撃で支えを破壊した…といったところだろう。
視界が闇に閉ざされた直後、しかも攻撃は時止め最中のため、階段が崩れたのを理解し対処できるのは承太郎だけッ!
その承太郎もすぐには時を止められず、皆を助けられないッ!!
結果、彼らは全員バランスを崩して落下……
納骨堂の硬い床に叩きつけられ気がついたときには―――
「ぐっ……みんな無事かッ!? どこにいるッ!!?」
「な、何も見えねえ! どうなったんだ!!?」
「ど…どこから…い…いつ『襲って』くるんだ!?」
―――完全に、お互いの位置を見失っていた!!
DIOがこの暗闇の中でどれだけ目が利くかはわからない。
だが彼は闇に生きる吸血鬼………少なくとも自分たちよりはずっと、見えているだろう。
さらに、警戒すべきはDIOだけではない。
最低もうひとり、先程出口を塞いだ敵がどこかにいる。
その正体が全くわからない以上、波紋レーダーに反応がなかったからといって油断は出来ない。
そうなると、すぐにでも自分を含め誰かが襲われてもおかしくない……パニックを引き起こすには十分すぎる条件だった。
しかし、そんな混乱する状況をいち早く打破するべく承太郎の声が響く。
「全員なるべく動くな! 近づくやつは誰だろうと構わず叩きのめせッ!!」
味方が下手に動かなければ、近づいてくるのは敵のみ……同士討ちは避けられる。
逆に援護も期待できなくなるが、ここまで来てひとりで戦うことに恐怖を覚えるような者はいない筈。
ある程度時間が経てば目が慣れた他の者が援護に入れるだろうから、それまでは各自で何とかしろ―――そんな意味をこめた指示。
彼の声に他の者は……
「えっ……」 「お、おうッ!」 「ああ……!」
「は、はいッ!」
「……わかった!」
「……わかりました」
それぞれ異なる反応ながら、全員が返答した。
これにより、現時点ではまだ誰もやられていないことがわかった各自もわずかながら落ち着きを取り戻す。
(ひとまずはこれでいい……次の一手は………)
今この状況において最も頼りになるのは視覚ではなく聴覚。
地下は広く、柱も幾つか存在するため声が思った以上に反射するものの、返事で味方のだいたいの方向はわかった。
後は周りにも警戒しつつ、承太郎は自分の体に神経を注ぐ。
もし、DIOが時を止めたのなら自分がどうにかするしかないのだから。
(時を止めるタイミングを誤ってはならない……ヤツは今、どこにいる………?)
承太郎のその疑問は、すぐに明らかとなった―――
「我が因縁の一族であるジョースターよ、おそろいでようこそ………
わたしは逃げも隠れもしない…おまえたちの来訪を心より歓迎する………」
「「「「「「DIO(ディオ)ッ!!!」」」」」」
当のDIOの声が地下内に響き渡り……返された叫び声が幾重にも重なり、反射してゆく。
正確な位置はわからないが、そのドス黒い存在感を間違えるはずもない。
果たしてどう動いてくるのか……緊張が最大限になる中、DIOは彼らの叫びもどこ吹く風の口調で続けてきた。
「そう息巻くんじゃあない……先程振りの者、久し振りの者、そして初めましてと言うべき者も……
せっかくこうして一堂に介する機会を得たのだ……それぞれ、このDIOに言いたいことのひとつもあるのではないか?
わたしも、おまえたちそれぞれに聞いておきたいことがある……命の取り合いは、それからでもよいだろう」
相手の数がわかっているにも関わらず、この余裕……!
一見敵に囲まれた四面楚歌の状況でも、邪悪の化身は妖しく優雅に圧倒的存在感を示していた……!
だが勿論、彼の宿敵たる一族もこの程度で怯みはしない!
「勝手に話進めてんじゃねーぞッ! だいたい隠れもしないって、この闇に隠れてんじゃねーか! 人数差にビビッてセコイ手使おうって魂胆がミエミエだぜッ!!」
「そうだぜッ! それに歓迎するってわりにゃあ、随分乱暴な出迎え方じゃねーっスかァ―――!!?」
まず返すはジョセフと仗助。
彼らはどちらもDIOとは初対面であるものの、この数秒たらずで理解していた―――こいつは、間違いなく『敵』だと。
「話なら先程、終わったはず……これ以上語りたいというのならば、ひとりで勝手に喋っていればいい……」
「言いたいことが無いわけではない……だが、ぼくらはいまさら話し合いで済むような立場ではない……そうだろう?」
ジョルノの視線と言葉は、もはや自分の親に対するそれではなかった。
ジョナサンも戦闘態勢は崩さない……彼も先程、DIOとの話はついていたのだから。
「「………」」
そして、承太郎とF・Fは口を開きすらしない。
相手の時間稼ぎに付き合う気など毛頭なく、理由は別ながら口をきくのも忌々しかった。
皆の思いは一つ………
以前から彼を知る者も、初めて彼と会った者も―――このDIOは『倒すべき悪』だと『言葉』でなく『心』で理解していた………!
「クックックッ……どうやらわたしは相当嫌われているらしい……
理由がわからなくもない者もいるが……まさか全員がそうとは心外というものだ……
ならば仕方が無い…多少力づくでもこちらの質問に答えてもらうとしよう………」
それぞれの反応は概ね予想通りだったのだろう。
姿こそ見えないが、不敵な笑いを浮かべているであろうことは容易に想像できる。
全員が警戒する中………遂にその気配が動き出した―――!
かくして戦いは、始まった―――彼らの血統に深く深く関わる、運命の一戦が………!
最終更新:2015年05月05日 08:07